• 更新日 : 2025年6月2日

有給休暇が残ったまま退職?30日、40日の消化と買取ルールを解説

退職を決めたとき、会社から「忙しいから有給休暇が残ったまま退職してほしい」と言われたら、どうすればいいのか悩むことがありませんか? 「退職までに有給を使い切れなかったらどうなるの?」「有給の消化を拒否されたら?」「残った有給を買い取ってもらえるの?」そんな疑問を持つ人も多いでしょう。

会社側も人手不足を理由に有給使用を拒否したくなる場合もありますが、法律的にはどうなるのでしょうか? この記事では、退職時の有給休暇の消化や買い取りについてわかりやすく解説します。

有給休暇が残ったまま退職すると消えてしまう?

結論から言うと、退職時に残っている有給休暇は基本的に「消滅」します。従業員が退職すると同時に会社との雇用関係も終了するため、在職中に持っていた有給休暇の権利もそこで消えてしまうためです。

労働基準法上、有給休暇は労働者の心身のリフレッシュを目的とした制度ですが、退職後はもはや「労働者」ではないため企業が有給休暇を与える必要がなく、結果的に未消化の有給休暇は無効になります。

したがって有給休暇を残したまま退職すると、残日数分の休暇は原則として消えてしまうと覚えておきましょう。

有給休暇が残ったまま退職してほしいと言われたら?

退職の話し合いの中で、会社から「有給休暇を残したまま退職してほしい(できれば有給を使わずに退職日を迎えてほしい)」と言われるケースもあります。企業側の本音としては、従業員に長期間の有給消化をされると人手やコストの面で困るため、できれば有給を買い上げることなく消滅させたいという意図がある場合があります。

「有給を消化されるとその間の人件費負担がかかる」「繁忙期なので休まれると業務に支障が出る」等が理由かもしれません。

しかし、有給休暇の取得は労働者の正当な権利ですから、会社都合の希望だけで有給消化を諦める必要はありません。もしそのような打診を受けても慌てずに対応しましょう。

労働者側の対応方法としてまず大切なのは、冷静に自分の意思を伝えることです。会社から有給を使わずに退職するよう促された場合でも、「残っている有給休暇○日間については退職前に消化させていただきたいと考えています」といった形で自分は有給休暇を取得するつもりであることを明確に伝えましょう。

法律上認められた権利であることを踏まえ、「業務の引き継ぎは可能な限り対応しますので、残り有給○日について取得させてください」など、企業側への配慮も示しつつ申し出ると効果的です。

会社側が権利を十分理解していればそこで了承が得られるでしょうし、仮に上司が権利を理解していないようであれば、人事担当者や労務管理部署にも相談してみましょう。

同僚の退職事例などで前例があれば引き合いに出すのも一つの手です。企業として法違反のリスクを認識すれば、安易に有給消化を拒否することはないはずです。

有給休暇が残ったまま退職日を決める際の注意点

退職日(雇用契約の終了日)を設定する際には、残っている有給休暇の日数を考慮に入れることが重要です。例えば有給休暇が10日残っている場合、引き継ぎなどの期間も踏まえつつ「最終出社日」を退職日の2週間ほど前に設定し、その最終出社日から退職日までの間の10日間を有給休暇として消化する、という計画を立てることになります。

会社と退職日の交渉をする際には、「○月○日付で退職希望ですが、有給休暇が○日残っておりますので、最終出社日は○月○日とさせてください」というように具体的な日程を提案するとスムーズです。具体的なプランがあれば会社側も調整を検討しやすくなりますし、労使双方の認識違いも防ぎやすくなります。

注意すべきは、会社から提示された退職日が自分の希望より早い場合です。例えば「引き継ぎのため○月末までは出社してほしい」と言われたものの有給休暇がまだ20日残っているようなケースでは、そのまま出社し続けると有給を使う時間がなくなり残日数が消滅してしまいます。

