- 更新日 : 2023年11月10日
横領とは?法的な定義や種類、会社側の対策などを解説
ビジネスにおける「横領」とは、主に会社のお金を不法に取得することで、犯罪行為です。会社側としてはそのような行為が起こらないように対策を講じることが大切です。
そこで当記事ではまず横領の法的な定義や種類を説明し、そのうえで会社の取るべき対策について解説をしていきます。
目次
横領とは?法的な定義は?
「横領(おうりょう:embezzlement)」とは、他人の財産について、それが自分の手元にあるのをいいことに、あたかも自分の財産であるかのように奪ってしまう・使ってしまうことを指します。
刑法に規定されている犯罪行為であって、法的には「自分が占有している他人のものを不法に領得する」行為とも表現されます。
ここで言う「占有」とは、事実上の支配を意味し、自分の手元にあって持ち去ったりできるような状況を指します。自分が占有しておらず、他人の手元にあるものを奪う場合は横領ではなく窃盗にあたします。また、「領得」とは、自分のものあるいは第三者のものとするため、所有者の物を取得することを指します。
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横領罪は3種類に分類できる
一言で「横領」といっても、刑法では次の3つに分けて規定を置いており、それぞれ犯罪として成立する要件、そして刑罰も異なります。
単純横領罪
刑法第252条では次のように横領罪の規定を置いています。後述の2種類との区別のため、こちらは「単純横領罪」と呼ばれます。
(横領)
第二百五十二条 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。引用:刑法|e-Gov法令検索
例えば友人から預かった金銭をそのまま奪い去ってしまう、自分のものとして消費してしまう行為は、単純横領罪にあたります。現金ではなく貴金属を預かっていて、これを売却する行為でも単純横領罪は成立します。
そしてこのとき、「5年以下の懲役」という刑罰を科すことが予定されています。
また、自分の財産であったとしても、公的に「保管をしていなさい」と命令されていた財産については自由に処分してはいけません。裁判所や税務署が差押えをするために保管を命じている財産に関してこれを勝手に処分してしまうと単純横領罪が成立します。
業務上横領罪
刑法第253条では「業務上横領罪」が次のように定められています。
(業務上横領)
第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。引用:刑法|e-Gov法令検索
ポイントは「業務上占有していたもの」が目的物である点です。会社が注意すべきはこの業務上横領罪といえます。
例えば経理担当者は会社のお金を日常的に取り扱っており、自由に引き出しや送金を行うことができてしまうケースが多いです。会社のお金を適切に管理せず、自分の懐に入れてしまうと、業務上横領罪が成立してしまいます。会社から特定の目的のために預かったお金を第三者の勝手に渡してしまう行為も業務上横領罪を成立させます。
業務として占有している場合は、そうでない場合に比べてより重い責任を負っています。そこで刑罰も「10年以下の懲役」と単純横領罪に比べて重く設定されています。
遺失物等横領罪
多くの横領罪は、所有者である相手方から頼まれて財産を占有していることが多いです。しかしそのような背景がなくても「遺失物等横領罪」が成立する余地があります。
(遺失物等横領)
第二百五十四条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。引用:刑法|e-Gov法令検索
これはつまり、落とし物を勝手に自分のものにしてしまう行為を意味しています。誰かが乗り捨てた自転車を乗り去る行為なども同様です。
会社においてよくあることではありませんが、社会一般においては比較的件数の多い犯罪といわれています。
横領を防止するために事業者はどう対策すべき?
横領を防止するため、事業者としては次のような対策を講ずるべきでしょう。
- 従業員・役員に対する教育
横領という行為がいけないことだという認識は多くの方が持っていると思われるが、犯罪であり懲役刑が予定されている犯罪だということを強調し、刑罰が科されるリスクなどを伝えることには一定の効果が望める。
- 内部統制の整備・強化
従業員等に対して「横領をしないように」と伝えるだけでなく、横領が起こりにくい仕組みを作ることも大事。出金に対しては複数人の承認が必要とする、横領などの不正を見つけた従業員が内部告発できる窓口を設けるなど、自社の業務態様に合わせた工夫が必要。
- 定期的なチェック・監査の実施
現金の流れなどを厳格に管理し、残高と実額の照合を行う。また、内部監査を実施して不審な動きがないかチェックを行う。
- 横領をはたらいた従業員等に対して厳正な処分を下す
今後の横領を抑制するためにも、横領した従業員に対しては懲戒処分を下す。また、横領された資金の返還はもちろん、場合によっては損害賠償請求なども行う。
横領をしても問題ないだろうと思わせないこと、そして横領ができる環境を排除することが大事です。
横領が発覚した場合はどう対応する?
