- 更新日 : 2025年6月24日
労災の遺族年金とは?受給条件・金額・手続きをわかりやすく解説
勤務中の事故や通勤途中の災害によって、突然大切な家族を失ってしまうことは誰にとっても想像したくない出来事です。しかし、そんなときに遺されたご遺族の生活を支える仕組みとして、「労災保険の遺族年金」があります。経済的な不安を少しでも和らげるためにも、制度の内容を正しく理解することが大切です。この記事では、労災の遺族年金について、受給できる人の条件や金額、申請手続きの方法まで、わかりやすく解説します。
目次
労災の遺族年金とは?
労災保険の遺族年金は、業務災害または通勤災害により労働者が亡くなった場合に、その遺族に対して支給される給付制度です。突然の事故などによって主たる収入を失ったご遺族の生活を、経済的に支えることを目的としています。
この制度は、労働者災害補償保険法に基づき、国が運営している公的な補償制度です。対象となるのは、亡くなった労働者の収入により生計を維持していた家族です。単に親族関係にあるというだけではなく、現実的な生活の依存関係があったかどうかが重視されます。
労災保険における遺族向けの給付には、大きく分けて「年金型」と「一時金型」があり、条件に応じてどちらかが支給される仕組みです。遺族年金は定期的に支払われるもので、遺族の人数や年齢などによって支給額が変わります。
労災の遺族年金の種類と支給条件
労災保険には、亡くなった労働者の遺族に対して支給される給付として、主に3つの制度が用意されています。条件を満たす場合には、これらすべてを併せて受給することも可能ですが、遺族の属性や状況によっては一部のみの支給にとどまることもあります。
1. 遺族補償年金(業務災害)/遺族年金(通勤災害)
業務中または通勤途中の災害によって労働者が死亡した場合に支給される定期的な年金給付です。支給対象となるには、以下のすべての条件を満たす必要があります。
- 労働者が労災(業務災害または通勤災害)により死亡していること
- 遺族が、亡くなった労働者の収入によって生計を維持していたこと
- 受給資格者の範囲内の遺族であること(例:配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹)
- 配偶者以外の場合、年齢または障害に関する条件を満たしていること
支給額は、亡くなった労働者の「給付基礎日額」に、遺族の人数に応じた所定日数をかけて計算されます。年金は偶数月に2ヶ月分ずつ支給され、受給資格が続く限り支給されます。
ここでいう「受給資格が続く限り」とは、たとえば配偶者が再婚しない限り、あるいは障害のある子が一定の障害状態を継続している限りといったように、年金支給の前提条件を満たし続けている状態を指します。もし条件を満たさなくなった場合は、支給が打ち切られることがあります。
2. 遺族特別支給金(一時金)
遺族補償年金または遺族年金を受給する人に対して、遺族の人数や年齢に関係なく、一律300万円が支給される一時金です。この給付の目的は、葬儀費用や初期生活費など、急な支出への対応を支援することにあります。
- 遺族補償年金または遺族年金の受給者であること
- 他の遺族年金・特別年金と併給可能
3. 遺族特別年金(上乗せ年金)
賞与などを反映した算定基礎日額をベースに、所定日数をかけて計算される上乗せ年金です。遺族特別年金は、遺族年金と同一様式であるため、通常同時に申請することになります。遺族補償年金と同様に2ヶ月に一度支給されます。
- 遺族補償年金(または遺族年金)を受給していること
- 遺族補償年金と併給されることが原則
- 支給額の計算は遺族補償年金と同様に、遺族の人数により決定
これら3種類は併給されるのが基本であり、遺族補償年金(または遺族年金)を受け取る場合、特別支給金と特別年金も同時に支給されます。
遺族補償一時金(年金要件を満たさない遺族の場合)
遺族補償年金(または遺族年金)の受給条件を満たす遺族が1人もいない場合には、法律で定められた「遺族の範囲」に該当する人に対して、代わりに一時金が支給される制度があります。これが「遺族補償一時金(業務災害)」および「遺族一時金(通勤災害)」です。
受給可能な遺族と、その順位は以下の通りです。
- 配偶者
- 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子、父母、孫及び祖父母
- 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していなかった子、父母、孫及び祖父母
- 兄弟姉妹
最先順位である遺族に、給付基礎日額の1,000日分が一括で支給されます。
誰が労災の遺族年金を受け取れる?
