- 作成日 : 2025年12月11日
合同会社の実質的支配者とは?判断基準や確認方法を分かりやすく解説
合同会社(LLC)の設立を準備する際、または設立後に金融機関と取引(口座開設など)を行う際、実質的支配者の申告を求められます。これは、会社の意思決定や事業活動に大きな影響力を持つ個人のことで、設立時にはその情報を公証役場に申告する制度が導入されています。
この記事では、合同会社の実質的支配者とは誰なのか、具体的な判断基準、公証役場での手続き方法、そして該当者なしの場合の対応まで分かりやすく解説します。
合同会社の実質的支配者とは?
合同会社(LLC)の実質的支配者とは、その法人の事業経営を実質的に支配することが可能と認められる関係にある個人を指します。具体的には、出資比率や議決権、その他の方法で会社に強い影響力を持つ人のことです。
参考:Q4. 実質的支配者とは、どのような者を指すのですか。 | 日本公証人連合会
この概念は、Beneficial Owner(実質的所有者)を意味する「BO」とも呼ばれます。主に犯罪収益移転防止法(通称:犯収法)や、国際的なマネーロンダリング(資金洗浄)・テロ資金供与対策の観点から重要視されています。
合同会社は設立が簡便な反面、匿名性を利用した犯罪の温床になるリスクが指摘されていました。そのため、2018年11月30日以降、合同会社も設立時の定款認証の際に、実質的支配者の情報を公証役場へ申告することが義務付けられています。
株式会社の実質的支配者との違いは?
基本的な定義や申告の目的(犯罪防止)は同じですが、判断基準の適用順序と実質的支配者リスト制度の有無が異なります。
合同会社は、株式会社と比べて出資比率や業務執行社員としての地位が支配力に直結するケースが多いため、その構造の違いが判断基準に反映されています。
実質的支配者の確認・申告が必要な理由は?
実質的支配者の申告が求められる最大の理由は、法人の透明性を確保し、マネーロンダリングやテロ資金供与といった犯罪行為に法人が利用されるのを防ぐためです。
法人の所有者(個人)を明らかにすることで、法人が不正な資金の移動や隠匿に利用されることを抑止する狙いがあります。
このため、以下の2つのタイミングで必ず申告が求められます。
- 会社設立時:公証役場での定款認証の際(合同会社は定款の認証の必要は無い)
- 金融機関との取引時:銀行口座の開設や融資の際
金融機関は犯収法に基づき、取引時に顧客(法人)の実質的支配者を確認する義務を負っているため、設立後も申告が必要となります。
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合同会社の実質的支配者の判断基準は?
実質的支配者に該当するかどうかは、以下4つの判断基準を順番に適用して判定します。上位の基準で該当者(個人)が見つかった場合、その人が実質的支配者となり、下位の基準での判定は不要です。
判断基準1. 議決権が50%を超える個人
合同会社の議決権の総数のうち、50%(過半数)を超える議決権を直接または間接に保有する個人がいれば、その人が実質的支配者です。
例:社員A(出資60%)、社員B(出資40%)の場合
→ 社員Aが50%を超えているため、社員Aが実質的支配者となります。
判断基準2. 議決権が25%を超える個人
判断基準1に該当する個人がいない場合、議決権の25%を超える個人がいないか確認します。該当する個人が複数いる場合は、その全員が実質的支配者となります。
例:社員A(40%)、社員B(30%)、社員C(30%)の場合
→ 50%超の人はいない(判断基準1は該当なし)
→ 25%超の人はA、B、Cの全員
→A、B、Cの3名全員が実質的支配者
判断基準3. 事業活動に支配的な影響力を有する個人
判断基準1と2のいずれにも該当する個人がいない場合、出資、融資、取引その他の関係を通じて、法人の事業活動に支配的な影響力を有すると認められる個人が実質的支配者となります。
判断基準4. 代表社員(業務執行社員)
判断基準1から3までのいずれにも該当する個人がいない場合、その合同会社を代表し、業務を執行する社員(代表社員または業務執行社員)が実質的支配者となります。
- 代表社員を定めている場合:代表社員(個人)が実質的支配者
- 代表社員を定めていない場合:業務執行社員全員(個人)が実質的支配者
実質的支配者から除外されるケース
上記の基準に該当しても、その会社の経営を支配する意思または能力がないと客観的に認められる個人は、実質的支配者に該当しません。
例えば、議決権の50%超を持つ個人であっても、病気や重度の障害などにより、客観的にみて支配する意思や能力がないと認められる場合は除外されます。その場合は、次の判断基準に進んで判定します。
合同会社の実質的支配者の申告・確認方法は?
合同会社の実質的支配者の申告・確認手続きは、主に会社設立時と設立後の金融機関取引時の2つの場面で必要となります。
合同会社は株式会社と異なり実質的支配者リスト制度が利用できないため、設立時の申告と、その際に提出した書類の控えの保管が重要です。
具体的な手続きの流れは以下の通りです。
1. 実質的支配者を特定する
まず、作成する合同会社の定款の定め(議決権の定めなど)と、各社員の出資比率を確認します。その上で、「実質的支配者の判断基準」を順番に適用し、最初に該当した個人(または個人のグループ)を実質的支配者として特定します。
2. 会社設立後、金融機関等で申告する
会社設立後に銀行口座を開設する際や融資を受ける際、金融機関は犯収法に基づき、必ず実質的支配者が誰であるかの確認を行います。合同会社の場合、公証役場発行の証明書が存在しないため、以下の書類を提示して実質的支配者を証明するのが一般的です。
- 最新の定款(社員構成、出資比率、代表権の定めがわかるもの)
- (必要に応じて)社員名簿や登記事項証明書
設立時から実質的支配者に変更がある場合は、その最新の状況(現在の出資比率や代表社員)を申告し、最新の定款や社員名簿などでその変更を合理的に説明する必要があります。
合同会社の実質的支配者申告に関してよくある質問
最後に、合同会社の実質的支配者申告に関してよくある質問とその回答をまとめました。
実質的支配者が外国人の場合はどうなりますか?
外国籍の方であっても、日本人と同様に申告の対象となります。 BOリスト(申告書)には国籍を記載する欄があり、株式会社の場合、在留カードやパスポートに基づき正確に記載します。
実質的支配者の情報は一般に公開されますか?
いいえ、一般に公開されることはありません。 登記情報のように誰でも閲覧できるものではなく、捜査機関などからの法令に基づく正当な照会があった場合に限り開示される、厳格に管理された情報です。
設立後に実質的支配者が変更になった場合はどうすればよいですか?
設立後に変更が生じても、公証役場や法務局に再申告する義務は現行制度ではありません。 ただし、金融機関は取引(融資など)の都度、最新の実質的支配者情報を確認する義務があります。そのため、金融機関との取引時には、変更後の最新の情報を申告し、変更後の定款や社員名簿などでそれを証明する必要があります。
実質的支配者の申告を怠ったり、虚偽の申告をしたりした場合の罰則はありますか?
故意に虚偽の内容で申告した場合、公証人法や刑法(電磁的公正証書原本不実記録罪など)に抵触し、罰則が科されるリスクがあります。
合同会社の実質的支配者の申告は必須事項
合同会社(LLC)の実質的支配者とは、その法人の経営を実質的に支配する「個人」を指します。犯収法に基づき、設立時および金融機関との取引時に必ず特定し申告する必要があります。
特に合同会社は、株式会社と違って「実質的支配者リスト制度」の対象外です。設立後のスムーズな銀行取引のためにも、最新の定款・社員名簿をきちんと保管しておくことが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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