• 更新日 : 2025年6月2日

有給もらってすぐ辞めてもよい?退職直前の有給は使える?メリット・デメリットを解説

年次有給休暇を取得した直後に退職することは、「非常識では?」「会社に迷惑がかからないか?」と不安に感じる人も多いでしょう。この記事では、有給休暇を取得してすぐ退職することの法的な位置づけやメリット・デメリット、そして円満に退職するための注意点を労働者と企業の両視点から解説します。

有給もらってすぐ辞めてもよい?

有給休暇をもらってすぐ辞めることは法律上問題ありません。 有給休暇(年次有給休暇)は労働基準法に定められた労働者の正当な権利であり、取得条件を満たす労働者であれば退職前であっても自由に取得できるからです。会社側は労働者からの有給申請を原則拒否できず、退職が決まったあとでも残っている有給を消化することは可能です。

そもそも有給休暇とは?

年次有給休暇は、労働者の心身のリフレッシュやワークライフバランスのために認められた有給の休暇で、6ヶ月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に発生します。この条件を満たすと正社員はもちろん、パートやアルバイトでも有給休暇が付与されます。つまり、入社後に一定の期間、勤務をすれば誰でも有給を取得する権利を持ち、退職時であってもその権利は有効です。

有給消化のため即日退職はできる?

正社員などの期間の定めがない雇用契約を結んでいる労働者は、退職の意思を会社に伝えてから2週間が経過すれば、法律上退職が成立します。この「2週間の法定通知期間」に有給休暇を充てれば、退職の意思を伝えたその日から出勤せずに済み、実質的に即日退職のような形を取ることができます。

例えば、退職届を提出した日に有給休暇の消化を開始し、14日間(土日含む)休みを取れば、そのまま退職日を迎えることになります。有給休暇が2週間分なくても、土日などの非労働日も2週間の期間に含まれるため、有給が10日程度残っていれば、退職届を出した日を最終出社日にすることも可能です。

一方で、会社の就業規則で「退職は1ヶ月前までに申告すること」と定められているケースもあります。この場合、1ヶ月前に退職の意思を伝えておけば、残りの期間の一部またはすべてを有給消化に充てることが可能です。有給休暇が20日ほど残っていれば、1ヶ月前の申告と同時に有給消化を開始し、出勤せずに退職日を迎えることもできます。

スムーズに有給消化を進めるためにも、事前に会社のルールや上司との相談を行い、適切な手続きを踏むことをおすすめします。

会社の時季変更権は退職時に適用される?

会社には、業務に支障が出る場合に従業員の有給休暇の取得日を変更できる「時季変更権」があります。しかし、退職予定日を過ぎて有給取得を延期させることは認められていません。

退職直前に有給休暇を申請した場合、会社は退職日までに別の日に取得させることはできますが、退職日を過ぎて繰り越させることはできません。そのため、退職前の有給休暇の取得は法的に認められており、会社が「退職間際だから有給を認めない」と拒否することはできません。

もし会社が合理的な理由なく有給取得を妨げた場合、労働基準法39条違反となり、罰則を受ける可能性があります。退職時に有給休暇を消化したい場合は、事前に会社のルールを確認し、適切に申請しましょう。

有給もらってすぐ辞めるメリット・デメリット

実際に有給休暇を取得してすぐ退職することのメリットとデメリットを見てみましょう。経済的・精神的な利点がある一方で、職場や今後のキャリアへの影響といった注意点もあります。それぞれ具体的に解説し、事例やデータも交えて考えてみます。

有給もらってすぐ辞めるメリット

  • 給与を無駄にしない
    退職前に残っている有給休暇を使い切れば、出勤せずともその期間の給与を受け取れます。逆に、有給を残したまま退職すると未消化分は消滅し、給与に反映されず損をしてしまいます。法律上、会社に未消化有給の買取義務はないため、有給をしっかり消化することは経済的に合理的と言えます。
  • 退職前の気まずさを回避できる
    有給消化に入れば、退職の意思を伝えた後に職場で肩身の狭い思いをする必要がありません。退職を伝えてから実際に辞めるまで勤務を続けるのは気まずいものですが、残り期間を有給休暇で過ごせば顔を合わせにくい上司や同僚とも接することなく退職日を迎えられるでしょう。心理的ストレスを減らし、スムーズに職場を去ることができます。
  • 転職活動や私生活の時間が確保できる
    有給消化中に、引越し準備や各種手続き、資格の勉強など今後の生活に向けた時間を取ることもできます。転職先が決まっていれば入社日の調整もしやすく、ブランク期間もなくスムーズに次の職場へ移行する準備ができます。

