• 更新日 : 2025年7月11日

派遣社員の就業規則は派遣元・派遣先のどっちが適用?厚生労働省のモデル・ひな形も

「派遣社員として働くけれど、就業規則は派遣元のもの?それとも派遣先のもの?」「派遣先での労働時間や休日は、誰のルールに従うの?」「もしトラブルが起きたら、どの就業規則が基準になるの?」派遣という柔軟な働き方が社会に浸透する一方で、このような就業規則に関する疑問は後を絶ちません。

この記事では、派遣における就業規則の基本的な考え方から、派遣元企業と派遣先企業のそれぞれの責任、派遣社員自身が知っておくべき権利や注意点、さらには具体的なトラブル事例とその対処法まで分かりやすく解説します。

派遣社員の就業規則は派遣元・派遣先のどっちが適用される?

派遣社員の就業規則が複雑に感じられる主な理由は、雇用契約を結ぶ「派遣元(派遣会社)」と、実際に仕事の指示を受け、働く場所となる「派遣先企業」という二つの企業が関わる、その独特な三者関係(派遣労働者・派遣元・派遣先)にあります。

  • 派遣元企業
    派遣社員と雇用契約を締結し、給与の支払い、社会保険の手続き、福利厚生の提供、そして基本的な労働条件を定める就業規則の作成・適用を行います。
  • 派遣先企業
    派遣社員に対して具体的な業務の指示(指揮命令)を行い、働く職場環境を提供します。

結論から言うと、派遣社員の労働条件や服務規律などを定めるのは、原則として雇用主である派遣元の就業規則です。しかし、それだけでは説明しきれない部分があるのが、派遣の複雑なところです。

派遣元の就業規則が基本となる理由

派遣社員は派遣元企業と雇用契約を締結しています。労働契約法や労働基準法に基づき、労働条件や服務規律は雇用主が定めるのが原則です。したがって、派遣元の就業規則が派遣社員の労働契約の内容となり、基本的な権利義務関係を規律します。これには、賃金、労働時間、休日、休暇、退職に関する事項などが含まれます。

派遣先企業のルールとの関係性

一方で、派遣社員は派遣先企業の事業所で、派遣先の指揮命令を受けて業務に従事します。そのため、派遣先の職場の秩序を維持するために必要なルールにも配慮し、従う必要があります。

ただし、重要なのは、派遣先のルールや指示が、派遣元の就業規則で保障された労働条件を不利益に変更することは原則としてできないという点です。例えば、派遣元の就業規則で1日の所定労働時間が7時間と定められているにもかかわらず、派遣先が独自の判断で8時間労働を強いることはできません(適法な時間外労働の手続きを経る場合を除く)。

労働者派遣法による責任分担

派遣労働者の保護と適正な運用のために制定された労働者派遣法では、この複雑な関係を整理し、派遣元と派遣先の責任分担を明確にしています。特に重要なのが労働者派遣法第44条で、労働基準法の一部の規定について、派遣先を「使用者」とみなして適用する特例を定めています。

具体的には、以下の事項について、派遣先も使用者としての責任を負うことになります。

  • 労働時間、休憩、休日に関する規定
    法定労働時間(1日8時間・週40時間)、休憩時間(労働時間が6時間超で45分、8時間超で1時間)、週1日(または4週4日)の法定休日の確保については、派遣先が責任を負います。ただし、労働時間や休日の枠組みは派遣元が設定します。
    36協定に基づく時間外・休日労働も、実際に指揮命令を行う派遣先での労働が対象となります。ただし、36協定自体は派遣元企業で締結しなければなりません。
  • 安全衛生に関する規定(労働安全衛生法関連)
    派遣社員が安全かつ健康に働けるよう、作業環境の整備、危険防止措置、安全衛生教育など、多くの事項について派遣先が事業者としての責任を負います。

このように、基本的な労働契約内容は派遣元の就業規則が規律しつつも、日々の労働時間管理や安全衛生など、派遣就業の具体的な場面においては派遣先も法的な責任を分担する形になっています。この点を理解することが、派遣の就業規則を読み解く鍵となります。

