• 作成日 : 2025年12月24日

開業医は儲からない?年収の仕組みや成功するためのポイントを解説

開業医は額面年収こそ高いものの、借入金返済や税負担、経営者としての重責により手取りが少ないのが「儲からない」と言われる理由です。本記事では、開業医の経営失敗のリスク(初期投資、集患、コスト増)を分析し、成功するためのポイント(立地選定、差別化、自由診療、承継開業など)を詳しく紹介します。

開業医は儲からない?

開業医の額面年収は勤務医の約1.8倍ですが、そこから多額の借入金返済が必要なため、手取り額で比較すると「儲からない」と感じるケースも少なくありません。

厚生労働省の「第24回 医療経済実態調査(令和5年実施)」による平均年収(所得)の比較は以下の通りです。

区分平均年収(所得)
開業医(個人診療所の院長)約2,631万円
勤務医(医療法人・一般病院)約1,461万円

出典:第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 - 令和5年 実施|厚生労働省

開業医の年収の仕組みと科目別実態

額面上の年収と手取りが乖離する最大の要因は、そこから借入金返済などの「事業継続に必要な資金」を個人の所得から支払う必要があるためです。ここではその収支のカラクリと、診療科目ごとのビジネスモデルの違いについて解説します。

開業医の年収は手取りではない

開業医(院長)の年収は、一般的にイメージされる手取り額とは異なります。これは、クリニック全体の収益から人件費や家賃、医薬品などの費用を差し引いた事業の利益が院長の所得となるからです。(収益から費用を差し引くため、『損益差額』と定義する)

一方、勤務医の給与は、税金や社会保険料が引かれれば、残りは生活費や貯蓄として自由に使える手取り(可処分所得)に近くなります。

開業医は、この損益差額の中から、勤務医が負担する必要のない、以下の支出を個人として支払わなければなりません。

  1. 借入金の返済(元本):開業時に数千万~1億円以上借りた初期投資(設備費や内装費)の元本返済。
  2. 将来の設備投資のための積立:数年後に必要となる高額な医療機器の買い替え費用。
  3. 自身の退職金の準備:勤務医と異なり退職金制度がないため、自分で老後の資金を準備する必要がある。

したがって額面が高額であっても、そこから多額の返済や積立を引いた金額が、院長が生活費として使える実質的な手取りとなります。

経営が軌道に乗るまでの間や、高額な返済が残っている間は、額面は勤務医時代より多くても、自由に使えるお金は変わらない、むしろ減ってしまうケースも珍しくありません。

診療科目別に見る収益性の傾向

開業医と一口に言っても、診療科目によって収益の上げ方(ビジネスモデル)は大きく異なります。科目別の一般的な傾向をみてみましょう。

  • 内科・小児科:地域の「かかりつけ医」としての立ち位置が重要です。高血圧などの慢性疾患患者や、予防接種・健診(小児科)といった固定患者をどれだけ確保できるかが経営安定の鍵となります。特に小児科は立地(新興住宅地など)の影響を強く受けます。
  • 皮膚科・耳鼻咽喉科:比較的「高回転型」のモデルが可能です。診察時間が短く、多くの患者を診察しやすい傾向があります。皮膚科は美容診療(自由診療)を併設することで、保険診療の枠を超えた収益も狙えます。
  • 眼科・整形外科:高額な検査機器、手術設備(眼科)、レントゲンやリハビリ室(整形外科)など、初期投資や固定費が大きくなる傾向があります。その分、手術(白内障など)やリハビリといった高単価・定期的な通院が収益の柱となります。
  • 精神科・心療内科:高額な設備投資は不要なため初期投資は抑えやすいのが特徴です。一方で、診察・カウンセリングに時間がかかるため、患者の回転率は低くなります。予約枠を安定的に埋め、継続的な通院を促すことが重要です。

開業医が儲からないといわれる理由とは?

額面年収は高いにもかかわらず、儲からないと感じる背景には、先ほど触れた借入金を含め、開業医特有のリスクと負担が存在します。それぞれ理由をみていきましょう。

1. 巨額の初期投資と借入金返済

開業には数千万円から1億円以上という莫大な初期投資が必要であり、その多くは借入金で賄われます。そのため、開業後は長期間にわたり元本の返済負担が重くのしかかり、手元の現金を圧迫し続けます。

  • 開業資金の目安:診療科目によりますが、数千万円~1億円以上(テナント料、内装工事費、高額な医療機器の導入費用など)。
  • 運転資金:開業直後は患者が少ないため、数ヶ月分の人件費、家賃、医薬品費などの運転資金も別途必要です。

