- 作成日 : 2025年12月23日
合同会社の業務執行社員とは?役割・責任範囲・選任方法を解説
合同会社の経営体制を理解するうえで欠かせないのが「業務執行社員」という存在です。しかし、代表社員との違いや、その他の社員との権限の区分、さらには選任方法、追加や解任の流れなどは、初めて合同会社を検討する方にとって分かりにくい部分でもあります。
本記事では、合同会社における業務執行社員の基本的な役割から責任範囲、任命の仕組みなどを解説します。
目次
合同会社の業務執行社員とは?どんな役割?
合同会社の業務執行社員は、出資者の中から経営を担う人を明確にするための仕組みです。合同会社では原則として社員全員が業務執行権を持ちますが、人数が増えるほど意思決定が複雑になります。このため、特定の社員だけに業務執行権を与えるよう定款で定めることができ、経営判断を効率化することができます。
経営を担う中心的な立場
業務執行社員とは、出資者の中で会社の経営を直接担う立場です。合同会社は、本来は出資者全員が経営に関与する形態であり、定めがなければ全員が業務を執行し意思決定を行います。議決権は出資額に関係なく平等で、原則として1人1票の仕組みで運営されます。定款で業務執行社員を選任すると、経営の中心となる人物が明確になり、日々の業務を効率的に進められます。
経営権を限定して運営を安定させる役割
社員が複数いる場合、全員が自由に経営判断を行うと意見の集約が難しくなります。そこで業務執行社員を定めることで、経営に携わる人数を絞り、権限の所在を明確にできます。この仕組みにより意思決定のスピードが上がり、社内外に対する経営判断も安定しやすくなります。
設置は義務ではなく会社の方針で選べる
業務執行社員の設置は法律上の義務ではなく、会社の方針によって決められます。全員が経営に関わりたい場合は、特に選任する必要はなく、その場合は自動的に全員が業務執行社員として扱われます。反対に、経営を担う人を限定したい場合は、定款で業務執行社員を明確に定めることで役割を整理できます。
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合同会社の社員の種類は?
合同会社の社員には、代表社員・業務執行社員・非業務執行社員の三つの区分があります。いずれも出資者である点は共通ですが、担う権限と責任の範囲が異なります。
【代表社員】会社を外部に代表する立場
代表社員は、会社を対外的に代表し、契約などの法的行為を行う権限を持つ社員です。株式会社における代表取締役に相当し、会社名義で対外的な意思表示を行う役割があります。定款で定めがなければ、社員全員が代表権を持つ状態となるため、特定の者を代表として選任する形がよく用いられます。
なお、代表社員になれるのは業務執行社員に限られ、経営に関与しない社員が代表権を持つことはありません。業務執行社員が1名しかいない場合は、その人物が自動的に代表社員を兼ねる扱いになります。
【業務執行社員】実務判断を担う経営の担当者
業務執行社員は、合同会社の内部で日々の業務判断を行い、会社の運営を実質的に動かしていく立場です。資金管理、事務処理、取引先対応など会社運営に必要な実務を担い、経営方針を具体的な行動として落とし込む役割を持ちます。
定款で業務執行社員を定めることで、誰が実務の中心となるかが明確になり、責任範囲や指示系統も整理されます。複数人を指定することも可能で、法人を業務執行社員にする場合は、その法人に代わって業務を担当する職務執行者を選任します。
【非業務執行社員】
非業務執行社員は出資者ではありますが、日常の業務執行には関与しません。経営判断の中心には立たず、出資者として合同会社を支える立場となります。ただし、重要事項の決定に参加したり、財務や業務の状況を調査したりする権利はあり、会社運営を監視する役割も担っています。
また、非業務執行社員は氏名や住所が登記簿に記載されない点も、代表社員や業務執行社員との違いです。なお、合同会社でいう「社員」は出資者を指すため、一般的な従業員とは異なる概念であることにも注意が必要です。
合同会社の従業員とは?
