- 更新日 : 2025年10月6日
収益向上とは?基本戦略や5つの施策・経営分析の方法まで徹底解説
業績が伸び悩み「収益をどう高めるべきか」と悩む経営者や経理担当者の方は少なくありません。
- 売上はあるのに利益が伸びない
- コスト削減に限界を感じる
- 今後の投資や事業拡大の原資をどう確保すべきか
このような不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、収益向上の基本的な考え方から、実現するための3つの戦略や具体的な5つの施策、さらに経営分析によるチェック方法までをわかりやすく解説します。
また、収益改善との違いや、ロジックツリー・バリューチェーン分析といったフレームワークも紹介しているため、初心者の方でも体系的に理解を深められます。
企業の成長や持続的な経営につながるため、ぜひ最後までご覧ください。
目次
収益向上がなぜ重要なのか
企業が安定して成長を続けるためには、収益の確保と拡大が欠かせません。
収益が低い状態が続くと、従業員の給与アップや福利厚生の充実が難しくなり、優秀な人材の流出につながる可能性があります。また、研究開発や新規事業への投資も制約され、長期的に経営の先細りを招きます。
一方で収益を向上させることは、企業が持続的に成長するために必要です。利益を生み続けることで、内部留保を積み上げられ、将来の大規模投資や不測のリスクにも対応しやすくなります。
さらに、PL(損益計算書)の利益だけでなく、営業キャッシュフローやフリーキャッシュフローといった実際の資金の動きが伴っているかどうかも重要です。キャッシュが裏付けられている収益改善であれば、資金繰りが安定し、より確実に経営の健全性を高められます。
収益は、顧客満足度や事業の健全性を示す重要な指標でもあり、経営者にとって最優先の施策と言えるでしょう。
収益の基本的な考え方
収益の基本を理解するためには、次の3つのポイントを押さえる必要があります。以下でそれぞれ詳しく解説します。
収益と利益の違い
収益とは、商品やサービスの販売などによって得られる資産の増加を指し、会計上は「営業収益」「営業外収益」「特別利益」に分類されます。これに対して利益は、収益から費用を差し引いた残りであり、事業の成果や健全性を測るための重要な指標です。
たとえば、売上が大きくても費用が膨らんでいれば利益は残らず、実際の収益性を正しく評価できません。そのため収益性分析などでは、収益ではなく利益に着目するケースが多いのが特徴です。
企業にとって必要な「5つの利益」
企業経営においては、以下の5つの利益を理解し、管理することが求められます。
利益の種類 | 定義 | 活用ポイント |
---|---|---|
売上総利益(粗利益) | 売上から原価を差し引いたもの | 商品・サービスの販売力や仕入・製造コスト管理の巧拙を把握し、価格戦略や原価低減策の判断に役立つ |
営業利益 | 売上総利益から販管費を差し引いたもの | 本業の稼ぐ力を示し、販管費削減や効率的な組織運営など改善余地を見極める指標となる |
経常利益 | 営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を差し引いたもの | 本業に加え財務活動や投資活動も含めた企業体質の健全性を把握し、資金調達や投資戦略の妥当性を判断する基準になる |
税引前当期利益 | 経常利益に特別利益を加え、特別損失を差し引いたもの | 突発的な利益や損失を含めた最終的な企業の収益力を確認し、リスク管理や特別要因の評価に活かされる |
当期純利益 | 税引前当期利益から法人税等を差し引いた最終利益 | 最終的な利益水準を示し、株主への還元方針や成長戦略の意思決定につながる |
「収益向上」と「収益改善」の違い
「収益向上」と「収益改善」は似た表現ですが、意味合いは異なります。
収益向上は、新製品の開発や新規顧客の獲得など、売上を増やす取り組みによって収益を拡大することである一方で、収益改善は業務効率化やコスト削減といった内部的な見直しによって収益を高めることです。
どちらも最終的には収益を増やすことが目的ですが、資金や人材に限りがある中小企業の場合は、まず収益改善で利益を守ることが現実的です。その成果を投資原資として蓄え、その後に収益向上を目指すことで、段階的かつ持続的な成長につなげられます。
