- 更新日 : 2024年10月30日
定額減税で手取りが増える?いくら増えるかを解説
近年物価の上昇が続いており、国民の生活は厳しいものとなっています。賃上げを行う企業も多く見られますが、それでも物価の上昇は大きな負担となっており、対策が必要です。
当記事では、物価上昇に伴い増加した国民負担の軽減を目的とする定額減税について解説します。手取りがいくらになるのか気になる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
定額減税で手取りが増える?4万円増えるわけではない?
定額減税は、令和6年度税制改正に盛り込まれたもので、所得税3万円と住民税1万円の合計4万円の減税がその内容です。定額減税の実施により、給与所得者であれば6月以降に支払われる給与や賞与から源泉徴収される税額が減少します。
源泉徴収される税額が減少することになるため、サラリーマンや公務員といった給与所得者にとっては、手取り額が増えることになります。しかし、一度に手取り額が4万円増えるわけではありません。これは、所得税と住民税における減税を行う仕組みの違いや、実施される時期が異なることなどが理由です。
定額減税における所得税と住民税の違い
所得税の場合には、6月以降に支払われる給与や賞与から、順次減額が行われます。たとえば、6月に徴収される所得税が3万円未満であれば、6月だけでなく7月以降も限度額である3万円に達するまで減額され続けることになるわけです。これに対して、6月に徴収される所得税が3万円を超える場合であれば、減税分である3万円を差し引いた額が、給与や賞与から控除されます。
住民税の場合には、6月から徴収を行うわけではありません。住民税の定額減税が行われることで、限度額である1万円を控除した残額が1年間の住民税額となります。控除後の金額が7月から翌年の5月までの11か月間に割り振られ、徴収されることになります。所得税の場合とは異なり、11か月間に分割することで住民税の負担を少しずつ軽くしているわけです。
月次減税事務と年調減税事務
2024年6月以降に支払われる給与や賞与を対象とする源泉徴収税額から、その時点における定額減税額の控除を行う事務を「月次減税事務」と呼びます。月次減税事務では、6月以降最初に支払われる給与等から、減税額を控除し、控除し切れなかった分は、2024年中に支払われる給与等から順次控除していきます。
月々の処理である月次減税事務に対して、年末調整の時点における定額減税額に基づいて、清算を行う処理を「年調減税事務」と呼びます。定額減税では、月次減税事務と年調減税事務のふたつの処理を行うことが必要です。
定額減税の対象者
定額減税は、所得税と住民税という2つの税金を対象としています。しかし、所得税と住民税で減税の対象者が異なるため注意が必要です。
定額減税の対象者は、次の通りです。
- 所得税
2024年度おける納税義務者(所得税)のうち、2024年度合計所得金額が1,805万円以下(給与による収入のみの場合は、2,000万円以下※)の方
※子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受ける場合は、2,015万円以下
- 住民税
2024年度における納税義務者(住民税)のうち、前年度(2023年度)の合計所得金額が1,805万円以下(給与による収入のみの場合は、2,000万円以下)の方
住民税の均等割のみが課税対象となる納税義務者は、定額減税の対象外です。なお、定額減税は日本の国内に住所を有するか、現在まで引き続き1年以上居所を有する「国内居住者」のみを対象としています。そのため、居住者以外の個人となる「非居住者」は、定額減税の対象となりません。
定額減税の対象者は、サラリーマンなどの給与所得者だけではありません。老齢や退職を理由とする公的年金等(確定給付企業年金等を除く)の受給者も対象となります。対象となる公的年金等の受給者も、源泉徴収の対象となる税額から、定額減税分が控除される形で減税されることになります。
なお、定額減税においては同一生計配偶者や、扶養する親族の数に応じて、減税額が変動します。同一生計配偶者等の数は、最初に行われる月次減税事務の時点までに提出された扶養控除等申告書に基づいて把握することが必要です。
実際のところ定額減税で手取り額はいくら増える?シミュレーション
定額減税の額が4万円だからといって、手取り額が一度に4万円増えるわけではありません。では、実際にはどの程度手取り額が増えるのでしょうか。具体例を用いてシミュレーションしてみましょう。
シミュレーションの前に、定額減税における減税額を確認しておきます。定額減税の減税額は、所得税と住民税でそれぞれ以下の通りです。
- 所得税
納税者本人:3万円
同一生計配偶者または扶養する親族:ひとりにつき3万円
※本人および配偶者等のいずれも居住者に限定
- 住民税
納税者本人:1万円
同一生計配偶者または扶養する親族:ひとりにつき1万円
※本人および配偶者等のいずれも居住者に限定
上記の減税額を踏まえて、次項から具体的なシミュレーションを行います。なお、分かりやすく伝えるために、税額などは概算としています。
単身世帯
月収25万円の単身世帯の場合で、シミュレーションしてみましょう。この場合には、所得税が3万円、住民税が1万円の合計4万円が減税されます。
