- 作成日 : 2025年7月23日
資金調達スキーム完全ガイド|MBOからスタートアップまで!成長に導く秘訣を解決
企業の持続的な成長には、適切なタイミングでの資金確保が不可欠です。その鍵を握るのが、緻密に設計された資金調達スキームです。
本記事では、資金調達におけるスキームの重要性から、具体的な種類、そして自社に最適なスキームを選択するためのポイントまで分かりやすく解説します。近年注目されるMBO(マネジメント・バイアウト)における資金調達や、スタートアップの資金調達についても深掘りしますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
資金調達スキームとは
資金調達スキームとは、単に資金を調達する個別の行為ではなく、どの方法を選択し、どう組み合わせ、どのような条件で、いつ実行するのか、といった一連の計画・枠組み全体を指します。例えば、初期はエンジェル投資と自己資金、成長期にVCからの出資と銀行融資、将来的にIPOを目指すといった長期的な財務戦略と一体となった計画がこれにあたります。
必要資金額、コスト、返済計画、株主構成への影響などを総合的に検討し、事前にスキームを策定することで、投資家や金融機関からの信頼を得やすくなります。
ビジネススキーム・収益スキームとの関係性
ビジネススキームは事業全体の構造、収益スキームは特に収益を生み出す具体的な仕組みを指します。優れたビジネススキームや収益スキームも、適切な資金調達スキームがなければ実現できません。両者は密接に連携し、互いに補強し合う関係です。
資金調達スキームの主な種類と特徴
資金調達スキームは主に「エクイティファイナンス」「デットファイナンス」「アセットファイナンス」の3つに分類されます。
1. エクイティファイナンス
新株発行により投資家から資金を調達する方法です。調達資金は自己資本となり、返済義務がありません。
- 返済義務がなく財務体質を強化できる
- 企業の信用力向上に貢献する
- 投資家から経営サポートが期待できる場合がある
- 既存株主の経営権(議決権)が希薄化する可能性がある
- 1株あたりの利益が希薄化する可能性がある
- 配当金のプレッシャーが生じる場合がある
- 最適な投資家選定に時間がかかる
2. デットファイナンス
金融機関からの借入や社債発行など、負債で資金調達する方法です。返済義務と利息が発生します。
- 返済義務と利息支払いが発生する
- 財務悪化時の返済困難リスクがある
- 担保や保証人が必要な場合がある
- 借入増による信用格付への影響がある
- 金融機関からの融資(銀行融資)
プロパー融資と制度融資(信用保証協会付)がある。
事業計画の妥当性、返済能力、担保の有無などが審査される。 - 社債発行
投資家からまとまった資金を借り入れる有価証券。
比較的長期の安定資金を調達可能だが、発行手続きが煩雑な場合もある。
3. アセットファイナンス
企業が保有する特定資産(不動産、売掛債権など)の信用力やキャッシュフロー創出力に着目して資金調達する方法です。
- 企業の信用力が低くても価値ある資産があれば調達可能
- 特定資産のリスクを切り離せる場合がある(ノンリコース)
- オフバランス化で財務体質を改善できる場合がある
- 対象資産の保有が必要となる
- 資産の評価額や流動性で調達可能額が左右される
- 手数料や金利が比較的高くなる場合がある
- 不動産担保融資・動産担保融資(ABL)
不動産担保融資は、土地や建物といった不動産を担保とする融資。 - 売掛債権流動化(ファクタリング)
企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却することで、支払い期日前に資金化する方法。リコース型とノンリコース型がある。 - リースバック
企業が保有する本社ビルや工場、設備などを一度売却し、売却先からリース契約によって資産を借りて利用し続ける方法。まとまった資金調達と資産利用を両立できる。
4. その他の資金調達スキーム
上記以外にも、近年では多様な資金調達スキームが登場し、特にインターネットを活用した手法や公的支援制度が企業の選択肢を広げています。
主な手法は、以下の通りです。
- クラウドファンディング
