• 更新日 : 2026年1月30日

労働基準法15条に基づく労働条件の明示とは?2024年4月のルール改正、企業の対応方法などを解説

労働基準法15条における「労働条件の明示」とは、企業が労働者を雇い入れる際、賃金や労働時間といった働く上での条件を明確に伝える義務のことです。

雇用契約において「どのような条件で働くか」は、企業と労働者双方にとって最も重要な約束事です。この記事では、労働基準法15条の基本から、「絶対的明示事項」の具体的な内容、2024年4月から適用された新ルール、そして違反した場合の罰則までを網羅的に解説します。人事労務の初心者の方でも、この記事を読めば法律に則った正しい実務対応が可能になります。

労働条件明示化

労働基準法15条が定める「労働条件の明示」とは?

企業は労働者との契約締結時に、賃金や労働時間などの労働条件を明示しなければなりません。

これは労働基準法第15条第1項によって定められた法的義務であり、口約束によるトラブルを防ぐための重要なルールです。

出典:労働基準法第 15条第 1項|厚生労働省

第15条第1項の概要と目的

労働基準法第15条第1項は、労働者を保護し、労使間の紛争を未然に防ぐことを目的としています。

労働契約は口頭でも成立しますが、詳細な条件があいまいなままでは「話が違う」といったトラブルに発展しかねません。そのため、法律によって「契約を結ぶタイミングで、条件をはっきりさせなさい」と義務付けているのです。この義務は、企業規模や業種を問わず全ての事業主に適用されます。

明示のタイミングと対象となる労働者

労働条件の明示は、労働契約の締結時(入社時)および有期労働契約の更新ごとに行う必要があります。

【明示が必要なケース例】
  • 新規採用時(正社員、パート、アルバイト問わず)
  • 契約更新時
  • 定年退職後の再雇用時
  • 在籍出向時(出向元・出向先それぞれの条件明示が必要)
  • 労働条件を変更する時

たとえ1日だけの短期アルバイトであっても、このルールは適用されます。

労働条件の明示が必要な理由

法が明示を強制する理由は、労働者が安心して働ける環境を確保するためです。

労働の対価である賃金や、生活リズムを決める労働時間は、労働者の生活基盤そのものです。これらを事前に具体的に示すことで、労働者は納得して入社を決めることができます。また、企業側にとっても、条件を明確に書面化しておくことで、言った言わないの無用なトラブルを回避し、信頼関係を築く土台となります。

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労働基準法15条で明示すべき事項とは?

労働条件には、必ず書面で伝えなければならない「絶対的明示事項」と、制度がある場合に伝えればよい「相対的明示事項」の2種類があります。

これらは労働基準法第15条に基づき、施行規則第5条によって細かく分類されており、特に絶対的明示事項の記載漏れには注意が必要です。

書面交付が必須の「絶対的明示事項」

「絶対的明示事項」とは、労働契約を結ぶ上で不可欠な条件であり、原則として書面(労働条件通知書など)での交付が義務付けられている項目です。

項目内容備考
1. 労働契約の期間契約期間の有無、期間の長さ有期契約の場合は「更新の基準」も必須※2024年改正で更新上限の有無と内容も必須化
2. 就業の場所・業務実際に働く場所、従事する仕事内容※2024年改正で変更範囲の記述も必須化
3. 労働時間・休憩・休日始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、シフト制のルールなど所定労働時間を超える労働の有無も含む
4. 賃金決定・計算・支払いの方法、締切日、支払日固定残業代がある場合はその金額・時間数
5. 退職退職の手続き、解雇の事由定年制の有無なども含む

これらの項目は労働者への影響が極めて大きいため、口頭のみの説明は認められません(昇給事項を除く)。必ず「労働条件通知書」や「雇用契約書」として書面に残す必要があります。

また、有期雇用の場合には、無期転換申込権が発生する更新時に、無期転換申込機会と無期転換後の労働条件も明示が必要です。

【注意】固定残業代(みなし残業)の記載について 給与に固定残業代を含める場合は、基本給と区別して「固定残業代◯万円(◯時間分)」のように金額と時間数を明確に記載しなければなりません。あいまいに記載すると無効と判断され、後から未払い残業代を請求されるリスクがあります。