会社が設定する退職日と自分の有給消化計画が矛盾しないように調整することが大切です。必要であれば退職日の延期を相談したり、最終出社日と退職日をずらしたりする提案をしましょう。

会社としても違法な有給拒否はできない以上、妥当な範囲で退職日程の見直しには応じてもらえる可能性が高いです。逆に、退職日を早める代わりに残有給の買い取りを提案される場合もあります(後述)。いずれにせよ、退職日程の取り決めは有給休暇の消化を念頭に入れて慎重に行うようにしましょう。

有給休暇が30日、40日残った場合の退職日の決め方

有給休暇が大量に残っている場合、「最終出勤日」と「退職日」を分けて設定するのが一般的です。例えば、30日や40日といった長期の有給休暇を消化するには、退職日の約1~2か月前を最終出勤日にするとよいでしょう。

退職希望日から残り有給日数分だけ遡った日を最終出勤日に決める方法です。例えば「有給が20日残っている社員が3月31日付で退職する場合、2月28日を最終出勤日とし、3月1日~31日を有給消化に充てる」というイメージです。有給休暇が30日・40日ある場合も同様に、その日数分だけ勤務しない期間を確保できるよう退職日程を調整します。

退職日を決める際は、会社の就業規則で定められた「退職の申し出期限」も確認しましょう。「退職希望日の◯日前までに申し出ること」と規定されている場合、遅くともその期限までに退職の意思を伝える必要があります。正社員であれば、原則として退職の申し出から2週間が経過することで有効に退職できます。しかし、就業規則等に定めがあれば、規定に従った方がトラブルを回避できるでしょう。

30日や40日の有給を消化するには通常より早めに行動する必要があるため、余裕をもって上司に退職と有給消化の希望を伝えることが大切です。早めに伝えておけば、引き継ぎ計画や有給消化のスケジュール調整がしやすくなります。

会社側が有給休暇の全消化を認めてくれた場合、実際の勤務最終日から退職日までの間を有給休暇消化期間とするスケジュールが組まれます。以下は具体的なスケジュール例です。

  • 有給30日残っている場合
    退職日を例えば「〇月末(日)」と決めた場合、その約6週間前(30営業日分前)を最終出勤日に設定します。例えば退職日を3月31日にするなら、最終出勤日を2月中旬頃(2月14日~15日あたり)に設定し、2月中旬~3月末まで約30日間を有給休暇期間に充てるイメージです。
  • 有給40日残っている場合
    40日=約8週間分の営業日です。退職日を3月31日にするなら、最終出勤日は1月末(1月31日)頃に設定し、2月~3月末の約2か月間を有給休暇消化に充てるスケジュールが考えられます。実際には土日祝日を挟むため有給消化期間はカレンダー上もう少し長くなりますが、勤務しない平日40日分を退職前に取得する形です。

このように設定すれば、退職日までの間は出勤せず有給休暇を連続取得することができます。最終出勤日までに引き継ぎ業務を完了し、残り期間は全て有給休暇に充てる形になります。

ただし、有給休暇の有効期限にも注意しましょう。年次有給休暇は通常付与から2年で期限切れになるため、退職日より前に一部が時効消滅してしまうケースもあります。

例えば退職日が6月30日で有給が30日残っている場合、その中に「5月末で期限を迎える有給」が含まれていれば、5月末までにそれを優先取得する必要があります。会社が有給消化を認めてくれる場合でも、有効期限切れを迎える分から計画的に使うなどスケジュールに工夫をしましょう。

有給休暇が残ったまま退職日が近づいたらどうする?

