• 更新日 : 2025年6月2日

退職までに有給消化できないと言われたら?対応方法や買い取りルールを解説

退職を決めたとき、多くの人が気になるのが「有給休暇をしっかり消化できるのか?」という点です。会社から「有給は取れない」と言われたり、「人手不足だから無理」と拒否されたりすると、不安になりますよね。しかし、有給休暇は労働基準法で認められた権利であり、適切な手続きを踏めば退職前に消化することが可能です。

この記事では、退職前の有給消化に関する基本的なルールや、スムーズに進めるための方法を解説します。退職届の出し方や交渉のコツ、企業の対応についても触れているので、不安なく退職準備が進められるようになります。

退職日までに有給消化できない場合はどうなる?

退職前に有給を消化できなかった場合、未消化分はどうなるのでしょうか?ここでは、基本的なルールと退職後の扱いについて解説します。

有給休暇の基本ルール

有給休暇は労働基準法第39条に基づき、労働者が自由に取得できるものです。基本的には、在職中に消化しなければならず、退職後に繰り越すことはできません。

年次有給休暇(以下「有給」)は、勤務開始から6ヶ月経過し8割以上出勤した労働者に付与される法定の休暇で、以降勤続年数に応じて付与日数が増えていきます。

取得期限は付与日から2年で、それを過ぎると権利が時効消滅する決まりです。有給の取得にあたっては労働者に時季指定権(いつ休むかを指定する権利)があり、基本的に会社は本人が希望した日に休暇を与えなければなりません。

業務の正常な運営を妨げる場合に限り、会社側には「時季変更権」といって別の日に有給を取らせる調整権限がありますが、合理的な理由がない限り会社が有給取得の申請を拒否することはできないのが原則です。

退職日を過ぎると有給は消滅する

有給休暇には時効があり、2年間で消滅します。ただし、退職に伴う有給消化については、退職日までに取得しない限り、未消化分は消滅してしまいます。

有給は在職中の労働日に対して取得する権利であり、退職後はもはや労働する義務がないため、有給を行使することができなくなるからです。

したがって、残っている有給がある場合は退職日までに取得することが必要です。

例えば、退職日までに取得しきれなかった年休は退職と同時に時効消滅するため、退職後に「残った有給を買い取ってほしい」と請求する法的な権利は基本的にありません。

会社によっては未消化分を最終給与で買い取り(手当として支給)するケースもありますが、これは法定の義務ではなくあくまで企業の任意対応です(この点については後述します)。そのため、従業員としては有給を残したまま退職すると単に権利を失ってしまう可能性が高いため、計画的に消化することが大切です。

退職日までに有給休暇を消化するには?

退職前に有給をしっかり消化するためには、計画的なスケジュール管理が必要です。ここでは、適切なスケジュールを立てる方法や申請のタイミングについて説明します。

有給消化のスケジュールを決めるポイント

退職日までに有給休暇を消化するには、まずは自分の有給残日数を確認し、退職日までのスケジュールを組むことが大切です。

まず、自分に残っている有給日数を正確に把握しましょう。その上で、退職までの出勤日数と照らし合わせ、最終出社日をいつに設定すれば有給を使いきれるか逆算します。

会社では、実際の退職日と最終出社日を分けて設定し、最終出社日以降は退職日まで有給消化期間とする方法がよく取られます。例えば「〇月〇日付で退職」という場合でも、〇月△日を最終出社日としてそれ以降の勤務日をすべて有給休暇に充てる、といったスケジュールです。この方法を用いれば、有給残日数が多い場合でも退職日までに計画的に取得できます。

ただし、この方法は退職日まで十分な期間が残っている場合に有効で、期間に余裕がない場合には難しくなります。期間に余裕がない(退職日が迫っている)場合、引き継ぎが終わらなくても法的には労働者の申請通りに有給を取らせざるを得なくなり、結果的に未消化のまま残った有給は退職と同時にすべて消えてしまいます。

