- 更新日 : 2025年10月6日
退職勧奨での退職は会社都合と自己都合どちら?とるべき対応の手順も解説
「退職勧奨は、会社都合?それとも自己都合?」「退職勧奨された場合、どうすればよいのか知りたい」
このような疑問がある方も多いのではないでしょうか。
退職勧奨に応じた場合、多くのケースで従業員にとって有利な「会社都合退職」となります。
本記事では、退職勧奨を受けた会社員が知るべき「会社都合」と「自己都合」の違いや、対応するための5つの手順、会社都合での退職のメリット・デメリットなどを解説します。
この記事を読んでいただければ、退職勧奨を受ける際の、有利な退職方法がわかるようになるでしょう。
目次
退職勧奨での退職理由は会社都合になる
退職勧奨とは、会社が従業員に対して退職を促す行為のことです。
解雇とは異なり、あくまで会社からのお願いのため、従業員には拒否する権利があります。
退職勧奨に応じて退職した場合、その退職理由は原則として「会社都合」です。
一方で、自己都合退職はキャリアアップを目的とした転職、結婚や家庭の事情など、労働者自身の意思で雇用契約を終了させる場合を指します。
同じ退職でも、その背景にある理由によって、法律上の扱いが変わってくるのです。
会社都合の退職と自己都合の退職とでは、失業手当の給付制限期間や給付日数に違いがあります。そのため、退職勧奨を受けた際は、退職理由が会社都合となることをしっかりと確認し、その後の生活設計に役立てることが重要です。
会社都合の退職と自己都合での退職の違い
会社都合の退職と、自己都合での退職の違いを3つ解説します。
順番に見ていきましょう。
1. 失業保険
失業保険とは、離職者が再就職するまでの生活を保障するための制度で、正式名称は「雇用保険」といいます。
受給条件を満たしている人が申請すると、一定の期間、生活のための手当が振り込まれます。
退職理由による失業手当の条件の違い
会社都合退職 | 自己都合退職 | |
---|---|---|
支給の開始 | 7日後 | 7日+1~3ヶ月後 |
給付日数 | 90~330日 | 90~150日 |
参考:ハローワークインターネットサービス|基本手当の所定給付日数
給付制限期間・給付日数ともに、退職理由が会社都合のほうが、有利な条件です。
失業保険については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:失業給付金・失業手当の条件は?金額や期間、再就職手当を解説
2. 退職金
退職勧奨で退職に応じる場合、「特別退職金」として一定額が提示されることがあります。
特別退職金とは、通常よりも割り増して支給される退職金のことです。
そして、会社都合退職と自己都合退職では、退職金の支給額に差が出ることが一般的です。
通常、会社都合での退職の場合は規定上の金額、またはいくらか上乗せされた金額で退職金が支給されます。
これは、会社側の事情によって退職を余儀なくされた労働者の場合は、補償が必要との考えからです。
一方、自己都合退職の場合は、退職金が減額されたり、勤続年数によってはまったく支給されないケースもあります。
これは、労働者自身の意思で退職することを選んだ場合、会社としては慰労金としての意味合いが薄れると考えるためです。
ただし、会社の規定によるため、自己都合退職であっても勤続年数が長く、規定で定められた条件を満たしていれば満額に近い退職金が支給されることもあります。
退職金の有無や金額は、その後の生活設計に大きく影響するため、退職を検討する際には会社の退職金規定を確認し、担当者などに詳細を問い合わせておきましょう。
3. 転職活動への影響
会社都合退職の場合は、会社側の事情で退職せざるを得なかったという客観的な理由があるため、転職活動において不利になることは少ないと考えられます。
とくに、会社の倒産や事業所の閉鎖、大規模な人員削減などが理由であれば、むしろ同情的に受け止められることもあるでしょう。ただし、「解雇」という形での会社都合退職の場合は、その理由によっては、自己都合退職と同様に、採用担当者から詳しく問われることがあります。
一方で、自己都合退職は自分の意思で会社を辞めたという印象を与えるため、転職の面接でその理由を詳しく問われることが多いでしょう。
退職勧奨されたらとるべき対応【5つの手順】
退職勧奨されたときにどう対応するべきかを、5つの手順に分けて解説します。
