- 更新日 : 2025年11月5日
勤怠データの分析方法は?エクセルやツールの活用方法、データの保存期間なども解説
勤怠データ分析は、企業の成長を支える人事活動の重要な手段です。従業員の活動記録である勤怠データを正しく分析すれば、長時間労働の是正、生産性向上、従業員エンゲージメントの向上といった、多様な経営課題の解決につながります。
この記事では、勤怠データの活用を成功させるための目的設定から具体的な分析手法、成果を出すためのポイントまでを解説します。客観的なデータで、戦略的な組織運営を始めましょう。
目次
そもそも勤怠データとは?
勤怠データとは、従業員の出退勤時刻、休憩、休日、休暇取得状況といった勤務に関する実績を記録した情報です。具体的には、タイムカードや勤怠管理システムで記録される以下の情報が含まれます。
- 始業・終業時刻
- 出退勤時刻
- 休憩時間
- 実労働時間・業務時間
- 残業時間(時間外労働、深夜労働、休日労働)
- 遅刻、早退、欠勤の回数や時間
- 有給休暇の取得日数・残日数
これらのデータは給与計算の基礎情報であると同時に、従業員一人ひとりの働き方や組織全体の労働実態を客観的に示す重要な情報源です。
勤怠データの分析が重要な理由は?
勤怠データの分析が重要な理由は、客観的なデータによって組織課題を発見し、的確な改善策を実行するのに欠かせないためです。 特に、働き方改革の推進や人材不足が深刻化する現代において、その重要性は増しています。
働き方改革関連法への対応
2019年4月から順次施行された働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得義務化への対応が必須となりました。
勤怠データの分析は、36協定の遵守状況や勤務間インターバルの確保などを継続的に監視し、法規制を遵守しているかを確認する上で欠かせません。これにより、コンプライアンス違反のリスクを未然に防ぎます。
生産性の向上と業務効率化
業務負荷の偏りやボトルネックの特定が、組織の生産性を高めます。
たとえば、特定の部署だけ残業が多い、月初の業務量が突出しているといった課題を発見できる場合があります。客観的なデータから業務の見直しや人員配置の最適化を行えば、組織全体の生産性向上につながるでしょう。
従業員のエンゲージメント向上
従業員が健康で意欲的に働ける環境の整備が、エンゲージメントを高めます。
長時間労働や不規則な勤務は、従業員の心身に大きな負担をかけ、離職の原因となりかねません。勤怠データを分析して過重労働の兆候がある従業員を早期に発見し、面談や業務量の調整といった適切なケアを行うことが可能です。
勤怠データ分析でわかること
勤怠データを分析すると、組織の働き方を多角的に可視化できます。
労働時間・残業時間の実態
全社、部署別、役職別、個人別といったさまざまな切り口で労働時間や残業時間を分析することで、課題のある箇所を特定できます。たとえば、「A部署は慢性的に残業が多い」「Bさんは毎週水曜日に残業が集中している」といった事実が明らかになれば、具体的な対策を検討するきっかけになります。
有給休暇の取得状況
部署別や月別に有給休暇の取得率を可視化できます。年5日の取得義務への対応はもちろん、従業員のリフレッシュを促す観点からも取得状況の把握は重要です。分析を通じて、休暇を取得しにくい部署や、多忙で休みが取れていない従業員を特定し、取得勧奨などの対策を講じられます。
業務負荷の偏り
特定の曜日や時間帯、繁忙期における業務負荷の集中度合いを分析できます。たとえば、店舗ビジネスであれば「週末の夕方に人員が不足している」、プロジェクト型業務であれば「締め切り直前に作業が集中している」といった傾向を掴むことで、より効果的なシフト作成やタスク管理が可能になります。
従業員の健康状態
勤怠データからは、長時間労働や休息不足などの指標を通じて、従業員のメンタルヘルスなどの健康リスクの手がかりを得られることがあります。
- 勤務間インターバル:終業から次の始業までの時間が短い従業員
- 連続勤務日数:休日を挟まずに長期間連続で勤務している従業員
- 深夜労働・休日出勤の頻度:法定の割増賃金対象となる勤務が多い従業員
これらの兆候は、従業員の健康問題だけでなく、企業の安全配慮義務違反といったコンプライアンスリスクにもつながる可能性があります。
勤怠データ分析の具体的な進め方
効果的な勤怠データ分析は、目的を明確に設定することから始まります。やみくもにデータを眺めるのではなく、何を知りたいのか、何を解決したいのかという意識が分析の成否を分けます。
1. 目的の明確化と仮説設定
はじめに、何のために分析するのかという目的を明確にします。たとえば、残業時間を月10%削減するなど、自社の実績・体制に応じた具体的な目標を設定すると良いでしょう。加えて、残業が多い営業部の社員がいた場合「移動時間が長いため、残業が増えているのではないか」といった仮説を立てることで、分析の精度が高まります。
2. データの収集と整理
次に、勤怠管理システムやタイムカードなどから必要なデータを収集します。この際、打刻漏れや申請ミスといった不正確なデータを取り除くデータクレンジングが重要です。分析の元となるデータを正確な状態に整えるこの工程が、分析全体の質を大きく左右します。
3. データの可視化と分析
