- 更新日 : 2025年6月24日
産休中はボーナスの査定期間に入る?賞与が減る、もらえない原因も解説
産休期間もボーナス(賞与)の査定期間に含まれることが一般的です。しかし、査定期間中に産休を取得した場合、ボーナスの金額に影響が出る可能性はあります。この記事では、産休中のボーナスの扱いや、査定期間の考え方、支給額の計算方法、社会保険料との関係などをわかりやすく解説します。
目次
産休中はボーナス(賞与)の査定期間に入る?
産休(産前産後休業)の期間がボーナス(賞与)の査定期間に含まれるかどうかは、会社の規定や給与体系によって異なります。多くの民間企業では、産休の期間は実勤務ではないため査定上は「欠勤」扱いとし、その分を賞与算定から除外する運用が見られます。
例えば、賞与の査定対象期間中に産休を取得すると、その取得日数分は勤務実績がない(欠勤)として扱われ、賞与額が減額されるといったようにです。
ただし、公務員の場合は、産休期間は特別休暇として有給扱いとなり、ボーナスの査定期間にも含まれるため、満額支給されるのが基本です。
そもそもボーナスの査定期間とは?
ボーナス(賞与)は、会社が定めた一定期間(査定期間)の従業員の働きぶりや業績を評価し、その結果に基づいて支給されるものです。この査定期間は、会社の就業規則や給与規程に定められています。例えば、夏のボーナスであれば前年の10月から3月まで、冬のボーナスであれば4月から9月までといった期間がよく見られます。
一般的なボーナスの支給時期と査定期間の例を挙げます。
- 夏のボーナス: 支給時期は6月下旬~7月上旬、査定期間は前年10月~3月
- 冬のボーナス: 支給時期は12月上旬~中旬、査定期間は4月~9月
有給休暇は「出勤扱い」として査定対象
有給休暇と産休・育休は、どちらも業務を休む制度ですが、ボーナス(賞与)の査定期間における扱いは異なります。有給休暇は法律上「出勤扱い」とされるため、査定対象に含まれ減額の対象にはなりません。一方で、産休や育休は出勤とはみなされず、勤務日数が少ない場合にはボーナス(賞与)が日割り計算や不支給となることがあります。
査定期間中に産休に入るとボーナス(賞与)は減る?
査定期間中に産休を取得した場合、ボーナス(賞与)の金額はどのように変わるのでしょうか?産休に入るタイミング別に、具体的なケースを想定して解説します。
査定期間後に産休に入った場合
例えば、夏のボーナスの査定期間が4月から9月の場合、10月以降に出産予定で産休に入るケースでは、査定期間中は通常通り勤務しているため、夏のボーナスは査定結果に基づいて満額支給されることが多いでしょう。冬のボーナスの査定期間が10月から3月の場合も同様に、4月以降に産休に入れば、冬のボーナスは満額支給される可能性が高いです。
査定期間中に産休を取得した場合
査定期間中に産休を取得した場合、ボーナスの金額は勤務日数に応じて減額されることがあります。例えば、夏のボーナスの査定期間(4月~9月)のうち、5月から産休に入った場合、実際に勤務したのは4月のみとなります。この場合、多くの企業では、勤務日数に応じてボーナスを日割り計算したり、減額したりする規定を設けています。ただし、査定期間中に一定期間以上勤務していれば、減額されずに支給されることもあります。
査定対象期間中ずっと産休を取得した場合
査定期間の全期間にわたって産休を取得した場合、ボーナスが支給されない可能性もあります。しかし、査定期間中にわずかでも勤務実績があれば、その期間に応じて支給されることもあります。企業によっては、産休期間であっても全て勤務実績として扱う場合もあるため、重要なのは、会社の就業規則や給与規程にどのように定められているかを確認することです。
年俸制・月給制の産休中ボーナス(賞与)や査定期間の計算例
給与体系によって、産休中のボーナス(賞与)の扱いは異なる場合があります。年俸制と月給制の場合の考え方と、具体的な計算例について解説します。
年俸制の場合
年俸制では、一般的に1年間の給与総額の中にボーナス(賞与)相当額が含まれていると考えられます。産休・育休期間中は給与が支払われないことが多いため,実質的にボーナス分も減額される可能性があります。年俸制を採用している企業は、就業規則や雇用契約書でボーナスの扱いについて確認しておくことが大切です。
月給制の場合の計算例
月給制の場合、ボーナス(賞与)の金額は基本給に一定の月数を掛けて算出されます。
査定期間中に産休を取得した場合の計算例としては、以下のようになります。:
例:
- 基本給:30万円
- ボーナス支給月数:2ヶ月分
- 査定期間:6ヶ月
- 産休期間:2ヶ月
この場合、実際に勤務した4ヶ月分の給与を基にボーナスが計算されることがあります。
ただし、これはあくまで一例であり、会社の規定によって計算方法は異なります 。
産休中の従業員にボーナス(賞与)を支払う義務はある?
