- 作成日 : 2025年5月28日
工場の効率化を進めるには?進まない原因や効率化の事例、補助金を解説
「工場の生産効率が悪く、どうすれば改善できるのか分からない…」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。近年、少子高齢化に伴う労働人口の減少や人手不足、グローバル競争の激化により、工場の業務効率化は製造業全体の大きな課題となっています。
この記事では、生産効率が悪い原因や効率化が必要な理由、具体的な改善方法や効率化ツール、さらに食品・金属加工・電子機器業界の事例について解説します。
目次
工場の効率化が進まないのはなぜ?
現場で効率化の必要性は理解していても、実際の改善活動がなかなか進まないこともあります。効率化を阻む主な要因と、その克服策を整理しましょう。
業務に追われて改善の時間が取れない
現場が慢性的な残業や人手不足の状態だと、改善に割く時間や人員を確保できません。この場合、経営層が意識的に改善のための時間(例えば週に数時間でも)を捻出したり、専門家の力を借りたりするなど、まず「改善の余裕」をつくることが重要です。また、小さな改善でも継続して積み重ねることで大きな効果につながるため、短時間でできる改善から着手すると良いでしょう。
新しい取り組みに対する現場の抵抗感
従来のやり方を変えることに抵抗を示す従業員もいます。「効率化すると自分の仕事がなくなるのでは」という不安や、単純に変化を嫌う心理が原因です。この場合、効率化の目的やメリットを丁寧に説明し、現場の声を取り入れながら改善策を検討することが有効です。現場主体でアイデアを出してもらい、小さな成功体験を積み重ねれば、抵抗感は徐々に薄れていきます。
投資コストや効果に対する不安
新しい設備やシステムの導入にはコストがかかるため、特に中小企業では「投資に見合った効果が出るか」心配で踏み切れないケースがあります。こうした場合、国や自治体の補助金制度を活用したり、レンタル・リースを検討したりすると初期負担を減らせます。また、安価で導入できるツールから試して効果を検証し、徐々に規模を拡大するアプローチも有効です。効果が数値で見えるようKPI(重要業績指標)を設定し、改善前後で比較することで、投資対効果を客観的に示すことも大切です。
ノウハウ不足
どう改善すれば良いか分からない、適切な手法が分からないというケースもあります。社内に改善の経験が少ない場合、他社の事例を調査したり、専門のコンサルタントやベンダーに相談したりすることも検討すべきです。最近では中小企業向けに無料セミナーやオンライン資料なども充実しているため、そうした情報源を活用して最新の効率化ノウハウを学ぶことができます。
このように、効率化が進まない要因は様々ですが、一つひとつ対策を講じていけば必ず改善への道は開けます。大切なのは、小さなことからでも継続して取り組む姿勢と、現場と経営層が一丸となって効率化を推進することです。
工場の効率化が重要な理由
では、なぜここまで工場の効率化が重要視されるのでしょうか。その背景には、日本の労働力人口の減少と激しい競争環境という2つの大きな理由があります。
内閣府の推計では、生産年齢人口(15~64歳)は2029年に約6,951万人と7,000万人を下回り、2065年には約4,529万人まで減少すると見込まれています。
特に製造業では深刻な人手不足が続いており、一人ひとりの負担が増すと離職率も高まりかねないため、生産現場の効率化は喫緊の課題となっています。
また近年は国内外を問わずグローバル競争が激化しており、付加価値の高い製品を次々に生み出す競合他社に打ち勝つには、生産性の向上による利益確保が不可欠です。日本の製造業は元々それほど生産性が高いわけではないため、業務効率化によって競争力を強化する余地が大いにあるとされています。
工場の効率化を進めるメリット
効率化に取り組むことで、具体的には次のようなメリットが得られます。
- 利益の増加:生産効率を向上させて生産量が増えれば、それだけ多くの製品を販売できるため、利益が拡大します。
