- 更新日 : 2024年7月17日
グループガバナンスとは?コーポレートガバナンスとの違いや実務指針を解説
グループガバナンスとは、企業グループ全体で適正に業務を遂行し、かつ企業価値の向上を目指せる体制構築を意味します。
主に上場しているグループ企業が対象となりますが、IPO後にグループ化を目指す企業にも参考となる部分があります。具体的には、内部統制システムの構築や事業ポートフォリオマネジメントの適切な実施などが、グループガバナンスの重要なポイントとして挙げられるでしょう。
本記事では、グループガバナンスの意味や目的、成功のポイントを解説します。
目次
グループガバナンスとは
はじめに、会社法および経済産業省におけるグループガバナンスの定義やコーポレートガバナンスとの違い、適用対象について解説します。
会社法における定義
「会社法」第362条4項6号では、取締役会が取締役に委任できない事項の1つとして、「当該株式会社およびその子会社から形成される企業集団において、業務の適正を確保する体制の整備」が挙げられています。
また、同条5項では、大会社である取締役会設置会社において、この「体制の整備」に関して取締役会で決定することを義務付けています。一般的に、この体制作りこそが会社法におけるグループガバナンスの考え方だとされています。
つまり、会社法におけるグループガバナンスは、「グループ企業全体において、適正に業務が行われるような体制を整備すること」だと定義できるでしょう。
経済産業省における定義
「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」において、経済産業省は、日本企業によるグループ経営に関するガバナンスのあり方について、多角的な視点から提言しています。
ガイドラインに基づくと、経済産業省におけるグループガバナンスは、「グループ全体の企業価値向上を実現するための体制作り」だと定義できます。
業務を適正に行うだけでなく、企業価値の向上という「攻め」の考え方が含まれている点に特徴があります。
コーポレートガバナンスとの違い
コーポレートガバナンスとの違いは、仕組みの主体となる立場です。
コーポレートガバナンスは、株主視点で、経営者が株主の利益の最大化に資する経営を実施しているかを監視する仕組みです。
一方でグループガバナンスは、経営者視点でグループ全体の企業価値を最大化する仕組みです。
また、コーポレートガバナンスは単一企業を、グループガバナンスはグループ全体を対象としている点にも違いがあります。
適用対象となる組織構造
経済産業省のガイドラインでは、グループガバナンスの主な対象を以下のように想定しています。
- グループ経営を行う上場企業
- その子会社から形成される企業集団
上記の中でも、特に持続的な成長を目指して、多角化やグローバル化を進める大規模な企業グループが対象とされています。
ただし、非上場企業や今後グループ経営に取り組む企業にとっても、グループガバナンスの考え方は参考になるとしています。
グループガバナンスの重要性・目的
前述の定義やガイドラインの規定をもとにすると、グループガバナンスには以下2つの目的があります。
グループ全体の業務を適正に実施する
1つ目は、グループ全体の業務を適正に実施し、経営上のリスクを最小化することです。
グループ経営では、ルールが整備されていないことで、子会社が独自に経営判断を行ったり、グループ本社が子会社の業務支援に注力しない、といった問題が生じます。
こうした問題から、品質偽造や情報漏えい、贈賄などに発展する恐れがあります。
これらの事態を防ぐために、グループガバナンスの整備が求められます。具体的には、内部統制システムの整備などを実施します。
グループ全体の企業価値を高める
2つ目は、グループ全体の企業価値を高めることです。
リソースを最適に配分できていないなどの理由で、収益性や生産性に問題を抱えるグループ企業は少なくありません。経済産業省のガイドラインでも、日本は欧米と比べてROA(総資産利益率)が低水準であることが指摘されています。
特に近年は、国内市場の縮小や産業構造の急激な変化に伴い、国内外でのM&Aを含めた機動的なポートフォリオマネジメントの変革が重要になっています。
こうした課題を解決するためには、「攻めの姿勢」でのグループガバナンス強化が必要となります。具体的には、事業ポートフォリオマネジメントの整備などを実施します。
グループガバナンスのポイント
この章では、ガイドラインの記述を踏まえて、グループガバナンスで押さえるべき4つのポイントを解説します。
ポイント1:グループ設計およびグループ本社の役割
グループガバナンスの機能を高めるには、各事業部門の自律性や独立性を高める方向でグループ設計を検討することが効果的です。
具体的には、事業部制組織、社内カンパニー、分社化の中から、分権化の程度に合わせて各社が選択することが求められます。
また、グループガバナンス推進に向けて、本社はグループ全体のシナジー効果を最大化するために、経営戦略策定・実行や各社に共通するインフラの提供などを行う必要があります。
具体的には、経営方針や経営ビジョンの作成と周知、グループ全体のブランディング活動、M&Aや事業売却などの基準策定などを実施します。
ポイント2:事業ポートフォリオマネジメント
グループ全体の企業価値を最大化するには、シナジー効果を発揮し、持続的な収益性を確保する必要があります。そのためには、M&Aや不採算事業の撤退などを通じて、主力事業に対する経営資源の集中を戦略的に実施することが効果的です。
その実施にあたっては、グループ本社の取締役会が主体となり、M&Aや事業撤退に関する基準・プロセスの明確化を図る必要があります。
また、M&Aや事業撤退の基準を整備するに当たっては、貸借対照表やCF計算書などを整備し、客観的な評価指標として資本コストなどを設定することが重要です。
ポイント3:子会社経営陣に対する関与
グループ全体で企業価値を向上させるには、主要な子会社経営陣の指名・報酬に関して、グループ本社が適切な形で関与することが求められます。
例えば、グループ全体で人材の評価・選抜を行う仕組みを構築し、経営人材を計画的に育成する施策などが挙げられます。
また、グループとして統一的な成果指標を設定した上で、インセンティブ報酬を設計することも効果的です。
ポイント4:内部統制システム
子会社による不祥事は、グループ全体の企業価値低下を招きます。こうしたリスクを軽減するためには、グループ全体で適切にリスク管理を行う必要があり、その手段として内部統制システムの構築と運用が不可欠です。
内部統制システムの整備にあたっては、「事業部門」「管理部門」「内部監査部門」から構成される3線ディフェンスと呼ばれる仕組みの導入が効果的です。
また、ITシステムの導入や親子会社間における監査役などの連携も効果を発揮します。
まとめ
経済のグローバル化や競争激化により、グループ全体の企業価値を高めることは難しくなっています。また、グループ企業では、不祥事によって企業の評判が低下するリスクにも注意が必要です。
こうした課題を解決するには、グループガバナンスの強化が不可欠です。グループガバナンスを適切に強化するには、経済産業省のガイドラインに規定されたポイントを押さえた施策が効果的です。
本記事やガイドラインを参考に、IPOを検討している企業もグループガバナンスに取り組んでみましょう。
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