収益向上を実現する3つの基本戦略
企業が安定的に収益を伸ばすためには、短期的な施策から中長期的な成長戦略までをバランスよく実行することが欠かせません。
収益向上の基本戦略は、大きく3つに分類されます。以下で、それぞれのポイントを具体的に解説します。
売上を伸ばす
売上拡大の施策は、既存顧客を深耕する短期的な取り組みと、新市場を開拓する中長期的な戦略に分けられます。
施策区分 | 具体策 | 内容 |
---|---|---|
短期施策 (既存顧客への深耕) | 営業力の強化 | 営業人員の増員や教育、報酬制度の充実によりモチベーションを高め、既存顧客への提案力を底上げする |
収益性の高い商品・サービスの拡販 | 高付加価値商品の販売単価を高め、利益率を改善する | |
マーケティングの強化 | 顧客ニーズを正確に把握し、インバウンドマーケティングを通じて信頼関係を構築し、リピート率やアップセルにつなげる | |
中長期施策 (新規市場開拓・成長基盤の確立) | 新商品の開発と市場拡大 | 収益性の高い商品やサービスを新たに開発し、新規顧客や市場に展開する |
差別化戦略とブランド力強化 | 価格競争から脱却し、自社独自の強みを打ち出すことで、長期的に安定した売上基盤を築く | |
M&Aの活用 | 新規市場参入や販路拡大をスピーディーに実現し、競争優位性を高める |
コストを削減する
収益を高めるためには、不要なコストを削減して利益率を改善することも有効です。
施策 | 内容 |
---|---|
固定経費の見直し | 人件費、家賃、水道光熱費、減価償却費などを分析し、過剰部分を削減する |
変動費の最適化 | 仕入・外注費・消耗品費について調達先を見直し、スケールメリットを活用して削減する |
DX・業務効率化 | デジタル化やシステム導入により間接コストを抑制する |
バランスの確保 | 経費削減を行き過ぎると従業員モチベーション低下や売上減少につながるため注意が必要 |
生産性を高める
生産性の向上は、従業員1人当たりの付加価値や営業利益額を増やすことにつながります。
施策 | 内容 |
---|---|
業務効率化 | ルーティン作業の自動化、アウトソーシングの活用、システム導入により人材の時間を有効活用する |
スキルアップとマルチタスク化 | 従業員のスキルアップや複数業務をこなせる体制づくりで柔軟な人材活用を実現する |
分析による課題特定 | ロジックツリーや3C分析を活用し、課題の特定と改善策の優先順位を明確化する |
事業領域の拡大と仕組み化 | バリューチェーンの川上・川下に事業領域を広げ、仕組み化を進めることで収益基盤を強化する |
収益向上につながる具体的な5つの施策
企業が安定的に成長を続けるためには、戦略に基づいた次のような収益向上施策が不可欠です。ここでは、5つの具体的なアプローチを解説します。
営業力の強化
営業力は収益の基盤を支える重要な要素です。
まず、営業担当者の増員やノルマ設定によって「量」を拡大し、同時に研修や報酬制度の充実で「質」を高めることが必要です。さらに、営業プロセスのボトルネックを数値で把握して改善することが、成約率の向上につながります。
効率化の一例として、SNSやメールマガジンを活用し、事前に顧客の購入意欲を高める施策も効果的です。
加えて、優秀な営業人材の確保や教育体制の整備は中長期的な成果につながります。場合によっては、営業人材を抱える企業をM&Aで獲得する方法も有効です。
マーケティング戦略
収益を安定的に伸ばすには、顧客ニーズを正確に把握するマーケティングが欠かせません。
定期的な調査を通じて市場の動向を把握し、SNSやホームページ、メールマガジンを活用したインバウンドマーケティングを展開することが効果的です。
また、競合との差別化を図り、ブランド力を強化することも重要です。そのためには、提供価値を明確化した「バリュープロポジション」の構築が欠かせません。
マーケティング施策は一度で完結するものではなく、定期的な見直しと改善が必要です。
高収益商品・サービスの開発
同じ売上でも利益を大きく向上させるには、付加価値の高い商品やサービスの開発が有効です。
