• 作成日 : 2025年6月13日

特定子会社とは?子会社との違いや異動ですべきことを解説

M&A(合併・買収)やグループ経営を進める上で、関与する会社間の関係性を正確に理解することは、法務・財務・税務の各側面から極めて重要です。特に「特定子会社」という用語は、日常的に耳にする機会は少ないかもしれませんが、金融商品取引法に基づく開示義務など、特定の法規制と密接に関連しています。

この記事では、特定子会社とは具体的にどのような会社を指すのか、しばしば混同されがちな「子会社」や「関連会社」といった他の会社形態とどう違うのか、そしてM&Aのプロセスやその後のグループ運営において、どのような点に注意し、対応すべきなのかを解説していきます。

特定子会社とは?

「特定子会社」とは、特定の種類の会社を指す名称ではなく、親会社にとって特に規模が大きい、または経営への影響力が大きい子会社を識別するための「区分」です。具体的には、有価証券報告書を提出している親会社(提出会社)にとって、その子会社が以下のいずれかの基準に該当する場合に、「特定子会社」として扱われます。

  1. 売上高または仕入高の基準:
    子会社の、親会社に対する売上高の合計額が、親会社の仕入高の合計額の10%以上を占める場合。
    または、子会社の、親会社に対する仕入高の合計額が、親会社の売上高の合計額の10%以上を占める場合。
  2. 純資産額の基準:
    親会社の最近事業年度の末日における子会社の純資産額が、親会社の純資産額の30%以上に相当する場合(ただし、親会社自身が債務超過である場合を除きます)。
  3. 資本金または出資の額の基準:
    子会社の資本金の額または出資の額が、親会社の資本金の額の10%以上に相当する場合。

重要な点として、特定子会社は特別な設立手続きを経て「なる」ものではなく、既存の子会社が上記の財務基準のいずれかを満たした結果として「該当する」という性質を持っています。したがって、M&Aによって新たに取得した会社がこれらの基準を満たす規模であれば、その会社は取得時点から特定子会社として扱われることになります。

また、「特定子会社」と名前が似ているために混同されやすいのが「特例子会社」(とくれいこがいしゃ)ですが、これは全く異なる概念です。特例子会社は、障害者の雇用を促進し、その安定を図ることを目的として設立される子会社です。障害者の雇用数や比率、親会社との人的関係の緊密さ、障害者の雇用管理を適正に行う能力などの一定の要件を満たし、厚生労働大臣の認定を受けることで特例子会社となります。特定子会社が財務的な重要性に着目した区分であるのに対し、特例子会社は障害者雇用の促進という社会的な政策目的のための区分であり、両者を混同しないよう注意が必要です。

子会社、関連会社、連結子会社との違い

企業グループにおける会社間の関係性を理解する上で、「子会社」「関連会社」「連結子会社」そして「特定子会社」のそれぞれの定義と違いを明確に把握しておくことは、M&A実務の基本となります。これらの用語は、親会社からの支配力や影響力の度合い、そして連結決算における会計処理の方法によって区別されます。

子会社との違い

会社法第2条3号によれば、「会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるもの」と定義されています。一般的には、親会社が議決権の50%超を保有している会社を指します。ただし、形式的な議決権比率が50%以下であっても、役員の派遣状況(例えば、親会社出身者が役員の過半数を占める)、重要な融資や取引関係、契約などによって、親会社が実質的にその会社の財務及び事業の方針決定を支配していると判断される場合も子会社に含まれます。

関連会社との違い

親会社が議決権の20%以上50%未満を保有しているなど、子会社には該当しないものの、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、その会社の財務や事業方針の決定に対して、重要な影響を及ぼすことが可能な別の会社を指します。ここでの「重要な影響」とは、例えば、議決権の20%以上を保有している場合や、15%以上20%未満でも役員等を派遣している、重要な融資を行っている、重要な技術を提供している、重要な販売・仕入等の事業上の取引がある、といった状況から総合的に判断されます。

連結子会社との違い

親会社の連結財務諸表を作成する際に、その資産、負債、収益、費用などが親会社の財務諸表と合算される子会社のことです。原則として、支配しているすべての子会社が連結の対象となります。しかし、会計上の「重要性の原則」に基づき、グループ全体の経営成績や財政状態に与える影響が極めて小さい子会社や、支配が一時的である子会社などは、連結の範囲から除外されることがあります。これらは「非連結子会社」と呼ばれます。