これらの多くを借入金で賄うため、開業後は長期にわたる返済という重い負担を背負うことになります。

2. 医師と経営者の二足のわらじ

開業医は医師としての診療業務に加え、資金繰りや労務管理といった「経営者」としての業務もこなさなければなりません。終わりのない激務と全責任を負うプレッシャーから、収入が増えても割に合わないと感じる医師は少なくありません。

  • 資金繰り、経理
  • スタッフの採用、教育、労務管理
  • 集患(マーケティング、広報活動)
  • 行政手続き、レセプト業務の管理

これらの経営業務に時間と労力を割かれます。さらに、診療ミスやスタッフ対応によるトラブルの賠償責任も、最終的にはすべて院長(経営者)が負うことになります。

日中の診療に加え、夜間や休日の対応、経営業務のプレッシャーも重なり「収入は増えたが、激務やリスク、責任の重さを考えると見合っていない」と感じる院長が儲からない(割に合わない)と発信するケースも少なくありません。

3. 集患の難しさと競争激化

開業すれば自動的に患者が来る時代は終わり、適切な立地選定やマーケティングなしでは経営が立ち行かなくなっています。特に都市部ではクリニックが飽和状態にあり、患者の奪い合いによる経営難に陥るリスクが高まっています。

  • 立地選定のミス:人口動態や競合クリニックの調査を怠ると、ターゲット層がいない場所で開業してしまう。
  • ニーズの不一致:地域の患者が求める医療(例:高齢者医療、小児科)と、提供する診療内容がミスマッチ。
  • 競争の激化:都市部ではクリニックが飽和状態にあり、患者の奪い合いになっています。
  • 集患対策の不足:ホームページやWeb広告など、現代の集患対策を講じなければ認知されません。

4. スタッフマネジメントの失敗

クリニック経営において「人」の問題は最大の悩みであり、スタッフマネジメントの失敗は経営悪化に直結します。採用ミスマッチや高い離職率は、採用教育コストを増大させるだけでなく、患者サービスの低下をも招きます。

  • 採用のミスマッチ:院長の理念に共感できないスタッフを採用してしまう。
  • 連携不足:スタッフとのコミュニケーション不足が、業務効率の低下や患者対応の悪化を招く。
  • 高い離職率:労働環境や人間関係の問題でスタッフが定着せず、採用と教育のコストがかかり続ける。

5. コスト増大と税負担(儲けが出にくい構造)

昨今の物価高騰で経費が膨らむ一方で、収入源である診療報酬は公定価格のため簡単には上げられず、利益が出にくい構造になっています。

また、利益が出ても最高45%の累進課税により半分近くが税金等で消えてしまうため、手取りは伸び悩みます。

  • 材料費・物価の高騰:感染対策のガウンや医療材料費、光熱費などが高騰しても、保険診療の「診療報酬」は国が定めた公定価格です。仕入れ値が上がっても、売値(診療報酬)を自由に上げられないため、利益率が圧迫されています。
  • 高額所得ゆえの税負担(累進課税):クリニックの利益が上がり、院長の所得が増えれば増えるほど、所得税の「累進課税」により税率が上がります(最高45%)。高額な所得税・住民税・事業税、さらに社会保険料の負担が重くのしかかるため、「売上は大きいのに、手取りが思ったほど増えない」という状況に陥りがちです。

開業医で儲かる(成功する)ためのポイント

儲からないリスクを回避し、開業医として成功するためには明確な経営戦略が不可欠です。ここでは、具体的に押さえるべき8つのポイントを解説します。

1. 明確なビジョンと徹底した事業計画

成功の土台となるのは「誰にどんな医療を提供するか」という明確なビジョンと、裏付けのある緻密な事業計画です。理念をスタッフと共有し、現実的な収支・返済計画を策定することで、経営の迷走を防ぎます。

  • 診療コンセプトの明確化:誰に、どのような医療を提供するのか。
  • 収支計画:過剰な設備投資を避け、現実的な売上予測と返済計画を立てる。
  • 資金調達:初期投資だけでなく、当面の運転資金を含めて余裕を持った資金計画を立てる。

2. 徹底したマーケティングと立地選定

クリニック経営の成否は場所で決まると言っても過言ではなく、事前の徹底的な診療圏調査が欠かせません。地域の人口動態や競合を分析し、ターゲット層に確実に届く立地と集患戦略を選定する必要があります。

  • 診療圏調査:地域の人口、年齢構成、世帯年収、競合クリニックの状況を徹底的に分析します。
  • ニーズの把握:その地域で「求められている医療」は何かを見極めます。
  • 適切な集患対策:ターゲット層に合わせた広報戦略(ホームページ、Web広告、SNS、地域広報誌など)を実行します。