そうならないよう、退職の意思はできるだけ早めに伝え、計画的に有給消化の段取りを組むことが望ましいでしょう。

退職届の出し方と有給申請のタイミング

有給休暇をしっかり消化するためには、退職届を早めに提出することが大切です。雇用期間の定めのない正社員であれば、法的には民法の規定で2週間前の通知で退職が可能ですが、一般的に退職の意思は1カ月前までに伝えるのがマナーです。加えて、有給消化の期間を考慮すると、2カ月前には申請しておくのが安心です。

就業規則では「退職の申出は退職希望日の◯日前までに」と定められており、1ヶ月前(30日前)といった期間が規定されていることが多いです。

有給を多く残している場合は、最低限の予告期間よりも早めに退職の意向を伝えることをおすすめします。

例えば有給残日数が20日程度なら、1ヶ月半~2ヶ月前には相談しておくと良いでしょう。まず口頭や書面で退職の意思を伝え、その際に「残りの有給を退職日までに消化したい」旨を併せて相談します。そして会社と最終出社日を含むスケジュールを調整し、了承を得た上で正式に退職届と有給休暇取得の申請書を提出するとスムーズです。

特に退職間際になって突然有給をまとめて申請すると、会社の業務計画に大きな支障をきたす可能性もあります。お互いのためにも、退職まで十分な余裕をもって有給消化の予定を伝えるようにしましょう。

有給が40日残っている場合はどうする?

中には有給が最大日数の40日残っているケースもあるでしょう。結論から言えば、退職時に有給が40日残っている場合でも、その全日数を連続取得することは可能です。

有給休暇は労働者の正当な権利であり、会社がそれを理由なく拒否すれば違法となるため、たとえ40日連続の有給取得であっても認めざるを得ないからです。

もっとも、実際に40日もの長期休暇を取得するとなると、本人・会社双方にとって準備が大変になります。特に業務の引き継ぎや顧客対応などで慌ただしくなることが予想されます。

そのため、有給の40日分すべてを消化したい場合は、退職希望日の3ヶ月前までを目安に退職の意思と有給取得計画を伝えるなど、通常以上に早め早めの行動が必要です。

会社側からすれば、いきなり「来月いっぱい有給消化します」と言われると対応しきれないため、3ヶ月前に申し出ておけば引き継ぎ期間(1ヶ月程度)+有給消化期間(2ヶ月程度)というスケジュール調整もしやすくなります。

また、40日すべてを一度に使うことにこだわりすぎず、状況によっては有給消化を分割し、例えば20日ずつ2回に分ける、あるいは飛び石的に休むことも検討しましょう。どうしても40日連続取得が難しそうな場合は、「最大何日までならまとめて取得できるか」を会社に相談し、互いに納得できる着地点を探ることも円満な解決策の一つです。

退職前に有給休暇を申請するときの言い方

有給を申請するとき、会社側とのトラブルを避けるための言い方や交渉のポイントを押さえておくことが大切です。

トラブルにならない交渉のポイント

有給消化を申請するときは、トラブルを避けるために、会社の立場も考慮した伝え方を心がけましょう。

権利だからといって高圧的な態度で「有給を消化します」と一方的に通知すると、職場での人間関係がぎくしゃくしたり不要なトラブルを招いたりしかねません。円満に有給消化を認めてもらうために、以下のポイントを押さえて上司や人事担当者と交渉しましょう。

  • 早めに相談する姿勢を持つ: 退職の意思を伝えるタイミングで、「有給が◯日残っているので退職日までに消化したいと考えています」と早期に相談するようにしましょう。事前に伝えることで会社側も引き継ぎ計画を立てやすくなり、協力を得やすくなります。
  • 業務への配慮を示す: 単に「休みます」ではなく、「引き継ぎや残務整理は責任を持って行います。その上で残っている有給を取得させていただけないでしょうか」というように、会社やチームへの配慮も一言添えます。「業務に支障が出ないよう調整しますので…」といったクッション言葉を使うと印象が柔らかくなるでしょう。
  • 自分の権利であることも認識してもらう: 丁寧にお願いする姿勢は大切ですが、自分の有給取得が法律で保障された正当な権利であることも相手に理解してもらう必要があります。「法律上認められている権利ですので、可能な限り取得させていただきたく存じます」といった表現で、自身の要望が無理なお願いではないことを示しましょう。
  • 会社側の都合もヒアリングする: 上司や人事が有給消化に難色を示す場合、その理由や懸念点を尋ねてみましょう。例えば「業務のこの部分が心配だ」など具体的な不安があれば、「では〇月〇日までは出社して対応し、その後残りの〇日を有給取得させていただくことは可能でしょうか?」というように、代替案を提案できます。相手の立場を尊重しつつ解決策を一緒に考える姿勢が大切です。

