- 更新日 : 2026年1月21日
PPMとは?経営資源を最適化する分析手法や計算式・企業事例を解説
PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)は、複数の事業を持つ企業が経営資源を適切に配分するための分析手法です。事業を「市場成長率」と「市場占有率」の2軸で分類し、投資や撤退の判断を行います。ボストン・コンサルティング・グループ(以下BCG)が1970年代に提唱して以来、多くの企業で採用されてきました。
この記事では、PPMの基本から計算式、ソニーやユニクロなどの具体事例までをわかりやすく解説します。
目次
PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)とは?
PPMとは、企業の事業を「市場成長率」と「市場占有率」で分類し、経営資源の配分を最適化する管理手法のことです。
1970年代にBCGが提唱したこの手法は、感覚ではなく客観的な数値で「投資」や「撤退」を判断できる点が最大の特徴といえます。企業全体のキャッシュフローを最大化し、長期的な成長戦略を描くための羅針盤として、現在も世界中で広く活用されています。
ここでは、PPMの基本的な定義と役割について解説します。
経営資源を最適配分するためのフレームワーク
経営資源の最適配分は、ヒト・モノ・カネといった限られたリソースを効率的に活用し、企業の持続的な成長を実現するために欠かせません。
企業が生き残るには、すでに利益を生み出している事業で獲得した資金を、これから伸びる将来性のある事業へ投資して育てるサイクルが必要です。PPMはこの「カネの流れ(キャッシュフロー)」を明確に可視化し、どの事業が今の稼ぎ頭で、どの事業が将来の稼ぎ頭(投資対象)かをはっきりさせます。
すべての事業に均等にリソースを割くのではなく、役割に応じてメリハリをつけることで、組織全体のパフォーマンスを最大化できます。
投資と撤退を判断する経営戦略ツール
PPMは、事業を継続して投資すべきか、あるいは撤退すべきかを決定する際の客観的な判断基準として機能するツールです。
多くの企業では、赤字ではないものの成長が見込めない事業や、将来性はあるものの赤字が続く事業の扱いに頭を悩ませます。こうした場面でPPMを用いると、市場の魅力度(成長率)と自社の競争力(占有率)という公平な数値指標で事業を評価できるため、社内の感情的な対立を避けて合理的な決断を下しやすくなるでしょう。
見込みのない事業から早期に撤退し、その資源を有望な事業へ集中させる「選択と集中」の実行に役立ちます。
PPM分析における4つの象限とは?
PPM分析では、縦軸に「市場成長率」、横軸に「相対的市場占有率」をとったマトリクスを作成し、すべての事業を4つの象限に分類します。
4つの象限は「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」と呼ばれ、それぞれ異なる収益性と戦略的役割を持っています。自社の事業がどの位置にあるかを知ることで、現状のポートフォリオバランスを把握し、具体的なアクションプランを策定できるようになります。
ここでは、各象限の特徴と基本的な戦略について解説します。
花形(Star)は高成長・高シェア
花形(Star)は、市場成長率が高く、かつ市場占有率も高い分野に位置しており、企業の顔として売上をけん引する事業です。
市場自体が拡大しているため売上は大きく伸びますが、同時に競合他社とのシェア争いも激しくなります。そのため、現在の地位を維持するには、設備投資や広告宣伝費などの多額の追加投資を続けなければなりません。利益は出ていても再投資に資金が回るため、手元に残るキャッシュはそれほど多くないケースもあるでしょう。
しかし、将来的に市場成長が落ち着けば「金のなる木」へと移行する可能性が高いため、現在は先行投資の時期と割り切ります。
金のなる木(Cash Cow)は低成長・高シェア
金のなる木(Cash Cow)は、市場成長率は低いものの、市場占有率が高い事業であり、企業にとって最大の資金供給源となる存在です。
市場がすでに成熟しているため、新規の設備投資や大規模な販促費は少なくて済みますが、高いシェアを持っているため安定して大きな利益を生み出し続けます。ここで得られた潤沢なキャッシュは、自部門への再投資よりも、「花形」や「問題児」といった資金を必要とする他の成長事業へ回される役割を担います。
企業を支える屋台骨ですが、市場はいずれ衰退に向かう運命にあるため、無理な拡大は追わず、効率化による利益確保を優先します。
問題児(Question Mark)は高成長・低シェア
問題児(Question Mark)とは、市場成長率は高いものの、市場占有率が低い事業のことで、将来のスター候補か負債になるかの岐路に立っています。
市場自体は魅力的なので、うまくいけば「花形」に育つ可能性がありますが、現状では競合に負けており、放っておくと「負け犬」になるリスクも抱えています。シェアを拡大するには多額の投資が必要ですが、現時点での収益力が低いため、資金持ち出し(赤字)になることが一般的です。
企業としては、資源を集中投下して勝負に出るか、あるいは勝ち目がないと判断して早期に撤退するか、もっとも難しい経営判断を迫られます。
負け犬(Dog)は低成長・低シェア
負け犬(Dog)は、市場成長率も低く、市場占有率も低い事業に分類され、企業の成長にとって足かせとなりやすい領域です。
市場の将来性が乏しいうえに自社の競争力も低いため、今後どれだけ頑張っても大きな利益を生み出すことは期待できません。わずかに黒字であっても、貴重な人材や資金がその事業に拘束されていること自体が、企業全体の投資効率を下げている可能性があります。
基本的には、早期の撤退や事業売却を検討すべき対象です。ただし、他の事業との相乗効果がある場合や、撤退コストが著しく高い場合などは、慎重な判断が求められることもあります。
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PPM分析を経営に活かすメリットは?