法律上、会社に対してボーナスの支給を義務づける規定はありません。賞与は、基本的に会社ごとの就業規則や労使協定などに基づいて支給される「任意の賃金」とされています。
ただし、育児・介護休業法や男女雇用機会均等法では、妊娠や出産、産休・育休の取得を理由に、解雇・降格・減給といった不利益な取扱いを行うことを明確に禁止しています。したがって、査定期間中に実際の勤務実績があるにもかかわらず、「産休を取った」という理由だけでボーナスを一切支給しない場合は、法令に違反する可能性が高いといえます。
ボーナスの支給条件や評価基準、査定期間の取扱いについては、あらかじめ就業規則や賞与規定に明記する必要があります。もし、産休中の扱いが規定されていない、または内容が不明瞭である場合には、人事労務担当者に確認することが重要です。
ボーナス(賞与)支給日に産休中の場合の社会保険料
産休(産前産後休業)期間中にボーナスが支給される場合、一定の条件を満たせば、そのボーナスにかかる社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料)が免除される制度があります。
これは、従業員本人だけでなく、事業主の負担分も含めた双方の保険料が免除対象となる制度であり、給与だけでなく賞与にも適用されます。
ボーナスにかかる社会保険料免除の条件
ボーナスに対する社会保険料を免除するためには、次の2つの条件を満たす必要があります。
- 社会保険(健康保険および厚生年金保険)の被保険者であること
- 産前産後休業を取得していること
ただし、制度を適用するには、事業主による所定の手続き(社会保険料免除の届出)が必要です。
雇用保険料と所得税は控除される
一方で、雇用保険料と所得税については免除の対象ではありません。たとえ産休中であっても、ボーナスが支給されればこれらの控除は通常通り行われます。
また、住民税についても前年の所得に基づいて課税されるため、産休中に支給されたボーナスから天引きされるケースがあります。住民税は産休の取得とは無関係に課税されるため、その点もあらかじめ把握しておくと安心です。
産休中のボーナス(賞与)は給付金に影響はある?
産休中は会社から給与が出ない代わりに健康保険から出産手当金(産休中の所得補償給付)が支給され、育休取得中は雇用保険から育児休業給付金が支給されます。
結論として、産休・育休中にボーナスを受け取った場合、通常範囲内であれば出産手当金・育休給付金が減額されたり支給停止になったりすることはほぼありません。
出産手当金への影響
原則として、産休中にボーナス(賞与)を受け取っても、出産手当金の支給額に影響はありません。出産手当金は、健康保険に加入している被保険者が出産のために仕事を休み、その期間中に給与の支払いを受けなかった場合に支給される給付金です。ボーナスは、労働の対価として支払われる給与とは性質が異なるため、出産手当金の支給要件には影響しないと考えられています。
ただし、会社が産休中にも給与の一部(基本給の何割かなど)を支給している場合には、手当金に支給制限がかかる場合があります。もし年に4回以上ボーナスが支給される会社(四半期ごとなど)で4回目以降の賞与が産休期間中に支給された場合、健康保険の規定上はそれを「定期的な給与」とみなし出産手当金の支給対象から除外する可能性があります。
しかし大半の会社は年2回(夏・冬)または3回程度でしょうから、通常は気にしなくて大丈夫です。ボーナス受給だけで出産手当金がもらえなくなる心配はまずないと言えます。
育児休業給付金への影響
育児休業給付金についても、産休中にボーナス(賞与)を受け取ったとしても、原則として支給額に影響はありません。育児休業給付金は、雇用保険の被保険者が、1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した場合に、一定の要件を満たすと支給されるものです。育休開始から180日目までは休業前賃金日額の67%、181日目以降は50%相当が毎月支給されます。
ボーナスは、育児休業給付金の算定基礎となる賃金には含まれないため、受け取っても給付金の減額や不支給の対象にはなりません。ただし、年俸制で毎月の給与にボーナス分が含まれているような場合、育児休業中の給与の支払いがないことで、結果的に年収が減るという形で影響が出る可能性はあります。
産休でボーナス(賞与)がもらえない原因
産休に入ったのにボーナスがもらえなかった、というケースも考えられます。主な原因と、確認すべきポイントについて解説します。
就業規則に産休中の賞与支給について明記されていない
ボーナスの支給は、法律で義務づけられているものではなく、各企業の就業規則や給与規程によって支給の有無や条件が定められる任意の制度です。そのため、就業規則に「産休中の従業員へのボーナス支給」に関する記載がない場合、会社の判断で支給対象外とされる可能性があります。
ただし注意すべきは、「産休を取得したこと自体」を理由に賞与を支給しないとする規定や運用は、男女雇用機会均等法における不利益取扱いの禁止に抵触する可能性が高く、無効と判断される場合もあるという点です。就業規則の記載が曖昧な場合は、会社に確認することが大切です。
