- 更新日 : 2026年1月28日
みなし残業手当とは?超過分の扱いや計算方法、導入手順など解説
企業の人事労務担当者にとって、給与計算の効率化や人件費管理は避けて通れない課題です。その解決策として導入される「みなし残業手当(固定残業代)」ですが、正しい計算方法や契約書の記載ルールを知らずに運用すると、未払い賃金トラブルや法的なリスクを招く原因となります。
本記事では、みなし残業手当の定義やメリットといった基礎知識から、深夜・休日労働との兼ね合い、不利益変更を避ける導入手順、そしてそのまま使える規定例(OK例・NG例)まで、実務に必要な情報を網羅的に解説します。
目次
みなし残業手当(固定残業代)とは?
みなし残業手当とは、実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ決めた「一定時間分の残業代」を定額で支払う賃金制度のことです。
よく混同される「裁量労働制」とは異なり、労働時間の管理自体は必須となります。
みなし残業手当(固定残業代)の仕組み
みなし残業手当は通常の残業代計算(実際の残業時間 × 単価)とは異なり、例えば「月20時間分を含む」として毎月定額を支給します。
この仕組みの最大の特徴は、実際の残業時間が設定時間より短くても減額されず満額が支給される点です。そのため、従業員にとっては残業が少ない月でも一定の手当が保証されるというメリットがあります。
みなし残業の基本については、以下の記事でも解説しています。
裁量労働制との違いと適用職種
よく混同される「裁量労働制(みなし労働時間制)」とは、制度の性質も適用できる職種の範囲も全く異なります。みなし残業手当は「給与の支払い方法」に過ぎないため、営業職や事務職など全職種で導入可能です。
一方で、裁量労働制は実労働時間を問わず「労使協定で定めた時間働いたとみなす」という「労働時間管理の制度」であり、適用できる職種がデザイナーや研究職などに法律で厳格に限定されています。両者の違いを理解せず混同して運用することは、法的なリスクにつながります。
みなし残業手当と裁量労働制の比較
| 項目 | みなし残業手当(固定残業代) | 裁量労働制(みなし労働) |
|---|---|---|
| 性質 | 賃金の支払い制度 | 労働時間の管理制度 |
| 時間の管理 | 必須(実労働時間の把握が必要) | 必須(健康管理のため把握は必要) |
| 残業代 | 設定時間を超えた分は追加支給 | 深夜・休日割増は別途支給 |
| 導入可能職種 | 全職種 | 専門業務型・企画業務型に限定 |
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みなし残業手当を導入する企業・従業員のメリット
みなし残業手当(固定残業代)は、単なるコスト管理の手法にとどまらず、適切に運用されれば企業と従業員の双方にとって「業務の効率化」や「生産性の向上」をもたらすwin-winの制度となります。ここでは具体的なメリットを立場別に解説します。
企業のメリット:給与計算の効率化と採用力の強化
企業側にとっての最大の利点は、事務作業の削減と採用活動におけるアピール効果です。
毎月の給与計算において、従業員の残業時間が設定された「みなし時間」の枠内に収まっている場合、個別に割増賃金を計算する手間が省けます。毎月の変動費が抑えられるため、人件費予算の予測が立てやすくなるのも経営上の大きなメリットです。
また、求人票や募集要項において、固定残業代を含んだ「見かけ上の月給総額」を高く提示できるため、優秀な人材の目に留まりやすくなり、採用競争力の強化につながります(※ただし、基本給と固定残業代の内訳明示は法律で義務付けられています)。
従業員のメリット:収入の安定と生産性向上への意欲
従業員側にとっては、働いた時間の長さに関わらず一定の収入が保証される点が大きな安心感につながります。
通常の残業代制度では、仕事が早く終わって残業が少なかった月は給与が減ってしまいますが、みなし残業手当なら満額支給されます。これにより、「生活残業(生活費を稼ぐためにダラダラと残業すること)」をする必要がなくなります。