単価の高い製品を提供すれば、販売数量が変わらなくても収益を増加させることが可能です。その際、顧客ニーズと自社の強みが重なる分野を見極めることが重要で、3C分析などのフレームワークが役立ちます。
さらに、他社との差別化が明確であれば高単価の設定も可能です。ブランド力や技術力、発想力を高めることが、成功を左右します。
多角化・新規事業への参入
既存事業だけに依存せず、多角化や新規事業への参入を進めることも収益向上につながります。特に周辺分野からの参入は、リスクやコストを抑えながら成功の可能性を高められます。
M&Aを活用すれば、ゼロから立ち上げるよりもスピーディーかつ低リスクで事業展開が可能です。また、業務提携や小規模な実証実験(PoC)を行うことで、新市場への適応度を検証できます。
事業ポートフォリオ戦略を用い、成長分野に集中し停滞分野から撤退する判断も重要です。さらに、新市場開拓においてはバリューチェーンの拡張やシステム化が有効な手段となります。
リピーター・紹介顧客の増加
安定した収益を確保するためには、新規顧客だけでなくリピーターや紹介顧客を増やすことが欠かせません。
顧客管理システムを導入して情報を共有すれば、サービスの質が向上しリピートにつながります。さらに、新しいメニューやサービスを提供することで、特定の顧客層のリピート率を高めることも可能です。
部署を横断したマルチタスク化による顧客満足度の向上も、リピーター増加につながります。リピートや紹介による顧客獲得は新規顧客の獲得コストの1/3以下で済むため、効率性が高い点も魅力です。
最終的にはロイヤルカスタマーを育成し、顧客が顧客を呼ぶ好循環を作り出すことが理想です。
経営分析を通じた収益性の4つのチェック方法
経営分析では、次の視点のように収益性を多角的に確認することで、企業の現状や成長の可能性を正しく把握できます。ここでは4つの視点からチェック方法を解説します。
なお、各指標の目安は業種や成長ステージによって大きく異なるため、あくまで参考値として捉え、自社の状況や業界水準に照らし合わせて判断することが重要です。
収益性分析で利益を生み出す力を測定
収益性分析は、売上に対してどれだけ効率的に利益を確保できているかを示す基本的な指標です。単に利益額を見るのではなく、資本に対する効率を測定することで、企業の持続的な成長性を確認できます。
代表的な指標は以下の通りです。
指標 | 意味 | 評価ポイント |
---|---|---|
ROA(総資本利益率) | 企業全体の資本をどれだけ効率的に利益に変えているかを示す | 高いほど総資本の活用度が高い |
ROE(自己資本利益率) | 株主資本を活用してどれだけ利益を生み出しているかを示す | 高いほど株主にとって魅力的 |
財務分析で安全性と安定性を把握
財務分析は、経営の健全性や財務構造の安定度を確認する上で欠かせません。資本構成のバランスをチェックすることで、資金繰りのリスクや成長余地を見極められます。
代表的な指標は以下の通りです。
指標 | 意味 | 目安 |
---|---|---|
流動比率 | 短期的な返済能力を示す | 100%以上が望ましい |
当座比率 | 流動比率より厳格に短期返済能力を測定 | 70%以上が望ましい |
自己資本比率 | 財務基盤の安定性を示す | 30%以上で安定、50%以上で高評価 |
過剰な負債は資金繰りの悪化リスクにつながりますが、適度な借入は事業拡大や投資の資金源となります。リスクとリターンを見極めながら資本政策を行うことが重要です。
効率性分析で資産活用の度合いを確認
効率性分析は、限られた資源をどれだけ効率的に売上へと結びつけているかを把握する方法です。
代表的な指標は以下の通りです。
指標 | 意味 | 改善の方向性 |
---|---|---|
総資本回転率 | 資本をどれだけ効率的に売上に変えているか | 活用度が低い場合は事業ポートフォリオの見直し |
棚卸資産回転率 | 在庫をどれだけ効率的に販売につなげているか | 在庫管理や需要予測の改善が必要 |
数値が低い場合には、以下の改善策が実務的に有効です。
改善策 | 内容 |
---|---|
人材育成 | スキルアップにより業務効率を高める |
RPA導入 | 定型業務を自動化し、人材を戦略的業務にシフトする |