- コストの削減:作業の効率化により必要な作業員数を減らしたり残業を削減したりできれば、人件費などのコストを圧縮できます。
- 人材確保の容易化:効率化によって一人当たりの負担が軽減され、残業が減るなど職場のワークライフバランスが改善すれば、従業員の定着率向上や新たな人材の確保につながります。
- 品質向上と顧客満足度の向上:無駄やミスの少ない安定した生産体制を築ければ製品品質が安定し、納期遵守も容易になるため、顧客満足度が高まります。品質トラブルや納期遅延が減ればクレーム対応に割く時間も減少し、結果として更なる改善活動にリソースを充てられる好循環が生まれます。
工場を効率化する具体的な方法
具体的に工場の生産効率を高めるためにはどのような取り組みが有効でしょうか。現状の業務プロセスや作業体制を見直し、必要に応じてデジタル技術も活用することで、生産現場のムダを排除し効率化を図ることができます。
以下に、製造業で効果的な主な改善策を挙げて解説します。
ムダ・ムリ・ムラの排除による業務プロセス改善
まず基本となるのは、生産プロセス上のムダ・ムリ・ムラを徹底的に洗い出して取り除くことです。「ムダ」は不要な作業や動作、「ムリ」は無理な工程や過剰な負担、「ムラ」は生産量や作業ペースのばらつきを指し、これらを削減することで生産効率が向上します。これは、基本的に低コストで着手できるため、まず取り組むべき効率化策と言えます。
現場の伝統的な慣習で実は必要のない手順が残っていないか、ある作業に待ち時間や過剰な時間を要していないか、特定の人のスキルに頼りすぎていないか、といった点を見直し改善します。
例えば、工程間の移動や段取りの無駄を省いたり、報告・承認フローを簡素化したりするだけでも、積み重ねれば大きな時間短縮につながります。また、必要以上に厳しすぎる検査や過剰品質も時間のロスにつながるため、適切な基準に見直すことも重要です。
5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底
工場の生産性向上には、職場環境の整備も欠かせません。5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)を徹底し、必要な物がすぐ取り出せて作業しやすい職場を維持することで、探し物や作業のやり直しにかかる無駄な時間を削減できます。
また、道具や部品の置き場所や手順が明確になれば新人でも迷わず作業でき、作業ミスの防止にもつながります。
5Sによって職場の安全性・整備性が向上すれば、生産効率だけでなく品質や士気の向上といった副次的な効果も期待できます。
現場の見える化とデータ活用
業務の改善には、現状を「見える化」して問題点を把握することが有効です。IoTセンサーやバーコード、作業日報などを活用して、生産状況や設備の稼働状況、作業時間などのデータを収集・可視化します。
これにより、どの工程で無駄が発生しているか、どこがボトルネックになっているかを客観的に特定でき、的確な改善策を講じることが可能になります。
実際、紙の帳票で管理していた現場の作業記録をデジタル化し、データ集計を自動化した結果、帳票の集計作業時間が「1日2時間」から「約1分」に大幅短縮された事例もあります。
難しいITスキルがなくても、小さなデータ収集から大きな改善につなげることは可能です。
現場の状況を数値で捉えて共有することで、従業員の問題意識も高まり、改善の議論を活性化できます。
作業の自動化・省人化の推進
人手に頼っていた作業を機械やロボットに置き換えることも、生産効率向上に直結する施策です。単純作業や繰り返し作業は自動化の効果が大きく、24時間稼働も可能になるため、生産性が飛躍的に向上します。
例えば、ある食品工場ではピッキング(仕分け)工程に自動ピッキングシステムを導入し、全体の作業時間を50%以上短縮、仕分けミスも90%減少するといった成果を上げています。また、人手では重労働だった部品運搬をAGV(自動搬送ロボット)に任せたことで作業者の負担軽減とタクトタイム短縮を同時に実現した事例もあります。
