- 更新日 : 2025年12月23日
福利厚生と健康経営とは?制度の種類・違い・導入メリットをわかりやすく解説
企業にとって、優秀な人材の採用・定着や生産性の向上を図るうえで、「福利厚生」と「健康経営」はますます重要なテーマとなっています。従業員の働きやすさや健康を支える制度として注目される福利厚生には、法律で義務付けられたものと、企業が独自に整備する多様な支援策があります。
本記事では、法定福利厚生と法定外福利厚生の違いや健康経営との関係、福利厚生が従業員や組織にもたらすメリットについて解説します。
目次
福利厚生とは?
福利厚生は、従業員とその家族の生活や健康、働きやすさを支える企業の制度です。法律で義務付けられたものと、企業独自の裁量によるものに分かれ、それぞれ役割が異なります。
法定福利厚生は企業に義務付けられた社会保険制度
法定福利厚生は、企業が法律に基づいて提供しなければならない制度です。主に健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険、子ども・子育て拠出金の6つが該当します。これらは従業員が病気やケガ、失業、老後などのリスクに対応できるよう支援する社会保障制度であり、企業は対象となる従業員を必ず加入させ、保険料の一部を負担します(子ども・子育て拠出金は企業が全額負担)。
たとえば、健康保険では医療費の自己負担が軽減され、雇用保険では離職時に一定の給付が受けられます。
法定外福利厚生は企業独自の多様な制度
法定外福利厚生は、企業が独自に設計・導入する任意の制度で、従業員の満足度や定着率向上に寄与します。通勤手当や出張手当などの交通費補助、住宅手当や社宅制度といった住居支援、社員食堂の設置、健康診断や人間ドック受診費用の補助、社内診療所の提供などがあります。また、育児・介護に関する制度の拡充、慶弔見舞金の支給、社員旅行やレクリエーション活動、資格取得支援制度なども含まれます。
こうした制度は企業の方針や文化に応じて多様に展開され、他社との差別化や採用競争力の強化にもつながります。
健康経営とは?福利厚生との違いは?
従業員の健康を重視する取り組みは近年注目を集めており、経営戦略の一環として捉える動きが進んでいます。ここでは健康経営の基本的な考え方と、福利厚生との違いを整理します。
健康経営は経営視点から健康を捉える戦略的な考え方
健康経営とは、経済産業省の定義によれば「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」を指します。これは単なる福利厚生の一部ではなく、従業員の健康を企業の重要な資産と捉え、投資的に健康施策を展開することを意味します。
従業員の活力を高めることでパフォーマンスや生産性を向上させ、最終的には業績や企業価値の向上に結びつけようとする経営方針です。長期的には採用力や離職率の低減といった副次的効果も期待されています。
参考:健康経営|経済産業省
福利厚生との違いは「制度」か「経営方針」か
福利厚生は、従業員に対して提供される具体的な制度やサービスを指し、通勤手当や健康診断など日々の労働環境を整える手段です。一方、健康経営はそうした福利厚生を手段の一つとしながらも、全体を通じて経営理念に基づく包括的な取り組みとして実践されます。
また、福利厚生には一定の経費処理による節税効果が期待される一方、健康経営は企業の持続的成長を見据えた中長期的な投資と位置づけられます。このように、両者は目的や視点が異なるものの、相互に補完し合う関係にあるといえます。
健康経営につながる福利厚生の例は?