特定子会社との違い

上記で定義した通り、子会社の中でも特に財務的な重要性が高い、すなわち、売上高・仕入高基準(10%以上)、純資産基準(30%以上)、資本金基準(10%以上)のいずれかに該当する子会社を指します。法律の定義上特定子会社は必ず連結子会社ということにはなりませんが、実質的には必ず連結子会社の一部ということになります。

会社区分の比較表

区分定義支配・影響力の基準(議決権等)連結決算での会計処理主な特徴
子会社親会社に経営を支配されている会社議決権の過半数(50%超)保有、または実質的な支配関係(役員派遣、契約等)原則として連結対象親会社による支配
関連会社親会社が経営方針に重要な影響を与えることができる、子会社以外の会社議決権の20%以上50%未満保有、または重要な影響力(役員派遣、融資、取引等)原則として持分法の適用親会社からの重要な影響力(支配ではない)
連結子会社親会社の連結財務諸表に業績等が合算される子会社子会社の基準を満たし、かつ連結除外基準(重要性の乏しさ等)に該当しない連結親会社の連結財務諸表に含まれる
特定子会社連結子会社のうち、売上高・仕入高、純資産、資本金のいずれかが一定基準以上の、財務的に重要な子会社連結子会社であり、かつ開示府令の定める財務基準(売上/仕入10%、純資産30%、資本金10%)のいずれかに該当連結連結グループへの財務的影響が特に大きく、開示上の重要性が高い子会社

これらの定義を比較すると、会社間の関係性には階層構造があることがわかります。まず、支配・影響力の基準によって「子会社」か「関連会社」かが判断されます。次に、子会社のうち、重要性の観点から「連結子会社」か「非連結子会社」かが決まります。そして最後に、連結子会社の中から、特定の財務基準を満たすものが「特定子会社」として識別される、という流れです。M&Aの対象企業が、子会社であり、連結子会社であり、かつ特定子会社でもある、というケースは十分にあり得ます。この重なり合いを理解しておくことは、デューデリジェンスや買収後の統合計画、特に開示義務の検討において重要となります。

特定子会社のメリット

特定子会社を持つこと、あるいは自社の子会社が特定子会社となることには、どのような利点があるのでしょうか。事業戦略、財務、経営の観点から解説します。

事業戦略上のメリット

  • 事業への集中と専門性の向上:特定の事業分野に経営資源を集中させ、独立した組織として運営することで、その分野における専門性を深め、競争優位性を確立しやすくなる可能性があります。これは子会社化一般に言えるメリットです。
  • 新規事業への迅速な参入:M&Aを通じて、既に事業基盤を持つ会社を子会社化することは、自社でゼロから事業を立ち上げるよりも迅速に新規市場へ参入する有効な手段です。特に、特定子会社に該当するような規模の企業を買収できれば、短期間でその事業分野において一定の市場シェアやプレゼンスを獲得することも可能になります。
  • 意思決定の迅速化:親会社本体と比較して組織規模が小さく、意思決定ラインが短縮されれば、市場の変化や顧客ニーズに対して、より迅速かつ柔軟に対応できる可能性があります。ただし、これは親会社からの権限委譲の度合いに大きく依存します。
  • リスクの分散:事業ごとに法人格を分けることで、特定事業のリスクを他の事業から切り離す効果が期待できます。例えば、ある子会社で訴訟問題や事業上の大きな損失が発生した場合でも、法的には別法人であるため、親会社本体や他の子会社への直接的な財務的影響を限定できる可能性があります。ただし、グループ全体の評判(レピュテーションリスク)については、影響が波及しやすい点に注意が必要です。

