- 作成日 : 2025年10月6日
清算法人とは?解散後の会社がすべき清算手続きと税務処理について解説
廃業が決まったあとも、企業は清算手続きを行うために「清算法人」として存続します。正式に法人格を失うのは、清算が完了した時点です。
この記事では、清算の具体的な手続きの流れや、清算中に行う税務処理について解説します。
目次
清算法人とは?
「清算法人」とは、解散が決まったあと清算を完了させるまでの期間にある企業を指す名称です。「清算株式会社」と呼ばれることもあります。
企業の法人格は、解散が決まってすぐになくなるわけではありません。解散後の企業は清算手続きを行うために、法律上の「法人格」を維持しています。
清算法人は、事業活動を行うことはできませんが、清算を進めるために必要な範囲での活動は認められています。
清算法人の基礎知識
清算法人が行うのは、解散決定後の清算に必要な業務のみです。
この項目では清算法人への理解を深めるため、下記の4点を解説します。
- 会社清算とは
- 会社の解散と清算の違い
- 清算法人になったあとにできること
- 清算法人になるとできないこと
会社の清算とは
会社の清算とは、企業が解散後、保有する財産を整理する手続きのことをいいます。
解散が決まった企業は新たな事業活動を行えません。代わりに「清算人」と呼ばれる責任者が中心となって、資産や負債の処理を進めていきます。
具体的には、保有する資産を売却するなどして現金化し、その資金をもとに債権者への支払いや株主への分配を行います。なお、優先度は債権者への支払い>株主への分配です。
つまり、清算は会社の後片付けといえます。債権者や株主の権利を守るために欠かせないプロセスです。
解散と清算の違い
解散と清算は、どちらも廃業を決めた企業が法人格を失うまでのステップを表す言葉です。
解散は、企業が事業活動を終了することを意味します。後継者の不在や業績不振などで法人としての存続が難しい場合、企業では廃業が検討されます。
解散決議には、一般的に株主総会の開催が必要です。定時株主総会に限らず、臨時株主総会で決議がとられる場合もあります。
会社解散は、株主総会の特別決議でのみ決定が可能です。特別決議の条件は、下記の通りです。
- 株主総会に参加している株主のもつ議決権が、すべての議決権の過半数(もしくは定款で定められている割合)を上回っていること
- 賛成に投じられた議決権が、出席している株主の議決権の3分の2(もしくは定款で定められている割合)を上回っていること。
なお、株主総会を実地で開催せずに書面や電磁的記録をもって決議をとる、書面決議という方法もあります。
解散の決定に続いて、会社清算がはじまります。そのため、解散決議をとる株主総会では、清算処理を代表して行う清算人の選定も必要です。
清算法人としてできることは?清算法人の権利能力について
清算法人は、解散後に法人格を消滅させるための清算手続きのみ行うことが認められています。
企業には通常、権利能力というものがあります。これは、定款に記されている目的の範囲内で営業行為をする権利のことです。しかし清算法人となったあとは、この権利能力を失い、清算のための行為のみ行うことができます。
たとえば、すでにある在庫の売却はできますが、新たに商品を仕入れることはできません。ただし、清算手続きに必要な資金の調達などは可能です。
下記に、清算法人が認可されている主な行為を紹介します。
- 株式、社債の発行
- 清算法人としての目的の変更
- 本店の移転登記
- 支店の設置と支配人の専任
上記の行為はすべて、清算手続きを目的とする前提で許されています。
清算法人ができないこと
清算法人となった後は、通常の法人としての権利能力を失うため、普段の事業活動は行えません。
以下は、清算法人が行ってはいけない行為の一例です。
これらの行為は債権者の利益を害する行為と判断されるため、清算法人には認められていません。
会社解散後の清算の流れとスケジュール
清算法人が清算を結了するためにはいくつかの手続きを踏む必要があります。
① 清算人の決定
「清算人」とは、清算法人における清算手続きを担う責任者です。
通常は解散決議と同時に株主総会で選任され、人数は会社法で1〜2人以上と定められています。清算人に就任できるのは、取締役や定款で定められた人、株主総会で選出された人です。
選任後は、債権債務の整理や財産の換価・分配などを行い、会社を法的に消滅させる役割を果たします。
② 解散に関する届出の提出
企業の解散にあたっては、各所への届け出も行います。
まず、解散日から2週間以内に解散の登記をしなくてはいけません。登記は本店の所在地の法務局で行い、このとき、定款および株主総会の議事録などが必要となります。同じタイミングで清算人の登記も行います。
その他、必要な届出の提出先と期限は下記の通りです。
届出の提出先 | 届出が必要な書類:提出期限 |
---|---|
税務署 |
|
市区町村役場 |
|
都道府県税事務所 |
|
年金保険事務所 |
|
公共職業安定所(ハローワーク) ※雇用保険に加入している従業員がいる場合 |
|
労基署 |
③ 現務の結了
現務の結了とは、通常の会社の業務活動を終了することです。