3. 経営者としてのスキル習得

医師としての技術と経営者としての手腕は別物であり、資金管理や労務などの経営知識の習得が不可欠です。
すべてを一人で抱え込まず、税理士などの専門家をうまく活用して、経営の安定化を図りましょう。

  • 経営知識の学習:資金管理、マーケティング、労務管理など、経営の基本を学ぶ必要があります。
  • 専門家の活用:税理士やコンサルタントなど、信頼できるパートナーを見つけ、専門外の業務はアウトソースすることも重要です。

4. スタッフとの良好な関係構築

クリニックの評判は医師だけでなくスタッフの対応に左右されるため、長く働ける良好な労働環境づくりが重要です。理念を共有してチームワークを高めることが、結果として患者満足度と経営効率を向上させます。

  • 理念の共有:目指す医療の姿を共有し、同じ方向を向いて働けるチームを作ります。
  • 良好な労働環境:適切な給与体系、明確な業務マニュアル、風通しの良いコミュニケーションを心がけ、スタッフの定着率向上を図ります。

5. 患者満足度の追求

目先の利益ではなく「患者満足度」を最優先することが、結果的にリピーターや口コミを増やし経営を安定させます。丁寧な説明や待ち時間対策など、患者視点でのサービス向上を徹底しましょう。

  • 患者第一の姿勢:患者の話に耳を傾け、丁寧な説明と質の高い医療を提供することで信頼関係を築きます。
  • 再診率の向上:患者満足度が高まれば、自然と再診率が上がり、口コミで新規患者も増え、結果として経営は安定します。

6. 診療内容による差別化(専門性・複数科)

競合ひしめく地域で選ばれるには「地域のニーズ」と「自院の強み」を掛け合わせた診療内容の差別化が不可欠です。専門性の高い検査や複数科受診の利便性など、患者にとって明確なメリットを打ち出す必要があります。

  • 専門性の追求:「内科」と標榜するだけでなく、「消化器内科+内視鏡検査」「呼吸器内科+CT検査」など、専門性を明確にして質の高い医療を提供することで、遠方からの患者獲得や他院からの紹介につなげることができます。
  • 複数科による利便性:「内科+小児科」「内科+皮膚科」など、家族でかかれる利便性や、関連する疾患をワンストップで診察できる体制を整えることも、集患の強力なフックとなります。

ただし、やみくもに診療科目を増やすのではなく、あくまで地域のニーズ(例:小児が多い地域、高齢者が多い地域など)を分析した上で、戦略的に診療内容を決定することが重要です。

7. 自由診療の導入による収益源の多様化

公定価格である保険診療に加え、自由診療を導入することで収益の柱を増やし、利益率の限界を突破できます。美容皮膚科や審美歯科など、患者の幅広いニーズに応えることで単価アップと経営の安定を図れます。

  • 皮膚科 + 美容皮膚科(シミ取り、脱毛など)
  • 歯科 + 審美歯科(ホワイトニング、インプラント)
  • 内科 + 点滴療法(ビタミン点滴など)

診療単価を高く設定でき、保険診療では応えきれない患者の幅広いニーズに対応できるため、収益性が大幅に向上する可能性があります。

8. 承継開業(M&A)による早期安定化

新規開業のリスクを抑えるには、既存の患者や設備を引き継げる「承継開業(M&A)」が有効な選択肢です。集患や採用のコストを大幅に削減でき、初年度から黒字化を目指せる可能性が高まります。

  • 既存患者の引き継ぎ:開業当初から一定の患者数を確保できるため、集患の苦労が少なく、早期に経営が安定します。
  • スタッフ・設備の引き継ぎ:採用・教育コストや初期投資を大幅に削減できます。

注意点として、前院長の経営状態や地域の評判を詳細に調査(デューデリジェンス)する必要がありますが、優良なクリニックを引き継げれば、新規開業のリスクを大きく軽減できます。

儲からない開業医を回避するために、経営者としての視点を持とう

開業医は勤務医よりも高い額面年収を得られる可能性がありますが、その裏には借入金返済や税負担、そして集患やスタッフ管理といった経営者としての重い責任が存在します。「儲からない」という声の多くは、この労力とリスクに見合わない手取り額への不満からくるものです。

しかし、医師としてのスキルに加えて、綿密な事業計画や診療内容の差別化、あるいは承継開業の活用といった経営戦略をしっかりと持てば、大きなリターンを得られるのも事実です。「医師」の感覚のまま漫然と開業するのではなく、リスクを正しく恐れ、経営者としての視点を持って準備を進めることが成功への近道です。理想の医療と安定した収益の両立を目指して、確かな一歩を踏み出していきましょう。

実際に医院・クリニックを新規開業する際には、以下の記事もぜひ参考にしてください。


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