制度がある場合に明示する「相対的明示事項」

「相対的明示事項」とは、企業にその制度や定めがある場合に限り、明示しなければならない項目です。

これらは書面での交付義務までは課されていませんが、実務上は絶対的明示事項とあわせて書面に記載するのが一般的です。

  • 退職手当(退職金):適用される範囲、計算方法、支払時期など
  • 臨時の賃金・賞与:ボーナスや特別手当など(最低賃金額も含む)
  • 食費・作業用品等の負担:制服代や食事代を労働者に負担させる場合
  • 安全衛生・職業訓練:安全教育や研修制度など
  • 災害補償・傷病扶助:業務外の病気に対する補償など
  • 表彰・制裁:表彰制度や懲戒処分の種類・内容
  • 休職:休職制度の条件や期間

退職金や賞与は法律で義務付けられたものではないため、制度自体がない場合は明示する必要はありません。

短時間労働者に対する「特定事項」

パートタイム・有期雇用労働法第6条により、パートやアルバイト等の短時間労働者に対しては、以下の4項目(特定事項)の書面等による明示も追加で義務付けられています。

  1. 昇給の有無
  2. 退職手当の有無
  3. 賞与の有無
  4. 相談窓口(雇用管理の改善等に関する相談先)

これらはトラブルになりやすい金銭面とサポート体制に関する項目であり、書面(本人が希望すればメール等も可)での明示が必須です。「無し」の場合でも、あいまいにせず「無し」と明記する必要があります。

2024年改正で労働基準法15条の明示ルールはどう変わったか?

2024年4月1日以降に締結・更新される労働契約から、就業場所や業務の「変更の範囲」など、新しい明示事項が追加されました。

これは働き方の多様化や無期転換ルールの認知不足を解消するための改正であり、ほぼ全ての企業が労働基準法15条に基づく書面の改訂を迫られる内容です。

就業場所・業務の変更の範囲

雇い入れ直後の場所・業務だけでなく、将来的な配置転換や異動によって変更される可能性がある「範囲」の明示が義務化されました。

これまでは「入社時は東京本社で営業職」とだけ書けば足りましたが、今後はその後の可能性も含めて記載が必要です。

  • 記述例(限定なしの場合):
    • 変更の範囲(場所):会社の定める全事業所(海外含む)
    • 変更の範囲(業務):会社の定める全業務
  • 記述例(限定ありの場合):
    • 変更の範囲(場所):変更なし(東京本社に限る)
    • 変更の範囲(業務):店舗運営業務およびそれに付随する業務

これにより、労働者は「転勤があるのか」「職種が変わる可能性があるのか」を予見できるようになります。

更新上限の有無と内容

有期雇用契約(契約社員やパート等)の場合、契約更新の上限(通算契約期間または更新回数)の有無と、その内容を明示しなければなりません。

「更新上限有り(通算5年まで)」や「更新上限有り(更新回数3回まで)」のように具体的に記載します。また、契約締結後にこの上限を新設したり短縮したりする場合は、事前に労働者へ理由を説明することが求められます。

無期転換申込機会と転換後の条件

有期雇用契約が通算5年を超え、労働者に「無期転換申込権」が発生するタイミングの契約更新時には、以下の2点を明示する必要があります。

  1. 無期転換申込機会:「今回の更新で無期雇用への転換を申し込む権利があります」という旨の通知。
  2. 無期転換後の労働条件:実際に無期転換した場合の給与や待遇などの条件。

これは、制度を知らないまま権利を行使できない労働者が多い現状を改善するための措置です。対象となる契約更新のたびに明示が必要です。

【重要】労働者が希望しない場合でも明示は必須

「今のままでいいので、無期転換は申し込みません」と労働者が言っている場合でも、企業側の明示義務は免除されません。権利が発生するタイミングごとに、必ず通知を行う必要があります。

労働基準法15条に対応して労働条件を明示する手順は?