派遣元企業の責任と就業規則

派遣元企業は、派遣社員の直接の雇用主として、就業規則に関して最も中心的な責任を負います。

就業規則の作成・届出・周知義務

常時10人以上の労働者(派遣社員を含む)を使用する派遣元企業は、労働基準法に基づき就業規則を作成し、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見を聴いた上で、所轄の労働基準監督署長に届け出る義務があります。

そして何より重要なのは、作成・変更した就業規則を、派遣社員を含むすべての労働者に周知しなければならないことです。

周知方法の例
  • 事業所内の見やすい場所への掲示、備え付け
  • 書面での交付
  • 社内イントラネットや専用ポータルサイトなど、電子データでいつでも閲覧できる状態にしておく

就業規則に記載すべき事項

就業規則には、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、制度として定める場合に記載しなければならない「相対的必要記載事項」があります。また、絶対的必要記載事項や相対的必要記載事項のほかに、企業理念や福利厚生など、任意の事項を「任意的記載事項」として記載することも可能です。

  • 絶対的必要記載事項の例
    • 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇など
    • 賃金の決定、計算・支払方法、締切・支払時期、昇給に関する事項
    • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  • 相対的必要記載事項の例
    • 退職手当、賞与、最低賃金額
    • 食費、作業用品などの負担に関する事項
    • 安全衛生、職業訓練、災害補償
    • 表彰及び制裁の種類・程度
    • その他、事業場の全労働者に適用される定め

派遣社員に特化した就業規則の必要性

派遣元企業は、正社員と派遣社員で異なる労働条件や服務規律を適用する場合、それぞれの実態に合わせた就業規則を別途作成するか、あるいは包括的な就業規則の中に派遣社員に関する特則を設けることが考えられます。派遣社員の働き方の特性(有期雇用が多い、派遣先での就業など)を考慮した規定を設けることで、より明確な労働条件の提示が可能となり、トラブル防止にも繋がります。

ただし、派遣社員であることを理由に不合理な待遇差を設けることは、後述する「同一労働同一賃金」の原則に反する可能性があるため、細心の注意が必要です。

派遣元企業が就業規則を作成・変更する際の注意点

派遣元企業が派遣社員向けの就業規則を作成・変更する際には、法令遵守はもちろんのこと、派遣労働の特性を踏まえたきめ細やかな配慮が求められます。

同一労働同一賃金の原則への対応

2020年4月(中小企業は2021年4月)から全面施行された「パートタイム・有期雇用労働法」により、派遣社員についても「同一労働同一賃金」の原則が適用されます。これは、派遣先の通常の労働者と派遣社員との間の不合理な待遇差(基本給、賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練など)を解消するためのものです。

派遣元の就業規則においては、これらの待遇について、職務内容、職務成果、能力、経験などを考慮し、派遣先の労働者との間で均衡・均等待遇が図られるような規定とする必要があります。待遇差がある場合は、その理由を合理的に説明できるようにしておくことが不可欠です。

派遣特有の事項の明記

派遣社員の働き方の特殊性を踏まえ、就業規則には以下のような派遣特有の事項を明記することが望ましいでしょう。

  • 派遣就業の基本原則
    「第●条(派遣就業) 従業員は、会社(派遣元)が締結した労働者派遣契約に基づき、派遣先の指揮命令を受けて業務に従事するものとする。」
  • 派遣先における服務規律の遵守
    「第●条(派遣先の服務規律)従業員は、派遣先における業務の遂行にあたり、派遣先の就業規則その他服務規律のうち、派遣業務に関連する事項を遵守しなければならない。ただし、これにより労働条件が不利益に変更されるものではない。」
  • 派遣契約期間と労働契約期間
    派遣契約の期間、労働契約の更新の有無、更新する場合の基準、更新しない場合の通知時期など
  • 教育訓練・キャリアアップ支援
    派遣社員のキャリア形成を支援するための教育訓練制度(段階的かつ体系的な教育訓練の機会提供義務)
  • 苦情処理体制
    派遣社員からの苦情(ハラスメント、労働条件に関するものなど)に対応するための窓口や手続き
  • 秘密保持義務
    派遣先の業務を通じて知り得た情報の適切な取り扱い