対策を講じていても100%不正を防げるとは限りません。万が一自社で横領が発覚したときは、次の流れに沿って速やかに対応するよう心がけましょう。
- 事実関係を調べる
関係者に事情聴取し、事案の調査を進める。 - 証拠を確保する
後々横領についての事実を客観的に示せるよう、入出金の履歴など、証拠を残しておく。 - 横領をした者への処分を検討する
被害の大きさ、社外への影響、行為の悪質さなど諸般の事情を鑑みて、加害者に対する処分を検討。
問題ある従業員等への処分については、基本的に、行った行為に対して極端に重い処分とならないようにしなくてはなりません。ただ、横領の場合は犯罪ですし、解雇をした場合でも権利を濫用したと評価されにくいです。
なお、刑事告訴をしなくても民事上の損害賠償請求をすることはできますし、損害賠償請求をしなくても刑事告訴することは可能です。そして懲戒処分についても別個独立に考えることができます。減給などもありますが、横領をした者をその後も雇用し続けるべきではないでしょう。
横領罪の時効は?
罪を犯したとしても、消滅時効期間を経過すれば罪に問うことができなくなってしまいます。横領罪に関しても次のように時効期間が設定されています。
- 単純横領罪 :5年
- 業務上横領罪:7年
- 遺失横領罪 :3年
この期間を経過すると捜査機関の対応ができなくなるため、会社側による刑事告訴も難しくなるといえます。
また、この刑事手続上の時効とは別に、損害賠償請求をするときに関係してくる民事手続上の消滅時効期間も存在します。
「横領の事実と加害者を知ってから3年」「横領が行われてから20年」のいずれか早いタイミングで時効消滅します。被害額の請求をしたい会社側としては、横領罪としての時効より、損害賠償請求権としての時効に注意したほうが良いでしょう。
横領と混同しやすい言葉
「横領」と似た言葉に「着服」「窃盗」「背任」といった言葉があります。これらの違いについても整理しておきましょう。
着服との違い
まず「着服」についてですが、こちらは横領と似た意味合いを持つ一般用語です。人のものを盗むわけではないものの、不正にこれを自分のものとする行為を指します。
重要なのは「横領」が刑法上の法律用語であって、「着服」がそうではないということです。「横領」と呼ぶには、法律上、行為者が占有していることや、本来の所有者を排斥して自分の所有物として処分する意思があると評価される必要があります。
そのため、一般に着服と呼ばれる行為によって横領罪が成立することもあれば、成立しないこともあるということです。
窃盗との違い
「窃盗」は刑法に規定されている、横領とは別の罪です。
窃盗は「他人の財産を盗み取る行為」であり、盗む対象となるものは行為者の手元にありません。そのため占有の有無が窃盗と横領の大きな違いといえるでしょう。
例えば現に人が抱えているバッグを盗む行為は「ひったくり」などと呼ばれ、窃盗罪にあたる一方で横領にはなりません。逆に人からバッグを預かり、それを勝手に持ち帰ったとしても窃盗罪にはならず横領罪が成立します。
背任との違い
「背任」も刑法に規定されている、横領とは別の罪です。以下がその規定です。
(背任)
第二百四十七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。引用:刑法|e-Gov法令検索
人の信頼や期待を裏切るという点では横領と近い性質を持っています。ただし、裏切る方法や中身が異なっています。横領では財産を奪うという方法によって期待を裏切っていますが、背任は任務に背くという方法によって期待を裏切ります。
ただし、頼まれた任務をしなかった・できなかったというだけで背任罪が成立するわけではなく、「自分自身や第三者の利益のため、または損害を与える目的」を持って任務に背くことが条件です。
会社に損害を与える目的で任務に違背する場合は背任罪が成立する余地がありますので、こちらも会社側で予防・事後対応を取ることが重要になってきます。
横領が起こりにくい環境を整備しよう
横領が絶対に起こらない環境にするのは困難です。役員や従業員などにある程度権限を与えていかないと業務が進められません。
ただ、社内で監視体制を整え、しっかりと教育を行うなどすればその発生確率は下げることができます。そのうえで横領が発生したときのことも想定しておけば、迅速に対応でき、被害を最小限にとどめられるかもしれません。そのため会社側としては、予防と事後対応の両面から対策を講じることが重要といえます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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