順番に見ていきましょう。
1. 退職勧奨に必ず応じる義務はない
まず、退職勧奨を受け入れなければならない義務はありません。
退職勧奨は解雇ではなくあくまでも会社からの「お願い」で、従業員がそれを受け入れるかどうかは自由です。
従業員に退職の意思がないにもかかわらず、会社が執拗に退職を迫ったり、退職に応じない場合に不利益な扱いを示唆したりすることは、退職強要にあたる可能性があります。
まずは退職勧奨を受け入れるかどうかは任意であることを認識して、安易にその場で返事をせず、検討する時間をもらうようにするとよいでしょう。
2. 退職勧奨の理由を確認する
ふたつめに、退職勧奨を受けた場合、会社がなぜ自分に退職を勧めるのかその理由を具体的に確認することが重要です。
会社が退職勧奨をする理由として、以下の例があります。
- 経営上の理由
- 個人の能力不足
- 周囲とのトラブル
- 部署の廃止
たとえば経営状況の悪化による人員整理の場合は、退職勧奨を断ったとしても将来的に会社が倒産したり、業務内容がまったく違うものになったりする可能性もあります。
自分は会社で働き続けたいと思っていても、退職勧奨の理由によっては転職したほうがよい場合もあるでしょう。
3. 退職勧奨を受ける場合の条件を確認する
退職勧奨を受け入れる場合でも、会社側の提示する条件を安易に受け入れず、しっかりと内容を確認し、交渉することが重要です。
退職する際は、以下の条件を確認しておきましょう。
- 退職金の額:通常の退職金規程にもとづく金額に加えて、特別退職金として上乗せされるか
- 有給休暇の消化:未消化の有給休暇をすべて消化できるか
- 退職日の設定:次の転職先を見つけるまで、余裕を持った退職日に設定してもらえるか
- 退職理由:離職票に記載する退職理由を「会社都合退職」にしてもらえるか
- 再就職支援:会社が再就職支援サービスを提供してくれるか
退職勧奨は、会社都合退職として扱われることが多いため、通常の自己都合退職よりも有利な条件を引き出せる可能性があります。
4. 転職先を探す
退職勧奨に応じることを検討している段階であれば、交渉次第で退職日をある程度の期間、延期してもらえる場合があります。
退職日を延期してもらえる場合、その期間を利用して積極的に転職活動を行いましょう。在職中に転職活動を行うことで、精神的な余裕が生まれ、より冷静に次のキャリアを考えられます。
転職活動を進める際には、転職サイトや転職エージェント、ハローワークなどを活用し、積極的に情報収集を行いましょう。自分のキャリアプランや希望する職種、業種を明確にし、複数の企業に応募することで選択肢を広げられます。
会社の規定によっては一定期間、同業他社への転職を禁止する規定を設けていることもあるため、退職勧奨を受けた際に条件をよく確認して交渉することが大切です。
5. 退職に合意する
退職が決まれば、お互いに合意書を取り交わします。
退職合意書は、退職後のお互いのトラブルを避けるために締結する書類です。
合意して退職する旨や、退職日、未払い賃金の支払いや退職金の条件、守秘義務などを記載します。
不平不満があると退職後に従業員が会社を訴えたり、機密情報を漏らしたりする可能性があるため、問題になることを防ぐための書類です。
退職合意書については、以下の記事で詳しく解説しています。
会社都合で退職する3つのメリット
会社都合で退職するメリットを、3つ紹介します。
これらのメリットを理解することで、退職後の生活設計をより有利に進められるでしょう。
1. 失業手当の給付期間が長い
ひとつめのメリットは、失業手当の給付期間が長いことです。
会社都合での退職は、自己都合での退職に比べて失業手当の給付期間が長く設定されています。つまり、退職後に次の転職先を見つける期間に余裕があるということです。
離職前の賃金や加入期間によって給付日数が変わり、90日から最大で330日まで手当を受け取れます。
会社都合退職の場合、特定受給資格者または特定理由離職者として扱われるため、手厚い保護を受けられるのです。失業手当をもらう支給開始日も早く、当面の生活に対して安心材料となるでしょう。
生活費の心配が軽減されることは、新たな職を見つけるうえで心強いサポートとなります。
2. 特別退職金が支給される
ふたつめは、退職金の額が大きいというメリットです。