財務上のメリット

  • 連結業績への大きな貢献:特定子会社は、その定義(売上/仕入10%、純資産30%、資本金10%のいずれかに該当)から明らかなように、親会社の連結ベースでの売上高や利益、資産に対して大きな貢献を果たす存在です。
  • 税制上のメリット:一般的な子会社化と同様に、税制上のメリットを享受できる可能性があります。例えば、資本金の額によっては、親会社よりも低い法人税率(中小法人向けの軽減税率)が適用されたり、設立初期には消費税の納税義務が免除されたりする場合があります。ただし、グループ通算制度やグループ法人税制の適用関係によっては、必ずしも有利になるとは限りません。また、グループ通算制度を適用しない限り、親会社と子会社間での損益通算(赤字と黒字の相殺)は認められません。
  • 資金調達の多様化:子会社が独自の信用力や事業の将来性に基づいて、親会社とは別に資金調達を行うことが考えられます。特定の事業に魅力があれば、有利な条件での資金調達が可能になるかもしれません。また、子会社自身が株式市場に上場する「親子上場」も選択肢の一つとなり得ます。

経営上のメリット

  • 責任と権限の明確化:特定の事業や地域に関する経営責任と権限を子会社に委譲することで、責任の所在が明確になり、事業単位での業績評価や経営管理が行いやすくなる場合があります。
  • 経営資源の有効活用:M&Aによって外部の企業を子会社化した場合、その企業が保有していた人材、技術、ノウハウ、顧客基盤、ブランドなどの経営資源をグループ全体で有効に活用することができます。
  • 事業承継への活用:後継者問題への対応策として、特定の事業を子会社化し、後継者候補にその経営を任せる、あるいは子会社株式を承継させるといった活用方法も考えられます。<

これらのメリットの多くは子会社化一般に当てはまりますが、特定子会社の場合、その規模が大きいため、メリットが実現した場合の効果もより大きくなる傾向があります。成功すればグループ全体の業績を大きく押し上げる原動力となり得ますが、逆に問題が発生した場合の影響も大きくなるため、メリットとデメリットを慎重に比較検討する必要があります。特定子会社化を伴うような大規模なM&Aや組織再編は、より高いリターンが期待できる反面、より緻密な戦略立案と実行計画が求められる、ハイリスク・ハイリターンな経営判断と言えるでしょう。

特定子会社のデメリット

一方で、特定子会社を持つことには注意すべき点もあります。主なデメリットやリスクについて見ていきましょう。

親会社への依存とリスク

  • 経営の自由度の低下:親会社の経営方針や意向が強く反映される結果、子会社独自の判断や迅速な意思決定が妨げられ、経営の自由度が低下する可能性があります。
  • リスクの連鎖(スピルオーバー):子会社で発生した不祥事(コンプライアンス違反、事故など)や大幅な業績悪化は、たとえ法的には別法人であっても、親会社を含むグループ全体のブランドイメージや社会的信用を大きく毀損し、株価にも悪影響を及ぼすリスクがあります。特に特定子会社の場合、その存在感が大きいため、ネガティブな影響も広がりやすくなります。
  • 親会社の財務的負担:子会社の経営状況が悪化した場合、親会社が追加出資、融資、債務保証などの形で財務的な支援を余儀なくされる可能性があります。特定子会社が傾けば、親会社の財務基盤を揺るがしかねません。

意思決定の遅延と摩擦

  • グループ経営の複雑化:親会社と子会社の間での報告・連絡・相談、あるいは重要な意思決定に関する承認プロセスなどが増えることで、組織全体としての意思決定スピードが低下する可能性があります。
  • 内部での利害対立:親会社と子会社の間、あるいは子会社同士の間で、経営方針、事業戦略、予算配分、人事などを巡って意見の対立や摩擦が生じる可能性があります。

情報共有、連携に関する課題

  • 管理コストの増加:子会社の管理・運営のために、親会社の管理部門(経理、財務、人事、法務、内部監査など)の業務負担が増加します。特定子会社は事業規模が大きいため、それに伴う管理コストや手間も相応に大きくなる傾向があります。
  • 連携コストと非効率:グループ内での情報共有や業務連携が複雑化し、コミュニケーションコストが増大したり、業務プロセスに非効率が生じたりする可能性があります。会計システムや基幹システムの統合、円滑なレポーティングラインの構築などが課題となります。
  • 組織文化の衝突(M&Aの場合):M&Aによって新たに取得した特定子会社と、親会社や既存グループ会社との間で、企業文化や価値観、仕事の進め方などが大きく異なる場合、円滑な統合(PMI)が進まず、従業員のモチベーション低下や離職につながるリスクがあります。

