- 更新日 : 2024年12月13日
産前産後休暇は有給・無給?有給休暇は使える?もらえるお金を解説
出産前や出産直後の状態で、働くことが容易ではなく、出産費用などを賄うことが困難な方もいるでしょう。しかし、無理に働いて体調を崩し、悪影響が出ては元も子もありません。出産費用や出産後の生活支援、母体保護のための制度として、産前産後休業や出産手当金などが存在します。当記事では、産前産後休暇ともらえるお金などについて解説します。
目次
産前産後休暇とは?出産日は産前産後どっち?
「産前産後休業」とは、労働基準法によって定められた母体保護のための休業制度です。「産前休業」と「産後休業」の2つから構成されており、それぞれの休業期間は以下の通りです。
産前休業 | 出産予定日の42日前から取得可能(多胎妊娠の場合は98日) |
---|---|
産後休業 | 出産日翌日から56日間取得可能 |
産前休業は、労働者の請求がなければ、取得させる必要はありません。しかし、産後休業は、請求の有無を問わず、絶対的に就業させることが禁止されています。ただし、産後6週間(42日)を経過した場合であって、労働者が請求し、医師が就業に支障がないと判断した場合には、就業可能となります。
出産日は産前産後どっち?
出産日当日は、産前休業期間に含まれます。つまり、出産日当日を含めて、42日間が産前休業期間です。産前休業の期間は、後述する出産手当金の計算にも関わるため、誤りがあってはなりません。産前休業の期間は、現実の出産日を基準とするため、人によって異なると覚えておきましょう。
出産が早まったり遅れたりした場合は?
現実の出産日は、出産予定日の通りではありません。むしろ、出産が早まったり遅れたりするのが通常でしょう。出産が早まったり遅れたりした場合には、現実の出産日を基準として産前休業期間が計算されます。そのため、出産が遅れた場合には、産前休業期間が伸びることになりますが、早まった場合には期間が短縮されることになります。
一方、産後休業期間は、現実の出産日翌日から56日間であるため、出産が早まったり遅れたりした場合でも日数に変動はありません。
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産前産後休暇は有給・無給?
多くの企業では、産前産後休業期間を無給として定めています。もっとも、産前産後休業期間中の給与については、企業が自由に決定可能です。そのため、なかには、期間中に一部や全部の給与を支払う企業も存在します。
企業が、産前産後休業期間中の給与を支払わないと定めているのは、ノーワークノーペイの原則からいっても当然のことです。しかし、支払われない理由は、ノーワークノーペイの原則によるものだけではありません。産前産後休業期間中に給与を支払ってしまうと、後述する出産手当金が不支給となる場合があるのです。せっかく給与を支払っても、手当金が受給できないのでは支払う意味がありません。そのため、多くの企業で産前産後休業期間中を無給と定めています。
産前産後休暇にもらえるお金
産前産後休業期間中は無給とする企業が多いものの、休業期間中の生活を支援するための制度が存在します。ここでは、産前産後休業期間中に支給されるお金について解説します。
出産手当金
「出産手当金」は、健康保険法に基づいて支給される手当金です。出産前後の生活を支えるための制度であり、休業期間中の所得喪失や減少を補います。なお、会社員等の勤め人が加入する健康保険でなければ支給されないため、自営業者等の国民健康保険加入者は受け取れません。
出産手当金は、出産の日(予定日後の出産であれば予定日)以前42日間と、出産日後56日間の就業していない期間について支給されます。出産日は、産前に含まれるため、出産が遅れた場合には、その日数分についても出産手当金が支給されます。期間の考え方は、産前産後休業期間と同様です。そのため、出産が早まった場合には、日数が短縮されることになります。なお、期間中に事業所の公休日が含まれる場合には、その日も含めて出産手当金が支給されます。
出産手当金の支給額は、1日につき、支給開始日以前12か月間の各月における標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する金額の3分の2です。おおむね、月給を日給換算した額の3分の2程度であると考えてよいでしょう。出産手当金の支給額を式にして表すと、以下のようになります。
すでに述べた通り、休業期間中に全部または一部の給与を受けていた場合には、出産手当金を受給できません。ただし、支払われた給与の額が、出産手当金の額より低い場合には差額が支給されます。
出産手当金は、会社と従業員のどちらでも申請可能です。一度に産前産後休業期間中の全てを申請することも、産前分と産後分に分けて申請することもできます。ただし、従業員が申請する場合でも事業主の証明が必要となるため、はじめから会社に申請を依頼した方がよいでしょう。なお、分割して申請する場合には、申請の度に証明が必要です。
出産育児一時金
出産手当金のほかにも、出産時に支給される「出産育児一時金」の制度が存在します。出産育児一時金は、出産手当金同様に健康保険の制度です。出産のための費用を補助し、経済的負担を軽減することを目的としています。なお、出産育児一時金は、出産手当金と異なり、国民健康保険の加入者にも支給されます。
出産育児一時金は、妊娠4か月(85日)以降の出産であれば支給されます。早産や死産、流産、人工妊娠中絶等を問いません。多胎分娩の場合には、胎児数に応じて支給されます。
出産育児一時金の支給金額は、50万円です。ただし、これは産科医療補償制度に加入する医療機関等での出産の場合となります。条件を満たさない場合には、48万8千円が支給されます。海外で出産した場合にも出産育児一時金は支給されますが、出産した国の発行する証明書や和訳などが必要です。
出産育児一時金を受け取る方法には、直接協会けんぽなどの健康保険から医療機関等に出産育児一時金を支払う「直接支払制度」が存在します。この方法を利用する場合には、医療機関等が手続きを行うため、受け取るために特別の手続きは不要です。
出産育児一時金の受け取り後、改めて医療機関等に出産費用を支払う必要がないため、多くの場合は、直接支払制度が利用されています。ただし、医療機関等に支払われることを希望せず、自分が直接受け取りたい場合には、申請書等を健康保険に提出しなければなりません。
自治体や健康保険組合独自の制度
自治体が出産に対する独自の助成を行っている場合もあります。たとえば、横浜市では「出産費用助成金」の制度を設けています。出産した子ひとりにつき、最大9万円が支給される制度です。他にも、茨城県境町では「出産祝金」として、第一子に3万円、第二子に5万円、第三子以降に10万円を支給しています。自分が住んでいる自治体に、同様の制度がないか調べてみるとよいでしょう。
協会けんぽではなく、健康保険組合に加入している場合には、組合独自の「付加金」制度が設けられている場合もあります。たとえば、パナソニック健康保険組合では「出産手当金付加金」の制度を設けています。1日について、標準報酬日月額の30分の1相当額の85%に相当する額から、出産手当金の額を控除した額が支給される仕組みです。このような本来の給付に上乗せする付加金制度は、健康保険組合で多く見られます。
参考:
出産手当金 出産で仕事を休んだとき|パナソニック健康保険組合
産前産後休暇に有給休暇は使える?
