- 作成日 : 2025年5月15日
ホテル・旅館開業の許認可や資格は?営業許可や届出、資金も解説
日本ではインバウンド需要が拡大しており、ホテルや旅館をこれから開業しようと検討している方もいるでしょう。宿泊業を営むには、旅館業法の営業許可や飲食店業の許可など、さまざまな許認可を得る必要があります。
本記事では、ホテル・旅館に関連する法律、開業に必要な許認可、必要な資金の目安を解説します。
目次
ホテルや旅館の開業に必要な法律とは?
ホテルを開業するにあたり、旅館業法や消防法などが定める要件をクリアする必要があります。
旅館業法
旅館業法とは、宿泊料を徴収して人を宿泊させる営業形態を「旅館業」と定義している法律です。旅館業法では、ホテルや旅館などについて、一定の基準を満たすように規定しています。
具体的には客室面積、客室の基準(窓からの採光など)、浴室などに関しての基準があります。また、検査する担当者によって、現場で判断が異なることもあるため注意が必要です。
消防法
宿泊業の施設では、火災や地震などの災害に備え、宿泊客の安全を確保するために、消防法によって一定の基準が設けられています。消火設備・避難設備・警報装置など、収容人数や床面積により、必要な設備が決まっているため確認しましょう。
小規模のホテルなら消火器や消火栓の設置でよい場合もありますが、広いホテルではスプリンクラーの設置が求められることもあります。
建築基準法
建築基準法によって「特殊建築物」に分類されるホテルは、建築基準法の定める制限にも対応が必要です。特定建築物は不特定多数の人が利用する建物であり、より厳しい制限がかけられます。
たとえば3階以上のホテル・旅館は「耐火建築物」としての基準が設定されています。延焼や倒壊の防止のため、耐火性のある建材や構造にすることが必要です。
食品衛生法
ホテル内でレストランを営業する場合、またレストランがなくても朝食などを提供する場合は食品衛生法をクリアする必要があります。規制対象となる食品は、医薬品・医薬部外品を除くすべての飲食物です。
具体的には食品・添加物のほか、食器、調理器具、包装などに規制が及びます。乳児用おもちゃも、乳児が口に入れる可能性があるため、規制の対象です。
風営法
ラブホテルは、宿泊料金を徴収して人を宿泊させるため、旅館業法の規制対象です。また、風営法の規定に抵触する場合は、ラブホテルとして特別に規制されます。風営法でラブホテルとされるためには、以下の条件が必要です。
- 専ら異性を同伴する客が宿泊する(休憩も含む)ことが主な目的
- 「専ら」とは、宿泊客の70%から80%程度がカップルであることを指す
つまり、多くの客が特定の目的を持ったカップルであるホテルや旅館がラブホテルです。
ホテルや旅館の開業に必要な許認可とは?
宿泊業を営むため、受ける必要のある許認可を解説します。
ホテル・旅館の営業許可
宿泊施設を営業するには、申請書類を自治体に提出し、都道府県知事あるいは市区町村長に許認可を受けることが必要です。まず、建物の建設前に自治体の旅館業法の窓口を訪問して、開業の可否を相談します。
開業予定の場所、建物の図面などを確認されるケースもあるため、計画をしっかり立てておきましょう。なお、管轄の保健所が担当するケースもあります。
飲食店業の許可
レストランやルームサービスといった料理を提供するホテル・旅館では、飲食店営業許可の申請が必要で、以下の手順で進めます。
- 保健所に事前相談をする
- 飲食店営業許可の申請をする
- 日程調整のうえ、保健所の立ち入り検査を受ける
- 営業許可証が交付される
申請から許可証の交付までは約2~3週間で、申請費用として16,000円~19,000円がかかります。
公衆浴場営業の許可
宿泊客以外も利用できる浴場を宿泊施設に設ける場合、公衆浴場許可も得る必要があります。飲食店営業許可と同様、保健所に事前相談のうえ、申請をする流れです。
公衆浴場営業の許可を得るまでに、申請から2ヶ月程度かかります。申請費用は20,000円程度ですが、自治体によって異なるため、ホームページなどで調べておきましょう。
酒類販売業免許
宿泊施設で、顧客に開栓されていないお酒を提供する場合は、酒類販売許可を受けることが必要です。酒類販売許可を取得するための手順は以下のとおりです。
- 酒類指導官が設定されている税務署で事前相談をする
- 必要書類を揃えて、税務署で申請をする
- 必要な場合は現地調査を受ける
- 免許が交付される
申請から許可を得るまでは約2ヶ月で、申請の際に登録免許税として30,000円がかかります(1審査あたり)。
ホテルの種類による営業許可の適用範囲とは?