もし有給休暇の取得が進まないまま退職日が近づいてしまった場合、次のような方法を試してみましょう。

再度会社と交渉する

退職日が近づいても有給休暇を消化できていない場合、まずは会社と再度交渉することが重要です。上司や人事担当者に改めて有給休暇の取得を相談し、できる限りの調整を試みましょう。この際、会社の都合を考慮しながら、できる範囲で業務の引き継ぎを早めるなどの対応をすると、交渉がスムーズに進むことがあります。また、具体的なスケジュールを提示し、退職日までに有給休暇をどのように消化するか提案することも有効です。

退職日を延長できるか確認する

それでも取得が難しい場合、退職日を延長できるか確認するのも一つの方法です。退職日を延ばすことで、有給休暇を取得できる期間を確保し、会社の業務にも影響が出にくくなります。ただし、退職日を延長することで社会保険雇用保険の影響が出る可能性があるため、その点も考慮しながら交渉することが大切です。

会社に未消化分の買い取りを交渉する

どうしても有給を消化できない場合、会社に未消化分の買い取りを交渉するのも一つの手です。労働基準法では、原則として有給休暇の買い取りは認められていませんが、退職時に消滅する分については会社の裁量で買い取ることができるとされています。就業規則を確認し、会社が買取制度を設けているかどうかを確認した上で、人事担当者に相談してみるとよいでしょう。

労働基準監督署に相談する

会社が有給休暇の取得や買い取りを認めない場合は、労働基準監督署に相談することも検討しましょう。労基署に相談する際には、過去に提出した有給休暇の申請履歴や、会社の対応を記録しておくことが重要です。これにより、会社が不当に有給取得を妨げている場合、労基署が是正勧告を行う可能性があります。

有給休暇を残したまま退職しないためには、できるだけ早めの計画が大切です。退職を決めたら、すぐに有給休暇の残日数を確認し、引き継ぎ計画を立てることが重要です。会社とスケジュールを調整し、退職直前ではなく、できる限り前もって有給消化を始めるとスムーズに進みます。計画的に行動することで、退職日が近づいた際に焦ることなく、しっかりと有給休暇を消化することができます。

退職時に残った有給休暇の買取ルール

退職時に未消化の有給休暇を会社が買い取ってくれるかどうかは、法律上会社に有給休暇の買取義務はありません。しかし、一定の場合に限って会社が有給休暇を金銭に換えて精算すること(買い取り)が例外的に認められています。労働基準法第39条は有給休暇の買い取りを原則禁止していますが、労働者に不利益とならない以下のようなケースでは買い取りが可能です。

  • 法定日数を超える部分の有給休暇:法律で定められた日数(年5日以上の時季指定義務や最大付与日数20日など)を超えて会社が独自に付与している有給休暇については、会社の裁量で買い取りができます。これは「法定外の有給休暇」であり、買い取っても法律上問題になりません。例えばリフレッシュ休暇など独自の有給制度がある場合、その未消化分は会社が自由に買い取れるということです。
  • 時効(2年)で消滅した有給休暇:有給休暇は付与日から2年で時効消滅しますが、消滅する予定の有給休暇については会社が買い取ることが認められています。時効で消える分を事前に金銭補償しても、労働者を休ませるという有給の趣旨に反しないためです。
  • 退職時に残った有給休暇:退職時点で未消化のまま残った有給休暇については、退職後は労働者がその権利を行使できないため、会社が退職前に買い取る形で精算することが可能です。退職に伴う買い取りは「労働者を休ませる」という有給制度の本来目的に反しないと判断されており、法律上禁止はされていません。

以上のケースでは法律上買い取りが許容されていますが、重要なのは「認められているからといって必ず会社が買い取ってくれるとは限らない」という点です。あくまで買い取りを実施するかどうかは会社の任意であり、就業規則等に買取規定がない限り、労働者側から強制できるものではありません。企業によっては退職時の有給買取制度を設けているところもありますが、「法律上買い取れる=会社が買い取る義務がある」ではないことに注意しましょう。

有給休暇が残ったまま退職するのはもったいない!

有給休暇が残ったまま退職すると、せっかくの権利を失ってしまうことになります。法律的にも、退職までに有給を消化することは労働者の権利として認められています。

会社との交渉は冷静に、誠意をもって行いながらも、自分の権利をしっかり主張しましょう。有給休暇をしっかり活用し、円満な退職を迎えましょう。

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