もっとも、自動化には設備投資が伴うため、いきなり全工程をロボット化するのは難しいでしょう。そこで、まずは手作業で行っている工程のうち、自動化しやすい部分から着手することがポイントです。例えば製品への印字作業は、レーザーや産業用インクジェットなど高額な装置を使わなくても、エアシリンダを備えたスタンプ装置を導入するだけで簡単に自動化できます。
このような比較的低コストな自動化手段を活用すれば、専門知識を持った人材がいなくても省人化を進めることが可能です。自動化によって生じた余裕人員を他の付加価値の高い業務に振り向けることで、工場全体としての生産性を一段と高めることができます。
ベテランのノウハウ共有
効率化の取り組みを定着・継続させるには、人に依存しない体制づくりも重要です。属人的な業務を減らし、ベテラン社員が蓄えてきたノウハウや改善の知見を組織全体で共有する仕組みを整えましょう。例えば、作業手順書やチェックリストを整備して誰でも同じ手順で作業できるようにしたり、OJTでベテランが新人にコツを伝授する機会を計画的に設けたりします。
必要に応じて動画マニュアルや社内データベースを活用して知識を見える化することも有効です。ベテランだけが知る「勘と経験」に頼る状態を減らすことで、誰が担当しても一定のパフォーマンスを発揮できるようになり、生産効率の底上げにつながります。
また、従業員のスキルアップを支援し、多能工化(一人で複数の作業をこなせる人材の育成)を進めることも、将来的な人手不足に備える上で有効です。
工場の効率化で申請できる補助金(2025年版)
工場効率化の内容と活用できる補助金、補助金額の目安は以下の通りです。
国の主な補助金制度
ものづくり補助金
革新的な設備導入により生産性を向上させる中小企業を支援する補助金です。工場内の自動化やデジタル化、AI活用による工程改善、試作品開発などが対象になります。
- 補助率・上限: 補助率1/2(小規模事業者は2/3)、上限750万円~3,000万円(枠により異なる)
- 申請ポイント: 認定支援機関と作成した事業計画書が必要で、複数回公募が行われます。生産性向上や賃上げなどの取り組みが加点対象になります。
IT導入補助金
中小企業の業務効率化・生産性向上を目的に、ソフトウェアやクラウドサービス導入を支援。生産管理システムやIoT連携ツールも対象です。
- 補助率・上限: 補助率1/2〜4/5、最大450万円(枠によって異なる)
- 申請ポイント: 登録ITベンダーの協力が必要。IT導入支援事業者を通じて申請し、セキュリティ対策やインボイス制度対応なども補助対象になります。
参考:IT導入補助金2025
中小企業省力化投資補助金
ロボットや省人化設備の導入を支援する新制度で、人手不足の解消や生産性向上が狙いです。AGV、自動倉庫、検査機などの導入に活用できます。
- 補助率・上限: 補助率1/2、上限200万円〜1億円(企業規模や賃上げ有無で変動)
- 申請ポイント: 掲載カタログ内の製品が対象で、申請書類も簡素化。公募は複数回予定され、導入目的が明確な事業が優先されます。
参考:中小企業省力化投資補助金
省エネ補助金(省エネルギー設備導入補助)
工場のエネルギー使用削減を目的とした高効率設備への更新や、省電力型の生産ライン導入を支援。脱炭素化にも寄与します。
- 補助率・上限: 補助率1/2(条件付きで2/3)、上限1億円〜最大40億円(大型枠あり)
- 申請ポイント: 導入設備の省エネ性能の証明が必要。申請にはエネルギー削減効果の計算と、専門事業者の協力が不可欠です。
参考:省エネ・非化石転換補助金
主な自治体の補助金制度
東京都 DX推進助成金
東京都内の中小企業によるIoT・産業ロボット・業務システム導入を支援。工場のスマート化や業務効率改善の推進が目的です。
- 補助率・上限: 補助率1/2〜3/4、上限3,000万円
- 申請ポイント: 事前に都の専門家の支援を受け、提案書を作成してから申請する必要があります。賃上げ計画を盛り込むと補助率が上がります。
参考:DX推進助成金
大阪府 企業立地促進補助金
大阪府内で工場や研究開発拠点を新設・増設する事業に対して、設備投資の一部を補助します。地元経済への波及効果も重視されます。
- 補助率・上限: 補助率5〜10%、上限3,000万円