アウトソーシング | 専門業務を外部に委託し、自社リソースの集中度を高める |
生産性分析で人材や資本の活用度を確認
生産性分析は、企業のリソース(人材や設備)がどの程度収益に結びついているかを示す指標です。人材育成やシステム化といった施策の効果測定にも役立ちます。
代表的な指標は以下の通りです。
指標 | 意味 | 改善の方向性 |
---|---|---|
労働生産性 | 従業員1人あたりの付加価値を測定 | 教育やIT導入でスキルと効率を強化 |
資本生産性 | 投下資本がどれだけの収益を生むかを測定 | 設備投資の最適化や資本配分の改善 |
上記を定期的にチェックすることで、企業の強みと課題を明確化し、持続的な成長につなげられます。
収益向上を加速させるフレームワーク
収益向上を実現するためには、勘や経験に頼るのではなく、次のようなフレームワークを用いて体系的に課題と施策を整理することが重要です。ここでは代表的なフレームワークを2つ解説します。
ロジックツリー
ロジックツリーは、課題をツリー構造に分解し、収益向上の原因や施策を体系的に整理できるフレームワークです。原因分析や施策立案を視覚的に整理できるため、経営層と現場が共通認識を持ちやすくなります。
主な活用法は以下の通りです。
種類 | 分析の切り口 | 活用例 |
---|---|---|
Whyツリー | 「なぜ収益が伸びないのか」を深掘りする | 売上不振の原因を営業力不足や顧客流出などに分解 |
Howツリー | 「どうやって改善するか」を展開する | 営業研修強化、SNS広告運用、自動化導入などの施策整理 |
Whatツリー | 「何が構成要素か」を網羅する | 収益を構成する商品、チャネル、顧客層を整理 |
ロジックツリーを活用する際は「なぜ」と「どうやって」を混在させないなど、一貫性を持ったルールで構築することが重要です。実際に、ロジックツリーをもとに営業強化や業務効率化といった具体的行動計画に落とし込むケースも見られます。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析は、自社の事業活動を「川上から川下」まで分解し、どこで収益性を高められるかを検討する手法です。プロセスごとに「強化」「拡張」「システム化」を進めることで、効率的かつ新たな収益源の創出が可能になります。
施策の方向性 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
強化 | 既存プロセスを改善して収益を高める | 営業プロセス改善 |
拡張 | 新しい領域を開拓して収益源を増やす | ECチャネル開拓 |
システム化 | 業務を仕組み化して効率を高める | クラウドシステム導入 |
さらに、事業の「川上・川下への拡張(横展開)」「システム化による効率化(縦展開)」「特定領域の深掘り(奥行き展開)」を組み合わせることで、収益向上の具体的な方向性を決定できます。
この分析を導入することで、事業ポートフォリオ戦略や新市場開拓にもつながり、変化の激しい市場環境にも適応できるでしょう。価格競争に依存しない独自の価値提供や研究開発による新市場の創出を目指す上で、バリューチェーン分析は有効な基盤となります。
収益向上で自社を成長させよう!
収益向上は、企業が持続的に成長し続けるために重要です。
売上拡大やコスト削減、生産性向上といった基本戦略に加え、営業力強化や高収益商品の開発、リピーター育成などの具体的施策を組み合わせることで、安定した利益基盤を築けます。
さらに、ROAやROE、流動比率といった指標を用いた経営分析を行えば、課題の特定や改善の優先順位を明確化できます。ロジックツリーやバリューチェーン分析を取り入れることで、勘や経験に頼らず体系的に収益向上の道筋を描ける点も大きな強みです。
自社の現状を正しく把握し、段階的かつ計画的に収益向上を進めることで、将来の投資や人材確保、顧客満足度の向上につながり、企業の成長を加速させられるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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