- 作成日 : 2025年12月24日
農業は儲かる?平均年収から収益の仕組み、作物選びのポイントまで徹底解説
「農業は儲かる」というイメージは、人によって様々かもしれません。自然を相手にする大変な仕事という側面もあれば、高単価なブランド野菜で成功しているイメージもあるでしょう。
本記事では、農業の平均年収(この記事では農業所得として記載)や収益性はどうなのか、平均年収や利益の仕組みから、儲かる農業を実現するためのポイント、注意点などを徹底解説します。
目次
農業は儲かる?
結論から言えば、農業は「やり方次第で儲かる」と言えます。一般的に「農業は儲からない」というイメージを持たれがちな背景には、天候や市場価格に左右される不安定さ、農機具などの高額な初期投資、そして重労働といった側面があるでしょう。確かに、従来通りの方法で、ただ作物を生産して市場に出荷するだけでは、大きな利益を上げるのは難しいかもしれません。
しかし、農業は自営業が多く、経営手腕がそのまま所得に直結します。農業所得は、作付けする品目や栽培方法はもちろん、どの地域で(気候、ブランド産地など)、どのような規模で事業を展開し、どの販路を選び、どの方針・戦略で経営するかによっても大きく変わってきます。
近年では、生産・加工・販売までを一貫して行う「6次産業化」で利益率を高めたり、IT技術(農業DX)を活用して生産効率を大きく向上させたりするなど、新しい発想で高い収益を上げている農家も増えています。経営戦略や規模によって農業所得の幅は広く、厳しい経営状況の農家もいれば、農業所得が1,000万円を超えるようなケースも見られます。
農業の平均年収はいくら?
農林水産省「令和5年 農業経営統計調査」のデータを見ると、農業から得られる利益にあたる農業所得は、経営スタイルによって大きく変わることがわかります。
同資料によると、全農業経営体(個人農家・法人を含む)の1経営体当たりの平均農業所得は100万円台です。この数字だけを見ると「農業は儲からない」という印象を持つ人も多いでしょう。 ただし、この平均値には、小規模経営や兼業農家など、農業を副業的に行う層もすべて含まれています。
そこで、農業が主な収入源であり、自営農業に年間60日以上従事し、65歳未満の構成員がいる「主業経営体(実質的な専業農家に近い層)」に絞ると、1経営体当たりの平均農業所得は400万円台に上がります。
つまり、全体平均と、本格的に農業経営に取り組む層では、農業所得の水準に3倍以上もの差があることになります。この統計からは「農業=低収入」という単純な図式では語れず、専業としてどれだけ農業経営に力を入れるかによって、得られる所得が大きく変わることがわかります。
ここでいう数字は、あくまで「農業からの利益部分」であり、世帯の給与収入や年金などを含めた総収入(いわゆる年収)とは異なる点に注意が必要です。
出典:農業経営統計調査(営農類型別経営統計) 令和5年 農業経営体の経営収支
儲かる農業の収益の仕組みとは?
農業で儲かるとは、当然ながら手元に残る利益(ここでは農業からの所得)を多く出すことです。その基本的な計算方法は、他のビジネスと変わりません。
儲かる農業を実現するためには、この「売上」を最大化し、同時に「経費」を最小限に抑える経営努力が不可欠です。数字で収支を把握し、「どの作目・どの販路・どのやり方が最も利益に貢献しているのか」などを常に見える化しておくことが重要です。
農業で儲かるためのポイント
儲かる農業を実現するには、単に作物を育てるだけでなく、付加価値(高く売る仕組み)と生産効率(コストを下げる仕組み)を掛け合わせることにあります。
具体的にどのような戦略でそれを実現するのか、重要なポイントを紹介します。
付加価値を高める(ブランディング)
ただ作って出荷するだけでは、市場価格に左右され、大きな利益は得にくいです。そこで重要になるのが「ブランディング」です。
高級品である必要はありません。「この農園の野菜だから買う」「〇〇さんが作ったトマトは美味しい」と消費者に思い出してもらい、選んでもらうことがブランドの本質です。例えば、以下のような取り組みが付加価値となります。
- 栽培方法へのこだわり(有機栽培、減農薬など)を発信する
- 珍しい品種を育てる
- 農園のストーリーや想いをSNSやウェブサイトで伝える
- 直販(ECサイト、マルシェ)で顧客と直接つながる
6次産業化(加工・観光)への展開
生産(1次)だけでなく、加工(2次)・販売(3次)までを自ら手がけて付加価値を高める「6次産業化」は、利益率を大きく高める手法です。