上司や人事とのスムーズな話し合いのコツ

上司や人事とスムーズに話を進めるためには、事前に相談し、引き継ぎ計画を立てておくことが大切です。

まず、上司に相談する際は落ち着いた口調で、「お忙しいところ恐れ入りますが、退職に関してご相談したいことがあります」と切り出し、面談の機会をもらいましょう。

面談では以下のような段取りで話を進めるとスムーズです。

  1. 退職の意思と感謝の気持ちを伝える:
    例:「◯月末で退職を考えております。これまで大変お世話になり、ありがとうございます。」
  2. 有給消化の希望を伝える:
    例:「おかげさまで有給休暇が◯日ほど残っておりまして、退職までにできる限り消化したいと考えております。」
  3. 業務引き継ぎへの協力姿勢を示す:
    例:「◯月◯日までは出社して、後任への引き継ぎや残務整理に努め、その後は有給休暇を充てる形にできればと考えています。チームに迷惑をかけないよう調整いたします。」
  4. 相手の了承・意見を伺う:
    例:「このような形で進めさせていただいてよろしいでしょうか。ご都合やご要望があれば教えてください。」

このように段階を踏んで話すことで、上司や人事担当者も安心感を持って話を聞くことができます。重要なのは、自分の権利主張と会社への配慮のバランスです。しっかりと権利は主張しつつも、会社側の立場への理解を示すことで、双方が納得しやすい合意点を見出すことができるでしょう。

有給消化を申請する際の会話例

実際のやり取りのイメージを掴むために、いくつか具体的な会話例を紹介します。

  • ケース1: 上司が快諾してくれる場合
    社員:「退職までに残りの有給休暇◯日をできれば消化させていただきたいと考えています。引き継ぎは計画的に進めますので、ご協力いただけますでしょうか。」
    上司:「わかりました。引き継ぎに支障が出ないよう段取りしてくれれば問題ありません。」
    →このように上司が理解を示してくれれば理想的です。感謝の意を伝え、速やかに引き継ぎ計画を共有しましょう。
  • ケース2: 上司が難色を示す場合
    社員:「有給休暇の消化を考えているのですが…」
    上司:「今ちょうど忙しい時期で、人手が足りないんだ。全部消化されると正直困る。」
    社員:「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。私もできる限り対応してから退職したいと考えています。たとえば、◯月◯日までは出社して対応し、その後残りの◯日を有給取得させていただくことは可能でしょうか?」
    上司:「そうしてもらえると助かる。では◯日までは来てもらって、引き継ぎ完了を確認した上で残り有給を取ってもらおう。」
    →会社の懸念点(人手不足)に対し、妥協案を提案した例です。忙しい時期であれば一部出勤して対応することで、会社側も受け入れやすくなります。
  • ケース3: 有給の買い取り提案があった場合
    上司:「正直、全部休まれると業務が回らない。出勤してくれるなら残った有給分は買い取り(手当支給)でも構わないが…」
    社員:「ご提案ありがとうございます。では◯日までは出社し、残りの日数については買い取っていただけますと助かります。」
    上司:「わかった。最終出社日を◯日に変更しよう。残り◯日分は最終給与で支払うから。」
    →会社から有給未消化分の買い取りを提案されるケースです。法律上、有給の買い取りは原則禁止されていますが、退職時に消化しきれない分を双方合意の上で買い上げることは実務上行われており、法的にも問題ありません。社員としては書面で買い取りの約束をもらうなど、確実に支払われる形を確認してから合意しましょう。

以上のように、ケースに応じて柔軟に対応しつつも、自分の有給取得の権利を守ることが大切です。特に交渉が難航しそうな場合は、人事部とも直接話をする機会を設け、会社として統一的な対応を取ってもらうよう働きかけるとよいでしょう。

退職時に「有給消化できない」と言われたら?