有給もらってすぐ辞めるデメリット

  • 引継ぎが不十分になる
    引継ぎが不十分なまま退職すると、有給消化中に職場から問い合わせの連絡が入るケースもあります。せっかく休んでいるのに、電話やメール対応に追われて十分休めない…という事態になれば本人にとってもマイナスです。円滑に退職するためには「有給消化=即連絡を絶つ」ではなく、休暇前に必要な情報共有を済ませておく工夫が必要です。
  • 周囲があまり良い顔をしない
    法律上問題なくても、周囲があまり良い顔をしない可能性はあります。「自分だけ有給を使ってさっさと辞めた」と受け取られると、仲の良かった同僚とも疎遠になってしまうことも考えられます。もちろん有給取得は権利なので労働者が後ろめたさを感じる必要はありませんが、周囲の反発や残念がる声に直面する可能性はデメリットとして認識しておきましょう。
  • 今後連絡を取りにくくなる
    有給消化で最終出社日が前倒しになると、挨拶回りやお礼を伝える機会が限られます。その結果、退職後に元同僚と連絡を取るきっかけを失い、人脈が途切れてしまうこともあります。特に仲の良かった同僚には事前に個別に感謝を伝えるなどしておかないと、「急にいなくなった」と寂しい思いをさせてしまうかもしれません。

このように、「有給をもらってすぐ辞める」には労働者にとって大きなメリットがある一方で、職場への影響や人間関係といったデメリットも存在します。後悔しない選択をするために、次章以降で紹介する注意点や対策もしっかり押さえておきましょう。

有給をもらってすぐ辞める前に確認すべきポイント

有給休暇を取得してすぐ退職する場合、事前にしっかり準備をしないと後悔することもあります。円満に退職しトラブルを避けるために以下の点に注意しましょう。法律上問題なく権利行使できるとはいえ、社会人としてのマナーや今後のことも考慮して行動することが大切です。

退職日を慎重に決める

退職日は賞与(ボーナス)の支給要件や有給の付与タイミングを考慮して決めるのがベストです。例えば、賞与支給日に在籍していないと受け取れない会社も多いため、「あと少し待てばボーナスをもらえたのに…」と後悔しないよう注意しましょう。

また、有給休暇が新たに付与されるタイミングを確認し、その日を過ぎてから退職することで、より多くの有給を消化できる可能性があります。

有給休暇の日数を確認する

有給休暇を消化する前に、自分にどれくらいの有給が残っているかを確認しておきましょう。特にパートやアルバイトの場合、週の勤務日数によって付与される有給日数が異なります。例えば、週3日勤務の人が半年後に付与される有給休暇は5日間ですが、フルタイム勤務なら10日間になります。

「思ったより有給が少なかった…」と後で慌てることがないよう、事前に正確な日数を確認しておくことが大切です。また、契約社員やパート社員などの有期雇用の場合、途中退職のルールが異なることもあるため、不安があれば専門機関や詳しい人に相談しておくと安心です。

有給消化の予定を早めに伝える

退職の意思表示をする際に有給消化の予定も早めに伝えるとスムーズです。「〇月末で退職します。残り△日の有給は◯月◯日~◯日で消化させてください」というように具体的なスケジュールを提案すれば、会社側も対応を検討しやすくなります。

伝えにくい場合は退職願・退職届の文面に有給消化希望を明記する方法もあります。

有給申請は書面やメールで証拠を残す

有給休暇を消化する際は、口頭で「有給消化します」と伝えるだけではなく、証拠が残る形で申請することが大切です。もし会社が後になって「聞いていない」と言い出すと、トラブルになる可能性があります。