規格外の野菜をジュースやドレッシング、ピクルスなどに加工して販売すれば、廃棄ロスを減らしつつ単価を上げることができます。また、収穫体験や農家レストランなどの「観光農園」としてサービスを提供することで、作物そのものの販売だけでは得られない体験価値を生み出すことも可能です。
安定した販売先の確保
JAや市場への出荷は、規格さえ満たせば全量を買い取ってもらえる安心感がありますが、価格は市場動向に左右されます。
収益を安定させるためには、価格変動リスクを抑えられる販売先を確保することも重要です。
- 契約栽培:飲食店やスーパー、加工業者などとあらかじめ契約を結び、決まった価格・量で納品する。
- 直販:利益率が高い。ECサイトや直売所、マルシェなどで個人消費者に直接販売する。
スマート農業の活用(生産性の向上)
利益を上げるためには、売上アップだけでなく、最大のコストである「人件費(労力)」を削減することも重要です。
近年では、ドローンによる農薬散布、自動操舵トラクター、ハウス環境の自動制御システム(スマホでの温度管理など)といった「スマート農業」技術が普及しています。初期投資はかかりますが、作業時間を短縮し、少人数で大規模な面積を管理できるようになるため、長期的な利益率は向上します。
規模の拡大(スケールメリット)
特定の地域で主流となっている作物(例:米、タマネギ、ジャガイモなど)の場合、農地を集約して大規模化することで、スケールメリットを追求する方法があります。
大型の農業機械を導入して生産効率を上げ、1人あたりの生産量を増やすことで、生産コストを下げ、全体の利益を確保します。これは、農林水産省の統計で示される平均的な農業所得(主業経営体で約400万円)をさらに上回る水準を目指すための、有力な経営戦略の一つといえます。
儲かる作物の選定
経営戦略として「どの作物を選ぶか」は、収益性を大きく左右する重要な要素です。作物によって、収益の上げ方(ビジネスモデル)が異なります。
一般的に儲かるといわれる作物には「高所得型」「高単価型」「高回転型」「安定・相場型」などの分類があり、それぞれに特徴があります。詳細は次章で詳しく解説します。
農業で儲かるといわれる作物(野菜)とは?
農業で最も高い所得を狙える代表格は施設野菜です。これらは安定して高収益を上げやすい筆頭ですが、もちろんこれ以外にも、戦略次第で大きく稼げる作物は存在します。
一般的に儲かるといわれる作物は、その収益構造(稼ぎ方の仕組み)によって大きく以下の4つの型に分類されます。
【高所得型】施設果菜(ミニトマト、いちご、ピーマン等)
農林水産省の統計では、施設野菜の10a(1反:約300坪)当たり農業所得は、露地野菜の約6倍程度とされています。その一方で、10a当たりの労働時間も露地野菜の約6倍と長く、労働集約度が非常に高いことも指摘されています。初期投資は重くなりますが、温度管理などによって周年出荷が可能となり、高い粗収益を狙えるのが最大の魅力です。
- ミニトマト/トマト:施設野菜の主力であり、近年の相場見通しでも平年超えの価格で推移する局面が多いと予測されています。
- いちご:高単価に加え、観光農園やスイーツ販売などの6次産業化と相性が良く、大きく収益を伸ばせる可能性があります。
- ピーマン:省力化技術の普及が進んでおり、面積当たりの収益を確保しやすい品目です。
【高単価型】薬味・香辛野菜(にんにく、しょうが等)
圧倒的な「国産プレミアム」が確立されている分野です。市場には安価な外国産も多く出回っていますが、香りや安全性、品質を重視する消費者や高級飲食店からの需要は底堅く、国産品のkg単価は輸入品の数倍で取引されています。
例えば、にんにくでは国産と輸入品の価格差が3〜6倍程度とされており、しょうがも国産価格が輸入品の約5倍前後となるなど、長期的に見ても大きな価格差が続いています。
また、葉物野菜などに比べて収穫後の保存が効きやすいため、相場の高い時期を狙って出荷調整ができる(売り急ぐ必要がない)点も大きなメリットです。加工・業務用としても代替されにくく、形が悪くても加工品として価値が残るため、トータルでの収益性が高くなりやすい品目です。
【高回転型】葉物野菜(ほうれんそう、こまつな等)
資金繰り(キャッシュフロー)を良くしたい場合に適した戦略です。作物の成長が非常に早く、地域や作り型にもよりますが、夏場であれば種まきからおおよそ30日前後で収穫できるケースが多く、同じ農地で年に4〜5回以上栽培する多回転が可能です。
米や果樹のように「収入は年に1回」ではなく、毎月のように出荷・入金があるため、経営が安定しやすいのが最大のメリットです。また、万が一台風などで被害を受けても、すぐに蒔き直しがきくため、リカバリー(復旧)が早く、リスク分散にも優れた品目といえます。天候不順で市場全体の入荷量が減った際には、単価が急騰するチャンスも頻繁に訪れます。