会社によっては、有給消化を認めないケースもあります。ここでは、そのような場合の対処法を解説します。

人手不足を理由に拒否される場合

残念ながら、中には会社側が「人手が足りないから有給を取らせられない」と言われることがあります。しかし、業務の都合だけでは有給休暇を拒否する理由にはなりません。

労働基準法上、退職が決まっている労働者に対してはもはや別の時期に有給を振り替えることができないため、会社の時季変更権は行使できないと解されています。

極端な言い方をすれば、退職予定日までの残り期間すべてを有給消化に充てると労働者が申し出た場合でも、会社は法的にはこれを認めざるを得ないのです。引き継ぎが「有給消化後の退職日までに終わらない」という事態になったとしても、それを理由に有給取得を諦めさせることはできません。

したがって、人手不足を理由に有給消化を拒否された場合は、まず法律上会社にそのような拒否権限はないことを認識しましょう。先述の通り、会社側にできるのはせいぜい時季変更(別の日に振替)をお願いすることですが、退職まで日がない場合はそれも不可能です。

どうしても現場が回らないというなら、退職日自体を延ばす相談(退職の延期)を持ちかけられる可能性もあります。しかし、退職日を延長するかどうかは労働者の自由であり強制はできませんし、延長に同意しない限り会社は予定通りの退職日までに有給を取得させる義務があります。

現実的には、社員が退職前に有給消化することで一時的に職場が人手不足になる事態もありえます。その場合、会社は派遣社員や他部署からの応援、残業の調整などで乗り切るしかなく、労働者個人にその負担を押し付けることはできません。「忙しいから有給は認めない」と言われても、それは法的には通用しないことを覚えておきましょう。

有給休暇の買い取り

有給休暇の買い取りについても触れておきます。法律上、年次有給休暇は「休ませること」が目的の制度であり、権利が残っている状態で金銭に替える(買い取る)ことは原則として禁止されています。例えば「有給を使わずに残したら会社がお金に換えてくれる約束をする」といった取り決めは無効で、会社は労働者に有給を与えない代わりにお金を払うということはできません。

しかし、例外的に退職時に消化しきれなかった有給を買い取ること自体は違法ではないと解されています。なぜなら、労働者が在職中に自由に有給を取得できる状況であった上で結果的に残った分を金銭補償するのであれば、労働者に不利益は生じないと考えられるためです。

そのため、会社から「出勤してくれるなら未消化の有給は買い取る」と提案されるケースもあります。労働者としてその提案を受け入れるかどうかは自由ですが、注意したいのは会社が一方的に買い取りを強制することはできないという点です。

買い取りに同意せず「やはり有給を消化したい」という場合、会社はそれを拒めません。一方で、自分としては休みよりお金が欲しい、退職まで出社して最後まで責任を果たしたい、といった希望がある場合には、買い取り提案に応じるのも一つの選択肢です。

その際は、何日分の有給をどのような計算方法で買い取るのか(通常は日給換算で支給されることが多いです)、その支払いがいつ行われるか(最終給与と一緒に支払われるケースが多い)といった点を明確にしてもらいましょう。

口頭だけでなく書面やメールで確認し、証拠を残しておくと安心です。

労働基準監督署や専門家へ相談する

会社が有給消化をどうしても認めない、買い取りにも応じてくれない、といった場合には、労働基準監督署や労働問題に詳しい専門家へ相談することを検討しましょう。

有給休暇の取得申請を理由なく拒否したり、取得を理由に不利益な扱いをしたりする行為は労働基準法違反に該当します。

そのため、最寄りの労働基準監督署に相談・申告することで行政指導などの対応を求めることができます。労働基準法違反の疑いがある場合、労働基準監督署は会社に是正勧告や指導を行うことが可能です。是正勧告や指導に法的な強制力はありませんが、多くの場合会社側も監督署から指摘を受ければ従わざるを得ません。