インターネット経由で不特定多数から資金調達する方法。
購入型、寄付型、融資型、株式投資型など様々なタイプがある。 - 補助金・助成金
新規事業、研究開発等を目的とした資金。
原則として返済不要。申請準備が重要となる。 - M&Aや事業売却
自社の一部事業や子会社を他社に売却して資金を得る方法。
経営資源を中核事業に集中させることが可能になる。
スタートアップの成長フェーズと最適な資金調達スキーム
スタートアップにとって、成長フェーズに応じた資金調達スキームの選択は極めて重要です。
- シードステージ(創業期)
自己資金、エンジェル投資家、公的融資、クラウドファンディングなど - アーリーステージ(事業開始初期)
VC(シリーズA)、制度融資など - ミドルステージ(成長期)
VC(シリーズB以降)、CVC、実績に応じた銀行融資など - レイターステージ(成熟期・IPO準備期)
大規模VC、PEファンド、IPO、大手金融機関融資など
エクイティファイナンスでは投資契約の内容(株価、議決権等)を慎重に検討し、魅力的なピッチ資料と投資家との良好な関係構築が鍵となります。
MBOにおける資金調達スキーム
MBO(マネジメント・バイアウト)は、企業の経営陣が自社の株式や事業部門を株主から買い取り、独立する手法です。事業承継や非公開化、グループ再編など、様々な目的で活用されますが、その実行には大規模な資金調達が必要となるケースが一般的です。
LBOファイナンスとMBOローン
MBOにおいて中心的な役割を果たすのがLBO(レバレッジド・バイアウト)ファイナンスです。これは、買収対象企業の資産や将来のキャッシュフローを担保として、金融機関から資金を調達する手法です。
MBOローンとは、このLBOの一環として金融機関が提供する融資を指すことが多いです。少ない自己資金で買収が可能ですが、多額の借入によるリスクも伴います。
PEファンド
PEファンドは、MBOにおいて重要な資金提供者かつパートナーとなり得ます。経営陣と共同で買収主体となるSPC(特別目的会社)を設立し、エクイティを提供します。資金提供だけでなく、経営戦略の策定、財務改善、ガバナンス強化など、企業価値向上に向けた多面的な支援を行うことが期待されます。ただし、ファンドは通常3〜5年程度での投資回収(イグジット)を目指すため、出口戦略も重要となります。
メザニンファイナンス
メザニンファイナンスは、シニアローンとエクイティの中間的な性質を持つ資金調達方法です。劣後ローンや優先株式といった形態があり、シニアローンだけでは不足する買収資金を補完する役割を果たします。リスク・リターンはシニアローンより高くエクイティより低く設定されるのが一般的で、MBOスキーム全体の資金調達コストやリスクバランスを調整するために活用されます。
自社に最適な資金調達スキームを選ぶためポイント
数ある資金調達スキームの中から、自社にとって最適なものを選ぶためには、多角的な視点からの検討が不可欠です。ここでは、特に重要な5つの視点を解説します。
1. 事業の成長フェーズとスタートアップの資金調達
創業期、事業開始初期、成長期、成熟期など、企業の成長フェーズによって、適した資金調達スキームは大きく異なります。また、運転資金、設備投資、新規事業、M&Aなどの資金調達の目的を明確にすることで、必要な金額や期間、許容できるコストが見えてきます。
2. 必要な資金額と調達までのスピード
「いつまでに、いくら必要なのか」は、スキーム選択における基本的な判断基準です。少額かつ緊急性の高い資金であればファクタリング、大規模な設備投資であれば長期の銀行融資や社債発行、といったように、必要な金額と調達に要する時間を考慮する必要があります。
一般的に、エクイティファイナンスはデューデリジェンスなどに時間を要する傾向があり、デットファイナンスの中でも制度融資などは審査期間が比較的長い場合があります。
3. 返済義務の有無と財務状況への影響
エクイティファイナンスは返済義務がないため、財務基盤を強化できますが、株主への配当や経営への関与といったプレッシャーが生じます。一方、デットファイナンスは財務レバレッジが高まりますが、返済義務と利息支払いが発生します。ただ、経営の自由度は維持しやすい傾向にあります。自社の現在の財務状況を客観的に分析し、どちらの特性がより適しているかを判断することが重要です。