PPM分析を導入する最大のメリットは、複雑になりがちな複数の事業状況をシンプルに可視化し、経営判断のスピードと精度を格段に高められる点です。
多角化経営を進めていると、どの事業が会社全体の利益に貢献し、どの事業が足を引っ張っているのかが見えにくくなることがあります。PPMという共通のフレームワーク(言語)を使うことで、経営陣だけでなく現場の社員も自社の事業ポートフォリオの現状を正しく理解しやすくなります。
ここでは、PPM分析を活用する具体的なメリットについて解説します。
経営リソースを最適活用できる
PPMを活用すると、限られた経営リソースを収益性の高い事業や将来性のある事業へ重点的に配分し、無駄のない投資戦略を実行できるようになります。
すべての事業に対して一律に予算や人員を配分してしまうと、成長すべき事業にはリソースが不足し、衰退すべき事業には無駄なコストがかかるといった非効率が発生します。PPMの分析結果をもとに、「金のなる木」で稼いだ資金を「花形」や「問題児」へ回すという理想的な資金循環サイクルを確立できれば、企業全体の投資効率は飛躍的に向上するでしょう。
リソース配分の根拠が数値で明確になるため、社内の合意形成もスムーズです。
事業のスクラップアンドビルドができる
事業の撤退(スクラップ)と新規構築(ビルド)を、感情論ではなく客観的な基準で断行できることもPPMの大きなメリットです。
とくに長年続けてきた事業や、創業時の事業などが「負け犬」になった場合、社内のしがらみや愛着から撤退の決断が先送りされがちです。しかしPPM分析によって「市場の成長性もシェアも低い」という事実が可視化されれば、撤退や売却といった厳しい判断も合理的に下せるようになります。
不採算事業を整理し、空いたリソースを新規事業へ大胆にシフトさせることで、企業の新陳代謝を促し、組織の若返りを図ることができるでしょう。
PPM分析の計算方法と手順は?
PPM分析を実際に行うには、正確な財務データや市場データに基づいた計算と作図が欠かせません。
感覚だけでマトリクスに配置するのではなく、数値を算出することで初めて客観的で説得力のある分析が可能になります。手順は「市場成長率の計算」「市場占有率の計算」「自社ポジションの確認」「競合比較」の4ステップで進めます。データは、自社の売上データのほか、官公庁の統計データや民間調査会社のレポートなどから収集しましょう。
ここでは、各ステップの具体的な計算方法や手順について解説します。但し、以下の方法は1例であり、実際には企業・業界の状況に応じて柔軟に運用しましょう。
市場成長率を計算する
市場成長率は、その事業が属する市場全体が前年に比べてどれくらい拡大(または縮小)しているかを示す指標であり、縦軸の決定に使います。
計算式は「(本年の市場規模 - 前年の市場規模) ÷ 前年の市場規模」となります。たとえば、前年の市場規模が100億円で、本年が110億円であれば、(110 - 100)÷ 100 = 0.1 となり、成長率は10%です。
一般的にPPMでは、この成長率が10%以上なら「高成長」、それ未満なら「低成長」と判断するケースが多いですが、業界の成熟度や経済状況に合わせて基準値を調整することもあります。正確な市場規模の把握が分析の第一歩です。
参考:法人企業統計調査|財務省
市場占有率を計算する
市場占有率(シェア)は、PPMでは通常のシェア率ではなく「相対的市場占有率」を使用し、横軸の決定に使います。
これは「自社の売上高 ÷ 最大競合他社の売上高」で算出します。たとえば、自社の売上が30億円で、業界トップ企業の売上が100億円の場合、30 ÷ 100 = 0.3(30%)となります。もし自社がトップ企業の場合は、2位企業の売上で割ってください。
この指標は、自社が市場でどれだけの競争優位性を持っているか、コストリーダーシップを発揮できる規模にあるかを判断するために重要です。通常は1.0(同規模)を基準に、それ以上なら「高シェア」、以下なら「低シェア」とします。
自社の事業ポジションを確認する
計算した「市場成長率」を縦軸、「相対的市場占有率」を横軸にとったグラフ(バブルチャート)を作成し、自社の各事業をプロットします。
このとき、円(バブル)の大きさは各事業の売上高の規模を表すように描くと、事業ごとの重要度やインパクトが視覚的にわかりやすくなります。プロットされた位置が4つの象限(花形、金のなる木、問題児、負け犬)のどこに該当するかを確認しましょう。
