- 更新日 : 2025年6月19日
勤怠管理はなぜ必要?企業が守るべき5つの理由や管理方法を解説
勤怠管理は本当に必要なのかと疑問に思う企業担当者もいるでしょう。しかし、従業員の出退勤を正確に把握することは法律上の義務であり、企業運営の根幹を支える重要な業務です。
働き方改革やテレワークの普及で、勤怠管理の重要性は高まっています。本記事では、勤怠管理の基本から企業が守るべき理由、管理方法を解説します。
勤怠管理とは
勤怠管理とは、従業員の出退勤時間や労働時間などの就業状況を、企業が正確に把握・管理する業務のことを指します。単なる事務作業ではなく、労働安全衛生法で定められた「始業・終業時刻の客観的記録義務」にもとづいた法的責任を伴う重要な業務です。
勤怠管理の方法は、企業の規模や業種によってさまざまです。具体的には、下記の方法があります。
- 紙の出勤簿
- Excelによる手動入力
- ICカードによる打刻
- クラウド型の勤怠管理システム
通常は人事部や労務担当者が対応しますが、業務効率化の観点からアウトソーシングやシステム導入を進める企業も増えています。適切な勤怠管理は、組織運営の土台といえるでしょう。
なお、勤怠管理に関連する法律や義務について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
勤怠管理の対象となる企業
勤怠管理は、労働基準法第4章(労働時間、休憩、休日等)の規定が適用されるすべての事業場に義務付けられています。企業の規模や業種を問わず、原則としてほとんどの事業が対象です。
一方で労働基準法第41条では、農業・畜産業・水産業の業種は、天候や自然条件の影響を受けやすいことから、一部の規定が適用除外となります。ただし、加工・流通・販売などの工程を含む事業者においては、勤怠管理が必要となる場合があります。
なお、事業主ひとりで行っている事業であれば勤怠管理は必要ありませんし、そもそも労働基準法が適用されることもありません。一方、従業員を使用して事業を運営している場合は、労働基準法の各種規定が適用され、勤怠管理も必要となります。
さらに、法的義務の対象外であっても、労働時間の適正な把握は事業者にとって重要な責務です。従業員の健康を守るためにも、厚生労働省のガイドラインでは勤怠管理の実施が推奨されています。
参考:
e-Gov 法令検索|労働基準法
厚生労働省|労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
勤怠管理の対象となる従業員
勤怠管理の対象は、正社員に限らず、契約社員・パート・アルバイトなど、すべての従業員です。ただし、労働基準法第41条によって、下記のような従業員は、労働時間や休憩・休日の規定が適用除外となります。
- 管理監督者
- 裁量労働制の適用者
- 監視・断続的労働に従事し、行政の許可を受けた者
これらの従業員であっても、健康管理の観点から、企業には労働者を使用する者として労働時間を把握する責任があります。
裁量労働制を導入している場合でも、深夜労働や休日出勤に対する割増賃金の支払い義務は残ります。そのため、実際の勤務状況を把握する方法として、勤怠システムの活用や事前承認制の導入が効果的です。
このように適用除外とされている従業員に対しても、実務上は全従業員の勤務状況を把握することが推奨されています。
参考:
e-Gov 法令検索|労働基準法
厚生労働省|客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました
厚生労働省|労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
勤怠管理が必要な5つの理由
勤怠管理は単なる「出勤時間の記録」ではなく、法令対応や従業員の健康などに関わる重要な業務です。とくに近年では、働き方改革や労働法の改正など、企業の社会的責任が高まっています。
ここでは、企業が勤怠管理を適切に行うべき5つの理由を解説します。
1. 法令順守のための勤怠管理が必須
2019年4月に施行された「働き方改革関連法」によって労働安全衛生法が改正され、企業には従業員の労働時間を客観的に記録・把握する義務が課されました。
タイムカードやクラウド型勤怠システムを活用した始業・終業時刻の記録が求められており、自己申告のみの運用は、原則認められていません。
また、法定労働時間を超える残業を行う場合は、労働基準法第36条にもとづく「36協定」の締結・提出が必須です。違反した企業には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。勤怠管理は、法令順守の観点から欠かせないといえます。
参考:厚生労働省|客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました
2. 働き方改革への対応
働き方改革の進展により、企業には厳格な労働時間の管理が求められています。とくに重要なのが、以下の2点です。
- 年5日の有給休暇取得義務(年10日以上の付与対象者)
- 時間外労働の上限規制(月45時間・年360時間、特例でも年720時間まで)
これらのルールを遵守するには、日々の正確な勤怠記録が不可欠です。管理が不十分だと、法令違反のリスクだけでなく、従業員との信頼関係にも悪影響を及ぼします。
参考:
厚生労働省|時間外労働の上限規制
厚生労働省|年次年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています
3. 健康リスク・労務トラブルの予防
勤怠管理は、従業員の健康リスクを把握し、労務トラブルを未然に防ぐためにも重要です。長時間労働による健康被害は深刻で、過労死やうつ病などによる労災認定件数も増加傾向にあります。
厚生労働省の発表によれば、令和5年度の脳・心臓疾患による労災請求件数は1,023件に達し、前年度から220件の増加となりました。こうした健康リスクを未然に防ぐには、正確な勤怠データをもとに労働時間の傾向を分析し、早期対応につなげることが重要です。
また、万が一の訴訟やトラブルの際には、企業側の適切な労務管理を証明する証拠にもなるでしょう。勤怠管理は、健康経営とリスクマネジメントを両立する手段といえます。
参考:厚生労働省|令和5年度「過労死等の労災補償状況」を公表します
4. 給与計算の精度向上とコスト管理
勤怠管理は、正確な給与計算・人件費管理の基盤でもあります。労働基準法第115条の改正によって、賃金請求権の時効は、最大5年(当面は3年)に延長されました。そのため、企業にはこれまで以上に、勤怠記録の正確性と保存体制が求められています。
記録ミスや入力漏れがあれば、過少支給による従業員からの不信感、過大支給によるコスト増加など、企業にとって重大な損失につながります。社会保険料や税額の誤算にも直結するため、正しい勤怠データは経理・財務の精度を保つためにも欠かせません。
勤怠管理の徹底は、適切な人件費の管理=コスト最適化を実現する手段でもあります。
参考:厚生労働省|未払賃金が請求できる期間などが延長されています
5. コンプライアンス強化と企業価値の向上
適切な勤怠管理は、企業のコンプライアンス意識の高さを外部に示す重要な指標です。労基署からの調査に対し、適切な記録を提示できれば、法令順守体制の信頼性が高まります。
また、取引先や求職者からの信頼にもつながります。近年は、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営や、人的資本の情報開示が企業評価に影響する時代です。
そのため、勤怠管理の透明性や健全な労務体制は、企業ブランドと長期的な企業価値の維持・向上に直結するでしょう。一方、ずさんな管理は「ブラック企業」とみなされ、企業の信用失墜や離職率の上昇を招くリスクもあるため注意が必要です。
勤怠管理によくある5つの課題と対策
勤怠管理は企業運営に欠かせない業務のひとつですが、現場ではさまざまな課題が発生しています。ここでは、勤怠管理における代表的な5つの課題と対策を紹介します。
1. 手作業による集計に時間がかかる
紙やExcelなどの手作業での勤怠管理は、毎月の集計作業に膨大な時間を要します。とくにシフト制の従業員が多い企業では、日々異なる勤務時間への対応が求められます。そのため、担当者の負担は大きくなりがちです。
このような非効率を解消するには、クラウド型の勤怠管理システムの導入がおすすめです。打刻と同時にリアルタイムで労働時間を集計できるため、確認・修正の工数が減り、月末の締め作業の効率化を図れます。
2. ヒューマンエラーで入力ミスが起こりやすい
手入力による勤怠集計では、転記ミスや数値の打ち間違い、確認漏れなどのヒューマンエラーが避けられません。こうしたミスが給与に影響すれば、従業員との信頼関係にヒビが入るだけでなく、法的トラブルに発展する恐れもあります。
これらのミスを防止するためには、自動計算機能やアラート機能付きの勤怠管理システムを導入することがおすすめです。入力時点で不自然なデータを検知できるため、ミスの早期発見と防止につながります。
3. 従業員による不正申告のリスクがある
紙の出勤簿や自己申告制による勤怠管理では、代理打刻や勤務時間の水増しといった不正行為が起こる可能性があります。従業員本人に悪意がなくても、記録が曖昧なまま処理されれば、企業側がリスクを背負う結果になりかねません。
対策としては、GPS機能付きのスマホ打刻や、顔認証・指紋認証といった本人確認機能を備えたシステムの導入が効果的です。不正行為の抑止力を高められるでしょう。
4. テレワークや在宅勤務の把握が難しい
