• 更新日 : 2025年12月23日

職場のメンタルヘルスとは?不調の影響から企業が取るべき対策まで解説

職場でのメンタルヘルスへの関心が高まる中、企業としてどのような対策が求められているのでしょうか。

本記事では、「メンタルヘルスとは何か」という基本的な定義から、不調が業務や人間関係に及ぼす影響、企業に課される法的責任、職場で実施できる取り組みなどを解説します。

メンタルヘルスとは?

メンタルヘルスとは、自分らしく前向きに生きられる心の状態を指します。現代の職場では、従業員が安定した精神状態で業務に取り組むために不可欠なものとして注目されています。

メンタルヘルスは「心の健康」であり、自分らしく生きるための土台

メンタルヘルスとは、いわゆる「こころの健康」のことであり、身体の健康と並んで人が社会生活を営むうえで不可欠なものです。厚生労働省の定義では、感情を適切に理解し表現できること(情緒的側面)、現実的に考え問題を解決できること(知的側面)、人との良好な関係を築けること(社会的側面)を含み、これらが調和した状態を指します。

また、世界保健機関(WHO)も、ストレスに適切に対処し、社会に貢献できる力を持つことが心の健康の条件であるとしています。つまり、心の病気がないという消極的な状態だけでなく、積極的に自分の力を発揮しながら前向きに日常生活を送れることが、メンタルヘルスの本質といえます。

参考:メンタルヘルスとは|厚生労働省

職場におけるメンタルヘルスは、生産的に働くための基礎

職場でのメンタルヘルスは、従業員が能力を発揮していきいきと働くための基本条件です。精神的に安定していることで集中力や創造力が保たれ、人間関係も円滑になります。反対に、心の健康が損なわれれば、生産性が下がるだけでなく、ミスやトラブルの増加、人材流出といったリスクも高まります。そのため、職場におけるメンタルヘルスの維持は、従業員個人の問題ではなく、組織全体の健全性を支える経営課題でもあります。

メンタルヘルスの不調が職場に与える影響は?

従業員のメンタルヘルス不調は、個人だけでなく職場全体に悪影響を及ぼします。仕事の質や人間関係、生産性、組織の安定性など、多方面に影響が波及するため、企業にとって見過ごせない課題です。

生産性の低下やミス・事故の原因になる

心の不調は、業務への集中力や判断力を著しく低下させ、生産性の低下や業務ミスの増加を招きます。精神的な疲労が蓄積すると、普段であれば問題なくこなせる作業であっても効率が落ち、結果としてチーム全体の業務進行にも支障が出ます。過度なストレス状態に置かれたままでは、注意力や安全意識が鈍り、労働災害やトラブルのリスクも高まります。

このような状況が放置されれば、企業全体の生産性の低下や業績への悪影響は避けられません。

離職や労災リスクの上昇につながる

メンタルヘルス不調によって長期休職に至る従業員も少なくなく、さらにその復職率は約半数にとどまるとされています。一度休職すると復帰が難しい場合が多く、企業は貴重な人材を失うだけでなく、新たな人材の採用・育成にかかるコストと時間も発生します。また、残された従業員には業務負荷が偏り、職場の士気や連携が損なわれるリスクもあります。

さらに深刻なのは、メンタルヘルス不調が原因で労災認定されるケースが存在することです。長時間労働やパワーハラスメントが背景にある場合、うつ病や自殺などの精神障害に対して労災が認められ、企業の安全配慮義務違反が問われることになります。これは社会的信用の低下や訴訟リスクにもつながる重大な問題であり、企業にとっては対策の遅れが経営リスクとなります。

企業にはメンタルヘルス対策の義務がある?

企業には、従業員のメンタルヘルスを守るための責任があり、その一部は法律により義務化されています。従業員数が一定数を超える事業場では、対策を講じることが法令で定められており、経営リスク回避の観点からも対応が求められます。

ストレスチェック制度は遅くとも令和10年度から全ての企業に義務化へ

これまで、2015年の労働安全衛生法改正により、常時50人以上の労働者がいる事業場には、年に1回のストレスチェックの実施が義務付けられていました。この制度では、従業員が質問票に回答することで自身のストレス状況を把握でき、結果は本人に通知されます。高ストレスと判定された従業員が面接指導を希望した際は、企業は医師による面談の機会を設け、必要に応じて業務量の調整や労働時間の見直しなどを実施する必要があります。

一方、従業員50人未満の事業場では制度は努力義務にとどまっていました。しかし、令和7年5月に成立した改正労働安全衛生法により、遅くとも令和10年度からは従業員規模に関わらず、すべての事業場でストレスチェックが義務化されることが決定しました(施行日は公布後3年以内に政令で定める日)。

これにより、中小企業や小規模事業場においても、制度への対応が不可欠となります。

参考:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案の概要|厚生労働省

企業には安全配慮義務があり、心身の健康への対応も含まれる

法的には、労働契約法第5条により、企業は従業員の生命・身体の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。この義務は判例上、身体だけでなく精神面の健康保持にも及ぶと解釈されており、メンタルヘルスへの無配慮が訴訟リスクとなる可能性も否定できません。

また、2020年の労働施策総合推進法の改正により、パワーハラスメント防止措置も全企業に義務化され、ハラスメントが要因となるメンタル不調を防ぐための体制整備も求められています。これにより、企業は制度面・風土面の両面で、従業員のこころの健康を守る体制を構築する必要があります。

参考:労働契約法 第5条|e-GOV

職場でどのようなメンタルヘルス対策を講じるべき?