まずは解散後も残っている顧客との契約をすべて解消します。また、従業員との雇用契約も順次解消していかなくてはいけません。ただし、清算中も法人格は残っているため、清算手続きに必要な人員の雇用を続けることは可能です。
現務の結了にあたっては、財産目録と賃借対照表を作成し、株主総会の承認を得る必要があります。
④ 債権の取立てと債務の弁済
清算手続きでは、未回収の売掛金などの債権を取立て、会社に残る資産を確実に回収します。これと並行して、自社が抱える買掛金や借入金、家賃などの未払い債務については、順次弁済を行う必要があります。
債権の回収と債務の返済は、会社の財務状況を整理し、清算を円滑に進めるための重要なプロセスであり、利害関係者への公平な対応にも直結する手続きです。
⑤ 財産の現金化と残余財産の分配
在庫や不動産などの残存資産は売却して現金化し、その資金は未払いの買掛金や借入金などの債務返済に充てられます。
すべての債務を返済した後に資産が余った場合は、残余財産として株主に分配されます。
残余財産の分配は、清算過程の最終段階にあたり、公平性を確保する重要な手続きです。
清算法人がすべき税務処理
会社の清算時には、通常の業務では発生しない金銭のやり取りが行われるため、納税についても特別な対応が必要です。具体的には清算開始時、清算中の各年、終了時にそれぞれ確定申告を行い、法人税や消費税などの税務処理を適切に履行する義務があります。
清算法人の納税義務
清算法人は、解散事業年度と清算事業年度のそれぞれについて、法人税・消費税・地方税の申告をする必要があります。これらの申告と納税が完了しなければ、法務局で清算結了の登記を行うことはできません。
税務処理の適切な履行は清算手続きの最終段階である登記に直結しており、遅延や不備があれば清算の完了が遅れる恐れがあります。よって、清算法人の税務処理は清算業務全体の重要な要素といえます。
清算法人への税務調査
清算法人には納税義務があるため、税務調査が入る可能性もあります。万が一清算手続きに関する税務処理が適切に行われていないと判断された場合、調査の対象となる場合があります。
調査の入る可能性がある期間は、清算結了後の7年間です。その間は調査に対応できるよう、申請書類やその他清算処理に関する資料を保管しておきましょう。
清算法人の確定申告
清算法人は、解散事業年度・清算事業年度・残余財産確定事業年度の3段階で確定申告が必要です。
解散事業年度とは、その年の期のはじまりから解散を決議した日までの期間です。確定申告は解散の日から2ヵ月以内と定められています。たとえば2025年10月5日に解散した場合、確定申告の期限は同年12月5日です。
一方、清算事業年度は、解散決議日の翌日から1年ごとに区切られます。清算が複数年に及ぶ場合は各年度ごとに申告が必要です。
そして、清算が決了して残余財産の分配が確定した年度を「残余財産確定事業年度」といい、結了日から2か月以内に確定申告を行います。
各事業年度の申告の際には、確定申告書、貸借対照表、損益計算書、勘定科目内訳明細書などの添付が必要です。
清算法人の欠損金
清算法人の欠損金とは、法人が赤字を計上した金額を指します。
確定申告の際には、繰越欠損金や期限切れ欠損金の扱いに注意が必要です。とくに、期限切れ欠損金を損金算入することで、課税所得を減らし税額が発生しないようにできる仕組みがあります。そのため、清算法人においては欠損金の適切な処理が重要となります。
会社の清算についてのよくあるQ&A
企業の経理担当者は、会社清算にあたっての実務を多く担います。しかし、はじめて清算業務に従事する際は、さまざまな疑問点を抱くでしょう。
ここでは、経理担当者がよく抱く、会社の清算に関する疑問に回答します。
清算結了をしないとどうなる?
清算結了の登記をしないと、法人格が消滅しません。法人格が残っている場合、事業を行わず利益が発生していなくても、法人住民税の均等割は課されてしまいます。
なお、解散後10年間何の登記もされていない法人については、登記官の職権で登記記録の閉鎖がなされます。ただし、それにより法人格が消滅するわけではありません。
清算に時間がかかって清算結了登記ができない場合には、法務局に対して「清算未了の申出」を行うことで、登記記録の復活も可能です。
清算結了後に登記を復活させることは可能?
清算が結了していたとしても、会社登記簿を復活させることは可能です。
万が一未処理の手続きが残っていた場合、清算結了登記の抹消をして会社登記簿の復活ができます。その際は再度清算法人となり、残っている手続きを完了したあとに、改めて清算結了の登記を行います。
倒産した場合の清算はどうなる?
企業が倒産する際の清算には、通常の清算と異なる点があります。
資金繰りに困窮した場合、企業には倒産のリスクがあります。倒産とは、企業が経営に行き詰まり、債務の弁済がしきれなくなった状態のことです。
倒産手続きにはいくつか種類があり、そのうちのひとつが「特別清算」です。ほかに破産、民事再生、会社更生などの選択肢があります。
特別清算の場合は、地方裁判所に特別清算の申立てをし、裁判所の監督のもとでの清算手続きが必要です。手続きを進める上では、債権者の同意も得なくてはいけません。
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