- 更新日 : 2025年7月25日
変形労働時間制の届出は必要?不要?1カ月単位と1年単位の違いや書き方、記入例も
「変形労働時間制を導入したいが、届出が必要なのかわからない」「書類の書き方が複雑で困っている」企業の労務担当者様にとって、変形労働時間制の届出は間違いの許されない重要な業務です。
この記事では、変形労働時間制の届出について詳しく解説します。この記事を読めば、届出に関するあらゆる疑問が解決し、自信を持って手続きを進められるようになります。
目次
変形労働時間制の届出が必要な理由
まず、なぜ変形労働時間制の導入に届出手続きが関わってくるのか、その基本と目的を正しく理解しておくことが重要です。
そもそも変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、業務の繁閑に合わせて労働時間を柔軟に設定できる制度です。一定期間(1カ月や1年など)を平均して、週の法定労働時間(原則40時間)を超えなければ、特定の日に8時間、特定の週に40時間を超えて労働させても時間外労働(残業)として扱われないのが特徴です。これにより、企業は人件費の効率化、従業員はメリハリのある働き方が可能になります。
変形労働時間制の種類
変形労働時間制には以下の3種類があります。
- 1カ月単位の変形労働時間制(労基法第32条の2)
- 1年単位の変形労働時間制(労基法第32条の4)
- 1週間単位の非定型的変形労働時間制(労基法第32条の5)
いずれも労使協定を締結し、その協定届を所轄の労働基準監督署長に届け出が必要です。この他にも労働時間を柔軟に調整する仕組みとしてフレックスタイム制があり、精算期間が1カ月を超える場合は届出が必要とされています。
変形労働時間制の届出の目的
労働基準監督署への届出は、企業が法律のルールを守って適正に変形労働時間制を運用することを監督・確認するために義務付けられています。労働者の健康や生活への影響が大きい制度であるため、行政が事前にその計画(労使協定の内容)を把握し、違法な長時間労働が常態化しないようチェックする役割を担っているのです。
変形労働時間制の届出を怠った場合のリスク
届出が必要な制度であるにもかかわらず、これを怠って変形労働時間制を運用した場合、その制度自体が無効と判断されます。
その結果、1日8時間または週40時間を超えた労働がすべて時間外労働となり、未払いの割増賃金の支払い義務が生じます。さらに、労働基準法第120条に基づき、30万円以下の罰金が科される可能性もあるため、手続きは絶対におろそかにできません。
1カ月単位の変形労働時間制の届出
1カ月単位の変形労働時間制は、1カ月以内の期間で週平均の労働時間を法定内に収めるよう調整できる制度です。特定の週に40時間を超えた労働時間があったとしても、1カ月を平均して週40時間以内であれば、割増賃金の支払いは不要です。
労使協定で定めるべき項目
1カ月単位の変形労働時間制では、労使協定又は就業規則で以下の項目を定める必要があります。協定書にも、これらの項目が記載されているか確認しましょう。
- 対象労働者の範囲
- 対象期間および起算日
- 労働日および労働時間
- 労使協定の有効期間
届出様式
1カ月単位の変形労働時間制では、「1箇月単位の変形労働時間制に関する協定届」を使用します。厚生労働省のホームページなどから最新の様式をダウンロードしましょう。
参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)|厚生労働省
記入例とポイント
対象期間を明確に記載し、労働時間が週平均40時間以内に収まるように注意します。また、各週の労働日と労働時間を具体的に記入し、設定根拠を明確にしておきましょう。
1年単位の変形労働時間制の届出
1年単位の変形労働時間制は、季節や業務の繁閑の差が大きい業種に適した制度で、1カ月を超え1年以内の期間を対象に労働時間を柔軟に設定できます。年間の繁忙期と閑散期を通じて週平均労働時間を40時間以内に収める仕組みです。
労使協定で定めるべき項目
1年カ月単位の変形労働時間制では、労使協定で以下の項目を必ず定めなければなりません。
- 対象労働者の範囲
- 対象期間
- 労働日数および総労働時間
- 特定期間(繁忙期の特別設定がある場合)
- 協定の有効期間
届出様式
1年単位の変形労働時間制の届出には、「1年単位の変形労働時間制に関する協定届」を使用します。厚生労働省のホームページなどから最新の様式をダウンロードしましょう。
参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)|厚生労働省
記入例とポイント