4. 経営権(議決権)が希薄化するリスク
エクイティファイナンス、特に新株発行を伴う場合、既存株主の議決権割合が低下し、経営権が希薄化するリスクがあります。
創業オーナーや経営陣が経営の主導権を維持したいと考える場合は、デットファイナンスを選択するか、エクイティファイナンスであっても議決権のない種類株式を発行するなどの工夫が必要です。希薄化の程度と、それによって得られる資金やメリットを天秤にかける慎重な判断が求められます。
5. 投資家や金融機関との関係構築
資金調達は一度きりで終わるものではありません。事業の成長に伴い、継続的な資金ニーズが発生することが一般的です。そのため、単に条件が良いというだけでなく、長期的なパートナーシップを築ける投資家や金融機関を選ぶ視点も重要です。自社の事業内容や成長戦略を深く理解し、共感してくれる相手であれば、将来的な追加調達や経営上のアドバイスなど、多方面でのサポートが期待できます。
資金調達スキームを構築するためのステップ
最適な資金調達スキームは、単に選ぶだけでなく、戦略的に構築していくものです。ここでは、成功確率を高めるための具体的なステップを解説します。
1. 明確な事業計画と資金使途の策定
まず、市場分析、競合との差別化、収益モデル、成長戦略などを具体的に示し、なぜ資金が必要で、調達した資金をどのように活用して事業を成長させるのかを明確にしなければなりません。
事業計画の中核を成すのが、ビジネススキームです。企業が「どのようにして」「誰から」「何を対価に」収益を得るのかという具体的な仕組みやプロセスを指します。資金提供者は、このビジネススキームが持続可能で成長性があるか、市場環境に適しているかなどを精査します。明確で説得力のあるビジネススキームは、資金調達の成功確率を大きく高めます。
2. 魅力的な資本政策・財務戦略の立案
資本政策とは、株主構成や資金調達のバランスをどのようにコントロールしていくかという長期的な計画です。エクイティとデットの最適なバランスを考慮し、将来の成長ステージも見据えた財務戦略を立案します。これにより、場当たり的な資金調達を避け、企業価値の最大化を目指すことができます。
3. 専門家との連携
資金調達スキームの設計や実行には、法務、税務、財務に関する高度な専門知識が不可欠です。契約書のリーガルチェック、税務上の影響評価、複雑なスキームの組成などについては、弁護士、税理士、公認会計士、資金調達コンサルタントといった外部の専門家の助言やサポートを積極的に活用しましょう。専門家の知見は、リスク回避や交渉力の向上に繋がります。
4. 複数の資金調達チャネルの検討
一つの資金調達方法や一つの金融機関に依存するのではなく、複数のチャネルを検討し、比較することが重要です。それぞれのメリット・デメリット、条件、審査基準などを多角的に評価し、自社にとって最も有利な条件を引き出すための交渉を行います。複数の選択肢を持つことで、交渉を有利に進められる可能性も高まります。
5. 契約内容の精査とリスク管理
資金調達に関する契約書には、金利、返済条件、担保、コベナンツ(財務制限条項)など、多くの重要な項目が含まれています。これらの内容を十分に理解し、自社にとって不利な条項がないか、将来的なリスクに繋がる可能性はないかを徹底的に精査する必要があります。不明な点や懸念事項があれば、必ず専門家に相談し、納得のいくまで確認することが肝要です。
最適な資金調達スキームで事業を飛躍させましょう
本記事で解説したように、資金調達スキームは多岐にわたり、それぞれに専門的な知識が必要です。自社だけで全てを判断しようとせず、弁護士、税理士、公認会計士、資金調達コンサルタントといった外部の専門家の知見を積極的に活用しましょう。彼らのサポートを得ることで、リスクを最小限に抑えつつ、自社の事業フェーズや目標に最適な資金調達スキームを構築し、事業の飛躍的な成長を実現することができるはずです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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