ボーナス支給日に在籍していないと判断された
就業規則の中には、「ボーナスは支給日に在籍している従業員に限り支給する」とする在籍要件を設けている企業もあります。こうした場合、支給日当日に産休中であることから“在籍していない”と誤って判断され、支給されなかったというケースも考えられます。
しかし実際には、産前産後休業中であっても雇用契約は継続しており、在籍している状態に該当します。そのため、制度として「在籍要件」があったとしても、産休中の従業員も在籍者としてボーナスが支給されるのが一般的な取扱いです。誤解が生じないよう、事前に就業規則や支給条件を確認し、人事部門に照会しておくと安心です。
査定期間中の勤務日数が少ない
ボーナスの金額は、査定期間中の勤務状況や業績に基づいて決定されることが一般的です。そのため、査定期間中に産休などで勤務日数が少ない場合、ボーナスが減額されることや、支給されないことがあります。
このような取扱いは、勤務実績に応じた合理的な算定結果である限り、違法とはされません。ただし、産休取得者の勤務実績をまったく評価対象とせず、一律で賞与をゼロとする対応は、法令上問題となる可能性があるため注意が必要です。
産休とボーナス(賞与)査定期間への対応で企業が気をつけるべきこと
産休や育休を取得する従業員に対するボーナスの扱いは、従業員のモチベーションや企業のイメージにも影響します。人事労務担当者が留意すべき点について解説します。
産休中のボーナスと査定期間のルールは就業規則で明確にする
産休・育休中の従業員に対するボーナスの支給可否や減額の判断は、就業規則や給与規程に明文化しておくことが基本です。とくに「査定期間に産休が含まれる場合はどう扱うのか」「何をもって出勤実績とするか」など、評価と支給の関係を明確にし、従業員が理解できる形で示すことが重要です。
このルールが曖昧なままだと、「なぜ自分は支給されなかったのか」「産休を取ったから不利益を受けたのでは」といった不信感やトラブルの原因となりかねません。支給要件・算定方法・日割り計算の基準などを明記し、周知しておくことがトラブル防止にもつながります。
ボーナスの不支給や大幅減額は「不利益取扱い」に該当する場合も
育児・介護休業法および男女雇用機会均等法では、産休や育休を取得した従業員に対して、不利益な取扱いをすることを明確に禁止しています。例えば、「産休を取得したから査定対象から外す」「育休中だからボーナスを一律ゼロにする」といった運用は、法律違反となるおそれがあります。
査定期間中に勤務実績があるにもかかわらず、「休んだから支給しない」という理由のみでゼロ支給にするのは、不当な減額や差別的な扱いに該当する可能性が高いとされます。企業としては、評価と支給の根拠を勤務実績や実際の貢献度に基づくものとして説明できるように備えておくことが求められます。
査定期間に産休が含まれても、公平なボーナス評価を行う
ボーナスの算定においては、査定期間中の出勤実績に基づき、公平な按分計算を行うことが基本です。例えば、6ヶ月の査定期間のうち3ヶ月勤務して3ヶ月産休を取得した従業員には、勤務実績に応じた賞与を支給することが合理的な対応となります。
このような評価は「休んだ期間は査定に含めないが、働いた分は正当に評価する」という形で、法律との整合性を保ちつつ公平性も確保できます。また、従業員の個別事情に応じて、人事評価や業績評価の期間調整など柔軟な対応を検討することも、実務上有効な手段となります。
産休前の従業員にボーナスの査定期間や支給条件を丁寧に説明する
制度を整備するだけでなく、産休や育休に入る従業員への事前説明も重要です。とくに、ボーナスの支給条件や査定期間との関係については、本人が誤解しやすいポイントでもあります。例えば、「支給日に在籍していれば対象になるのか」「産休に入る月は勤務実績とみなされるのか」など、具体的に説明しておくことで、休業中も安心して過ごしてもらえる環境づくりにつながります。
また、一律の説明にとどまらず、個別の勤務状況に応じた対応方針を伝えることが、従業員の納得感や信頼感につながります。「あなたの場合は〇月まで勤務されていたので、〇%の支給対象になります」などと、数値を交えた説明があると、安心して産休に入ることができるでしょう。
産休中のボーナス(賞与)や査定期間は就業規則を確認しよう
産休中のボーナス(賞与)は、勤務実績に応じて支給されるのが基本です。査定期間後に産休を取得すると満額支給されるケースもありますが、査定期間中に産休を取得した場合は日割りで減額されることもあります。
ボーナス支給の条件や査定の基準は会社ごとに異なるため、就業規則や過去の運用を必ず確認しましょう。社会保険料が免除されることで手取りが増える場合もあります。不安なく産休を迎えるためにも、事前に制度を理解し、必要があれば会社と相談を重ねて準備を整えましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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