- 更新日 : 2025年6月24日
就業規則の変更には届出期限がある?必要書類や忘れた場合の罰則を解説
就業規則を変更した場合、届出は「遅滞なく」行う必要があります。法律上、明確な提出期限は定められていませんが、実務では施行日までに労働基準監督署へ届け出ることが求められます。提出が遅れると、労働基準法により罰則が科されることもあるため注意が必要です。
この記事では、就業規則変更に関する届出のタイミングや必要な手続き、よくある誤解や実務上の注意点をわかりやすく解説します。期限を守るためのポイントを正確に押さえておきましょう。
目次
就業規則の変更の届出期限はいつまで?
労働基準法では、就業規則の変更について「遅滞なく」届け出るよう定められています。ただし、「何日以内」といった具体的な期限は法律上示されていません。この「遅滞なく」という表現は、変更作業が完了し次第、できるだけ速やかに届け出ることを求める趣旨とされています。
そのため、変更が完了してから数週間以上放置した場合には、「遅滞」と判断される可能性もあるため、注意が必要です。
就業規則の変更による届出が必要なケース
就業規則の変更は、法律の改正や会社の制度変更に対応する際に必要となります。代表的なケースは以下のような状況です。
- 労働基準法や育児介護休業法などの法改正により、就業時間や休暇制度を変更する必要がある場合
- 賃金体系を変更する場合(基本給、手当、賞与などの見直し)
- 勤務時間や休日制度を変更する場合(フレックスタイム制の導入、週休2日制から週休3日制へなど)
- 社内の懲戒制度や服務規律を見直す場合
- テレワークや副業制度など、新しい勤務形態やルールを導入する場合
このような変更は、労働条件に直接関わるため、就業規則を変更し、労働基準監督署への届出と労働者への周知が必要になります。
就業規則の少しの変更でも届出が必要?
仮に変更箇所が誤字脱字の修正、表記統一など、形式的なものであっても届出は必要となります。このような軽微な修正であっても、労働者代表の意見書を添えて労働基準監督署へ届け出なくてはなりません。また、周知も変わらず必要となります。
就業規則の変更箇所が多い場合はどうする?
就業規則の内容を大きく見直す場合や、複数の条文にまたがる変更を行う場合には、全面改訂として就業規則を提出する方法が適しています。特に以下のような状況では全面改訂が現実的です。
- 賃金規定・休暇制度・評価制度など、複数の制度を同時に見直す場合
- 就業形態の変更(テレワーク導入やシフト制度導入など)により、体系全体を見直す必要がある場合
- 古い就業規則の様式を一新し、最新の法令に対応させる場合
この場合、「就業規則(変更)届」の主な変更内容欄には「全面改訂」と記載し、全文を添付して提出します。
新旧対照表の作成で内容を明確に
変更箇所が多くても、逐条的な変更であれば、新旧対照表を添付する方法が有効です。変更前と変更後の条文を横並びで記載し、どこが変わったかが一目でわかるようにします。
労働基準監督署もこの形式を推奨しており、審査もスムーズになります。提出の際は、変更届に「別紙のとおり」と記載し、新旧対照表を添付する形式を取るのが一般的です。
就業規則の変更の届出を忘れたらどうなる?
常時10人以上の労働者がいる場合、就業規則の作成・届出は労働基準法第89条により義務づけられています。この義務に違反し、正当な理由なく届出を怠った場合には、労働基準法第120条に基づき「30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
なお、届出が多少遅れた場合でも、すぐに罰則が適用されるわけではありません。ただし、長期間放置した場合や、意図的に提出を避けているとみなされた場合には、労働基準監督署から是正指導が入り、改善が見られなければ罰金などの制裁に至ることがあります。
届出を行っていない場合の就業規則の効力
届出を行っていなくても、就業規則が労働者に適切に周知されていれば、その効力は原則として発生します。ただし、労働者に内容が知らされていない状態では、就業規則としての法的効力は認められません。逆に、届出を行っていても、周知が不十分であれば、就業規則として効力が発生しない可能性があるため、注意が必要です。
就業規則の変更から届出の流れ
就業規則を変更する際には、必要書類を提出するだけではなく、社内での合意形成や労働者との調整も必要になります。以下が一般的な手続きの流れです。
- 就業規則の変更の検討と案の作成
まずはどの条文をどのように変更するかを具体的に検討し、案を作成します。法改正への対応や制度改定など、変更理由を明確にしておくと、その後の手続きがスムーズになります。 - 社内承認と労働者代表の選出
案がまとまったら、経営陣の承認を得て、次に労働者代表を選出します。選出方法は民主的であることが求められ、会社が一方的に指名することはできません。 - 労働者代表からの意見聴取と意見書の作成
就業規則の変更内容について、労働者代表の意見を聴取し、その内容を「意見書」としてまとめてもらいます。意見書は、賛成・反対を問わず、必ず添付しなければなりません。 - 就業規則(変更)届の作成
意見書が整ったら、「就業規則(変更)届」を作成します。厚生労働省や各労働局のウェブサイトで雛形や記入例を入手できるため、それに沿って記載します。 - 労働基準監督署へ提出
必要書類を揃えたら、所轄の労働基準監督署へ提出します。窓口に持参、郵送、またはe-Govを利用した電子申請のいずれかの方法で行うことができます。 - 変更後の就業規則の社内周知
提出後は、変更された就業規則の内容を従業員に周知します。掲示、備え付け、書面交付、イントラネットへの掲載などが認められています。
参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)|厚生労働省
就業規則の変更の届出に必要な書類は?