労災保険の遺族年金は、亡くなった労働者の家族であれば誰でも受け取れるわけではありません。法律で定められた一定の続柄にあることに加え、労働者の収入によって生計を維持されていたことなどが支給の前提となります。
遺族年金を受給するためには、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。
- 労働者が業務中または通勤中の災害によって死亡していること
- 遺族が「生計を維持されていた」と認められること
- 法律で定められた範囲の親族(法定遺族)であること
遺族年金の支給対象となる親族の続柄は、「配偶者(夫・妻)→子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹」の順に定められており、これが受給の優先順位にもなっています。夫、父母、祖父母、兄弟姉妹が55歳以上60歳未満で、障害の状態にない場合は、60歳以上や障害状態にある遺族に劣後した順位となります。
たとえば配偶者と父母がいる場合、配偶者が最優先され、父母は受け取ることができません。
同順位の遺族が複数いるときは支給額が均等に分けられます。配偶者と子がいる場合は、それぞれで等分されます。
また、配偶者以外の遺族には年齢や障害の状態に関する条件があり、それを満たさなければ順位内であっても受給の対象にはなりません。さらに、先順位の遺族が再婚や死亡などで受給資格を失った場合には、次の順位にある遺族に年金が移る「転給」という制度もあります。
以下は、法定遺族の続柄ごとに受給順位の高い順に整理したものです。
第1順位:配偶者・子
配偶者(妻・夫)
- 妻:年齢・障害の要件なし(事実婚も含まれる)
- 夫:60歳以上、または障害等級5級以上(55歳以上60歳未満は60歳から支給)
子
- 18歳到達年度末(3月31日)までの子
- 障害等級5級以上の障害がある場合は年齢制限なし
- 胎児であった子も出生後は受給可能
第2順位:父母
- 60歳以上、または障害等級5級以上
- 55歳以上60歳未満は60歳から支給
第3順位:孫
- 条件は「子」と同様:18歳未満または障害等級5級以上
第4順位:祖父母
- 条件は「父母」と同様:60歳以上または障害等級5級以上
- 55歳以上60歳未満の場合は、60歳に達したときから支給
第5順位:兄弟姉妹
- 18歳到達年度末まで、または60歳以上、もしくは障害等級5級以上
- 55歳以上60歳未満は60歳から支給
労災の遺族年金はいくらもらえる?
労災保険から支給される遺族年金の金額は、亡くなった労働者の賃金水準や、遺族の人数によって変わります。支給対象となる年金や一時金には複数の種類があり、それぞれ計算方法や目的が異なります。
給付の基本となる「日額」の考え方
労災遺族年金の支給額を決める上で中心となるのが、以下の「給付基礎日額」と「算定基礎日額」です。
1. 給付基礎日額
遺族補償年金の計算に使われます。
亡くなった労働者が災害直前の3ヶ月間に受け取った賃金総額を、その期間の日数で割って算出します。労働基準法でいう「平均賃金」にあたり、通常の月給や日給、残業代などが含まれます。
例:3ヶ月で支給された賃金総額が75万円
2. 算定基礎日額
遺族特別年金の計算に使用されます。
過去1年間の賞与や特別手当の合計を365日で割って算出します。通常の給料とは別の一時的な収入を反映させるための指標です。
例:過去1年間の賞与総額が36万5,000円
遺族補償年金(または遺族年金)の計算方法
遺族補償年金は、給付基礎日額に遺族の人数に応じた「所定日数」をかけて算出します。年金は原則として偶数月に2ヶ月分ずつ支給されます。
遺族の人数 | 所定日数 |
---|---|
1人 | 153日分 (55歳以上または障害のある妻は175日分) |
2人 | 201日分 |
3人 | 223日分 |
4人以上 | 245日分 |
例:給付基礎日額が8,333円、遺族が2人の場合
同順位の遺族が複数いる場合は、支給額を人数で等分します。たとえば、配偶者と子がいればそれぞれ半額を受け取ります。
遺族特別支給金(300万円の一時金)
年金を受給する遺族には、人数や年齢に関係なく一律300万円が「遺族特別支給金」として一括で支給されます。遺族年金と併給され、支給時期は比較的早めです。
葬儀費用や急な生活費の補填を目的としたものです。
遺族特別年金(賞与等を反映した上乗せ分)
「遺族特別年金」は、賞与をもとにした算定基礎日額×所定日数で計算される上乗せ給付です。支給日数の設定は遺族補償年金と同じです。
例:算定基礎日額が1,000円、遺族が2人の場合
この金額は年金と同様に偶数月に2ヶ月分ずつ支給され、遺族補償年金に加算されるかたちになります。
遺族補償年金の一時金前払い制度
遺族補償年金には、希望すれば将来の年金を一時金として前払いで受け取ることもできます。「遺族補償年金前払一時金」と呼ばれ、受給者はまとまった金額を早期に受け取ることが可能になります。