会社都合退職の場合、通常よりも条件のよい特別退職金が支給されるケースがあります。
特別退職金は、突然の退職によって生じる従業員の経済的な負担を軽減するために支給されるもので、法律で定められたものではなく、会社が独自に設けている制度です。
その金額は会社の規模や業績、個人の貢献度などによって異なり、数十万円から数百万円に及ぶことも珍しくありません。
このまとまった資金は、次の職場が見つかるまでの生活費の補填や、新しいスキル習得のための費用、あるいは起業資金など、さまざまな用途に活用できます。
法律で具体的な支給額が決まっているわけではなく、場合によっては低く設定されている可能性もあるため、退職勧奨を受ける際はよく交渉しましょう。
3. 国民健康保険の減免制度がある
みっつめのメリットは、国民健康保険の減免制度が利用できることです。
会社都合で退職した場合、健康保険は任意継続、国民健康保険に加入、または家族の扶養に入るという選択肢があります。
国民健康保険に加入する場合、以下の条件すべてを満たせば減免の適用を受けることが可能です。
- 離職の時点で65歳未満の方
- 雇用保険の特定受給資格者、または特定理由離職者に当てはまる方
- 雇用保険受給資格者証(または雇用保険受給資格通知)の離職理由コードが11、12、21、22、23、31、32、33、34のいずれかに該当する方
国民健康保険の減免を受けた場合、離職の翌日から翌年度末までの期間、給与所得が100分の30とみなされ、算定される保険料が低くなります。
たとえば、2025年7月31日に退職した場合は、2025年8月1日から2027年3月31日までが軽減期間です。
国民健康保険の軽減制度が利用できるかについては、住んでいる市区町村によく確認しましょう。
会社都合で退職する2つのデメリット
会社都合での退職には、いくつかのデメリットも存在します。
それぞれ確認しましょう。
1. 経済的に不安定になる
退職すると安定した給与収入が途絶えるため、経済的に不安定になります。
失業手当が支払われたとしても、給与の全額が保証されるわけではなく、支給されるのは賃金日額の50~80%(60歳から64歳は45〜80%)ほどです。
就職活動が長引けば、失業手当だけでは生活費をまかないきれなくなる可能性があります。
再就職の目途や自身の貯蓄額を考慮して、退職勧奨を受け入れるかどうかを決める必要があるでしょう。
2. キャリアに影響する場合がある
ふたつめのデメリットは、キャリアへの影響です。
転職先の採用担当者によっては、「会社都合のどのような理由で退職したのか」という疑問をもたれることがあります。場合によっては、ネガティブな印象を与えてしまう可能性も否定できません。
ただし、会社都合での退職がすべてマイナスに働くわけではなく、リストラや事業再編といった理由での退職であれば、仕方がないことだったと判断される場合もあります。
転職活動の際には、会社都合退職になった経緯を具体的に、かつ前向きな姿勢で説明できる準備をしておくことが重要です。
退職勧奨に関するよくある質問
Q1. 退職勧奨に応じて退職した場合、退職届は必要か
退職届は法律的には必須ではありません。
退職勧奨を受けて退職する場合は、退職届を出すと知らないうちに自己都合退職として扱われる可能性もあるため、退職合意書を交わしたほうがよいでしょう。
Q2. 退職勧奨と解雇はどう違うのか
退職勧奨は従業員に選択の余地があるのに対して、解雇は企業が強制的に行います。
従業員に選択的自由があるかどうかが、大きな違いといえるでしょう。
解雇の条件や種類については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:解雇とは?解雇の種類と条件・流れを解説
Q3. 強引に退職を強要された場合はどうすればよいか
強引な退職の強要や、脅迫的な言動による退職は不当行為とみなされ無効となります。
退職の強要があった場合は、以下のような場所で相談しましょう。
- 弁護士事務所
- 労働組合
- 労働局
相談する際は、書類や会話の録音などの資料を求められることがあるため、退職を強要されたときに証拠を保全しておくことが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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