「短時間で成果を出して早く帰ったほうが、実質的な時給が高くなる」という仕組みになるため、業務効率化への意識が高まり、ワークライフバランスの充実にもつながるでしょう。
みなし残業手当の導入に潜むデメリット
一方で、この制度は運用を誤ると「定額働かせ放題」という誤った認識を広め、企業の社会的信用を失墜させるリスクを孕んでいます。導入前に把握しておくべき負の側面を解説します。
「定額働かせ放題」という誤解と長時間労働の常態化
最も懸念されるのが、長時間労働の温床になりやすい点です。
「残業代を既に払っているのだから、その時間分までは働かせないと損だ」という誤ったコスト意識や、「早く帰ると白い目で見られる」という職場の同調圧力が生まれることがあります。
その結果、本来の目的である「生産性向上」とは真逆の、「長時間労働の常態化」を招く恐れがあります。制度を導入する際は、同時に「ノー残業デー」の設定や業務量の適正化など、労働時間を抑制する仕組みづくりが不可欠です。
超過分の未払いや「ブラック企業」認定されるリスク
法的な運用ミスにより、労使トラブルやブランド棄損に直結するリスクもあります。
特に多いのが、「固定残業代を払っているから、超過分や深夜・休日割増は払わなくて良い」という誤った運用です。これは明確な労働基準法違反であり、未払い賃金の請求訴訟に発展するケースが後を絶ちません。
また、こうしたトラブルが表面化したり、求人票の表記が不適切(基本給と手当をあえて曖昧にする等)だったりすると、口コミサイトやSNSで「ブラック企業」というレッテルを貼られ、既存社員の離職や採用難を引き起こす原因となります。
みなし残業手当の正しい計算方法とは?
適法な運用を行うためには、まず「基本となる手当額」を正確に算出し、その上で計算に含まれない「深夜・休日労働」の取り扱いを明確に線引きする必要があります。
ここでは、基本給ベースの算出ステップと、実務で計算ミスが多発する例外ケース(深夜・休日)の処理ルールについて解説します。
みなし残業手当の基本計算式
手当の金額は、適当に決めて良いものではありません。必ず「1時間あたりの基礎賃金 × みなし残業時間数 × 1.25(割増率)」で算出し、その金額が1円でも不足していると違法となります。
具体的な計算手順を、以下の条件でシミュレーションしてみましょう。
- 基本給: 250,000円
- 月平均所定労働時間: 160時間
- みなし残業時間: 20時間分を設定する場合
- 時給単価(基礎賃金)の算出 250,000円 ÷ 160時間 = 1,562.5円
- 手当額の算出 1,562.5円 × 1.25(通常残業の割増率) × 20時間 = 39,063円(端数切り上げ)
このケースでは、給与明細に基本給とは別に「固定残業手当:39,063円」と明記して支給する必要があります。
なお、固定残業代を除いた基本給部分が、都道府県ごとの最低賃金を下回らないよう注意してください。
深夜残業・休日出勤は「別枠」で計算する
基本計算式で算出した手当は、あくまで「平日・日中(早出・残業)」の時間外労働(1.25倍)を想定したものです。
そのため、割増率が異なる「深夜」や「休日」については、みなし残業手当とは別枠で追加支給する運用が一般的かつ安全です。
多くの企業で採用されている「区分のルール」は以下の通りです。
- 法定時間外労働(平日1日8時間を超える労働)
- 扱い: みなし残業手当に含まれます(設定時間内の場合)。
- 深夜労働(22:00〜翌5:00)
- 扱い: 原則、含まれません。
- 解説: 深夜割増分(0.25倍部分)は別途計算が必要です。たとえ残業時間がみなし枠内であっても、深夜に及んだ時間分は「時給 × 0.25 × 深夜時間数」を必ず追加で支払います。
- 法定休日労働(週1回の法定休日)
- 扱い: 原則、含まれません。
- 解説: 35%(1.35倍)の割増が必要です。これも通常のみなし残業手当(1.25倍枠)とは混ぜずに、完全に別枠として実績払いするのが最も計算ミスを防げる運用です。
みなし残業手当の超過分はどう扱うべき?