前払いとして受け取れる金額は、給付基礎日額に一定の日数をかけて計算されます。選べる日数は200日、400日、600日、800日、1,000日の5段階に分かれており、どのパターンを選ぶかは遺族自身が決めることができます。
例:給付基礎日額が8,333円、400日分を前払いする場合
ただし、この制度を利用すると、前払いに該当する期間については年金の支給が停止されます。上記の例であれば、400日分の支給が前倒しされたことにより、約1年1ヶ月分の年金が支給されないことになります。つまり、短期的な資金が必要な場合には有効ですが、将来の生活資金を見越して慎重に判断することが求められます。
最終的な支給額は労基署に確認を
最終的な支給額は、労働者の給与、賞与、遺族の人数や属性などによって大きく変わります。また、前払い制度を利用するかどうかによっても年単位で金額差が生じます。
そのため、具体的な金額については、亡くなった労働者が所属していた事業所を管轄する労働基準監督署に確認することが重要です。遺族自身での判断が難しい場合には、企業の人事労務担当者が相談窓口となり、支援する体制を整えることも望まれます。
労災の遺族年金に税金はかからない
労災の遺族年金は、所得税法上非課税所得とされており、税金はかかりません。
所得税法第9条に明記されており、労働者災害補償保険法に基づいて支給される年金や一時金については、すべて課税対象外となることが法律で定められています。これは遺族が予期せぬ事故によって生活の基盤を失った際に、経済的な負担を軽減し、再建の支えとなるよう制度設計されているためです。
労災保険から支給されるものには、定期的に支給される遺族補償年金や遺族年金に加え、遺族特別支給金や遺族特別年金、前払一時金などがありますが、これらもすべて非課税の扱いとなっています。したがって、これらの金額を確定申告で申告する必要はなく、所得として扱う必要もありません。
労災の遺族年金の申請手続き
労災遺族年金を受け取るには、所定の手続きが必要です。ここでは、申請から受給までの流れを紹介します。
ステップ1:必要書類をそろえる
まずは、支給申請に必要な書類を準備します。主な書類は以下のとおりです。
- 遺族補償年金支給請求書(業務災害)または遺族年金支給請求書(通勤災害)
- 死亡診断書または死体検案書
- 請求者と亡くなった労働者の戸籍謄本
- 世帯全員の住民票の写し
- 生計維持関係を証明する書類(所得証明書など)
- 障害のある遺族が請求する場合は、障害の状態を証明する診断書
労働基準監督署から個別に追加書類を求められることもあるため、不明点は事前に問い合わせましょう。
ステップ2:労働基準監督署へ提出する
書類が整ったら、亡くなった労働者の勤務先が所在する地域を管轄する労働基準監督署へ提出します。自宅の最寄りではなく、勤務先の管轄である点に注意が必要です。窓口での相談や確認も可能なので、書類の不備が不安な場合は事前に相談するのがおすすめです。
ステップ3:監督署による審査を受ける
書類の提出後、労働基準監督署が内容を審査します。事故や災害と業務との関係、生計維持の実態、続柄や年齢要件などが丁寧に確認されます。審査には一定の時間がかかりますが、内容に問題がなければ支給が決定されます。
ステップ4:支給開始
支給が決定されると、原則として死亡した月の翌月分から年金が発生し、偶数月に2ヶ月分ずつ支給されます。たとえば5月に支給が決定された場合でも、労働者が1月に亡くなっていれば、2月分からの年金がさかのぼって支給されることになります。
時効に注意する
遺族年金の請求には5年の時効があります。労働者が死亡した日の翌日から5年以内に申請を行わないと、年金の支給を受けられなくなるおそれがあります。葬儀や日常の対応で忙しくなるなかでも、手続きの期限には十分注意が必要です。
労災の遺族年金を正しく理解し備えを整えよう
労災保険の遺族年金は、突然の事故や災害によって大切な家族を失ったご遺族の生活を支える大切な制度です。支給を受けるには、業務や通勤との因果関係、生計維持の有無、そして法律で定められた続柄であることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。配偶者以外の遺族には年齢や障害の条件も加わり、すべての遺族が受給できるわけではない点には注意が必要です。
支給される金額は、亡くなった労働者の賃金水準や遺族の人数に応じて計算され、年金に加えて一時金や上乗せ年金が支給されることもあります。制度を理解していれば、必要な資金を確保する選択肢も増えます。また、労災遺族年金は非課税であり、65歳を過ぎても条件を満たせば支給が続くという安心感もあります。
申請手続きはあらかじめ流れを確認しておくことが大切です。いざというときに適切に手続きできるように、制度の内容を正しく理解しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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