旅館業の許認可は、客室数や床面積などによって以下のように4種類あります。
許可の種類 | 対象 | 具体例 |
---|---|---|
ホテル営業許可 | 観光ホテル、ビジネスホテル | 洋室メインで10室以上、1室の床面積が9平方メートル以上などの場合 |
旅館営業許可 | 温泉旅館、観光旅館 | 和室メインで5室以上、1室の床面積が7平方メートル以上などの場合 |
簡易宿所営業許可 | カプセルホテル、民宿、ペンションなど | 客室の床面積が33平方メートル以上 |
旅館業(下宿)営業許可 | 従業員が住み込みをする宿泊施設など | 1ヶ月以上の滞在が主な目的として営業する施設 |
なおネットカフェは「娯楽業」であり、宿泊業には分類されません。このため、ネットカフェを開業する場合、旅館業の許認可を得る必要はありません。
ホテル・旅館の開業や期間従業員の住み込み施設など、1ヶ月以上の連続した滞在を主な目的として営業する施設に関わる資格
ここからは、ホテルの開業で必須となる資格、あるとよい資格を紹介します。
防火管理者
防火管理者は、設備における火災などの被害を防止するため、防火管理で必要な業務を行う責任者です。ホテルは不特定多数の人に利用される建物であり、収用人数が30人以上の場合は「乙種」、50人以上の場合は「甲種」の防火管理者を設置しなければなりません。
防火管理者の資格は、講習会に出席し、受講が完了すれば取得できます。講習時間は甲種が10時間、乙種は5時間です。
消防設備士
消防設備士は、ホテルや旅館にある消防用設備の工事、点検・整備が可能な資格です。具体的には消火器、避難用のはしご、火災警報器などを取り扱うことになり、これらは規模の大きいホテルや旅館では必須となる設備です。
消防設備士も甲種と乙種があり、甲種は消防用設備の工事・設備に加え、点検までできます。これに対して乙種は、設備の整備や点検のみが認められます。
危険物取扱者(乙種4類)
ホテルや旅館の施設管理では、熱源となるボイラーの燃料に、重油などの危険物を使用します。危険物取扱者は、重油やガソリンなどの危険物を扱える資格です。
施設内に温泉のある宿泊施設の場合、燃料は必要不可欠であり、危険物取扱者の資格も必須です。小規模の施設で、専門の従業員を雇うのが難しい場合、オーナー自身が資格を保有するのもよいでしょう。
ボイラー技士(二級)
ボイラー技士とは、ボイラーの管理や点検、修繕などを行う国家資格です。危険物取扱責任者が燃料を扱うのに対し、ボイラー技士はボイラーそのものを扱います。
大規模なホテルでは空調、大浴場、温水プールなどの運営のため、比較的大きなボイラー設備が必要です。ボイラー技士(二級)は、ボイラーの保守点検や操作、修繕などが認められます。
食品衛生責任者
食品衛生責任者は、食材の衛生管理、従業員に対する衛生管理や体調管理の指導などができる資格です。レストランやルームサービスなどを通じて食事を提供する場合、食品衛生責任者の有資格者の配置が必須です。
都道府県で開催される講座を受講することで取得できます。場合によっては修了試験に合格する必要があるため、自治体のホームページをチェックしましょう。
語学系の資格
インバウンド需要が伸びており、外国人観光客は増加傾向です。コミュニケーションをスムーズに取るため、接客スタッフは語学系の資格の取得が必要です。
具体的には「英検」「TOEIC」「中国語検定」などがあります。基本的な日常会話に加え、ホテルのサービス、周辺の観光名所なども外国語で説明できるようにすることが必要です。
サービス・マナー系の資格
接客レベルの向上やスキル習得のために、サービス・マナーに関する資格もおすすめです。具体的には「サービス接遇検定」「ユニバーサルマナー検定」といった資格があります。
より丁寧で適切な接客ができれば宿泊客の満足度が向上し、リピーターになってもらえる可能性が高まるため、経営状況の改善や向上につなげることも可能です。
ホテル経営に関わる資格
経営層は、マネジメントに関する資格の取得が推奨されます。中小企業診断士は経営コンサルタントの国家資格で、経営に関する幅広い知識を習得可能です。
社労士は人事労務・社会保険の手続きを行えるエキスパートで、多くの従業員を雇う場合に役立ちます。ホテルも会計や財務状況のチェックは常に重要なため、日商簿記など会計について学べる資格もよいでしょう。