有給休暇は、労働義務のある日にのみ取得可能です。つまり、会社が休みと定めている日に有給休暇を取得することはできません。では産前産後休業期間についてはどうなるのでしょうか。
産前休業は、請求した場合にのみ有給休暇を取得できます。産前休業を請求していないのであれば、その期間中に有給を取得可能です。しかし、産前休業を請求した後は、その期間中の労働義務が消滅するため、有給は取得できません。有給休暇を消化したい場合には、産前休業の請求前に行いましょう。一方の産後休業は、請求の有無を問わず、絶対的に就業不可(医師によって支障がないと認められた6週間経過後除く)のため、有給休暇を取得する余地はありません。
産前休暇に有給休暇を申請する時の注意点
本来は産前休業が取得できる期間であっても、休業を請求しなければ通常通り勤務することになります。通常通りの勤務を行うため、期間中の有給休暇も取得可能です。ただし、その場合には、いくつかの注意すべき点があるため紹介します。
有給休暇と出産手当金は併用できない
出産手当金は、産前産後休業期間中の給与が受けられない日を支給対象とする制度です。しかし、有給休暇を取得した場合には、その日に給与が支払われることになります。そのため、有給休暇と出産手当金の併用はできません。
産休前に有給休暇を取得しておく
産前産後休業に入れば、その期間中は労働義務が消滅します。労働義務がない日に有給休暇は取得できないため、もし期間中に取得したいのであれば、休業に入る前に申請し、取得しなければなりません。
産休の申請後に有給休暇への振り替えはできない
産前休業を取得すれば、期間中の労働義務は消滅するため、事後に有給休暇へ振り替えることはできません。産後休業に関しては、請求の有無を問わない絶対的な就業禁止期間であるため、事後に有給休暇へ振り替えることはもちろん不可能です。
産休でもらえるお金が最大限の組み合わせは?
産前産後休業期間中に出産手当金を受け取り、休業明けに退職しようと考える方も多いでしょう。そのような場合には、産前休業に入る前に有給休暇を消化しておけば、出産手当金に加えて全ての有給休暇を取得できます。
退職後に有給休暇を取得する余地はないため、消化しないまま産前休業に入れば、未消化分を残したまま、休業明けに退職することになります。取りこぼしがないように事前に残っている全ての有給休暇を取得しておきましょう。
ただし、未消化の有給休暇日数によっては、会社に多大な負担を掛けてしまいます。不意打ちのような形で、5日や10日といったまとまった日数の有給休暇を取得すれば、当然人手が足りなくなるでしょう。繁忙期であればなおさらです。有給休暇の取得自体は労働者の権利であり、いつでも自由に可能ですが、繁忙期を避けるなど、ある程度の配慮があったほうがよいでしょう。
産前産後休暇も有給休暇の出勤率の算定に含まれるか
有給休暇は、原則として、入社後半年間における全労働日(労働義務のある日)の8割以上の出勤が付与の条件です。この出勤率の算定においては、休日出勤した日は除かれる一方、早退や遅刻をした日は含まれます。では、産前産後休業期間中は、出勤率にどのように影響を与えるのでしょうか。
有給休暇の付与において、次の日数は出勤したものとして扱わなければなりません。
- 業務上の理由で負傷、または疾病にかかり、療養のため休業する期間
- 育児休業や介護休業を取得した期間
- 産前産後の女性が、産前産後休業を取得した期間
- 有給休暇の取得があった日
上記の期間は、出勤したものとみなされるため、産前産後休業期間や育児休業期間は、有給休暇の付与において欠勤と扱われません。入社直後に出産し、そのまま育児休業に入った場合でも、その期間は全て出勤したものと扱われ、原則通りの日数、有給休暇が付与されることになります。
産休は従業員の負担を減らす大切な制度
出産や育児は、多大な身体的精神的な負担が掛かります。また、出産や育児は、経済的な負担も大きなものとなっています。このような負担を軽減するためには、産前産後休業や出産手当金などの制度を利用することが欠かせません。当記事での解説を参考に、制度への理解を深め、最大限活用できるようにしてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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