- 更新日 : 2025年7月30日
労働保険と社会保険の違い
社会保険とは、国民が生活するうえで直面するさまざまなリスクに備えて事前に保険に加入し、いざというときに生活を保障する制度です。
社会保険には労働者災害補償保険(労災保険)、雇用保険、公的医療保険、公的年金、介護保険があります。
広義に解釈すればこれらはすべて社会保険ですが、給与計算上では、労働保険(労災保険と雇用保険)と社会保険(労働保険以外の保険)とに分けられます。
労働保険とは
労働保険は、労働基準法のもとで業務を行う労働者をサポートし、生活を保障するためにつくられました。
保険料の計算に際しては労災保険と雇用保険とに分けられます。
労働者災害補償保険(労災保険)
労働者際顔保障保険は、労働者が業務災害や通勤災害にあった場合、労働者本人や遺族(労働者が死亡した場合)に保険給付を行う制度です。事業主は、法人か個人事業所かを問わず、労働者を雇用する場合は必ず加入しなければなりません。
労災保険料は全額を会社が負担し、毎年定期的に国に対し支払いを行うことが義務づけられています。万が一、従業員が業務中に怪我や病気をした場合、国が会社にかわって治療費等の補償を行います。
従業員はいざというときに自己負担のない形で補償を受けられ、会社は多額の補償が必要になる不意の出費を避けることができます。
雇用保険
雇用保険は、労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進のために設けられた制度です。事業主は、原則として、以下の雇用保険の資格取得要件を満たす労働者を雇用する場合は必ず加入しなければなりません。
雇用保険の資格取得要件
1. 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
2. 31日以上の雇用見込みがあること
※季節的に雇用される労働者については別途要件あり
雇用保険には主なものとして、失業者の生活保障のための「求職者給付(いわゆる失業保険)」があります。
その他、育児や介護を行う労働者や高齢者の雇用が継続されるよう支給される給付金や、労働者自らの職業能力を高めるための教育訓練を受講した場合に支給される給付金など、雇用に関するさまざまな場面でサポートが受けられます。
保険料は、会社と労働者が一定の割合で負担をしています。
社会保険とは
社会保険は、公的医療保険制度と公的年金制度及び介護保険制度があります。
公的医療保険制度
公的医療保険制度とは、加入者とその被扶養者が病気や怪我などで治療を受ける必要があるときに保障する保険制度です。公的医療保険制度の種類は、以下のとおりです。
健康保険
ここでいう健康保険とは、企業に雇用されている者(いわゆるサラリーマン)が加入する医療保険制度をいいます。
健康保険の保険者は、
①大手企業や同業種の企業グループで設立する健康保険組合
②健康保険組合を設立しない企業が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)
に分けられます。
共済組合等
国家、地方公務員や、私立学校の教師が加入する医療保険制度です。
共済組合等とは、正式には法律により組織されている共済組合である、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合連合会または日本私立学校振興・共済事業団をいい、保険者は共済組合です。
船員保険
船員やその被扶養者をサポートするための公的な医療保険制度で、保険者は協会けんぽです。
国民健康保険
健康保険制度に加入していない農家、自営業者、退職者などを対象とした、病気や怪我、出産や死亡時に備えるための公的な医療保険制度をいい、保険者は市町村や国民健康保険組合です。
後期高齢者医療制度
後期高齢者医療保険は、75歳以上の高齢者が病気やけが、あるいは死亡した場合に給付を受けられる医療保険制度で、保険者は後期高齢者医療広域連合です。
なお、年齢が65歳以上であれば、後期高齢者医療広域連合の認定を受けた障害者もこの制度を利用できます。
公的年金制度
公的年金制度とは、高齢や障害、家計を担う家族の死亡等による収入の減少を保障するために存在します。
公的年金制度の種類は、以下のとおりです。
国民年金
国民年金は、自営業者、会社員、専業主婦など、すべての国民に共通する年金制度です。
老後を迎えたとき(老齢基礎年金)や怪我や病気で障害が発生したとき(障害基礎年金)、加入者自身や加入者であった者が亡くなったとき(遺族基礎年金)に必要な年金が支給されます。
厚生年金保険
国民年金がすべての国民を対象とするのに対し、厚生年金保険はその名のとおり「保険」的な意味をもちます。主に会社員が保険の加入者(被保険者)となり、万が一の場合は被保険者やその家族を対象に年金が支給されます。
国民年金に上乗せして支給されます。
介護保険
要介護認定を受けた65歳以上の人や、40歳以上64歳以下で特定疾病による要介護認定を受けた人が日常生活を送るために受けることができる保険医療サービスや福祉サービスに係る給付制度です。
まとめ
労働保険・社会保険は、適用事業所で勤務する労働者が、年齢や勤務形態から加入資格があると判断された場合には強制加入となり、保険料は給与などの報酬から天引きされます。
ただし、労働保険のなかでも労災保険だけは全額事業主負担です。
これは、労働者を雇い使用する際の安全衛生管理の遂行が事業主の義務であり、いざという時に高額になる可能性がある労働者に対しての補償を国がかわって補償するという制度であるからです。
社会保険制度は時代によってさまざまな変遷を重ねてきました。時代のニーズに応じて、人々が暮らしやすく、また働きやすいようにサポートする、それが社会保険制度です。
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