- 更新日 : 2025年9月22日
勤怠管理の業務フローとは?システム導入で効率化する手順やスケジュールも解説!
企業の労務管理において、従業員の勤怠管理は正確な給与計算や法令遵守の観点から欠かせない業務です。しかし、「毎月の集計作業が煩雑で時間がかかる」「手作業によるミスが減らない」「多様な働き方に対応しきれない」といった悩みを抱えている担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、勤怠管理の基本的な業務フローから、非効率な状態に陥る原因、そして勤怠管理システムを活用した効率化の具体的な手順までを詳しく解説します。
目次
そもそも勤怠管理とは
勤怠管理とは、企業が従業員の出退勤時刻、労働時間、休憩、休暇などを正確に記録し、管理することです。主な目的は、労働基準法などの法令を守り、従業員の健康を確保しながら、記録したデータを給与計算に正しく反映させることにあります。
適切な勤怠管理は、長時間労働の抑制やコンプライアンス体制の強化にもつながり、企業の信頼性を高める上で重要な役割を担います。万が一、管理が不適切であった場合、未払い残業代の請求や労働基準監督署による是正勧告といったリスクに直面する可能性もあります。
勤怠管理の対象となる主な項目
従業員の労働状況を正確に把握するため、勤怠管理では複数の項目を記録する必要があります。具体的には、以下の項目が含まれます。
- 始業・終業時刻
- 出勤日
- 休憩時間
- 時間外労働(残業)時間
- 深夜労働時間
- 休日労働時間
- 休暇・欠勤情報(年次有給休暇、欠勤、遅刻、早退など)
これらの項目は、従業員の健康状態を把握し、働きすぎを防ぐための重要な指標となります。多様化する働き方に対応するため、テレワークやフレックスタイム制における勤怠管理も同様に大切です。
勤怠管理と法令遵守の関係
企業は労働基準法で定められた労働時間の上限(原則1日8時間、週40時間)や、休憩、休日のルールを守る義務があります。また、2019年4月の改正労働安全衛生法により、高度プロフェッショナル制度の対象者を除くすべての労働者について、企業はタイムカード・PCログなど客観的またはその他適切な方法で労働時間を把握する義務が課されました。
勤怠管理を怠り、労働時間記録の未整備や36協定違反など労働基準法各条に違反すると、労基法120条等により30万円以下の罰金(違反内容によっては6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)が科される可能性があります。罰則を避けるためには、勤怠システムの定期点検と法改正情報のアップデートが欠かせません。
勤怠管理の基本的な業務フロー
勤怠管理における業務フローを正確に理解し、整備することが、効率的な勤怠管理の第一歩です。ここでは、一般的な勤怠管理の基本的な流れを5つのステップに分けて解説します。
1. 出退勤時刻の記録(打刻)
従業員は、始業時と終業時にタイムカード、ICカード、PC、スマートフォンアプリなどを用いて出退勤時刻を記録(打刻)します。これが勤怠データの元になります。直行直帰やテレワークなど、オフィス外で勤務を開始・終了する場合でも、正確な時刻を記録できる仕組みが必要です。打刻漏れや不正打刻を防ぐためのルール作りや、打刻しやすい環境を整えることも、このステップでは大切になります。
2. 労働時間の自動集計
従業員によって記録された出退勤データは、月末などの締め日に合わせて集計されます。この段階で、所定労働時間、残業時間、深夜労働時間などが自動で計算されるのが理想です。エクセルなどで手作業集計を行う場合、計算ミスや入力漏れが発生しやすく、多くの時間を要します。勤怠管理システムを導入していれば、就業規則の設定に合わせてこれらの時間が自動で集計され、担当者の負担を大幅に軽減できます。
3. 休暇・残業・修正依頼の申請と承認
従業員が年次有給休暇を取得したり、残業を行ったりする際には、事前の申請と上長による承認が必要です。また、打刻漏れや打刻間違いがあった場合にも、修正依頼の申請・承認フローが求められます。紙の申請書や口頭でのやり取りは、申請の形骸化や承認の遅延につながる可能性があります。ワークフロー機能を持つシステムやアプリを活用することで、申請から承認までを迅速かつ円滑に進めることが可能です。
4. 締め後の勤怠チェックと修正
締め日後、担当者は集計された全従業員の勤怠データを確認し、最終的なチェックを行います。この勤怠チェックの段階で、打刻漏れや申請内容との相違がないか、異常な残業時間が発生していないかなどを精査します。問題が見つかった場合は、本人や上長に確認を取り、データを修正します。この確認・修正作業を丁寧に行うことで、給与計算の正確性を担保します。
5. 給与計算システムへのデータ連携
最終的に確定した勤怠データを、給与計算システムに取り込みます。勤怠管理システムと給与計算システムが連携している場合、CSVファイルでの出力やAPI連携によって、データをスムーズに受け渡すことが可能です。手入力による転記作業をなくすことで、ミスを防ぎ、給与計算業務全体の効率化を実現します。この連携が、勤怠管理フローの最終的なゴールの一つとなります。
勤怠管理の業務フローにおける課題
多くの企業で、勤怠管理が非効率な状態に陥っています。ここでは、勤怠管理の業務フローにおいて発生しがちな代表的な課題を挙げ、その根本的な原因を探ります。
手作業による入力ミスや計算間違い
タイムカードやエクセルを使った勤怠管理では、手作業による業務が中心となります。タイムカードからエクセルへの転記ミス、関数や数式の設定間違い、残業時間や深夜労働時間の複雑な計算ミスなど、人的な誤りが起こる可能性が常に付きまといます。これらのミスは、給与の支払い間違いに直結し、従業員との信頼関係を損なう原因ともなります。担当者の大きな負担となるだけでなく、企業にとってのリスク要因です。
