• 更新日 : 2025年6月19日

ストレスチェックとは?概要や目的、義務化の対象拡大について解説

働く人の心の健康が注目される中、企業におけるメンタルヘルス対策のひとつとして導入されているのが「ストレスチェック制度」です。従業員自身がストレスの状態に気づき、企業側も職場環境の改善につなげることで、メンタル不調の予防を図る制度として注目されています。

本記事では、ストレスチェックの仕組みや対象者、義務化の背景について解説します。とくに、2025年以降に予定されている「50人未満の事業場への義務化」に備えたい事業者の方は、チェックしておきましょう。

ストレスチェックとは

ストレスチェックとは、働く人のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために、職場で定期的に行う心理的な検査制度です。従業員がストレスに関する質問票に回答し、結果を集計・分析することで、自分のストレス状態を客観的に把握できる仕組みです。

高ストレスと判定された場合は、本人の申し出によって医師との面接指導が行われます。必要に応じて、職場環境の改善が促されます。

ストレスチェックは一次予防として、メンタルヘルス不調を早期発見・早期対応することが目的です。

以下の記事では、社員の健康管理について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

ストレスチェックの実施状況

厚生労働省の調査(令和5年)によると、従業員50人以上の事業場におけるストレスチェックの実施率は81.7%にのぼります。ただし、「50人以上」は法人単位ではなく、工場や支店などの1事業場単位でカウントされます。

一方、義務化対象外である50人未満の事業場では、実施率が34.6%と大きく下回り、業種によってはさらに低い状況です。「農業・林業」「製造業」では、実施率が20.3%にとどまっており、業界間での格差も指摘されています。

このような背景から、2025年以降は50人未満の事業場にも義務化が拡大され、実施率の向上が期待されています。

参考:厚生労働省|ストレスチェック制度 の実施状況(令和5年)

ストレスチェックの対象者

ストレスチェックの対象となるのは、「常時使用する労働者」です。雇用形態を問わず、一定の基準を満たしていればパートや契約社員も含まれます。

具体的には以下のいずれかに該当する場合、実施対象となります。

  • 契約期間が1年以上、または契約更新で1年以上使用される見込みがある
  • 1週間あたりの労働時間が、通常の労働者の4分の3以上である

なお、企業の代表取締役や役員、他社からの派遣社員(ストレスチェックは派遣元が実施)は対象に含まれません。

参考:厚生労働省|ストレスチェック制度導入マニュアル

対象にならないケース

ストレスチェックの対象外となるのは、「常時使用する労働者」に該当しない方々です。たとえば、下記のようなケースが該当します。

  • 継続的な雇用が見込まれないパートタイマー
  • 契約期間が1年未満の短期アルバイト
  • 企業の役員や代表取締役
  • 業務委託契約による外部スタッフ

派遣社員については、派遣先ではなく派遣元企業が実施を行うため、派遣先での対象者には含まれません。ただし、1週間あたりの労働時間が通常の労働者の半分程度以上ある場合は、対象外でもストレスチェックの実施が望ましいとされています。

ストレスチェックの義務化とは

ストレスチェック制度は、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐため、2015年12月より「常時50人以上の労働者を使用する事業場」に対して年1回の実施が義務付けられています。

しかし今後は、小規模な事業場にも義務の対象が広がる見込みです。制度の拡大に向けた動きの詳細は、下記のとおりです。

  • 2024年10月:厚生労働省が50人未満の事業場にも義務化を拡大する方針を発表
  • 2025年3月14日:「労働安全衛生法および作業環境測定法の一部を改正する法律案」が閣議決定・国会提出
  • 2025年5月8日:衆議院で同法案が可決・成立

義務化の施行時期は「公布後3年以内に政令で定める日」とされており、2028年4月ごろの施行が見込まれます。今後は、企業規模を問わず、すべての事業場でストレスチェックの実施が求められるでしょう。

参考:
厚生労働省|労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案の概要
厚生労働省|ストレスチェック制度について
ストレスチェックの義務化が全事業所に拡大!義務化の背景や注意点を解説

ストレスチェックの義務化の背景

ストレスチェック義務化の背景には、メンタルヘルス不調による休職や離職の深刻化があります。長時間労働や職場の人間関係がストレスの要因となり、結果として企業全体の生産性の低下につながる問題が、社会全体で顕在化してきました。

こうした状況を受け、2015年には従業員50人以上の事業場に対し、ストレスチェックの実施が義務化されました。しかし、対象が限定されていることから「十分な効果が得られていない」と指摘があり、2025年以降は小規模事業場にも対象が拡大される方針です。

とはいえ、50人未満の事業場では産業医がいない、情報管理体制が整っていないといった課題も多く見られます。そのため、厚生労働省の「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 中間とりまとめ」では、プライバシー保護の観点から、原則として外部委託による実施が推奨されています。