みなし残業手当はあくまで「一定時間分までの前払い」であり、その時間を超えた労働に対する支払いを免除するものではありません。超過分の支払いは法的義務です。
超過分の支払いルールと清算
実労働時間が設定されたみなし時間を超えた場合、その差額(超過分)は必ず追加で支払わなければなりません。
例えば「みなし残業20時間」の契約の場合、実際の残業時間によって以下のように処理します。
- 実績が15時間の場合:
20時間分の手当を満額支給します。実際に働いた時間が短くても減額してはいけません。 - 実績が25時間の場合:
20時間分の手当に加え、超過した5時間分の割増賃金を別途計算し、その月の給与に上乗せして支払います。
この「清算」を行わず、「うちは固定残業制だから、いくら残業しても手当は一律」として超過分を支払わない運用は、労働基準法違反(賃金未払い)となります。
したがって、みなし残業手当を導入していても、タイムカードや勤怠管理システムによる1分単位の労働時間記録は絶対に省略できません。
みなし残業手当を導入する手順とは?
制度を導入するには、就業規則の変更や従業員への周知など、法的な手続きをステップごとに確実に踏む必要があります。導入から運用開始までは、以下の流れで進めます。
ステップ1. 制度設計とシミュレーション
まずは、過去半年〜1年分のタイムカードや勤怠データを確認し、現状の従業員の平均残業時間を正確に分析します。 その実態に基づいて、適切な「みなし残業時間数」を設定します。
一般的には月20時間〜30時間程度が目安です。 極端に長い時間(例:月80時間など)を設定すると、労働基準法違反として無効になるリスクがあります。また、残業がほとんどない部署に導入した場合には、不要な人件費コストの増加につながるため注意が必要です。
ステップ2. 就業規則の改定と届出
制度の詳細が決まったら、就業規則(賃金規程)を変更します。 規程には、固定残業代の定義、対象者、具体的な計算方法、そして「設定時間を超過した分は別途追加支給する」という旨を必ず明記してください。
常時10人以上の従業員がいる事業場では、変更した就業規則に従業員代表の意見書を添えて、所轄の労働基準監督署へ届け出る義務があります。10人未満の場合でも、トラブル防止のために規程を作成し、従業員へ周知することが重要です。
ステップ3. 従業員への説明
制度の趣旨について、全従業員に向けた説明会を実施します。 みなし残業制は「残業代削減」や「定額働かせ放題」のための制度だと誤解されやすいため、丁寧な説明が不可欠です。
「業務効率化による生産性の向上」や「給与の安定」といった導入目的を明確に伝え、従業員の不安を解消しましょう。 特に給与体系の変更を伴う場合は、十分な質疑応答の時間を設け、納得感を得るプロセスを経ることが後のトラブル回避につながります。
ステップ4. 雇用契約の締結(通知書の発行)
最後に、後のトラブルを防止するため、新しい労働条件を記載した「労働条件通知書」の交付や「雇用契約書」を作成し、対象となる従業員と取り交わすことが望ましいです。
書面には、基本給の額、固定残業代の額、その固定残業代に相当する時間数を明確に記載しなければなりません。 既存社員に対しては、変更内容に同意した証拠として、合意書や雇用契約書への署名・捺印をもらっておくと、後々の「言った言わない」のトラブルを防ぐことができ、より安全な運用が可能になります。
みなし残業手当導入時の注意点とは?