法的に有効な労働条件の明示を行うためには、最新の法令に対応した書面を作成し、確実に労働者の手元へ届ける必要があります。

ここでは、実務担当者が労働基準法15条を遵守するために行うべきプロセスをステップ形式で解説します。

ステップ1:最新法令に対応したテンプレートの準備

まず、2024年4月の改正事項(変更の範囲、更新上限など)に対応した「労働条件通知書」の様式を用意します。

厚生労働省が公開しているモデル様式をダウンロードして利用するのが最も確実です。従来のフォーマットを使い回している場合、記載漏れによる法違反となるリスクが高いため、必ず見直しを行ってください。

ステップ2:雇用形態ごとの条件記入と確認

対象となる労働者の雇用形態(正社員、契約社員、パートなど)に合わせて、具体的な条件を記入します。 この際、「求人票(募集要項)」や「面接時の説明」と、通知書の条件に食い違いがないかを必ずチェックしてください。もし変更がある場合は、書面交付だけでなく、なぜ変わったのかを丁寧に説明する必要があります。

特に有期雇用労働者の場合は、「更新上限の回数」や「無期転換ルールの対象者かどうか」を事前に把握しておくことが重要です。

ステップ3:書面または電磁的方法による交付

作成した労働条件通知書を労働者に交付します。方法は以下のいずれかです。

  • 書面交付(原則): 紙に印刷して手渡す、または郵送する。
  • 電磁的方法: PDFファイルをメールやSNS(LINE等)で送信する。

電磁的方法で明示する場合は、必ず「労働者が希望した場合」に限られます。また、「社内サーバーにアップロードしたので見ておいて」という対応は認められません。必ず労働者の手元に届く(到達する)方法で送信する必要があります。

「言った言わない」を防ぐため、交付後は「受領確認」としてサインをもらうか、メールの返信を保存しておくことをおすすめします。

ステップ4:労働契約書兼労働条件通知書として締結・保管

実務上は、「労働契約書」と「労働条件通知書」を兼ねた「労働条件通知書兼雇用契約書」として作成し、締結するのが最も効率的です。 この形式であれば、労働基準法上の明示義務(一方的な通知)と、民法上の契約合意(双方の署名捺印)を1枚の書類で完結できます。書類管理の手間が省け、紛失リスクも軽減できるため、2部作成して双方が署名捺印し、それぞれ原本を保管する運用を推奨します。

労働基準法15条に違反した場合の罰則やリスクは?

労働条件の明示義務を怠った場合、労働基準法違反として刑事罰の対象となるほか、企業としての社会的信用を失うリスクがあります。

労働基準法違反による罰則

労働基準法第15条に違反し、労働条件を明示しなかった場合、同法第120条第1号により30万円以下の罰金が科される可能性があります。

これは「知らなかった」では済まされない重大な義務違反です。特に悪質な場合や、是正勧告に従わない場合は、書類送検されるケースもあり得ます。

パートタイム・有期雇用労働法違反の過料

パートタイマーやアルバイトに対して「特定事項(相談窓口など)」を明示しなかった場合、パートタイム・有期雇用労働法第31条に基づき、10万円以下の過料に処される可能性があります。

行政指導が入っても改善が見られない場合に適用されることが一般的ですが、コンプライアンスの観点からは軽視できません。

即時解除権と損害賠償リスク

明示された労働条件と事実が異なっていた場合、労働者は即時に労働契約を解除することができます(労働基準法第15条第2項)。

さらに、就業のために住居を変更(引越し)していた場合、解除から14日以内に帰郷する際の旅費は会社が負担しなければなりません(同条第3項)。

また、条件の相違によって労働者が損害を受けた場合(例:引越しをしたのに給与が違った等)、企業に対して損害賠償を請求されるリスクもあります。何より、入社直後のトラブルは早期離職や悪評に直結し、採用活動全体に悪影響を及ぼします。

労働基準法15条を守ることは信頼関係の第一歩

労働基準法15条に基づく労働条件の明示は、単なる事務手続きではなく、企業と労働者の信頼関係を築くための最初のステップです。

まず、雇用形態にかかわらず「絶対的明示事項」を必ず書面で交付することが基本となります。特に2024年4月の改正で追加された「就業場所・業務の変更の範囲」や「更新上限」、「無期転換申込機会」などの記述漏れがないよう、十分な注意が必要です。また、パートタイマーや有期雇用労働者に対しては「特定事項」の明示も必須となります。

これらの義務を怠ると、30万円以下の罰金が科されるだけでなく、労働者からの即時契約解除といったリスクも生じます。現在使用している労働条件通知書が古い様式のままであれば、直ちに最新のテンプレートへ更新することをお勧めします。適切な明示を行うことは、コンプライアンスを守るだけでなく、優秀な人材に安心して働いてもらうための重要な企業防衛策となります。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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