従業員のストレス耐性を高める方法について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。

ストレスチェックを行う3つの目的

ストレスチェックは単なる健康診断の一環ではなく、企業が従業員の心の健康を守るための重要な取り組みです。導入目的を明確にすることで、形式的な運用に陥らず、実効性のある制度として機能させられます。

ここでは、ストレスチェック制度を行う目的について解説します。

参考:厚生労働省|ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて

1. 従業員のメンタル不調を未然に防止する

ストレスチェック制度のもっとも重要な目的は、従業員のメンタルヘルス不調を早期に発見し、深刻な状態へ進行するのを防ぐことです。労働安全衛生法第66条の10では、事業者に対し「医師等による心理的な負担の程度を把握する検査の実施」が義務付けられています。

ストレスチェック制度では、さまざまな質問に回答し、自分のストレス状態を客観的に確認できます。高ストレスと判定された場合は、本人の希望に応じて医師との面接指導を受けられるため、適切な支援が可能です。

こうした対応が、メンタル不調を未然に防ぐ「一次予防」としての効果を発揮します。

参考:e-Gov 法令検索|労働安全衛生法

2. 働きやすい職場環境をつくるための土台にする

ストレスチェックは、個人のストレス状態を知るだけでなく、職場全体の改善にもつながります。とくに「集団分析」と呼ばれる手法では、部署やチーム単位でストレスの傾向を分析し、過重労働や人間関係の問題など、組織的な課題を可視化できます。

たとえば、ある部署で高ストレス者が多い場合、業務量の見直しやコミュニケーションの改善などの対策が求められるかもしれません。なお、個人の特定を防ぐため、集団分析は原則10人以上の単位で行う必要があります。

こうした分析を通じて職場環境を整えることは、企業の安全衛生水準の向上や法的責任を果たすことにもつながります。

職場環境について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

3. 自分のストレスに気づき、健康意識を高める

ストレスチェックは、従業員が自分の心身の状態を見つめ直す機会としても重要です。ストレスは自覚しにくく、放置すればうつ症状や集中力の低下などにつながるおそれがあります。

定期的なチェックを行うことで「最近イライラしやすい」「眠れない」といった兆候に気づけば、下記のような対処を行えます。

  • リラクゼーションを意識する
  • 軽い運動を取り入れる
  • 社内外の相談窓口を活用する

また、企業側がメンタルヘルス研修やカウンセリング体制を整えることで、従業員は安心してケアに取り組めるでしょう。このような取り組みは、健康経営やウェルビーイングを推進する土台にもなります。

ストレスチェックは意味がないと言われる理由

ストレスチェックは、従業員のメンタルヘルスを守るために導入された大切な制度です。しかし現場からは、「ストレスチェックをやっても意味がない」「変化がない」といった声も少なくありません。

ここでは従業員と企業が、ストレスチェックは意味がないと感じる理由を解説します。

従業員が意味がないと感じてしまう理由

従業員がストレスチェックを「意味がない」と思う一番の理由は、受けても職場や自分に変化がないと感じるためです。高ストレスと判定されても医師面談が形式的で終わったり、職場環境の改善につながる具体的な行動が見られなかったりすると、やるだけムダと思われてしまいます。

また、「回答内容が上司に知られるのでは」という不安がある職場では、正直な回答がしづらくなるでしょう。プライバシー保護や匿名性の仕組みが十分に説明されていないことも、制度への信頼を損なう要因です。

こうした不信感をなくすには、ストレスチェックの目的や結果の活用方法、守秘義務の徹底などを丁寧に説明することが大切です。あわせて、実際に職場改善につながった事例を共有することで、意味があると感じられる環境づくりが進みます。

企業が意味がないと感じてしまう理由

企業がストレスチェックを「意味がない」と感じる背景には、効果の見えづらさがあります。高ストレスと判定された従業員が医師面談を希望しない限り、企業側が踏み込んだ対応はとれません。

そのため、具体的な変化や成果が感じにくく、制度を「ただの形式」と受け止めてしまうケースもあります。また、集団分析の結果も、どう活用するのかわからない声も多く、手つかずのまま放置されてしまうことも少なくありません。

とくに中小企業では人手や知識が不足し、実施するだけで手一杯になるケースもあります。費用対効果が実感しにくいことも、受け身の姿勢につながる原因です。

こうした状況を改善するには、外部支援を活用し、小さな改善から実行していくことが重要です。

ストレスチェックを実施する5つの手順

ストレスチェックを効果的に機能させるには、厚生労働省の指針や法令に沿った正しい手順で運用する必要があります。ここでは、ストレスチェックを実施する手順を解説します。