労働者代表の意見聴取と届出・周知の徹底

就業規則の作成・変更にあたっては、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません。その意見書を添付して所轄の労働基準監督署長に届け出ます。

そして、最も重要なのは、変更後の就業規則を派遣社員を含む全労働者に確実に周知することです。周知を怠れば、たとえ適法な内容であっても就業規則の効力が認められない場合があります。

厚生労働省のモデル就業規則とWordのひな形・テンプレートの活用

厚生労働省のウェブサイトでは、就業規則に関する様々な情報や「モデル就業規則」を公表しており、法令に準拠した就業規則作成の参考になります。これらはWord形式で提供されている場合もあり、派遣労働に関するガイドラインやQ&Aも充実しています。

参考:モデル就業規則について|厚生労働省

また、マネーフォワード クラウドでも、就業規則に使えるWordの無料のテンプレートをご用意しております。企業規模、業種、派遣社員の働き方の実態に合わせて、カスタマイズしてご活用ください。

派遣先企業が知っておくべき就業規則のポイント

派遣先企業が派遣社員を受け入れる際には、自社の就業規則との関係性を正しく理解し、法令を遵守した適切な対応を心がけることが、派遣社員の能力を最大限に活かし、円滑な業務運営とトラブル防止に繋がります。

派遣契約内容の遵守と指揮命令の適正化

  • 契約業務の範囲の確認
    派遣契約で定められた業務以外の業務を指示することはできません。
  • 指揮命令者の明確化
    派遣社員への指揮命令系統を明確にし、混乱を避けます。
  • 労働時間・休憩の管理
    派遣契約及び法令(労働者派遣法第44条の特例)に基づき、派遣社員の労働時間、休憩、休日を適切に管理し、派遣元に正確に報告します。

派遣社員にも配慮した職場環境の整備

  • 安全衛生の確保
    労働安全衛生法上の事業者責任を負い、派遣社員に対しても安全衛生教育の実施や必要な措置を講じます。
  • ハラスメント防止
    派遣社員もハラスメントから保護される対象です。自社の従業員と同様に、ハラスメントのない職場環境づくりに努め、相談があった場合は派遣元と連携して迅速かつ適切に対応します。
  • 情報共有とコミュニケーション
    業務に必要な情報は適切に提供し、派遣社員が疎外感を抱かないよう、日常的なコミュニケーションを心がけましょう。ただし、人事評価や給与といった機微な個人情報については、派遣元が管理する領域であり、派遣先が直接関与すべきではありません。

派遣元との連携強化

派遣社員に関する労務管理上の問題や疑問が生じた場合は、自己判断せず、速やかに派遣元の担当者に連絡し、協議することが最も重要です。派遣契約の適切な運用、苦情処理、緊急時の対応など、あらゆる場面で派遣元との良好な連携が、派遣社員の円滑な就業と派遣先企業のリスク回避の鍵となります。

派遣社員が知っておくべき就業規則のポイント

派遣社員自身も、自分の権利を守り、円滑に働くために、就業規則について正しく理解しておくことが非常に重要です。

就業規則は派遣元のものと認識する

まず大前提として、あなたの雇用主は派遣元企業であり、基本的な労働条件や服務規律は派遣元の就業規則によって定められていることを常に意識しましょう。これがあなたの働き方のベースとなるルールブックです。

就業規則の確認・閲覧方法と周知義務

派遣元には、就業規則を労働者に周知する義務があります。就業規則の内容を知らされずに働くことは、労働者にとって大きなリスクとなります。

    • 確認のタイミング
      派遣会社に登録する際、雇用契約を結ぶ際、実際に仕事を開始する前など。
    • 確認方法
      • 書面で交付される
      • 事業所内の見やすい場所に掲示または備え付けられている
      • 社内イントラネットや派遣社員専用ポータルサイトなどでデータとして閲覧できる
    • 閲覧の権利
      派遣社員は就業規則を閲覧する権利があります。もし閲覧方法が分からなければ、遠慮なく派遣元の担当者に申し出ましょう。「いつでも見られる状態」になっていなければ、それは派遣元の義務違反の可能性があります。ただし、退職後は閲覧の権利がなくなるため、労働条件などについては在職中に確認しておきましょう。

