- 更新日 : 2024年7月12日
内部統制報告制度とは?目的や改訂ポイントをわかりやすく解説
上場企業は、財務報告の信ぴょう性を確保するために内部統制報告制度への対応を行う必要があります。内部統制報告書の提出が義務付けられており、提出しなかった場合は罰則を受けることになるためです。そのような状況にならないためにも、まずは内部統制報告制度の目的や特徴を理解しておかなければなりません。
本記事では、内部統制報告制度の目的や特徴、求められることに加え、2024年4月から適用される内部統制の実施基準の改訂ポイントについても解説します。上場企業の経営者やこれから上場を目指す経営陣の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
内部統制報告制度(J-SOX法)とは
内部統制報告制度は、組織が適切な内部統制体制を確立し、法令遵守やリスク管理を適切に行っていることを証明するための報告です。
日本では、別名J-SOXと言われており、事業年度ごとの財務報告に伴う内部統制について決定されているものが、J-SOX法となります。アメリカのSOX法を模範として、2006年に規定された制度で、2008年に日本でも導入されるようになりました。
内部統制報告制度の対象企業
金融商品取引所に上場している企業が対象で、子会社や関連会社なども対象です。
<主な対象となる会社>
- 本社
- 子会社
- 関連会社
- 在外子会社
いずれにしろ、上場企業であれば内部統制を行う必要があります。
内部統制報告制度と米国のSOX法の違い
J-SOX法は、米国SOX法を参考にしながら、日本企業の負担軽減や実情に合致するよう改訂されています。 主な違いとしては、内部統制の不備の区分簡素化、経営者による評価と監査人による評価の一体化、適用範囲の限定などが挙げられます。
内部統制報告制度の目的
内部統制の目的として、以下4点が挙げられます。金融商品取引法上では財務報告の信頼性を主な目的としておりますが、これ以外も対象としています。
- 業務の有効性・効率性を高める
- 財務報告の信ぴょう性を保つ
- 事業活動に関わる法令等を遵守する
- 資産を適切に保全する
業務の有効性・効率性を高める
内部統制報告制度は、業務の目的達成と経営資源の適正な運用という側面において無駄やムリをなくし、成果を最大限に発揮します。
経営者が内部統制報告制度を導入し、運用していくことで、業務の有効性・効率性を高めることの重要性を組織全体に示すことが可能です。また、経営層自ら内部統制の整備・改善に取り組むことで、現場レベルでの意識改革を促すことができます。
また内部統制報告制度に基づいて、定期的に内部統制の有効性を評価し、改善点を見つけられます。見つけた改善点は、業務プロセスや管理体制の改善に活かすことで、継続的に業務の有効性・効率性を高めていくことが可能です。
財務報告の信ぴょう性を保つ
財務諸表は、企業の財務状況や経営成果を外部に示す重要な情報です。内部統制報告制度を取り入れることで、財務諸表の誤謬や不正を防ぎ、投資家やその他の利害関係者にとって信頼できる情報となることを保証します。
また、財務報告のプロセスが透明性を持って行われていることを示すことで、投資家やその他の利害関係者からの信頼を得られます。
具体的な取り組みの例は、以下の通りです。
- 内部統制の仕組みを明らかにする
- 内部統制の評価結果を公表する
- 内部統制に関する監査人の意見を公表する
これらの取り組みを通じて、財務報告のプロセスが適正かつ客観的に行われていることを示し、財務諸表に対する信頼性を高められます。
事業活動に関わる法令等を遵守する
企業が事業活動を行う上で遵守すべき法令や規則は、数多く存在します。内部統制報告制度を取り入れることで、法令違反のリスクを低減することができます。
また法令遵守とは、企業倫理の根幹を成すものです。内部統制報告制度を通じて、法令遵守を徹底することで、企業倫理の向上を図れます。
資産を適切に保全する
企業は、事業活動を行うために様々な資産を保有しています。しかし、これらの資産が適切に管理されていないと、紛失、盗難、不正使用などのリスクが高まるでしょう。内部統制報告制度を取り入れることで、こうしたリスクを低減できます。
また資産を適切に保全することは、資産の効率的な活用にも繋がります。資産が紛失や盗難にあったり、不正に使用されたりしていると、本来の目的を果たすことができず、企業に損失を与えかねません。内部統制報告制度を通じて、資産管理を徹底することで、資産を効率的に活用し、企業の収益性向上に貢献できます。
内部統制報告制度の特徴
本項では、内部統制報告制度の特徴を5つ紹介します。
- トップダウン型のリスク・アプローチを採用している
- 内部統制の不備を2つに区分している
- ダイレクトレポーティングを採用していない
- 内部統制監査と財務諸表監査を一体的に実施する
- 外部監査人と企業内の監査役・内部監査人の連携を認める
あらかじめ内部統制報告制度について知っておくことで、より重要性を理解できるでしょう。
それでは、順番に解説します。
トップダウン型のリスク・アプローチを採用している
トップダウン型のリスク・アプローチは、組織のリスク管理を行う際に重要な手法です。
内部統制の有効性を評価するために、全社的な内部統制がしっかりと機能しているかを評価します。評価した上で、財務報告にかかる極めて重要な虚偽記載につながるリスクを回避するために、必要な業務プロセスを絞り込んで評価することが可能です。
リスクの重要度や影響度を適切に評価し、優先順位を付けるため、徹底的なリスク管理ができるでしょう。
内部統制の不備を2つに区分している
内部統制報告制度の特徴として、内部統制の不備区分が簡単であることが挙げられます。
アメリカのSOX法では、以下のように内部統制の不備区分が分けられています。
- 重要な欠陥
- 不備
- 軽い不備
一方で日本のJ-SOX法の場合は、アメリカのSOX法とは異なり、以下2つに分けられる仕組みです。
- 重要な欠陥
- 不備
正確な会計や財務報告などを担保するため、全社での内部統制を徹底していることから、内部統制の不備区分をシンプルにわかりやすくしています。