安心して有給を取得するためにも、メールで上司や人事に申請する、または有給取得届を提出してコピーを手元に残しておくと良いでしょう。こうしておけば、退職時に有給分の給与が支払われないなどの問題を防ぐことができます。スムーズに退職するためにも、きちんと手続きをしておきましょう。

引継ぎはきちんと行う

有給消化に入る前に、できる範囲で業務の引継ぎを進めておきましょう。何も引継ぎをせずに急に休みに入ると、職場に負担がかかるだけでなく、場合によっては「業務放棄」と見なされ、トラブルにつながることもあります。

安心して退職日を迎えるためにも、引継ぎ資料の作成や後任への説明など、最低限の準備は計画的に進めておくことが大切です。しっかりと対応しておけば、円満に退職できるだけでなく、周囲の印象も良くなり、今後のキャリアにもプラスになります。

同僚やお世話になった人へ感謝を伝える

有給消化に入る前に、職場の同僚や上司に感謝の気持ちを伝えることも大切です。突然いなくなると「挨拶もなく辞めてしまった」と印象が悪くなる可能性があるため、メールやチャットでも良いので、しっかりとお礼を伝えましょう。

可能であれば最終出社日に挨拶回りをしたり、菓子折りを渡したりすることで、より円満な退職ができます。

退職を引き止められた場合

退職の意思を伝えても、なかなか認めてくれない会社もあります。中には「辞めるなら罰金を払え」と脅されるケースや「何度伝えても話を聞いてもらえない」といったケースもあります。

しかし、退職することは労働者の権利であり、「退職したら〇万円の罰金」などと決めること自体が法律違反です。会社が強引に引き止めたり、不当な条件を押しつけようとする場合は、まず人事担当者や労働組合に相談しましょう。それでも解決しない場合は、労働基準監督署などの公的機関に相談するのが有効です。適切な機関に相談することで、会社に対して是正指導が入る可能性もあります。

冷静に対処し、法律に基づいて適切な方法で退職手続きを進めることが大切です。

「有給をもらってすぐ辞める」という選択に不安がある方は、権利を主張しつつも礼儀や根回しを怠らないようにしましょう。

退職直前に発生した有給は使ってもよい?

退職間際に有給が新たに発生したら、その有給休暇は申請できるのでしょうか。結論として、退職直前に新たに発生した有給休暇であっても問題なく取得できます。 法律上、一度発生した有給休暇は労働者の権利であり、退職予定が近いことを理由にその権利が制限されることはありません。

例えば、多くの企業では毎年〇月〇日に有給休暇が定期付与されるとします。その直後に「有給をもらってすぐ辞める」形になったとしても、付与された有給休暇は正当に取得可能です。

会社側としては正常な業務の運営に支障が出る場合に時季変更権を行使できますが、前述のとおり退職日を越えて有給取得を延期することはできません。したがって、新年度分の有給であれ未消化の有給であれ、退職日までに消化できるのであれば存分に使って問題ないのです。

有給休暇を最大限に活用した退職タイミングの例

退職日を少し調整することで、有給休暇を最大限に活用できる場合があります。例えば、4月1日に新年度分の有給休暇が付与される会社なら、退職日を3月31日にするより、4月1日以降に設定する方が新たな有給をもらえてお得です。

有給を取得してから退職すれば、その分休暇も取れ、給与も支払われるため、「年度をまたいで退職すると有給を無駄なく使える」ということもあります。

ただし、業務の引継ぎや人員補充の都合で、有給をすべて消化できないケースもあります。例えば、有給が30日残っていても、退職日までの勤務日が20日しかなければ、すべてを消化するのは難しくなります。そのような場合、会社が任意で残りの有給を買い取ることもあります(※法定日数を超える部分の有給や退職時の特例としての買取は違法ではありません)。

有給休暇の残日数と退職までの期間のバランスを考えながら、退職日を調整する、もしくは会社と有給買取について相談するなど、自分にとって最適な方法を選ぶことが大切です。

有給をもらってすぐ辞める…会社は拒否できる?