導入時に特に注意すべきなのが、「給与の下げ方(不利益変更)」と「契約書の書き方(無効要件)」の2点です。これらを誤ると、従業員とのトラブルや、裁判での敗訴につながります。
給与設計の注意点:基本給の減額は「不利益変更」になる
最もトラブルになりやすいのが、既存社員の基本給を減額して、その分をみなし残業手当に振り替える手法(基本給組み替え型)です。
「給与総額が変わらないから問題ない」と会社側が考えていても、基本給が下がると「残業単価」や「賞与の算定基礎」が下がるため、法律上は「不利益変更」とみなされます。
- 推奨される導入法(手当上乗せ型): 現在の基本給は維持し、プラスアルファでみなし残業手当を支給する方法です。コストは増えますが、法的なリスクは最も低くなります。
- リスクが高い導入法(基本給組み替え型): やむを得ず基本給を組み替えて導入する場合は、合理的な理由の説明に加え、従業員個別の自由意思による同意書(署名)が必須となります。
契約書の注意点:曖昧な記載は「制度無効」になる
給与設計が決まったら、それを契約書にどう落とし込むかが重要です。裁判例でも「契約書上の明確さ」が重視されます。 法的に有効と認められるためには、「基本給と手当の明確な区分(金額と時間数)」と「超過分を支払う旨の明記」の2点が必須要件です。
× 違法リスクが高いNG例
給与:月給 300,000円(固定残業代を含む)
この記載では「基本給がいくらで、残業代がいくらか」が判別できません(明確区分性の欠如)。何時間分の残業が含まれているかも不明なため、法的紛争になった場合、30万円全額が基礎賃金とみなされ、別途残業代を請求される可能性が高いです。
◯ 適法なOK例
給与:月給 300,000円
- 基本給: 242,500円
- 固定残業手当: 57,500円
- 時間外労働の有無にかかわらず、30時間分の時間外手当として支給する。
- 30時間を超える時間外労働分、および深夜労働・休日労働分については、追加で支給する。
この例であれば、以下の要件を満たしており適法です。
- 基本給と手当の金額が明確に分かれている。
- 「30時間分」と対象時間が明記されている。
- 「超過分は追加支給する」という清算条項が入っている。
- 深夜・休日についての取り扱い(追加支給)も明記されている。
みなし残業手当に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 欠勤して給与が日割り計算になった月も、みなし残業手当は満額払う必要がありますか?
就業規則の規定によりますが、一般的には満額支払う、もしくは就業規則に基づいて日割り計算します。
固定残業代は「月額手当」としての性質が強いため、特段の定めがなければ満額支給が原則と解釈されやすいです。欠勤控除の対象とする場合は、賃金規程に「欠勤等の不就労があった場合は、固定残業手当も日割り計算して支給する」等の計算式を明確に定めておく必要があります。
Q2. 管理監督者にもみなし残業手当は必要ですか?
労働基準法上の「管理監督者」であれば、時間外労働の割増賃金支払義務がないため、原則としてみなし残業手当は不要です。
ただし、管理監督者であっても「深夜労働(22時以降)」の割増賃金は支払い義務があります。そのため、深夜残業対策として定額の手当を設けるケースはありますが、名称は「役職手当」などとして、その中に含めることが一般的です。
Q3. パート・アルバイトにもみなし残業手当を設定できますか?
設定可能ですが、慎重な検討が必要です。
パートタイム労働者は勤務時間が短いケースが多く、残業自体が発生しにくい場合もあります。実態として残業がほとんど発生しないのに固定残業代を設定していると、「基本給を低く見せるための偽装」と疑われるリスクがあります。業務内容や労働実態に合わせて導入を判断してください。
みなし残業手当は明確さと管理が運用の鍵
みなし残業手当(固定残業代)は、正しく運用すれば業務効率化や従業員の生産性向上に寄与する有用な制度ですが、曖昧な導入は大きな労務リスクを招きます。
制度を成功させるためには、実際に働いた時間に関わらず定額を支払う仕組みであっても労働時間管理は必須であるという前提を理解し、契約書や就業規則で基本給と固定残業代(金額・時間数)を明確に区分することが求められます。特に、設定時間を超えた分の残業代は必ず追加で支給しなければならず、ここが運用上の最大のポイントとなります。また、既存社員へ導入する際は、不利益変更とならないよう十分な説明と同意を得るプロセスも欠かせません。
「計算が楽になるから」という理由だけで安易に導入せず、自社の労働実態に合っているかを見極め、透明性の高い運用を心がけることが成功の鍵です。まずは自社の現在の残業状況を正確に把握することから始めてみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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