特定子会社の重要性は、親会社による適切なガバナンスを必要とします。しかし、過剰な管理・統制は子会社の自律性や活力を奪いかねません。一方で、監督が不十分であれば、重大な財務リスクやレピュテーションリスクを招く恐れがあります。特定子会社の規模の大きさは、この「統制と自律のバランス」を適切に保つことを、より重要かつ困難な課題にします。M&A担当者としては、買収対象となる可能性のある特定子会社の財務状況だけでなく、既存のガバナンス体制や組織文化についても深く理解する必要があります。そして買収後には、その特定子会社の特性を踏まえ、グループ全体の価値を最大化しつつリスクを最小化できるような、実効性のあるガバナンスモデルを構築・運用していくことが極めて重要になります。

特定子会社設立の流れ

特定子会社は財務基準によって「該当する」区分であり、特別な設立手続きがあるわけではありません。ここでは、子会社を設立・取得し、結果として特定子会社に該当する場合を念頭に、一般的なプロセスと留意点を解説します。

特定子会社に該当するかどうかは、あくまで設立・取得された子会社が、開示府令に定められた財務基準を満たすかどうかで事後的に判断されます。したがって、ここでは一般的な子会社設立・取得のプロセスを概説します。

1:新会社設立

通常の株式会社設立手続きに則って進めます。主な流れは、

  1. 定款の作成と公証人による認証
  2. 発起人による出資の履行(資本金の払込み)
  3. 設立時役員の選任
  4. 設立登記申請(法務局)

となります。

設立登記が完了し会社が成立した後、税務署、都道府県税事務所・市町村役場、年金事務所、労働基準監督署、ハローワークなど、関係各署への届出が必要になります。設立した会社が事業を拡大し、将来的に特定子会社の財務基準を満たすことになれば、その時点から特定子会社として扱われます。

2:M&Aによる既存会社の取得

既に存在する会社をM&Aの手法(株式譲渡、株式交換株式移転など)を用いて買収し、子会社化します。この場合、買収対象企業の選定、条件交渉(トップ面談、基本合意など)、デューデリジェンス(財務・法務等の調査)、最終契約の締結、クロージング(対価の支払い、株式の移転など)といったM&A特有のプロセスが必要となります。買収が完了した時点で、その子会社が特定子会社の財務基準を満たしていれば、取得当初から特定子会社として扱われます。

必要な書類

いずれの方法においても、一般的に必要となる書類には以下のようなものがあります(具体的な状況により異なります)。

会社設立の場合

  • 定款
  • 設立時役員の就任承諾書
  • 出資金の払込証明書
  • 印鑑証明書
  • 登記申請書
  • 設立後の各種届出書 など

M&Aの場合

  • 秘密保持契約書
  • 基本合意書
  • 最終契約書(株式譲渡契約書、株式交換契約書など)
  • デューデリジェンス関連資料
  • クロージング関連書類 など

共通

  • 会社の登記事項証明書(登記簿謄本
  • 株主名簿
  • 財務諸表  など

特定子会社の運営ですべきこと

子会社を設立・取得した後は、その会社をグループの一員として適切に運営・管理していく必要があります。特に特定子会社の場合、その重要性に鑑みた管理体制が求められます。

ガバナンス体制の構築・運用

親会社として、子会社の経営を適切に監督・支援するためのガバナンス体制(役員の派遣、取締役会での議論、内部統制システムの整備・運用など)を構築し、実効性のある形で運用していく必要があります。

レポーティング体制の確立

子会社から親会社へ、定期的な業績報告や財務状況の報告が行われる体制を整備します。連結決算を適時・適切に行うためにも、子会社からの正確な情報連携が不可欠です。

PMIの実行(M&Aの場合)

M&Aによって子会社を取得した場合には、期待したシナジー効果を実現し、円滑なグループ運営を行うために、業務プロセス、情報システム、組織文化などの統合(PMI)を計画的に進めることが重要です。特定子会社のように規模が大きい場合、PMIの難易度も高まりますが、その成否がM&A全体の成果を左右します。

コンプライアンス体制の維持・強化

子会社においても、関連する法令や社内規程を遵守する体制を維持・強化し、グループ全体でのコンプライアンス意識を高めていく必要があります。

重要なのは、子会社のステータスは固定的ではないという点です。ある子会社が特定子会社に該当するかどうかは、その子会社と親会社の相対的な財務状況によって決まります。子会社の急成長や、逆に親会社の業績拡大によって、特定子会社になったり、ならなくなったりする可能性があります。また、事業の売却やグループ内再編によってもステータスは変動します。したがって、M&A担当者やグループ管理部門は、単に買収・設立時にステータスを確認するだけでなく、継続的に各子会社の財務状況をモニタリングし、特定子会社の基準に該当するかどうかを把握し続ける必要があります。これは、次項で説明する「異動」時の開示義務に直結する、重要なコンプライアンス要件となります。

特定子会社の異動時は?