職場におけるメンタルヘルス対策は、未然の予防から復職後の定着支援までを含めた一貫した取り組みが必要です。厚生労働省は、職場で講じるべき対策として「4つのケア」と「3段階の予防」を示しており、企業はこれらを計画的かつ継続的に進めることが求められます。

予防・早期発見・復職支援」の三段階で行う

企業が取り組むべきメンタルヘルス対策は、一次予防(不調の予防)、二次予防(早期発見・対応)、三次予防(職場復帰支援)の3段階に分類されます。一次予防では、従業員にストレス対処法を学ばせる教育や、職場環境の改善を通じて、不調が起こる前の段階での予防を目指します。二次予防では、ストレスチェックや面談体制の整備によって早期発見と適切な対応を行います。三次予防では、休職からの復職支援や再発防止を視野に入れた取り組みが行われます。

この3段階を連携して運用することで、単発的な対応ではなく、従業員の心の健康を長期的に守る体制が整います。

「4つのケア」を包括的に実施する

厚生労働省は、職場におけるメンタルヘルス対策の柱として「4つのケア」を提唱しています。これらはそれぞれ異なる立場からの支援であり、相互に補完し合う形で機能します。

  1. セルフケア
    従業員本人がストレスに気づき、自ら対処する力を養うこと。ストレスマネジメント研修や自己診断ツールの提供が有効です。
  2. ラインによるケア
    上司や管理職が部下の変化に気づき、相談対応や業務調整を行うこと。ラインケア研修によって、早期対応力が高まります。
  3. 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
    産業医や保健師などの専門職が従業員の健康管理をサポートします。職場巡視や面談による状況把握が含まれます。
  4. 事業場外資源によるケア
    社外の相談機関やEAP(従業員支援プログラム)などと連携し、専門性の高いサポートを提供します。

これら4つのケアを体系的に導入し、相互に連携させることが、職場のメンタルヘルス対策における基本姿勢です。

教育・環境整備・相談体制を充実させる

企業が実際に導入すべき策としては、まず「メンタルヘルス教育」の実施が重要です。従業員に対するセルフケア研修や、管理職向けのラインケア研修を定期的に行うことで、ストレスへの気づきと対応力を高められます。

また、職場環境の継続的な把握と改善も必要です。ストレスチェックの結果や従業員アンケート、産業医の職場巡視などを活用し、作業量や人間関係、長時間労働などのストレス要因を特定し、部署ごとの改善策を講じましょう。

さらに、相談しやすい体制の構築も欠かせません。産業医や社内カウンセラーによる相談窓口の整備に加え、EAPの活用によって、従業員が匿名で専門家と相談できる選択肢を持たせることが効果的です。相談内容の秘密保持と対応後のフォロー体制を整えることが、従業員の信頼を得る上で重要です。

復職支援や再発防止まで見据えた取り組みが必要

メンタル不調によって休職した従業員には、主治医や産業医と連携した復職プログラムの整備が求められます。段階的な職場復帰(リワーク支援)や、短時間勤務などの調整を行いながら、無理のない形で職場に戻れるよう配慮します。復職後も、上司や人事担当者が定期的にフォローアップ面談を行い、業務量や人間関係への配慮を継続することが再発防止につながります。

加えて、ハラスメント対策や長時間労働の是正といった「職場風土」の改善にも取り組む必要があります。従業員が安心して相談し、互いに支え合える風通しの良い組織文化を醸成することが、真のメンタルヘルス対策といえるでしょう。

メンタルヘルス対策を成功させるポイントは?

メンタルヘルス対策を効果的に進めるには、制度の導入だけでなく、その運用方法や組織風土も含めた全体的な仕組みづくりが必要です。

経営層の関与と継続的な体制整備が不可欠

厚生労働省も示しているように、メンタルヘルス対策は中長期的に継続すべき取り組みです。一時的な対応や一過性の制度導入では不十分であり、経営層が自らの方針として明確に位置づけ、社内に発信していくことが求められます。対策の立案や改善には衛生委員会などを活用し、現場の実態をふまえた計画的な取り組みが必要です。

従業員の声を反映した仕組みづくりが信頼を高める

対策を形骸化させないためには、現場からのフィードバックをもとに改善を図る姿勢が重要です。アンケートや相談窓口などを通じて従業員の声を収集し、それに対する対応を実施・共有することで、職場に「聞いてくれる会社」という信頼感が生まれます。この信頼は、相談の活性化や早期対応につながります。

プライバシーと不利益の懸念を取り除く配慮を忘れずに

従業員が安心して支援を受けられるよう、プライバシーの保護は徹底する必要があります。また、「相談すると評価が下がるのでは」「異動させられるのでは」といった不安を抱かせない配慮も欠かせません。秘密保持の明文化や、相談後に不利益が生じない運用実績を積み重ねることで、従業員の利用促進につながります。

持続的に職場のメンタルヘルス対策に取り組もう

職場におけるメンタルヘルス対策は、従業員の心の健康を守るだけでなく、組織全体の生産性と持続可能性を支える重要な経営課題です。不調の予防、早期発見、職場復帰支援を段階的に進めながら、法律に基づいた対応と現場に即した実践を組み合わせることが求められます。セルフケアから経営層の関与までを一体化し、信頼される仕組みとして定着させることが、真に効果的なメンタルヘルス対策への第一歩になります。


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