会社側としては「有給を付与した途端に辞められたら困る」と感じるかもしれませんが、法律上、それを理由に有給取得を拒否することはできません。たとえ会社が「忙しい時期だから」「後任が決まっていないから」と言っても、有給休暇の取得を阻止する権限はないのです。

つまり、会社は法律に基づいて対応するしかなく、どうしても業務運営上困る場合には、有給の取得日を変更してもらうようお願いすることはできますが、それでも退職日までに有給を消化させることが前提となります。

有給もらってすぐ辞める社員への対応方法

退職前に有給休暇をすべて消化して辞める社員がいる場合、企業側はどのように対応すればよいのでしょうか。急な戦力ダウンを防ぎ、スムーズに引継ぎを進めるための手続きや対策について説明します。

有給消化による業務への影響を把握する

社員が有給休暇を使って退職日まで出社しない場合、業務の引継ぎが終わっていなければ、残された社員に大きな負担がかかります。特に人手不足の職場では、急な欠員によって業務が滞る可能性があります。

また、企業側としては有給消化中でも給与を支払う必要があり、「働いていない期間にも給与を支払う」という状況になります。ただし、有給休暇は労働者の権利であり、会社が拒否することはできません。

早めに退職手続きを進める

退職が決まったら、以下の手続きを早めに進めることで混乱を防ぐことができます。

  1. 有給休暇の残日数と退職スケジュールを共有する
    退職の申し出があったら、まず社員の有給休暇の残日数を確認し、退職日・最終出社日・有給消化期間を明確にします。早めに本人と話し合い、業務引継ぎが完了できるスケジュールを決めましょう。また、退職日によって社会保険や税金の負担が変わるため、本人にもその点を説明し、退職日の調整が可能か確認することも大切です。
  2. 引継ぎを計画的に進める
    退職者には、有給消化に入る前に業務を整理し、必要な引継ぎを終えるよう指示します。引継ぎ内容をリスト化し、後任者と共有しておくことで、退職後の業務混乱を防ぐことができます。引継ぎ期間中には、必要なアカウント管理やシステムアクセス権の整理を行い、退職後に問題が発生しないよう準備しておきましょう。
  3. 社会保険・税金の手続きを確認する
    退職時には、以下の社会保険や税金の手続きを会社側で進める必要があります。
  4. 健康保険と厚生年金の資格喪失手続き
    退職日の翌日をもって社会保険(健康保険・厚生年金)の資格を喪失するため、「健康保険・厚生年金資格喪失届」を年金事務所へ提出します。
  5. 雇用保険の資格喪失手続きと離職票の発行
    退職者が失業給付を申請する場合、離職票の発行が必要になります。希望がある場合は速やかに手続きを進めましょう。
  6. 住民税の取り扱いを確認
    住民税は前年の所得に基づいて課税されるため、退職後に支払い方法が変わります。一括徴収(最終給与からまとめて控除)または普通徴収(本人が役所へ納付)のどちらになるか、退職者へ案内が必要です。
  7. 健康保険の任意継続の案内
    退職後も健康保険を継続したい場合は、健康保険の任意継続を選択できるため、本人に手続きの有無を確認しましょう。

以上のように、有給消化退職は企業にとって痛手となる面もありますが、法に則った労働者の権利行使である以上、適切に受け入れ対応するほかありません。むしろ円満に送り出すことで「社員を大切にする会社」という評価にもつながります。人事担当者としては法律の知識を踏まえつつ、現場への影響を最小限にするマネジメントが求められます。

有給休暇をもらってすぐ辞める際は事前の準備をしっかりと

有給休暇をもらってすぐ辞めることは、法律上まったく問題なく、労働者の正当な権利です。ただし、円満に退職するためには事前の準備が欠かせません。引継ぎをしっかり行い、会社と退職日や有給消化のスケジュールを調整することで、トラブルを避けることができます。適切な手順を踏めば、有給休暇をもらってすぐ辞める選択をしても、晴れやかな気持ちで新たなスタートを切ることができるでしょう。

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