M&Aや事業再編、あるいは単なる業績の変動などによって、ある会社が新たに特定子会社に該当するようになったり、逆にこれまで特定子会社だった会社が該当しなくなったりすることがあります。これを「特定子会社の異動」と呼び、金融商品取引法上、投資家保護の観点から重要な開示事由とされています。ここでは、その具体的な内容と対応について解説します。

臨時報告書の提出義務

上場会社など、金融商品取引法に基づき有価証券報告書の提出義務を負う会社(提出会社)において、「特定子会社の異動」が発生した場合、原則として、遅滞なく内閣総理大臣(実務上の提出先は管轄の財務局)に対して「臨時報告書」を提出しなければなりません。これは、金融商品取引法第24条の5第4項および企業内容等の開示に関する内閣府令第19条第2項第3号に定められた義務です。

ここでいう「異動」とは、具体的に以下のケースを指します。

  1. 新たに特定子会社となるケース:
    • これまで特定子会社でなかった子会社が、M&Aによる株式取得や合併、あるいは業績の伸長などにより、新たに特定子会社の基準(売上/仕入10%、純資産30%、資本金10%のいずれか)を満たすことになった場合。
    • 新たに設立した会社や、M&Aで新たに子会社化した会社が、当初から特定子会社の基準を満たす場合もこれに含まれます。
  2. 特定子会社でなくなるケース:
    • これまで特定子会社であった会社が、株式の売却や合併による消滅などにより、提出会社の子会社でなくなる場合。
    • これまで特定子会社であった会社が、業績の変動(相対的な規模の縮小など)により特定子会社の基準を満たさなくなったものの、引き続き提出会社の子会社ではあり続ける場合。

開示のタイミング

特に注意が必要なのは、この臨時報告書の提出義務が発生するタイミングです。開示が必要となるのは、実際に特定子会社の異動という「事実が発生した日」(例えば、株式譲渡の実行日や合併の効力発生日)ではなく、その異動の原因となる行為を行うことについての「決定をした時点」とされています。

例えば、株式譲渡によってある会社を子会社化し、その結果として特定子会社に該当することになる場合、株式譲渡契約を締結した時点で、提出会社(買い手)の取締役会などがその実行を決定していれば、その決定時点で臨時報告書の提出義務が発生する可能性があるのです。これは、重要な会社情報が公表される前に一部の関係者だけが情報を利用して不公平な取引を行うこと(インサイダー取引)を防止する観点からも、非常に重要なルールです。

M&A実務における重要性

M&Aディールにおいては、買収対象企業や売却対象企業が特定子会社に該当するかどうか、そしてそのディールによって特定子会社の異動が発生するかどうかは、デューデリジェンスの段階で必ず確認しなければならない重要な項目の一つです。この確認を怠ったり、開示が必要となるタイミングを誤ったりすると、金融商品取引法違反となり、課徴金などのペナルティを受けるリスクがあります。

また、臨時報告書の提出義務とは別に、証券取引所が定める適時開示ルールにおいても、子会社の異動(特に特定子会社の異動や、それに伴う連結範囲の変更など)は、投資家の投資判断に重要な影響を与える情報として、開示が求められる場合があります。

特定子会社を理解し、事業戦略に活かそう

本記事で解説してきたように、「特定子会社」とは、会社法上の区分ではなく、金融商品取引法(およびその下位規則である開示府令)に基づき、連結グループ内における財務的な重要性を示すための区分です。

特定子会社に関する正確な理解は、単に法令遵守の観点から重要であるだけでなく、M&Aディールのリスクを適切に管理し、グループ経営の効率性と実効性を高め、ひいては企業価値の向上に繋げるための基礎となります。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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