企業が注意すべき有給休暇の買い取りルール

企業が有給休暇の買い取りを行う場合、適切な手続きと金額の設定が必要です。

原則はあくまで「有給を取得させること」

企業は、従業員に有給を取得させる義務があります。買い取りは特例的な対応と考え、できるだけ取得できるように調整することが求められます。

労働基準法第39条は「年次有給休暇を与えなければならない」と規定しており、金銭をもって有給を与えたことに代えることはできません。

有給休暇制度の趣旨は労働者に休息を取らせることにあり、単に金銭補償することでは労働者の心身のリフレッシュという目的を果たせないためです。

このため、企業としては退職時であっても基本的には残っている有給休暇をすべて取得させる方針で臨むべきです。

2019年の法改正で導入された年5日の有給取得義務も踏まえ、従業員が有給を適切に消化できるよう日頃から取得を促進することが望まれます。退職の間際になって有給が大量に残っている事態を避けるため、日常的に有給取得を奨励したり計画的付与制度を活用したりすることも検討すべきでしょう。

有給休暇の買い取り金額と方法

退職時の有給の買い取りが例外的に認められる場合でも、その金額や支払い方法について法令上の細かな規定はありません。そのため、企業の裁量で金額を決めることになりますが、一般的にはその従業員の「有給1日当たりの賃金相当額×日数」をベースに算定するケースが多いでしょう。

仮に法定以上の上積み有給(会社が独自に付与している有給)が残っている場合は、それについて買い取りを行うことは法に抵触しません。買い取り分の支払いは最終給与とまとめて支給するか、退職手当的な扱いで別途支払うか、会社によって様々です。社会保険料や税金の扱いも絡むため、就業規則や退職時の精算手続に則って適切に処理してください。

従業員の希望に沿う形で

退職時の有給消化について企業としては、できる限り従業員の希望を尊重することが望ましいでしょう。労働者が「有給を全部使い切ってから辞めたい」と望むのであれば、そのための引き継ぎ計画を立てて最後の有給取得を気持ちよく送り出してあげるのが理想的です。

逆に、労働者側が「できるだけ出勤して会社に貢献したい、その代わり有給分はお金で補填してほしい」と希望するなら、法に反しない範囲でその意向を汲んであげる柔軟さも必要です。

企業にとって退職者は“去っていく人”ではありますが、最後の対応次第で会社に対する印象や残る社員へのメッセージが大きく変わります。

退職者の有給消化の希望を無下に扱えば、残った社員にも「この会社は辞めるとき冷たい」という不信感を与えかねません。一方、本人の希望に沿って有給消化を気持ちよく認めてあげれば、退職者から感謝されるだけでなく周囲の社員にも良い影響を与えます。

「立つ鳥跡を濁さず」の精神で、会社側も円満退職をサポートする姿勢が大切です。

退職者が有給消化に入る前に企業でやるべきこと

退職者が有給消化に入る前に、企業側でやっておくべき業務整理のポイントをまとめます。これは引き継ぎを円滑に行い、退職者にも安心して有給消化してもらうために重要なステップです。