合同会社の従業員は、一般的な雇用契約に基づいて会社に勤務する労働者を指します。「社員=出資者」と定義される合同会社では、従業員と社員はまったく別の立場となる点が特徴です。
従業員は出資を伴わない労働者として働く立場
従業員は合同会社から給与を受け取り、業務指示に従って働く労働者です。株式会社と同様に、雇用契約に基づいて採用され、出資は行いません。したがって、会社の経営判断や意思決定に参加する権限は持たず、あくまで労働者として事業運営に関わります。勤務形態や待遇も一般企業と同様で、労働基準法などの各種労働法規が適用されます。
経営に関与する「社員」とは役割が異なる
合同会社でいう「社員」は出資者であり、経営に携わる立場です。これに対し従業員は、会社の所有や経営には関与しない点が本質的な違いです。出資をしていないため議決権はなく、会社の方針決定にも参加しません。従業員は業務執行社員や代表社員の指示を受けて働く位置づけとなり、会社の責任や権限を負うことはありません。
業務執行社員の責任範囲や義務は?
業務執行社員は、合同会社の中心的な経営担当者として法律上の義務を負います。任された業務を適切に遂行するため、会社法では複数の責任が定められており、日常の実務だけでなく企業全体の管理に関わる責任も含まれます。
管理監督義務
管理監督義務とは、業務執行社員が会社の管理者として業務全般を適切に監督する責任を指します。従業員の行動や会社財産の取り扱いを含め、内部統制や法令遵守を維持することが求められます。
もし従業員が不正を行ったり事故を起こしたりした場合、管理監督体制が不十分であれば、業務執行社員自身が責任を問われる可能性があります。会社運営の基盤づくりやリスク管理もこの義務に含まれ、問題発生時には速やかな対応が必要です。
競業避止義務
競業避止義務とは、会社の許可なく同業での事業活動を行ったり、会社の利益と衝突する行為に関わったりしてはならないという義務です。業務執行社員が自ら同種のビジネスを始めたり、会社に不利な取引に関わったりすれば、会社の利益が損なわれ信用問題にも発展します。
そのため、会社法では競業取引や利益相反行為が制限されており、これらを行う場合には他の出資者(社員)の事前承認が必要とされています。会社の利益を守るため、業務執行社員に課される重要な義務です。
損害賠償責任
損害賠償責任とは、業務執行社員の悪意・過失・義務懈怠によって会社に損害が生じた場合に、その損害を補填する責任を指します。経営判断の誤りだけでなく、監督不足によって損害が発生した場合も対象となります。判断基準となるのは、役員として当然求められる「善良な管理者としての注意義務」を尽くしたかどうかです。
重大な違法行為や故意の不正があった場合には、個人の財産で賠償する必要が生じることもあります。経営を担う者として、慎重かつ誠実な業務遂行が求められる理由がここにあります。
業務執行社員はどのように選任・決定する?
合同会社の業務執行社員の選任方法にはルールがあります。基本は出資者同士の合意に基づき、定款に記載することで法的効力を持つ仕組みです。
設立時の定款で定めるのが一般的
業務執行社員を決める方法として最も一般的なのは、合同会社設立時に作成する定款に明記する形です。出資者である設立メンバーが事前に話し合い、経営を担う人物や代表社員を誰にするかを決定し、それを定款に記載します。
定款に定めた内容は設立登記にも反映され、会社の公式なルールとして扱われます。設立後に変更することもできますが、その場合は定款変更と登記申請が必要となるため、時間や費用を考えると設立段階で定めておく方が効率的です。
選任できるのは合同会社の出資者である社員のみ
業務執行社員として選べるのは、合同会社に出資している「社員」のみです。外部の人物を経営者として指名することはできず、この点が株式会社と大きく異なります。株式会社では株主以外を取締役に迎えることができますが、合同会社は出資者=経営者という構造のため、経営に参加させたい人物がいる場合は、その人に出資してもらう必要があります。
出資して初めて社員となり、業務執行社員として選任できるようになります。
任期がなく継続して在任できる
合同会社の業務執行社員には法律上の任期がありません。株式会社の取締役には任期がありますが、合同会社では特に期間を定めない限り、選任後は継続してその地位にとどまることができます。任期がないことで再任手続きや登記変更の手間が省け、運営の柔軟性が高まるメリットがあります。
もちろん、任期を設けたい場合は定款に規定を置くことも可能で、会社の方針に合わせて調整できます。
法人を業務執行社員にする場合は職務執行者を選任する
合同会社では、自然人だけでなく法人を業務執行社員にすることも認められています。他の合同会社や株式会社が出資し、その法人を業務執行社員として指定することができます。ただし法人は自ら業務を行えないため、実際の業務を担当する「職務執行者」を法人内部の自然人から選任する必要があります。
選任された職務執行者の氏名や住所は他の社員に通知され、法務局の商業登記簿にも記載されます。職務執行者は法人の役員や従業員に限られず、第三者でも就任できます。複数を選任する場合は、役割が曖昧にならないよう定款で権限や担当範囲を整理しておくことが適切です。
業務執行社員を後から追加できる?