ホテル・旅館の開業に必要な届出・手続き
ホテルや旅館を開業するには、次のステップで進めていきます。
- 自治体の旅館業法窓口で事前に相談する
- 旅館業営業許可申請書を提出する
- 建物の建設と内装工事を行う
- 保健所や消防署による現地調査が行われる
- 営業許可証が交付され、営業開始が可能となる
まずは建物の建設前に自治体の旅館業法窓口にて、開業可否の相談が必要です。許可が下りたら「旅館業営業許可申請書」を提出し、建設や内装工事を進めます。
内装工事が完了すると、次に行われるのは保健所・消防署による現地調査です。法令や衛生基準を満たしていると認められると、営業許可証が交付され、開業が正式に認められます。
ホテル・旅館の開業資金
宿泊業を営むのに、開業資金や運営資金をどの程度見積ればよいか、資金を調達するにはどのような方法があるかを解説します。
開業資金の目安
ホテルの開業で、大規模でない一般的な宿泊施設なら、1,500万円~3,000万円程度が目安です。ただし、建物を居抜きで用意できた場合であり、ゼロから建設するなら数千万円~数億円程度かかります。
開業資金で大きな割合を占めるのは土地代や建設費であり、コストを抑えるには既存の建物を利用したり地方で開業したりする必要があります。
ホテル・旅館の資金調達方法
開業資金の調達方法として代表的なのは以下のとおりです。
- 融資
- 出資
- 補助金(ただし後払い)
- クラウドファンディング
金融機関に融資してもらったり、出資者を探してお金を出してもらったりする方法が代表的です。クラウドファンディングで、広く資金を集める方法もあります。
補助金制度も利用できますが、いったん費用を支払い、後で受け取る形式であることに注意しましょう。
ホテル・旅館は儲かる?開業後の年収の目安
ホテル経営者の年収は、小規模な場合は600万~800万円程度で、大規模なホテルでは1,000万円を超えるケースもあります。小規模なホテルでも、複数を開業することで、さらに年収アップを狙えます。
経営者は自らの給与を役員報酬として自分で決定できるため、売上や利益を伸ばせばさらなる高収入も獲得可能です。
ホテル・旅館の開業に活用できる助成金・補助金
宿泊業の開業で利用できる補助金の制度を2つ紹介します。
札幌市宿泊施設非常用自家発電設備整備補助事業
札幌市で、災害などによって帰宅困難になった旅行者の安全を確保するための補助事業です。旅行者の受け入れをするため「民間一時滞在施設」となる宿泊施設に対して、非常用自家発電設備などの整備に関する経費の一部を補助します。
発電装置本体や、装置の設置工事・電気工事などの費用について、50%以内で補助を受けられます。
茅野市観光宿泊施設改装事業補助金
長野県茅野市では、「観光宿泊施設改装事業補助金」として改装費用の補助を行っています。宿泊施設の改装に必要な経費の10%以内の額について補助を受けることが可能です。
具体的には、内装(内壁、天井材、床材など)、外装(外壁、屋根材、ドア、窓など)が対象です。なお、こちらの制度は令和7年3月で一旦終了となります。今後、同様の補助金があれば利用を検討してみましょう。
ホテル・旅館の開業に役立つひな形・テンプレート
マネーフォワード クラウドでは、ホテル・旅館の開業(会社設立)に役立つひな形やテンプレートを提供しています。下記リンクから無料でダウンロードできますので、自社に合わせてカスタマイズしながらご活用ください。
ホテルの許認可を適切に取得して開業しよう
ホテルや旅館を開業するには、旅館業法における営業許可が必須です。営業許可を得るには、都道府県の旅館業法の窓口に相談し、申請書を提出します。
場合によっては、飲食店業の許可や公衆浴場営業の許可なども必要です。それぞれ手続きが必要で時間もかかるため、開業に間に合うように進めることが大切です。
ホテルの開業で必要な許認可をスムーズに取得し、ホテル経営を成功させましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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