収集・整理したデータをグラフや表で可視化します。棒グラフで部署別の残業時間を比較したり、折れ線グラフで残業時間の推移を見たりすることで、傾向や異常値を直感的に把握できます。その後、立てた仮説に沿ってデータを深掘りし、要因を特定していきます。
4. 課題の特定と改善策の実行
最後に、分析結果から明らかになった課題の原因を考察し、具体的な改善策を立案します。たとえば、特定業務のRPAによる自動化や、ノー残業デーの徹底といったアクションです。重要なのは、改善策を実行し、その効果を再びデータで測定するPDCAサイクルを回すことです。
勤怠データの分析・可視化に役立つ3つのツール
勤怠データの分析には、目的やスキル、予算に応じたツールを選ぶことが大切です。手軽なExcelから専門的なBIツール、勤怠管理システムまで、それぞれの特徴を解説します。
1. ExcelやGoogleスプレッドシート
多くの企業で導入されている表計算ソフトは、勤怠データ分析の第一歩として最適です。追加コストがかからず、多くの従業員が基本的な操作に慣れているというメリットがあります。
- ピボットテーブル:ドラッグ&ドロップの簡単な操作で、部署別や月別の労働時間を集計・分析できます。
- 関数(SUMIF、 COUNTIFなど):残業45時間以上といった特定の条件に合致するデータを集計できます。
- グラフ機能:集計結果を棒グラフや折れ線グラフで可視化し、レポートを作成できます。
まずはマイクロソフト エクセルなどで小規模に始めてみて、組織に分析の文化を醸成するのも良いでしょう。
2. BIツール
BI(ビジネスインテリジェンス)ツールは、大量のデータを統合・分析・可視化するための専門ツールです。勤怠データだけでなく人事データや財務データなどを組み合わせた多角的な分析が可能です。直感的な操作で対話的にデータを分析できるダッシュボードを作成でき、経営層や管理職がいつでも最新の状況を把握したい場合に非常に有効です。
3. 勤怠管理システム
クラウド型勤怠管理システムには、残業時間集計や部署別・月別推移のレポート等の分析機能が標準で備わっているものがあります。データ収集から集計、可視化までがシステム内で完結するため手間がかかりません。長時間労働や36協定の限度時間に近づいている従業員を自動で検知しアラートを出す機能もあり、日々の勤怠管理と一体で分析を行いたい場合や、労務リスク管理を重視する場合に最も効率的です。
勤怠データ分析を成功させるためのポイント
データ分析を成功させるには、分析結果を従業員の監視に使うのではなく、働きやすい職場環境作りのために活用する目的を明確にすることが大切です。
1. データの正確性と一貫性を担保する
分析の元となるデータの品質が、分析結果の信頼性を決定します。日々の打刻が正確に行われるようルールを徹底し、打刻漏れや申請ミスは速やかに修正する運用を確立しましょう。特に、直行直帰やテレワークといった多様な働き方に対応できる勤怠管理の仕組みが重要です。
2. 分析目的を明確にし、関係者と共有する
なぜ勤怠データを分析するのかという目的を、社内全体で共有することが成功につながります。目的が共有されていないと、会社は従業員を監視しようとしている、といった誤解や反発を招く可能性があります。あくまで組織全体の生産性向上や従業員の働きがい向上のためであることを丁寧に説明しましょう。
3. 個人情報保護とプライバシーに配慮する
勤怠データは、個人の働き方に関する繊細な情報です。分析結果の閲覧権限を適切に管理し、個人が特定できるデータを不必要に公開しないなど、プライバシー保護には細心の注意を払う必要があります。分析結果を個人の評価に直接結びつける場合は、特に慎重な検討と透明性の高いルール作りが求められます。
4. 分析を改善アクションにつなげ、PDCAを回す
分析で終わらせず、改善アクションにつなげることが最も重要です。レポートを作成して満足するのではなく、明らかになった課題に対して具体的な改善策を講じ、実行し、その効果を再び勤怠分析で検証するPDCAサイクルを回し続けましょう。小さな改善の継続が、組織の働き方を着実に変えていきます。
5. 勤怠データの保存期間に注意する
勤怠データは、労働基準法第109条により、原則として5年間保存する義務があります。過去には3年間保存とされていた時期もありますが、現在は5年間の保存期間が原則です。
対象となるのは、タイムカード、出勤簿、残業命令書および報告書、労働時間の記録に関する書類全般です。これらの記録は、紙だけでなく電子データでの保存も認められていますが、その場合は法令の要件を満たす必要があります。
勤怠データの分析で客観的な組織運営を
本記事では、勤怠データ分析の重要性から具体的な分析方法、成功のポイントまでを説明しました。勤怠データは、単なる給与計算の情報ではなく、組織の課題を映し出し、改善へと導くための重要な情報です。
まずはExcelなどの身近なツールからでも構いませんので、勤怠分析を始めてみることが大切です。データにもとづいた客観的で効果的な組織運営への第一歩を踏み出すことで、企業の持続的な成長と従業員の働きがい向上につながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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