参考:厚生労働省|ストレスチェック制度導入マニュアル

1. 実施方針と社内ルールを整備する

まずは、下記の内容を明確にしましょう。

  • ストレスチェックの目的・対象者
  • 使用する質問票
  • 結果の活用方法

これらの方針は衛生委員会等で協議し、従業員にも事前に説明することが重要です。また、実施体制や個人情報の取り扱いに関する社内ルールも整備し、プライバシーへの保護と透明性を担保する体制を整えましょう。

従業員が安心して受けられる環境を整えることが、制度の信頼性を高めるのに効果的な方法です。

2. 質問票を準備する

ストレスチェックを実施するには、下記のような有資格者から「実施者」を選任する必要があります。

  • 医師
  • 保健師
  • 看護師
  • 精神保健福祉士

実施者のもとで作成・配布される質問票には、厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」が一般的に使用されます。信頼性と汎用性が高く、多くの企業で採用されています。

必要に応じて、自社独自の質問項目の追加や、業種・職場特性に応じて調整も可能です。ただし、大きく内容を変更する場合は、専門家の監修を受けることが望まれます。

制度の目的や信頼性を損なわない範囲で、効果的な設問設計を行いましょう。

3. ストレスの状態を評価する

従業員が回答した調査票は、選任された実施者が責任を持って回収・評価します。評価の結果、「高ストレス者」と判定された従業員には、医師との面接指導の案内を行います。

ここで重要なのが、本人の同意なしに結果を事業者へ開示してはならないという制度上のルールです。プライバシー保護の原則は、労働者が安心して本音を記入できる環境を守るものです。

制度の信頼性を支えるルールを徹底し、受検率の向上や正確な情報の取得につなげましょう。

4. 医師との面接指導を実施する

高ストレスと判定された従業員が医師による面接を希望した場合、事業者にはその機会を提供する義務があります。従業員からの申し出の拒否はできません。

面接では医師が労働時間や業務負荷、職場環境を評価し、下記のような改善を提案されることがあります。

  • 労働時間の短縮
  • 業務内容の調整
  • 職場配置の変更

これらの医師の意見に対して、事業者は就業上の配慮・措置を講じる努力義務があります。

参考:労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)

5. 結果をもとに職場環境を改善する

ストレスチェックの目的は、個人の健康管理にとどまらず、職場全体のストレス要因を明らかにし、環境を改善することです。部署ごとの集団分析を行うと、下記のような具体的な課題が見えてきます。

  • 業務量の偏りや過重負担の存在
  • 人間関係やマネジメント上の問題
  • 休憩スペースや作業環境の物理的改善

集団分析は、原則10人以上の単位で実施し、個人が特定されないよう配慮されます。また、改善内容や進捗状況は従業員にも共有し、制度への納得感や参加意欲を高めることが大切です。

以下の記事では、テレワークのストレスを溜めない方法を解説していますので、あわせてご覧ください。

ストレスチェックを行う際の3つの注意点

ストレスチェックを実施するにあたって、運用は慎重に行う必要があります。ここでは、ストレスチェックを実施する際に注意すべきポイントを解説します。

1. 実施・報告義務を守る

常時50人以上の労働者を雇用する事業場では、年1回のストレスチェック実施と、実施状況の労働基準監督署への報告が義務付けられています。

ストレスチェックを未実施でも罰則はありません。しかし、報告を怠ると、是正勧告や最大50万円の罰金といった行政処分の対象となります。

こうしたリスクを防ぐためにも、毎年の実施スケジュールを管理部門で明確化し、実施者・産業医と早期に連携を取る体制づくりが重要です。期限内の報告を確実に行うことで、制度の信頼性と法令順守を両立できます。

2. 守秘義務を徹底する

ストレスチェックで得られた結果は、医師や実施者に守秘義務が課される「個人情報」に該当します。本人の文書による同意がない限り、上司や人事担当者に結果を開示することは禁止されています。

また、ストレスチェックの結果を理由に、評価や配置転換などの人事判断を行うことも不適切です。

集団分析を行う際には、10人以上の単位で実施し、特定の個人が判別されないよう匿名性を確保する必要があります。こうした取り扱いについては、社内研修やマニュアルを通じて、全従業員に周知徹底することが望ましいでしょう。なお、10人未満の単位で実施する場合は、匿名性確保の観点から全員の同意が必要となります。

3. 不利益な扱いを防止する

ストレスチェックの結果を理由に、下記のように労働者を不利益に扱うことは、労働安全衛生法や労務管理の原則に反する行為とされています。

  • 解雇
  • 降格
  • 異動

また、ストレスチェックの受検は任意です。そのため、未受検を理由に処遇へ影響を与えることも違法となるおそれがあります。

一方で、高ストレスと判定された従業員が面談を希望した場合、事業者は就業上の配慮を行う義務があります。面談後の対応方針や判断基準を整備し、相談しやすい窓口を設けることが重要です。

従業員が安心して申し出できる環境づくりを行うことで、制度の実効性を高められます。


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