- 申請ポイント: 着工前の申請が必須。固定資産税の軽減など他制度との併用が推奨されます。
神奈川県 生産性向上促進事業費補助金
神奈川県内の中小企業が、生産・検査の効率化を図る機械設備やシステム導入を支援。中小製造業が特に利用しやすい制度です。
- 補助率・上限: 補助率1/2〜2/3、上限500万円
- 申請ポイント: 賃上げ実施や県内業者からの調達が条件。導入完了の期限があるため、スケジュール管理が重要です。
【業界別】工場の効率化の事例
ここでは、効率化への取り組みが進んでいるいくつかの業種について、具体的な成功事例を紹介します。自社と近い業界の事例を参考にすることで、効率化のヒントが得られるでしょう。
食品製造業
食品工場では人手に頼った作業が多く、労働力不足や作業ミスが課題となりがちです。ある冷凍食品工場では、包装やピッキングなどの工程に産業用ロボットを導入しました。
その結果、作業効率が約30%向上し、人員削減によるコスト削減を実現しています。また、別の食品メーカーでは自動ピッキングシステムの導入で、作業時間を50%以上短縮し、仕分けミスを90%削減する成果も報告されています。
これらの事例では、従来はベテランの勘に頼っていた原料の選別や仕分け作業が自動化され、作業者の負担軽減と生産性向上を両立しています。食品業界では衛生管理やトレーサビリティ確保の面からもデジタル化・自動化のニーズが高く、今後さらに効率化が進むと期待されています。
金属加工業
金属加工の現場では、職人の手作業や段取りに時間がかかるケースが目立ちます。ある中小部品メーカーでは、加工治具(ジグ)の改良によって段取り工数を3割削減し、工具の見直しで切削工数を4割削減することに成功しました。
例えば、大型ワークを固定するための治具を作り替えてセッティングを効率化し、さらに加工工具を加工素材に合わせて最適化した結果、大幅な工数削減につながったものです。同社では加工効率向上により、1日の生産量増加と残業時間削減を実現しています。また、別の金属加工工場では、工作機械の治具干渉(ツールがぶつかるリスク)を回避する新治具を開発し、作業効率を2倍に高めた例もあります。
金属加工業界では、このように現場の創意工夫による効率化の余地が大きく、設備投資を最小限に抑えつつ生産性を高めている中小企業も少なくありません。
電子機器製造業
電子機器や電気部品の製造現場では、多品種・大量生産に対応するための自動化やIT活用が進んでいます。大手企業だけでなく中小企業でも、IoTやAIを取り入れて効率化を図る動きが活発です。
例えば、トヨタ自動車の一次下請けである旭鉄工株式会社では、現場データを巡回監視して問題点を自動抽出する「AI製造部長」というシステムを開発し、製造業の効率化と品質向上に成功しています。このシステムにより、人間の勘や経験に頼ることなく工程内のムダや異常を検知し、即座に改善につなげることが可能になりました。
別の電子部品メーカーでは、作業員に腕時計型のIoT端末を携行させ、各人の作業進捗やラインの稼働状況をリアルタイムで見える化する仕組みを導入しています。それによって、ライン停止や部品切れなどの問題を早期に察知し、生産計画の見直しや人員配置の調整を迅速に行えるようになりました。
電子・電機分野ではこのように高度なデジタル技術を活用した効率化が進んでおり、製造リードタイムの短縮や不良率の低減といった成果が数多く報告されています。
工場の効率化をできることから始めよう
工場の生産効率化は、中小企業にとって避けて通れない課題です。生産性向上のメリットは利益増・コスト減だけでなく、働きやすい職場づくりや顧客満足度向上など多方面に及びます。本記事で紹介した原因分析や具体策、事例を参考に、自社の現場でもできることから少しずつ改善を始めてみましょう。小さな改善の積み重ねが大きな成果につながります。ぜひ今日から工場効率化に向けた一歩を踏み出してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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