- 更新日 : 2025年1月20日
有給休暇を取らせないのはパワハラ?有給をめぐる疑問をまとめて解説
有給休暇の取得を拒否する行為はパワハラや違法行為にあたる可能性があるため、十分に注意が必要です。一方で、状況によっては有給休暇を取得させることが難しいケースもあります。
本記事では有給休暇に関連するパワハラの事例や、取得を断ることができるケースについて見ていきましょう。
目次
有給休暇を取らせないのはパワハラ?
結論から言うと、有給休暇の取得を拒否する行為は、パワハラに該当する可能性が十分にあります。そもそもパワハラとは以下の全てを満たす言動のことです。
- 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
- 労働者の就業環境が害される言動
有給休暇の取得は労働者に認められた正当な権利です。管理職が有給休暇の取得を拒み、その労働者が苦痛を感じた場合、パワハラ扱いとみなされるでしょう。
また、労働基準法第39条では、使用者は労働者に対して有給休暇を与えることを義務付けています。
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
さらに、労働基準法第109条によると有給休暇を拒否した場合、パワハラに該当するのはもちろん、違法行為とみなされ使用者に6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という重い刑罰が科せられる可能性もあります。
時季変更権を行使できる条件
有給休暇の取得を拒む行為はパワハラや労働基準法違反行為に該当する可能性があります。一方で、会社側の事情があって有給休暇を取得させることが難しい状況もあり得るでしょう。そこで、使用者側には有給休暇を取得する時季を変更させることができる、「時季変更権」という権利が認められます。これは前述の労働基準法第39条の5項に定められています。
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
例えば、労働者が有給休暇の取得を申請した場合、以下のような場合には、時季変更権が認められることがあります。
- 代替要員を確保することが難しい場合
- 同時期に複数名の有給休暇の取得申請者があり、全てを認めると事業に支障をきらす出る場合
- 労働者が事前に調整せず長期の有給休暇の取得を申請した場合
- 研修など他の労働者では代替できない場
- 退職前の引き継ぎなどが十分に完了していない場合
単に「繁忙期だから」「できればこの日はいてほしい」という理由では、時季変更権は認められません。会社が代替要員を確保するなど事業が回るよう努めたうえで、それでも当該従業員に出勤をお願いしなければならないといった場合にのみ時季変更権が行使できるのです。
有給休暇を取得する理由を聞いたらパワハラ?
有給休暇を取得する理由を尋ねる行為に関しては、ただちにパワハラに該当するとはいえません。話の流れで理由を聞くケースもあれば、時季変更権を行使するかどうか判断するために理由を把握しなければならないケースもあり得ます。
ただし、労働者はいかなる理由であっても有給休暇を取得する権利があり、理由を回答する義務はありません。執拗に、あるいは高圧的に有給休暇を取得する理由を尋ねて労働者が苦痛に感じた場合、パワハラに該当する恐れは十分にあります。
労働者が萎縮して有給休暇が取得しづらくなる雰囲気を醸成してしまうことにもつながるため、有給休暇の申請があっても不用意に理由を聞くのはあまり好ましいこととはいえません。
理由を聞いて有給休暇の取得を拒否したらパワハラ?
前述の通り、労働者はどのような理由で有給休暇を取得しても問題ありません。「旅行したい」「友人と遊びに行きたい」「疲れたから休みたい」というような理由でも有給休暇を取得することができます。基本的に全労働者が有給休暇を取得する権利を持っているのです。
理由を聞いたうえで有給休暇を取得させないという行為は、労働基準法第39条に違反する恐れがあるほか、これによって労働者が苦痛を感じた、就業環境を害されたと感じたら、パワハラ扱いになります。
ただし、時季変更権の行使をするために、例えば、上司が部下に「遊びに行く予定を延期してくれないか」と交渉する分には、ただちにパワハラや違法行為には該当しないと考えられるでしょう。
有給休暇の取得回数を理由に評価を下げたらパワハラ?
有給休暇の取得申請をしてきた、有給休暇の取得回数が多いなどの理由で評価を下げたり減給したりするケースは、パワハラや違法行為とみなされる可能性が非常に高いでしょう。労働基準法第136条では有給休暇を取得した従業員に対して不利益となる取り扱いをしないよう明確に定められています。
使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
引用元:労働基準法|e-GOV法令検索
退職者の有給消化を認めないのはパワハラ?
退職する従業員の有給消化を認めない行為も、パワハラや労働基準法第39条違反に該当する可能性があります。一方で、後任者への引き継ぎが不十分だと事業に支障をきたすこともあるため、引き継ぎを理由に時季変更権を行使することは認められる可能性はありますが、取得を拒否することはできません。
また、有給休暇の買い取りは原則としてできませんが、退職時に消化しきれなかった場合は例外として有給休暇の買い取りが認められる場合もあります。
従業員が退職する際は、有給消化も踏まえて引き継ぎや退職日などのスケジュールを調整しましょう。
有給休暇を取らせないのはパワハラや違法行為に該当する可能性大
有給休暇の取得は労働者に認められた正当な権利であり、いつでも・いかなる理由でも取得することが可能です。原則として企業は有給休暇の取得申請があった際に、それを拒否することはできません。
有給休暇を取らせない、取得する理由を必要以上に尋ねる、有給休暇の取得を理由に評価を下げるなどの行為はパワハラや労働基準法違反に該当する恐れがあるため、細心の注意を払いましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
外国人雇用の手続きは行政書士に任せるべき?依頼するメリットや費用を解説
外国人を雇用するにあたって、在留資格の取得・更新など、さまざまな手続きが必要です。これらの手続きを誤ると、雇用がスムーズに進まないだけでなく、法的リスクを伴う可能性もあります。 本記事では、外国人雇用の手続きを行政書士に依頼するメリットや費…
詳しくみるアルバイトにも労働基準法が適用!労働条件や違反となる事例を解説
人手不足の昨今において、アルバイトは貴重な労働力となります。アルバイトは好きな時間や曜日に働けるため、労働者側にとってもメリットのある形態です。しかし、アルバイトを雇用する企業のなかには、知らぬ間に労働基準法に違反している場合も少なくありま…
詳しくみるバーチャルオフィスとは?費用の目安や選び方、開業・法人登記時の注意点
バーチャルオフィスとは、住所を借りて郵便物の受け取りを代行してもらうような、会社運営に必要なオフィス機能を利用できるサービスをいいます。法人登記や法人口座開設の際に住所を利用できるケースもあり、ビジネスの規模・目的に合わせて選ぶことが可能で…
詳しくみる展示会報告書・レポートの書き方は?例文・無料テンプレートつき
展示会報告書・レポートは、展示会参加の成果を効果的に共有し、ビジネスに活かすための重要なツールです。ただし、適切な書き方や必要な記載事項を把握していないと、その価値を十分に引き出せません。 本記事では、展示会報告書の作成方法、ポイント、注意…
詳しくみる外国人雇用契約書の作成ポイントや注意点をテンプレート付きで解説
外国人雇用後のトラブルを防止するためにも、契約書を正確に作成することが必要です。しかし、外国人雇用契約書の内容や作成方法がわからず悩む人もいるでしょう。 この記事では、外国人雇用契約書の作成ポイントや注意点を解説します。テンプレートも併せて…
詳しくみるMOOCとは?世界で注目の無料講座!メリット・デメリットを解説
MOOC(Massive Open Online Courses:ムーク)とは、オンライン学習サービスです。居住国や年齢、言語が異なる多様な学習者が集まり、無料で大学の講義を受けます。また、学習者同士が教え合い、議論できる掲示板がある点も特…
詳しくみる