合同会社では、設立後に業務執行社員を追加することが認められています。新たに出資者が加入した場合や、相続・合併により社員が入れ替わる場合など、さまざまな場面で追加が必要になります。
設立後でも業務執行社員は追加できる
会社設立後、新しい出資者が加入する際には、その人物を業務執行社員として選任することが可能です。また、既存社員が亡くなり相続人が社員になる場合や、合併により他社の社員が持分を承継するケースでも、必要に応じて業務執行社員として追加することができます。
業務執行社員を追加することは、会社の経営者を増やすことを意味するため、原則として出資者(社員)全員の同意が必要となります。
追加時は法務局で登記変更が必要
業務執行社員を後から加える場合は、法務局で変更登記を行う必要があります。追加には社員全員の同意が前提となり、その内容を示す同意書や決定書と、新たに就任する者の就任承諾書を準備します。必要に応じて定款の写しを添付することもあります。
また、新加入者の出資によって資本金が増える場合は、資本金の変更登記も合わせて行います。書類の内容は専門的で誤記も起こりやすいため、状況によっては司法書士への依頼を検討することも有効です。
追加登記には登録免許税がかかる
登記申請時には登録免許税の納付が必要で、業務執行社員の追加など「社員の加入」を理由とする変更登記の場合、資本金1億円以下の会社では1万円、1億円を超える場合は3万円がかかります。さらに、新たな出資によって資本金が増える場合には、増加額の0.7%(ただし算出額が3万円未満のときは一律3万円)が別途必要となります。専門家に手続きを依頼する場合は報酬も発生するため、追加のタイミングや費用負担について事前に確認しておくと安心です。
業務執行社員の解任・退任はどのように行われる?
業務執行社員がその地位を離れる方法には、本人が自主的に辞任する場合と、他の社員の決定によって解任(除名)される場合があります。いずれも会社法や定款に従って手続きを進める必要があり、最終的には法務局での登記変更を経て正式に退任が確定します。
業務執行社員が自主的に退任する場合
業務執行社員本人が辞任を望むときは、まず会社へ辞任の意思を通知します。なお、事業年度終了の6か月前までの予告が必要とされるのは「社員として退社する場合」であり、業務執行社員の辞任にはこの規定は適用されません。
辞任そのものに社員全員の同意は必要ありませんが、辞任後の業務体制を整えるため、社員間で調整を行うことが実務上は重要です。辞任が成立したら、会社は法務局で退任登記を行い、辞任届や同意書など必要書類を提出します。退任登記には登録免許税として1万円が必要となります。
業務執行社員を解任(除名)する場合
本人が辞任に応じない場合でも、他の社員の決議によって解任手続を進めることができます。ただし、業務執行社員が社員である以上、強制退社となる除名には厳格な要件があり、社員の過半数による賛成に加えて裁判所への申立てが必要です。裁判所が正当な事由を認めて初めて除名が成立します。
正当事由としては、出資義務の不履行、競業避止義務違反、無断で会社業務を妨害した行為、重大な義務懈怠などが挙げられます。また、業務執行社員が長期間行方不明で連絡がつかず、経営に支障が出ているケースも除名が認められる典型例です。社内だけの判断では成立しないため、慎重な対応が求められます。
除名後の処理と登記変更
裁判で除名が認められ業務執行社員が退社することになった場合は、速やかに法務局で退社の登記変更を行います。社員が退社した事実は商業登記簿の記載事項に影響するため、手続きが遅れると会社運営に不都合が生じるおそれがあります。除名による退社登記にも登録免許税1万円が必要です。
解任・退任のどちらのケースでも、状況によって法的手続きが複雑になることがあるため、必要に応じて専門家へ相談しながら進めると安心です。
合同会社の業務執行社員を正しく理解し円滑な会社運営に活かそう
合同会社における業務執行社員は、出資者の中から選ばれ会社の経営を担う重要な役割です。株式会社の取締役に相当する存在であり、経営権限を持つ分だけ義務や責任も伴います。
業務執行社員の選任方法や追加・解任の手続きについても事前に理解しておけば、合同会社の機関設計や運営をよりスムーズに行えるでしょう。契約書となる定款へ適切な取り決めを盛り込み、出資者間で十分に話し合って決定することで、合同会社の強みを活かした円滑な経営体制を築くことができます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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