協定届を記入する際は、特に以下の点に注意してください。
- 対象期間
1カ月を超え1年以内の期間を定めます。「毎年4月1日から翌年3月31日まで」のように具体的に記載します。 - 労働日数・総労働時間
対象期間中の総労働日数の上限(原則280日など)や、総労働時間(期間の暦日数 ÷ 7 × 40)を超えていないか計算して記載します。 - 特定期間
特に業務が繁忙な期間を定める場合に記載します。この期間は、連続して労働させることができる日数の上限が12日となります。 - 協定の当事者
労働者の過半数代表者の選出方法が民主的な手続き(投票、挙手など)であったことをチェックする欄があります。適正に選出されていることが重要です。
36協定との関係性と同時提出のメリット
1年単位の変形労働時間制を導入しても、協定で定めた時間を超えて労働させる場合や、休日労働をさせる場合には、別途「36協定」の締結と届出が必要です。
電子申請を利用すれば、36協定や変形労働時間制協定届などを本社一括で提出でき、効率化が図れます。
1週間単位の非定型的変形労働時間制の届出
1週間単位の非定型的変形労働時間制は、常時使用する労働者が30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店等、特定業種に限定される制度です。1週間の労働時間が40時間を超えない範囲で、日ごとの労働時間を柔軟に設定できます。
労使協定で定めるべき項目
協定書での記載が必要な項目は以下の通りです。
- 対象労働者の範囲
- 対象期間
- 各日の始業および終業時刻
- 労使協定の有効期間
届出様式
「1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する協定届」(様式第5号)を使用します。厚生労働省のホームページなどから最新の様式をダウンロードしましょう。
参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)|厚生労働省
記入例とポイント
曜日ごとの具体的な始業時刻と終業時刻を明記します。週平均の労働時間が40時間以内になるよう、労働時間のバランスを取ることがポイントです。また、一週間の各日の労働時間を、あらかじめ、当該労働者に通知することも必要です。
フレックスタイム制も法改正で届出が必要に
フレックスタイム制は、従来、清算期間が1カ月以内であれば届出不要でした。しかし、法改正により、清算期間を最大3カ月まで設定できるようになり、清算期間が1カ月を超える場合には、労使協定の締結に加えて、その協定届を労働基準監督署へ届け出ることが新たに義務付けられました。この点を混同しないよう注意が必要です。
変形労働時間制の届出に関してよくある質問
最後に、変形労働時間制の届出に関してよくある質問とその回答をまとめました。
提出先はどこ?
届出の提出先は、会社の所在地を管轄する労働基準監督署です。複数の事業場がある場合は、原則としてそれぞれの事業場の所在地を管轄する労働基準監督署へ提出します。
提出期限はいつまで?
法令上の明確な期限は設けられていませんが、制度適用開始前日までに届出・受理されている必要があります。
提出方法は?
提出方法は主に3つあります。
- 窓口持参:管轄の労働基準監督署の窓口へ直接提出します。
- 郵送:控えの返送を希望する場合は、切手を貼付した返信用封筒を同封します。
- 電子申請(e-Gov):2021年から一部の届出で電子申請が可能になりました。e-Govを利用すれば、24時間いつでもオンラインで申請が完了し、移動や郵送の手間が省けます。
届出内容を変更・廃止したい場合は?
対象期間の途中で労使協定の内容を変更する場合や、制度自体を廃止する場合には、その都度、変更届や廃止届を労働基準監督署へ提出する必要とする運用が一般的ですが、詳細は所轄署に確認をするのが確実です。
変形労働時間制の適切な届出で、健全な労務管理を
変形労働時間制は、正しく運用すれば企業と従業員の双方にメリットをもたらす有効な制度です。しかし、その前提として、法律で定められた手続きを確実に履行することが不可欠です。
自社がどの制度を導入するのかを明確にし、労使協定の締結から届出(または就業規則への規定)、そして従業員への周知まで、一連の手続きを漏れなく進めていきましょう。適切な届出は、コンプライアンスを遵守し、従業員との信頼関係を築くための第一歩です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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