これにより、現在の自社のポートフォリオがバランスよく構成されているか、あるいは特定の象限に偏っているかが一目で把握でき、経営の安定性を診断できるようになります。
競合他社の事業ポジションと比較する
自社の分析だけでなく、競合他社の事業についても同様に推定値を計算してプロットし、市場全体の勢力図を把握します。
競合の主力事業が「金のなる木」にあるのか、それとも「花形」で激しく争っているのかを知ることで、戦い方が変わってきます。たとえば、自社の「問題児」事業と同じ領域に、競合の「金のなる木」が存在する場合、資金力で圧倒されるリスクがあるため、撤退も含めた慎重な戦略が必要です。
他社の動向と自社の立ち位置を比較することで、単なる自社分析にとどまらない、より実践的で勝算のある経営戦略を立案できるようになります。
PPM分析を活用した具体的な企業事例は?
PPM分析の理論を理解しても、実際の経営現場でどう活用されているかイメージしにくい場合もあるでしょう。
多くの成功企業は、時代の変化に合わせて事業ポートフォリオを大胆に入れ替え、衰退事業から成長事業へのシフトを成功させています。ここでは、ソニー、サントリー、ユニクロ、任天堂という日本を代表する4社の事例を取り上げます。それぞれの企業がどのように事業を分類し、投資や撤退の判断を行ってきたのか、その変遷を見ることでヒントが得られるはずです。
ここでは、4社の具体的な事業変遷の事例について解説します。
ソニー(エレクトロニクスからコンテンツへ)
ソニーグループは、かつての主力であったエレクトロニクス事業から、ゲームやエンタメ事業へと軸足を移し、見事に復活を遂げました。
かつて「花形」や「金のなる木」だったテレビやPC事業(VAIO)は、市場競争の激化により収益性が低下し、「問題児」や「負け犬」の傾向が強まりました。そこでソニーはPC事業を売却するという苦渋の決断をする一方、「花形」であるゲーム&ネットワークサービス事業や、「金のなる木」である音楽・映画事業へ経営資源を集中させました。
この大胆なポートフォリオの転換が、近年の過去最高益更新につながっています。
サントリー(ビール事業の黒字化)
サントリーのビール事業は、かつて40年以上も赤字が続き、典型的な「問題児」とされていましたが、あきらめずに投資を続けました。
サントリーはウイスキー事業という強力な「金のなる木」を持っていたため、そこから得られる潤沢な資金をビール事業へ長期にわたって投資し続けることが可能でした。「ザ・プレミアム・モルツ」のヒットなどでシェアを拡大し、ついにビール事業は黒字化、「花形」から「金のなる木」へと成長しました。
一方で、市場成長率が低迷していた外食事業(サブウェイなど)からは撤退するなど、明確な基準で事業の入れ替えを行っています。
ユニクロ(野菜事業からの撤退)
「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、2002年に野菜販売事業「SKIP」へ参入しましたが、わずか1年半ほどで撤退を決断しています。
当初はアパレルに次ぐ新規事業としての成長(花形化)を期待していましたが、計画通りの収益が上がらず、早期に「負け犬」となるリスクが高いと判断されました。同社はこの失敗を教訓に、本業であるアパレル事業へ資源を再集中させました。
その後、低価格ブランドの「GU」を立ち上げ、こちらは見事に「問題児」から「花形」、そして新たな収益の柱へと成長させています。早期撤退の判断が、その後の成長を守った好例といえます。
任天堂(ハードウェア事業の変遷)
任天堂のビジネスは、ハードウェアの世代交代によってPPMのポジションが劇的に変化するのが大きな特徴です。
たとえば「Wii U」の時代、販売不振により同事業は「負け犬」に近い状態に陥りかけました。しかし、任天堂は豊富な内部留保(過去の「金のなる木」からの蓄積)を活用して研究開発を続け、次世代機「Nintendo Switch」を投入しました。これが爆発的なヒットとなり、一気に「花形」事業となりました。
現在ではSwitchも普及が進んで「金のなる木」の要素も帯びており、そこから得た利益が次世代機への投資を支える基盤となっています。
PPM分析のデメリットや注意点は?