  1. 引き継ぎ計画の策定: 退職の申し出を受けたら速やかに引き継ぎ計画を立てます。残された期間でどの業務を誰に引き継ぐのか、引き継ぎ方法(文書化、口頭説明、OJTなど)を明確にしましょう。可能であれば退職者本人に引き継ぎ計画の作成を依頼し、上長がそれを確認・補完する形が望ましいです。
  2. 最終出社日と引き継ぎの完了目標: 有給消化に入る前日までにすべての引き継ぎが完了するよう、逆算してスケジュールを組みます。先述の通り、最終出社日を設定する場合には、その日までに業務の棚卸しと申し送りを終える必要があります。新担当者やチームメンバーとのミーティング機会を設け、必要な情報共有が漏れなく行われているか確認しましょう。
  3. ドキュメント類の整備: 退職者が担当していた業務に関するマニュアルや手順書、顧客リスト、進行中プロジェクトの資料などを整理・更新してもらいます。口頭の引き継ぎだけでは後から不明点が出る恐れがあるため、できる限り文書に残させることが重要です。特に長期の有給に入られる場合、途中で質問できなくなるため、書面やデータでの引き継ぎ資料は必須と言えます。
  4. 関係者への周知: 引き継ぎ対象の社内メンバーだけでなく、取引先や関係部署にも退職者の最終出社日と後任担当者を周知します。退職前に顧客挨拶や社内挨拶を済ませておくことで、退職者が有給消化に入った後の問い合わせや混乱を防げます。
  5. 残務と権限の整理: 退職者が有給消化中に残る可能性のある業務(請求書処理や定期報告など)がないか洗い出し、あれば事前に対応しておくか代替者を決めておきます。また、有給消化開始前に会社のPCやメールアカウント、社内システムの権限移譲や停止準備も行っておきましょう。退職日を迎えた後に慌ててアカウント削除や備品回収をすることのないよう、最終出社日までに退職手続をほぼ完了させておくことがポイントです。

以上のような手順を踏むことで、退職者が安心して有給消化期間に入ることができ、残された社員も「何をしたらいいかわからない」「引き継ぎが不十分」といった混乱を避けられます。

会社としては、就業規則に退職時の引き継ぎ義務を明記して周知しておくことも有効です。そうすることで従業員も引き継ぎは自分の責任だと認識し、最後まで誠実に業務を遂行してから有給に入ってくれるでしょう。

退職時の有給消化をスムーズに進めるために

退職前の有給消化は、労働者の大切な権利です。スムーズに進めるためには、早めに計画を立て、会社と話し合いをすることがポイントです。

計画的にスケジュールを組む

退職時の有給消化をスムーズに進める最大のポイントは計画性です。従業員側は、退職日から逆算して「何日出勤し、何日有給を消化するか」を早めにシミュレーションし、上司や人事に提案できるよう準備しましょう。

会社側も、退職の相談を受けた段階で有給残日数の確認を行い、退職日と最終出社日の設定を含めた対応策を速やかに検討します。

長期の有給消化になりそうな場合は特に、お互い認識の違いがないようスケジュールを文書化して共有すると良いでしょう。

「思ったより引き継ぎに時間がかかり、退職日が延びてしまった」という事態を避けるためにも、余裕を持った計画を立てることが重要です。

コミュニケーションを密に取る

退職を申し出てから実際に退職するまでの間、上司・同僚・人事との十分なコミュニケーションを心がけます。計画の変更や業務上の懸念が生じた場合はすぐに共有し、柔軟に対処しましょう。会社側も退職者に対して定期的に進捗確認や声かけを行い、誤解や漏れがないようにします。

最後に、退職時の有給消化を円満に進めるためのポイントを改めて整理します。従業員にとっても企業にとっても、退職はお互いの関係を円満に締めくくる大切なプロセスです。有給消化をめぐって不必要なトラブルを起こさないよう、以下の点に留意しましょう。

会社の状況を踏まえて調整する

会社には業務の引き継ぎなど、出勤してほしい事情がある場合があります。会社側の都合を説明し、無理のない範囲で協力を求めると、スムーズに進みやすくなります。

「お客様対応のため◯日だけ出てきてもらえると助かる」といった具体的なお願いをするのが建設的です。退職者が協力してくれた際には、感謝の意を伝えましょう。

以上の点を押さえておけば、退職時の有給消化も決して怖いものではありません。計画的な準備と誠実な話し合いにより、従業員は自分の権利をしっかり行使して晴れやかな気持ちで次のステージへ移り、企業側も円満に社員を送り出すことができるでしょう。

退職という節目をスムーズに乗り越えるために、ぜひ本記事の内容を参考にしてみてください。


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