健康経営を推進するうえで、福利厚生の充実は欠かせません。従業員の心身の健康を支える施策を整備することで、パフォーマンスの向上や離職防止、企業価値の向上にもつながります。ここでは、健康経営の実現に貢献する福利厚生の例をカテゴリ別に紹介します。
運動・予防医療を支援する福利厚生
従業員の身体的健康を保つための施策には、以下のようなものがあります。
- スポーツジムとの法人契約により、利用料の全額または一部を補助
- オフィス内にフィットネススペースやストレッチエリアを設置
- 定期健康診断に加え、人間ドックやがん検診の受診費用を会社が一部または全額補助
- 管理栄養士監修のヘルシーメニューを提供する社員食堂の導入
- インフルエンザなどの予防接種費用を会社が負担
これらの施策によって、従業員の疾病リスクを下げ、健康的な生活習慣の定着が促されます。
メンタルヘルスを支援する福利厚生
精神的な健康維持にも配慮した制度が求められます。主な取り組みは以下の通りです。
- 毎年のストレスチェックを実施し、心理的負荷を可視化
- 産業医やカウンセラーと連携した面談体制の整備
- メンタル不調を未然に防ぐストレスマネジメント研修の実施
- 外部EAP(従業員支援プログラム)との契約による相談窓口の提供
- メンタルヘルスに関するeラーニングや社内啓発セミナーの開催
なお、常時50人以上の労働者を使用する事業場に該当する場合は、毎年のストレスチェック実施は義務です(50人未満の事業場でも遅くとも2028年5月までには義務化の予定)。こうした制度により、早期の不調発見と対応が可能になり、長期休職や離職のリスクを軽減できます。
働きやすい職場環境を整える福利厚生
柔軟な働き方や快適な職場づくりも、従業員の健康と業務効率を支える要素です。
- フレックスタイム制度や短時間勤務制度を導入し、柔軟な働き方を実現
- テレワークや在宅勤務を常設制度として整備
- リラクゼーションスペースや仮眠室、マッサージルームなどの休憩環境の提供
- リフレッシュ休暇、アニバーサリー休暇、ボランティア休暇などの特別休暇制度
- 職場復帰支援制度(育児・介護・療養後の段階的な勤務調整など)の設置
これらの施策はワークライフバランスの確保を支え、従業員の満足度や定着率の向上につながります。
健康経営・福利厚生を充実させるメリットは?
健康経営に取り組み、福利厚生を充実させることは従業員の働きがいや企業の競争力を高める投資と言えます。ここでは、企業が福利厚生を強化することによって得られるメリットを解説します。
従業員満足度の向上
福利厚生が充実している企業では、従業員が安心して長く働きやすいと感じる傾向があります。住宅手当や健康診断の補助、育児支援など、生活を支える制度が整っていることで「大切にされている」という実感につながり、従業員の会社に対する信頼感やモチベーションが高まります。結果として、仕事への意欲や定着率の向上が期待されます。
優秀な人材の採用・定着
他社と差別化された福利厚生制度は、採用活動における大きな魅力になります。求職者は給与だけでなく、働きやすさやライフスタイルへの配慮も重視する傾向にあるため、福利厚生の内容が豊富な企業ほど選ばれやすくなります。また、入社後も柔軟な働き方やヘルスケアサポートが整っていれば、ライフイベントを迎えた従業員の離職リスクを抑えることができます。
組織の生産性と企業イメージの向上
健康管理や職場環境改善に関する福利厚生は、従業員のパフォーマンスを維持・向上させる基盤となります。さらに、健康経営や働きやすい職場としての社外評価が高まることで、企業ブランドの向上にもつながります。福利厚生の戦略的な設計は、企業の持続的成長を支える要素となり得るのです。
健康経営優良法人認定とは?
健康経営優良法人認定は、従業員の健康管理に戦略的に取り組む企業を公的に評価する制度です。企業の健康経営を「見える化」し、社会的信頼や採用競争力を高める手段として注目されています。
制度の概要
健康経営優良法人認定制度は、経済産業省が2016年度に創設した制度で、健康経営の実践が優れた企業を認定する仕組みです。目的は、従業員の健康を重視する企業活動を社会に広く認識させることで、企業価値の向上や持続可能な成長につなげることにあります。
この制度には「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」が設けられており、企業規模に応じた審査が行われます。年々注目度は高まり、2025年には中小企業での申請数が初めて2万社を超える見込みとなるなど、制度は急速に普及しています。健康への取り組みを企業の強みとして打ち出す動きは、今後も拡大していくと考えられます。
認定の要件と取得による効果
認定を取得するには、一定の基準を満たす必要があります。定期健康診断やストレスチェックの実施、健康課題の把握、メンタルヘルス対策、健康増進施策の継続的な改善などが評価の対象です。こうした取り組みを通じて、企業は従業員の健康意識を高めると同時に、職場全体の活力や生産性を向上させることが可能になります。
認定を受けた企業では、人材の定着率向上や採用活動での信頼獲得など、さまざまなメリットが報告されています。また、健康経営の取り組み姿勢が対外的に明確になることで、取引先や投資家、求職者からの評価も高まり、結果として企業価値の向上にもつながります。福利厚生や健康支援策の充実を戦略的に展開していく上で、この認定は有効な後押しとなるでしょう。
健康経営優良法人認定に向けたヘルスケアサポート施策の選び方は?