変更届出に必要な基本書類は、以下の3点です。すべてをセットで提出する必要があります。
1. 就業規則(変更)届
就業規則(変更)届は、労働基準監督署に変更の事実を届け出るための様式です。法定のフォーマットはありませんが、以下の項目を記載するのが一般的です。
- 所轄の労働基準監督署長名
- 届出日
- 事業所の名称および所在地
- 使用者の氏名および職名
- 労働者数(常時使用する人数)
- 主な変更事項の概要
変更内容が多い場合は、「主な変更事項」欄に「別紙のとおり」と記載し、新旧対照表や全文を添付します。
2. 労働者代表の意見書
労働者代表の意見書は、就業規則の変更に対する労働者側の意見を記した文書です。労働者の過半数を代表する者が作成し、就業規則(変更)届と一緒に提出します。
- 労働者代表の氏名および選出方法
- 意見を求めた日付と意見書作成日
- 意見の内容(例:「異議ありません」「特に意見はありません」など)
意見書に反対意見が記載されていても、届出が拒否されることはありません。重要なのは、労働者代表から意見を「聴取した事実」があることです。
なお2021年4月以降、押印は不要となり、記名のみで足ります。
3. 変更後の就業規則の全文
就業規則の変更後の全文も添付します。形式は、以下のようにしてわかりやすく整えることが推奨されます。
- 該当条文に朱書きや下線を引いて変更箇所を明示
- 変更点をまとめた「新旧対照表」を添付(条文が多い場合)
- 全面改訂の場合は全文のみでも可(「全面改訂」と明記)
提出は2部用意し、1部は受付印を押して会社控えとして返却されます。
就業規則の変更の届出方法
就業規則の提出方法には「窓口」「郵送」「電子申請(e-Gov)」の3通りがあります。
1. 窓口持参
所轄の労働基準監督署へ直接持参する方法です。書類を2部提出し、1部に受付印を押してもらうことで、その場で控えを受け取ることができます。急ぎの場合や、記載内容に不安がある場合にも、窓口で相談できる点が安心です。
2. 郵送による届出
必要書類2部のほか、返送用封筒(切手貼付)と送付状を同封して送ります。受領印の入った控えは後日返送されます。窓口に行く時間が取れない場合や遠方の事業所には適した方法です。
3. 電子申請(e-Gov)による届出
国の電子政府ポータルサイト「e-Gov」を利用してオンラインで届出ができます。時間や場所を問わずに提出できるため、利便性に優れています。事前にアカウント登録などが必要ですが、複数の事業所をまとめて届け出る「本社一括提出」にも対応しています。
いずれの方法でも、提出先は事業所を管轄する労働基準監督署となります。正確に書類を準備し、手続きがスムーズに進むように心がけましょう。
複数事業所なら「本社一括届出」で就業規則の変更を届出
複数の事業所で同じ就業規則を使用している場合、「本社一括届出」という方法を使えば、事業所ごとに個別に提出する手間を省くことができます。本社が各支店や営業所に共通する就業規則を適用している場合に認められる届出方法です。
この届出を行うには、本社を管轄する労働基準監督署に対し、以下の書類をまとめて提出します。
- 本社名義での就業規則(変更)届
- 労働者代表の意見書(各事業所ごとに作成)
- 変更後の就業規則の全文
- 各事業所の名称・所在地・労働者数を記載した届出事業場一覧表
注意点として、各事業所で労働者代表を選出し、意見書をそれぞれ用意する必要がある点が挙げられます。
本社一括届出は、全国に支店がある企業などにとって、実務負担を軽減する有効な手段となります。
就業規則を変更した際は施行日までに提出しよう
就業規則を変更した際は、「遅滞なく」所轄の労働基準監督署へ届け出ることが法律で義務づけられています。 具体的な期限は明示されていませんが、施行日までに提出することが望ましいとされています。
届出が遅れると、30万円以下の罰金が科される可能性があります。 変更内容が少しであっても、労働条件に関わる場合は届出が必要です。適切な手続きを行い、従業員への周知も徹底しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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