この事例における所得税は5,000円となり、6か月間にわたって限度額である3万円まで減税を受けることが可能です。住民税は年額12万円のため、定額減税分の1万円を差し引いた金額を11か月間均等に割り振ることで、7月から翌年の5月まで月額1万円が徴収されることになります。6月に住民税は徴収されないことから、手取り額は以下のように増加します。
6月:+1万5,000円
7月から11月:+5,000円
12月以降:従来通り(増加なし)
扶養家族2人
月収40万円で夫と妻、子どもの3人による世帯をシミュレーションしてみましょう。納税者本人である夫のほか、妻と子どもはいずれも定額減税における控除額の基礎に含まれると仮定しています。この場合は、所得税が9万円、住民税が3万円の減税です。
この事例における所得税は8,000円となり、12月までの間に5万6,000円の減税を受けることが可能です。しかし、減税分は9万円であり、5万6,000円の控除では、限度額に届きません。このような場合には、控除し切れなかったおおよその金額が、市区町村から給付という形で支給される予定となっています。つまり、今回の事例においては、9万円-5万6,000円=3万4,000円が給付されることになります。
この事例における住民税は、年額が19万2,000円です。年額から減税分である3万円を差し引いた16万2,000円を11か月間均等に割り振った結果、月々の額は約1万4,700円となります。住民税においては、計算結果に100円未満の端数が出た場合には、その分をまとめて7月に徴収します。そのため、徴収額は7月のみ1万5000円となり、それ以外の月は1万4,700円となることに注意しましょう。以上のことから、手取り額は以下のように増加します。
6月:+2万4,000円
7月:+9,000円
8月から12月:+9,300円
翌年1月から5月:+1,300円
※上記額の他に給付額3万4,000円
定額減税についてよくある質問
定額減税は、複雑な制度です。そのため、自社において運用上の疑問が生じることも珍しくありません。定額減税に関して、よくある質問とその回答を紹介します。
定額減税で控除しきれないお金はどうなる?
定額控除は、6月の給与や賞与から控除し切れなかった減税分がある場合であっても、2024年中に支払われる給与等から順次控除される仕組みです。しかし、手取り額のシミュレーションでも示したように、2024年中に控除し切れない額が出てくる場合もあります。このように、2024年中の所得額から定額減税分が控除し切れないと見込まれる場合には、控除し切れないおおよその額が、市区町村から給付される予定です。
また、2024年6月以後、最初に支払われる給与や賞与の支払日以降に、同一生計配偶者や親族等の人数に変更があった場合には、年末調整や確定申告などにおいて、確定した年間所得税額と定額減税額との差額の精算が行われます。
参考:令和6年分所得税の定額減税について(給与所得者の方へ)|国税庁
年度途中で103万円の壁を超えた場合
年収が一定以上になると、自身で所得税を納める義務が発生します。所得税の納付義務発生基準が103万円であることから、これを「103万円の壁」と呼んでいます。この額は、基礎控除の48万円および給与所得控除の55万円の合計額です。
年度の途中で、定額減税の対象となっていた配偶者の収入が103万円を超える場合もあり得ます。このように定額減税期間中において、103万円の壁を越えた場合には、どのように扱うのでしょうか。
配偶者の収入が、年度の途中で103万円を超えた場合には、定額減税はそのまま継続され、年末調整で修正を行うことになります。この場合においては、配偶者の勤務先で実施する年末調整で、定額減税処理がなされます。2024年6月時点で決定された定額減税額は、年末調整まで変更できないことに注意が必要です。
6月2日以降に入社した場合
定額減税は、2024年6月1日時点において、給与支払者のもとで勤務する方のうち、源泉徴収税額表の甲欄の適用を受けることになる居住者を対象とした制度です。そのため、6月2日以降に入社した方は、月次減税額の控除を受けることはできず、年末調整における処理が必要です。また、年末調整の対象とならない方は、確定申告において清算する必要があります。
再就職をした場合
2024年6月1日時点で、他の給与支払者のもとで勤務していた方が、再就職をする場合も考えられます。このような場合においては、主たる給与を受けることになった再就職先の年末調整時に、清算を行うことが必要です。元の勤務先における減税額と、再就職先の年末調整時において算出される額に過不足がある場合には、このときに清算します。
なお、2か所以上から給与を受けている場合は、主たる給与の支払者のもとでのみ定額減税が控除されます。従たる給与の支払者のもとでは行われないことに注意してください。
定額減税を理解し正しい給与計算を
手取り額の増減は、従業員にとって大きな関心事です。物価上昇が続くなかで、手取り額が増えれば仕事へのモチベーションも高まるでしょう。また、手取り額の基礎となる給与計算自体に誤りがあるようであれば、会社への信頼が低下する恐れもあります。当記事を参考として、複雑な定額減税制度を理解し、正確な給与計算に役立ててください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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