健康経営優良法人認定を取得するには、自社の健康課題に合ったヘルスケアサポート施策を選び、認定基準に沿って継続的に運用することが重要です。
認定に必要なヘルスケア施策は「基準に沿った健康管理の強化」
健康経営優良法人認定で評価されるのは、健康診断やストレスチェックを確実に実施し、その後の対応まで丁寧に行っている企業です。法定健診を行うだけでは十分ではなく、受診率が高いこと、診断結果を踏まえた事後フォローを実施していることが求められます。また、ストレスチェックの結果を分析し、職場環境の改善に活かしているかどうかも評価対象です。
さらに、メンタルヘルス支援として産業医面談や外部カウンセラーの相談窓口を整えることも重視されます。従業員の健康課題をデータで把握し、必要なサポートにつなげる取り組みは、いずれも認定基準に直結する項目です。
認定取得につながるポイントは「効果を測定し改善できる取り組みを選ぶ」
認定取得に向けて施策を導入する場合、効果を測定し改善できるヘルスケアサポート施策を優先することが大切です。たとえば、スポーツジム補助や健康アプリの活用、ウォーキングイベントの参加状況を記録する仕組みは、運動習慣の変化を可視化できます。
加えて、禁煙支援や食事改善施策に対して従業員アンケートを行い、満足度や行動変化を確認することも有効です。これらのデータを年間の振り返りとしてまとめることで、継続的改善の取り組みを示す根拠にもなります。
自社の健康課題に合ったヘルスケアサポートを選び、計画・実行・評価の流れを維持することが、認定取得と持続的な健康経営につながります。
福利厚生と健康診断・健康増進の関係は?
企業にとって従業員の健康管理は不可欠な取り組みです。法定の健康診断に加え、福利厚生を活用した健康増進施策を導入することで、健康経営の実現が一層促進されます。
健康診断は法令義務と企業責任を両立させる
労働安全衛生法により、企業には年1回の定期健康診断の実施が義務付けられています。しかし、健康診断だけで従業員の健康を維持・向上させるには限界があります。そのため、近年は人間ドックやがん検診の補助など、法定外の健康診断を福利厚生の一環として導入する企業が増えています。
また、受診率の向上も健康経営優良法人認定の評価項目に含まれており、確実な実施が求められています。
健康増進施策は働く人の生活習慣改善を後押しする
運動・栄養・休養などを支援する健康増進施策は、従業員の生活習慣の改善や病気予防に役立ちます。スポーツジム利用補助や禁煙サポート、社員食堂での健康メニュー提供、ストレスチェックの実施、メンタル相談窓口の設置などがあります。これらの施策は従業員のモチベーションや生産性を高め、業績向上にもつながります。企業が福利厚生を通じて健康支援を行うことは、働く人の長期的なパフォーマンス維持にもつながります。
福利厚生と健康経営の連携が企業価値を高める
福利厚生の充実は従業員の満足度や定着率の向上、採用競争力の強化につながり、健康経営と組み合わせることでさらに大きな効果を生み出します。健康診断やストレスチェックといった制度を土台に、運動・食事・メンタルケア・柔軟な働き方などの支援策を福利厚生として整えることは、企業全体の活力と生産性を支える投資となります。制度としての福利厚生と戦略としての健康経営を両輪で進めることで、持続可能な経営が実現します。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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