【安定・相場型】根菜・土物(たまねぎ、にんじん、長ねぎ等)
家庭用から外食・加工用まで比較的底堅い需要があるため、他の品目と比べて契約栽培などで販路を固定しやすく、安定した経営基盤を作りやすい分野です。
葉物野菜とは異なり、収穫機などの大型機械を導入して省力化しやすいため、少ない人数で広大な面積を栽培する「規模拡大(スケールメリット)」による利益最大化が狙えます。また、貯蔵性が高いため、相場が安い時は倉庫に保管し、高くなったタイミングで出荷するといった「売り時の調整」ができる点も、経営上の大きな武器となります。
儲かるために農業を行う場合の注意点
農業で確実に利益を出し続けるためには、単なる生産者ではなく、シビアな数字管理を行う経営者になることが大切です。
どんなに高く売れる作物を作っても、コスト管理やリスクヘッジができていなければ、手元にお金は残りません。ここでは、攻めの戦略とセットで必ず押さえておくべき注意点を「経営」「生産」「販売」の3つの側面に分けて解説します。
1. 経営面での注意点
詳細な資金計画とキャッシュフロー管理
農業は初期投資(農地、機械、施設など)が重く、収入(収穫期)と支出(種苗代、肥料代)のタイミングがずれます。「いつお金が入り、いつ出ていくか」というキャッシュフロー(お金の流れ)の可視化が不可欠です。国や自治体の補助金・助成金を活用し、無理のない返済計画を立てる必要があります。
以下の記事では、農業をはじめるために必要な金額や調達方法などを詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
収益性に基づいた作付け計画
単に収穫量が多い作物ではなく、「(単価 × 販売可能量)- コスト = 利益」で物事を判断する癖をつけましょう。感覚ではなくデータに基づいて、どの作物が最も利益に貢献するかを見極める必要があります。
コスト管理とリスク分散を徹底
利益を出すには売上を上げるか経費を下げるしかありません。特に固定費(機械のローン、人件費)を適切に管理することが重要です。また、単一の作物や単一の販路(例:JA出荷のみ)に依存すると、価格暴落や不作の際に経営が一気に立ち行かなくなります。複数の作物や販売ルートを持ち、リスクを分散させることが鉄則です。
2. 生産面での注意点
作りたい作物より売れる作物の選定
市場の需要トレンドを理解し、売れる作物を生産する視点が重要です。「自分が作りたいから」という理由だけで作物を選ぶと、販路の確保に苦労する可能性があります。
品質よりも安定供給を優先
もちろん品質は重要ですが、ビジネス(BtoB取引)においては、それ以上に「決まった量を、決まった時期に、継続的に出荷できること」が信用の源泉となります。飲食店や小売店は、安定供給できる農家を最も高く評価します。
データに基づいた栽培管理
儲かる農業は、経験や勘だけに頼りません。定期的な土壌分析を行い、データに基づいて施肥設計を行うことで、肥料代などのコストを最適化しつつ、収量と品質を安定させることができます。
3. 販売・流通面での注意点
価格決定権を持つ販路の開拓
JAや市場への出荷は、販売の手間がかからない代わりに、価格は相場に左右されます(価格決定権がない)。利益率を高めるためには、ECサイトでの直販、飲食店との直接契約、マルシェへの出店など、自分で価格設定できる販路の割合を増やす努力が不可欠です。
販路の複線化
経営のリスク分散として、JA、市場、直販、契約栽培など複数の販路を持つことが重要です。そうすれば、ある販路の価格が低迷しても、他の販路でカバーできる体制を築けます。
ロス(規格外品)の収益化
形が悪いなどの理由で市場に出せない「規格外野菜」も、大切な生産物です。これをジュースや乾燥野菜に加工したり、訳あり品として直販したりすることで、廃棄を減らし、新たな収益源とすることができます。
儲かる農業を実現するために経営者視点を持とう
農業は単なる栽培作業ではなく、緻密な戦略が求められるビジネスです。ここで紹介した平均的な農業所得のデータは、あくまで統計上の目安にすぎません。現実には、同じ作物・同じ面積でも、作付けや販売の戦略によって所得水準には大きな差が生まれます。
高い所得を目指すには、確かな栽培技術に加え「どの市場で・どの価格帯で勝負するか」というマーケティング視点と、徹底したコスト管理を伴う経営者としての視点が不可欠です。明確な戦略を持って「経営」に取り組むことこそが、成功への最短ルートとなるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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