テレワークや在宅勤務が定着した今、オフィス外での就業状況を把握するのが困難という声が多く聞かれます。リアルタイムでの出退勤状況や作業状況が見えないと、業務の偏りや長時間労働を見逃す原因にもなります。
この課題には、リモート対応型の勤怠打刻アプリの導入や、業務報告ツール・チャットツールとの併用が効果的です。位置情報や作業ログの共有によって、遠隔地でも勤務状況を「見える化」できます。
以下の記事では、テレワークの勤怠管理の方法を詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
5. 法改正への対応が遅れやすい
労働基準法や関連制度の改正は頻繁に行われているため、アナログの勤怠管理では最新のルールに対応しきれないこともあります。
有給休暇の取得義務化や時間外労働の上限規制など、未対応のまま運用を続けると、法令違反として罰則の対象になることもあります。このような事態を防ぐには、自動アップデート機能付きの勤怠管理システムを使用するのがおすすめです。
改正内容に応じた設定変更が反映されるため、運用負担の軽減とコンプライアンスの強化を同時に実現できます。
おもな勤怠管理の方法4つ|それぞれの特徴を比較
勤怠管理の方法は、企業の規模や働き方の多様化によって大きく異なります。ここでは、多くの企業で採用されている4つの勤怠管理方法について、特徴やメリットを解説します。
以下の記事では、AIによる勤怠管理の方法を紹介していますので、気になる方はあわせて参考にしてください。
1. 紙の出勤簿によるアナログ管理
紙の出勤簿は、もっとも手軽で導入コストがかからない方法です。特別な機器やシステムが不要なため、小規模事業者やスタートアップ企業で広く用いられています。
一方で、自己申告に頼る手書きの勤怠記録には、改ざんや記入漏れ、保管漏れといったリスクがつきものです。そのため、労働基準法が求める「客観的な労働時間の把握」に対応できない点が大きな課題となります。
さらに、集計や給与計算の連携も手作業に頼ることが多く、人件費の増加や転記ミスを招きやすい点もデメリットです。長期的に見れば、正確性と効率性に優れた勤怠管理方法への移行を検討すべきでしょう。
2. Excelでの自己申告型勤怠管理
ExcelやGoogleスプレッドシートを使った勤怠管理は、テンプレートの自由度が高く、柔軟なカスタマイズが可能です。給与ソフトと連携できるフォーマットで運用すれば、CSV出力での自動連携による省力化も期待できます。
しかし、あくまで従業員の自己申告ベースであり、入力の正確性や信頼性に課題があります。また、関数設定ミスやデータ破損といったトラブルも起こりやすく、運用には一定のITスキルが必要です。
コストは抑えられる反面、法令遵守や不正防止の観点では限界がある方法といえます。
3. タイムカードでの打刻管理
タイムカードは、出社・退社時に専用の打刻機を使って時間を記録する、視覚的にわかりやすい方法です。導入費用が比較的安価で、操作もシンプルなため、幅広い年齢層に対応可能です。
ただし、リアルタイム性や柔軟性に欠け、直行直帰・在宅勤務などには対応が難しい点がデメリットといえます。さらに、代理打刻による不正や打刻忘れ、印字エラーなどのリスクも無視できません。
管理業務を効率化するには、ほかの方法と併用する運用も検討が必要です。
4. 勤怠管理システムの活用
クラウド型やアプリ連携型など、勤怠管理システムはもっとも信頼性が高い方法といえます。下記のように、さまざまな打刻手段に対応し、不正防止と正確な記録が可能です。
- ICカード
- スマートフォン
- パソコン
- 顔認証・指紋認証
また、法改正への自動アップデートや労働時間のリアルタイム把握、給与ソフトとの自動連携も容易に行えます。導入には一定のコストがかかるため、自社の勤務形態や規模に合った製品選定が重要です。
うまく導入すれば、業務効率の大幅な向上とコンプライアンス強化を両立できるでしょう。
勤怠管理を効率化したい方は、以下の記事も参考にしてください。
ずさんな勤怠管理が招くリスク
勤怠管理の不備は、単なる業務ミスでは済まされず、企業経営に直結する重大なリスクを招きます。具体的なリスクは、下記のとおりです。
- 労働基準法違反による罰則や是正勧告
- 未払い残業代の請求や訴訟リスク
- 「ブラック企業」認定による社会的信用の低下
- 従業員による不正・モラルの低下
- ハラスメントや長時間労働の放置による労災リスク
これらは人事部門だけの責任ではなく、経営全体の信頼性や持続性に関わる問題です。勤怠管理は事務処理ではなく、「企業の健全性を支えるコンプライアンス業務」であるという認識が求められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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