就業規則で特に確認しておきたい項目

就業規則は多岐にわたる内容が記載されていますが、特に以下の項目はご自身の働き方に直結するため、必ず目を通し、内容を理解しておきましょう。

  • 労働時間・休憩・休日
    1日の所定労働時間、休憩時間の長さと取得方法、休日(法定休日・所定休日)の規定、時間外労働や休日労働のルール、割増賃金率。
  • 休暇制度
    年次有給休暇の付与日数・取得手続き・計画的付与の有無、慶弔休暇、産前産後休業、育児休業、介護休業などの特別休暇の有無と取得条件。
  • 賃金
    基本給や時給、諸手当(通勤手当、時間外手当など)の計算方法、支払日、昇給や賞与の有無と規定。
  • 服務規律
    職場で守るべき基本的なルール(遅刻・早退・欠勤の手続き、服装規定など)、情報管理や秘密保持に関する規定。
  • ハラスメント防止規定
    ハラスメントの定義、禁止行為、相談窓口、解決のための手続き。
  • 懲戒規定
    どのような行為が懲戒処分の対象となるか、処分の種類(けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇など)とその手続き。
  • 退職・解雇
    自己都合退職の手続き、契約期間満了時の扱い(更新の有無・基準)、解雇事由と手続き。
  • 教育訓練・キャリアアップ支援
    利用できる教育訓練制度の内容や受講方法。

派遣先のルールで疑問を感じた場合

派遣先で働く中で、「派遣元の就業規則と内容が違うのでは?」「この業務指示は契約範囲を超えているのでは?」といった疑問や不安を感じた場合は、まずは派遣元の担当者に速やかに相談しましょう。自己判断で派遣先の指示を拒否したり、異議を唱えたりすると、かえって状況を悪化させる可能性があります。派遣元の担当者が、契約内容や法令、就業規則に基づいて適切に状況を判断し、必要な場合は派遣先と交渉・調整を行ってくれます。

派遣の就業規則に関してよくある質問

ここでは、派遣社員の就業規則に関してよく寄せられる質問について見ていきましょう。

派遣元に就業規則がない、見せてくれない場合はどうする?

常時10人以上の労働者を使用する派遣元は、就業規則を作成し届け出て、労働者に周知する法的義務があります。もし就業規則がない、あるいは存在しても見せてくれない(周知されていない)場合、それは派遣元の法令違反の可能性があります。

このような状況では、労働条件が不明確になり、一方的な労働条件の変更や不利益な扱いを受けるリスクが高まります。まずは派遣元の担当者に改めて就業規則の提示・説明を求めましょう。それでも改善されない場合は、労働基準監督署に相談することを検討してください。労働基準監督署は、企業に対して法令遵守の指導を行う機関です。

登録型派遣の場合、就業規則で特に気をつけることはある?

登録型派遣でも、派遣元に雇用されている限り、派遣元の就業規則が適用される基本は同じです。

ただし、登録型派遣の場合、個別の派遣契約(労働契約)ごとに労働条件が明示される「労働条件通知書(兼就業条件明示書)」の役割がより重要になります。就業規則は包括的なルールですが、個々の派遣就業における具体的な時給、就業場所、期間、業務内容などは、この通知書でしっかり確認しましょう。就業規則の内容と、個別の労働条件通知書の内容が矛盾しないか、不明な点はないかを確認することが大切です。

派遣の就業規則を理解し、より良い働き方・受け入れ体制へ

派遣社員の就業規則は、その複雑な三者関係から一見分かりにくい部分もありますが、本記事で解説したように「雇用主である派遣元の就業規則が基本」という大原則と、「派遣先も労働時間管理や安全衛生等で法的責任を分担する」という特例を理解すれば、その全体像は明確になります。この記事が、派遣という働き方に関わるすべての人にとって、より安心で生産的な環境を築くための一助となれば幸いです。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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