PPMは有用なフレームワークですが、万能ではなく、市場環境が複雑化した現代においては、分析結果だけで判断することにリスクも伴います。
PPMはあくまで2つの軸で単純化したモデルであり、事業間の複雑な関係性や、数値に表れない定性的な価値までは評価できないからです。分析を行う際は、PPMの限界を正しく理解し、SWOT分析など他の分析手法や現場の感覚と組み合わせて総合的に判断することが重要です。
ここでは、PPMを利用する際にとくに注意すべき3つのデメリットについて解説します。
事業間のシナジー効果が見えにくい
PPMの最大の弱点は、事業同士の相乗効果(シナジー)を無視して、各事業を独立したものとして評価してしまう点にあります。
たとえば、ある事業が数値上は「負け犬」であっても、その事業が持つ顧客データや技術力が、他の「花形」事業の競争力を支えている場合があります。もしPPMの判定通りにその「負け犬」事業を売却してしまうと、結果として会社全体の力が低下してしまうリスクがあります。
数字には表れない事業間のつながりや、ブランドイメージへの貢献度などを考慮に入れて判断する必要があります。
新規事業のアイデア出しには向かない
PPMは、すでに存在している事業をどう扱うかを決めるためのツールであり、ゼロからまったく新しい事業を生み出すためのものではありません。
これから市場自体を作っていくような革新的なイノベーション(ブルーオーシャン)は、初期段階では市場規模も小さく、PPMの枠組みでは「負け犬」や「問題児」として低く評価されがちです。PPMに頼りすぎると、将来の芽を摘んでしまう可能性があります。
新規事業のアイデア出しや創造的な戦略立案には、「デザイン思考」や「リーンスタートアップ」など、別の思考フレームワークを併用しましょう。
定義通りの判断が正解とは限らない
PPMの定石では「負け犬からは撤退」とされていますが、これが常に正解とは限らず、安易な撤退が裏目に出ることもあります。
成熟市場で低シェアであっても、特定のニッチな層に熱烈に支持されて手堅く利益を出している中小規模の事業は数多く存在します。これらはPPM上では「負け犬」に分類されますが、実質的には小さな「金のなる木」として機能しており、企業の安定収益に貢献しているケースもあります。
機械的に4つの象限の定石を当てはめるのではなく、その事業が持つ独自の強みや実際の収益構造を個別に見極める柔軟性が求められます。
PPMで事業のスクラップアンドビルドを進めよう
PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)は、経営資源を効率的に配分し、企業の持続的な成長を実現するための強力な羅針盤となります。
複数の事業を持つ企業にとって、どの事業を伸ばし、どの事業から手を引くかという「スクラップアンドビルド」の判断は、企業の存続にかかわる最重要課題です。
PPM分析を活用すれば、市場成長率と市場占有率という客観的な指標をもとに、感情論を排した冷静な経営判断が可能になります。もちろん、PPMにはシナジー効果が見えにくいといった限界もありますが、他の指標と組み合わせることで、より精度の高い戦略を描けるはずです。ぜひ自社の事業ポートフォリオを見直し、未来への投資と現在の収益確保のバランスを最適化してください。
よくある質問
PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)とは?
PPMは、1970年にボストン・コンサルティング・グループの創設者ブルース・ヘンダーソン氏が発表した経営管理スキームです。自社の事業を市場成長率と市場占有率に応じて4つのカテゴリーに分類・分析するものです。詳しくはこちらをご覧ください。
PPM分析の方法は?
PPM分析の方法は、①市場成長率を計算し、②市場占有率を計算し、③自社の事業のポジションを確認し、④競合他社の事業のポジションと比較する、です。市場成長率と市場占有率を計算し、ポジショニングします。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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