詳しくは、以下の記事でも解説しているので、合わせて確認してみてください。
ダイレクトレポーティングを採用していない
ダイレクトレポーティングは、直接報告業務といい、内部統制の評価を経営者が明示せず、外部第三者が評価する方法です。
アメリカのSOX法では、企業側の負担を考慮し、外部の監査人へ内部統制の評価をしてもらうような仕組みとなっています。
一方でJ-SOX法の場合は、経営者に内部統制の評価を行ってもらい、その結果が正しいかどうかを外部監査人に評価します。二重評価しないことで、効率化が図られているのです。
内部統制監査と財務諸表監査を一体的に実施する
内部統制監査と財務諸表監査を一体的に実施するとは、同一の監査人が、内部統制監査と財務諸表監査を密接に連携させながら実施することを意味します。
一般的には両者は別物と思われますが、適切な財務諸表の作成には内部統制が機能していることが重要ですので一体的に監査することが効率的となります。また、同じ証拠を両者で使うことができこの点でも効率的に実施することができます。
外部監査人と企業内の監査役・内部監査人の連携を認める
近年、コーポレートガバナンスの強化が重要視されており、その一環として、外部監査人と企業内の監査役・内部監査人の連携が注目されています。連携を認めることには、以下のようなメリットとデメリットが考えられます。
メリット | デメリット |
---|---|
連携を認めるかどうかは、個々の企業がそれぞれの状況を慎重に判断した上で決定することが必要です。
内部統制報告制度への対応の進め方
内部統制報告制度への対応を進める上で、主に以下の対応が必要となります。
- 評価の対象範囲を決める
- J-SOX法の3点セットを作成する
- 内部統制の不備を評価・是正する
- 内部統制報告書を作成・提出する
あらかじめ対応する内容について理解すれば、いざ内部統制を行うとなった際に、スムーズに対応することができるでしょう。
それでは、順番に解説します。
①評価の対象範囲を決める
この段階では、会社の財務報告に重要な影響を与える可能性のある業務プロセスや部門を特定します。通常、売上、購買、在庫管理、財務諸表作成プロセスなどが含まれます。
また、重要性の基準を設定し、評価対象となる子会社や関連会社も決定します。
②J-SOX法の3点セットを作成する
J-SOX法の3点セットとは以下を指します。
資料 | 概要 |
フローチャート | 業務プロセスを視覚的に表現したもの |
業務記述書 | 評価対象となる業務プロセスの流れを文書化したもの |
リスク・コントロール・マトリクス(RCM) | 各プロセスにおけるリスクと、それに対応する統制活動を整理した表 |
3点セットを作成する際は、目的を明確にすることが重要です。目的がなければ、作成する内容が曖昧になり、効果的な内部統制の実施に繋がらなくなってしまいます。
③内部統制の不備を評価・是正する
作成した3点セットに基づいて、実際の業務が適切に行われているかを評価します。この過程で発見された不備は、その重要性に応じて「軽微な不備」「重要な不備」「開示すべき重要な不備」に分類します。
そして、特定された不備に対して改善策を立案・実施し、内部統制の有効性を高めます。
④内部統制報告書を作成・提出する
評価結果に基づいて内部統制報告書を作成します。この報告書には、財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者の評価結果が記載されます。
作成された報告書は、有価証券報告書と併せて金融庁に提出します。また、監査人による内部統制監査を受け、その結果も報告書に含めます。
内部統制報告制度に対応しない場合の罰則
内部統制報告制度に対応しなかったり、虚偽の申告を行ったりした場合は、罰則があります。
罰則の内容は、5年以下の懲役または5億円以下の罰金です。
しかし、内部統制を評価し優れていると判断を下した場合でも、内部統制報告書にその旨を明記することで刑事罰を回避できます。
報告内容は正確であり、関連する要件を適切に記述する必要があり、法令遵守と透明性を守ることが重要であることを頭に入れておきましょう。
2024年4月から適用される内部統制の実施基準の改訂ポイント
内部統制の実施基準が、2024年4月から新しい内容に変更になります。
内部統制の実施基準の改訂ポイントは、主に以下の通りです。
- 目的のうち「財務報告の信頼性」が「報告の信頼性」に改められた
- 内部統制の無効化に対抗する仕組み作りが求められる
内部統制の評価や報告で形骸化が目立ち始めたことをきっかけに、2008年の導入以来、初めて大幅の改訂をすることになりました。
参考:金融庁|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)
まとめ
本記事では、内部統制報告制度の目的や特徴、求められることなどを解説しました。財務報告の信ぴょう性を確保するために、内部統制報告制度が設けられており、内部統制報告書の提出が必要となります。
内部統制報告制度では、内部統制報告書の提出以外にも、整備・評価や監査なども行う必要があるため、経営陣の方はぜひ本記事を参考にして取り入れてみてください。
よくある質問
内部統制報告制度はいつから導入された?
内部統制報告制度は、2006年6月に金融商品取引法が成立したタイミングで規定されて、2008年には企業へ導入されました。日本は、アメリカのSOX法を見習い、投資家の利益を守り会計や財務報告の信ぴょう性を担保することを目的として導入しています。
海外子会社への内部統制の導入はどう進める?
海外子会社への内部統制の導入手順は、以下の通りです。
- 導入スケジュールを作成する
- 文書のフォーマットや項目を決定する
- 内部統制の概念を説明する
- 統制内容を調査する
- 業務内容を調査する
- 3点セットを作成する
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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