申請・承認のタイムラグ
紙の申請書を回覧したり、口頭で残業申請を行ったりする運用では、上長の不在時に承認が滞る、申請自体を忘れてしまうといった事態が発生しがちです。その結果、月末の締め作業の段階で、実態と記録の間に大きな乖離が生まれてしまいます。このような状況は、勤怠チェックの負担を増大させるだけでなく、労働時間管理の正確性を損ない、36協定の遵守状況を不透明にする原因にもなります。
リアルタイムな労働状況の把握が困難
タイムカードやエクセルによる管理では、リアルタイム入力や関数設定を行わない限り、締め日にならないと各従業員の総労働時間や残業時間の実態を把握できません。そのため、月の途中で特定の従業員の残業時間が上限を超えそうになっていても、リアルタイムで気づいて注意喚起することが困難です。早期に状況を把握できないことは、長時間労働の是正や従業員の健康管理の機会を失うことにつながります。
勤怠管理の業務フローを効率化するにはシステム導入がおすすめ
手作業や旧来の方法が引き起こす課題は、勤怠管理システムの導入によって多くを解決できます。ここでは、システムがもたらす具体的な変化について解説します。
正確な打刻と自動集計でミスを削減
勤怠管理システムでは、スマートフォンアプリ、ICカード、生体認証など多様な方法で正確な打刻が可能です。打刻されたデータはシステムに直接記録され、就業規則や労働契約の設定に応じて労働時間や残業時間がリアルタイムで自動集計されます。これにより、手作業による転記ミスや計算ミスは大幅に削減できます。法改正に伴う割増賃率の変更などにも、システムのアップデートで迅速に対応できるため、常に正確な勤怠管理を維持できます。
アプリを活用した申請・承認
多くの勤怠管理システムは、スマートフォンやPCから利用できる申請・承認機能を備えています。従業員は場所を選ばずに休暇や残業の申請、打刻修正の依頼を行えます。上長も自身のスマートフォンアプリなどで通知を受け取り、その場ですぐに承認作業が可能です。これにより、紙の回覧や口頭でのやり取りで発生していたタイムラグがなくなり、承認のワークフローが大幅にスピードアップします。承認状況も可視化されるため、申請漏れや承認忘れを防ぐことにもつながります。
リアルタイムな勤怠チェックと分析
システムを導入することで、管理者や上長はいつでも従業員の最新の勤怠状況をダッシュボードなどで確認できます。残業時間が一定時間を超えた従業員に自動でアラートを出す設定も可能です。このようなリアルタイムでの勤怠チェックは、長時間労働の早期発見と是正措置に役立ちます。また、蓄積された勤怠データを分析し、部署ごとや個人ごとの労働時間の傾向を把握することで、より効果的な人員配置や業務改善を検討する材料としても活用できます。
勤怠管理システム導入の具体的な導入スケジュール
勤怠管理システムの導入を成功させるには、計画的な導入スケジュールを立てることが大切です。ここでは、システム導入を検討し始めてから、本格的に運用を開始するまでの標準的なスケジュールを4つのステップに分けて紹介します。
1. 現状の課題整理と目的設定
はじめに、現在の勤怠管理における課題を洗い出します。「集計作業に時間がかかりすぎている」「法改正への対応が不安」「多様な働き方に対応したい」など、具体的な問題点をリストアップします。その上で、システム導入によって「何を実現したいのか」という目的を明確に設定します。この目的が、後のシステム選定における重要な判断基準となります。
2. システム選定とトライアル
設定した目的を達成できる勤怠管理システムを選定します。必要な機能、サポート体制、料金体系などを比較検討し、複数の候補を絞り込みます。多くのシステムでは無料トライアル期間が設けられているため、実際に操作して自社の業務フローに合うかどうかを確認することが大切です。この段階で、現場の担当者にも試してもらい、使用感についての意見を聞くとよいでしょう。
3. 社内ルール整備と従業員への周知
導入するシステムが決定したら、その運用に合わせた社内ルールを整備します。打刻方法、申請・承認のフロー、イレギュラー発生時の対応などを具体的に定めます。ルールが固まったら、従業員全員に対して説明会などを実施し、新しい勤怠管理フローについて十分に知らせます。操作マニュアルの配布や、質問対応の窓口を設けることで、従業員の不安を解消し、円滑な移行をサポートします。
4. 本格導入と効果測定
全従業員への周知が完了したら、本格的な運用を開始します。導入初期は、予期せぬトラブルや質問が多く寄せられることが想定されるため、サポート体制を厚くしておくと安心です。導入から数ヶ月が経過したタイミングで、最初に設定した目的が達成できているか、効果測定を行います。「集計時間が〇時間削減された」「残業時間が〇%減少した」など、具体的な効果を検証し、必要に応じて設定の見直しやさらなる改善を図ります。
自社に最適な勤怠管理フローで生産性向上を実現しよう
本記事では、勤怠管理の基本的な業務フローから、システムを活用した効率化の手法、そして具体的な導入スケジュールまでを解説しました。正確で効率的な勤怠管理フローを構築することは、単なる事務作業の改善に留まりません。それは、法令を守り、従業員の健康を確保し、企業の信頼性を高めるという経営の根幹に関わる取り組みです。
手作業による管理に限界を感じているのであれば、勤怠管理システムの導入は有効な選択肢です。自社の課題や目的に合ったシステムを選び、計画的に導入を進めることで、業務フローは大きく改善されます。これを機に、自社の勤怠管理の在り方を見直し、より生産性の高い組織運営を目指してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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