• 更新日 : 2025年12月5日

感情労働によるバーンアウト!会社への影響やストレスを溜めない対策を解説

顧客との接客や対話を中心に働く「感情労働」は、自分の感情を隠す分、ストレスを溜め込みやすくなります。高負荷のストレスになれば、バーンアウトにつながる可能性もあるでしょう。

この記事では、感情労働によるバーンアウトの定義や兆候、会社への影響、対策などを解説します。

感情労働とは

さまざまなサービス業態が増えるなかで、感情労働の重要性は増しています。まずは、感情労働の定義や、感情労働が必要な職種などを解説します。

感情労働についてより詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。

感情労働の定義

感情労働とは、商品やサービスを提供する際、顧客に対して自分の感情をコントロールしながら働くことで、米国の学者ホックシールドが提唱した概念です。体を使う肉体労働や頭を使う頭脳労働と異なり、AIに置き換えられにくいタイプの労働として注目されています。

感情労働では、以下の2つが求められます。

  • 表層演技:作り笑いや愛想笑いのように、表向きの表情をあえてつくること
  • 深層演技:そのときに応じて好ましい感情をあたかも本当に抱いているかのように感情コントロールをすること

感情労働をする職種や業界

感情労働が求められる職種は、顧客と対面・対話する機会のある業種・職種です。たとえば、以下のようなものが該当します。

  • コールセンターのオペレーター
  • 百貨店の販売員
  • 飲食店のスタッフ
  • 営業職
  • キャビンアテンダント

「接客業」とよばれる職業・職種は、感情労働が求められます。

このほか、医療従事者や介護職員、保育士、教師といった、特定の人と接する機会が多い職種も、感情労働が求められるといえるでしょう。

バーンアウトとは

感情労働をする際に気をつけたいのがバーンアウトです。バーンアウトは従業員自身を苦しめるだけでなく、企業にもさまざまな悪影響が及んでしまいます。バーンアウトの定義や感情労働との関連性を解説します。

バーンアウトについてより詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。

バーンアウトの定義

バーンアウトとは、意欲的に仕事に取り組んでいた人が、突然仕事への意欲・関心を失ってしまう状態のことで「燃え尽き症候群」ともよばれています。単なる疲労ではなく、慢性的なストレスが原因で起こるのが特徴です。

従業員がバーンアウトすると、それまでに比べて突然様子が変わったような状態になります。様子が変わる分異変に気づきやすく対策を打ちやすい側面もありますが、できれば予兆の段階からバーンアウトを察知し、未然に防ぐのが望ましいでしょう。

感情労働とバーンアウトの関連性

感情労働は、バーンアウトの引き金となる可能性があります。

感情労働では、労働者が感じる本当の感情と、組織として求められる感情が異なるため、必要以上にエネルギーを消耗します。たとえば、クレームに対しての怒りや長時間対応への疲れなどは、顧客対応中や業務中には出せません。表向き、謝罪の意や共感、笑顔など、本来の感情とは異なる感情・表情で業務にあたる必要があります。

本心を抑圧するのは、想像以上にエネルギーを使います。従業員が自身の感情を抑圧し続けた結果、あるとき突然仕事に対する意欲や関心を失い、まったく仕事が手につかなくなる可能性があるのです。

バーンアウトの兆候

バーンアウトの兆候として見られるサインとしては「情緒的消耗感」「脱人格化」「個人的達成感の低下」の3つがあります。従業員の遅刻の増加や態度の変化、ミスの増加などがある場合は、その従業員の様子を注視する必要があるでしょう。

バーンアウトする従業員の兆候を解説します。

遅刻・早退・欠勤が増える

遅刻・早退や欠勤の回数が増えると、従業員がバーンアウトに陥る可能性があります。「朝起き上がれない」「出社しようと思えない」といった勤怠の乱れは、従業員が精神的にすり減っていて、日々の労働に向き合えていない可能性が考えられるのです。また、突発的な体調不調(頭痛・腹痛など)による早退が増えている場合も注意が必要です。

とくに、それまで遅刻や欠勤がほとんどない従業員が突然休みがちになったり、朝の出勤時間が遅れたりしている場合は、従業員が精神的になんらかの不安や不満を抱えている可能性があります。バーンアウトの可能性も疑いつつ、様子を見ていくとよいでしょう。

顧客や同僚への態度が変わる

顧客や同僚へのあたりが急に強くなったり、接客が急に機械的で雑になったりしている場合、バーンアウトの可能性があります。

このような態度は、いずれも傷ついた自分を守ろうとして出る反応です。こうした反応を見逃すと従業員のバーンアウトにつながります。上司・管理職としては、従業員が「同僚との雑談を避けようとしていないか」「些細なことでイライラして他者にきつくあたっていないか」を注意深く見ておきましょう。

ケアレスミスや業務に集中していない時間が増える

ケアレスミスが増えたり、業務に集中していない時間が増えていると、バーンアウトの可能性があります。以前はしなかったような単純なミスや確認漏れがあるということは、どこか業務に集中しきれていない状況といえるのです。

従業員のパフォーマンスの低下は精神的な疲労からくることもあるため、注意して観察しなければなりません。落ち着きがなかったり、必要以上に離席の機会が増えたりしている際は、一度声をかけてみるとよいでしょう。

感情労働によるバーンアウトが発生しやすい環境とは

感情労働によるバーンアウトの要因は、従業員自身のストレスや仕事との向き合い方だけではありません。企業が提供する職場環境なども、バーンアウトする要因になります。感情労働によるバーンアウトが発生しやすい環境について解説します。

ノルマが厳しい

厳しいノルマと感情労働による感情抑圧が求められる環境だと、従業員の心身が疲弊し、バーンアウトする可能性があります。

たとえば、コールセンターは「丁寧な共感」という質と「電話処理件数」という数の両方が求められます。達成可能な目標であればモチベーションにつながりますが、厳しいノルマを課されると、達成感よりも仕事をやらされている感覚が大きくなり、次第に不満が溜まりやすくなるのです。

そのため不満が爆発し、突然バーンアウトする従業員が出てくる可能性が十分考えられます。

カスタマーハラスメントへの対応ができていない

感情労働のなかでも、とりわけストレスになるのがカスタマーハラスメントです。理不尽な要求や暴言、長時間の拘束などは度を過ぎたクレームであり、それをただ受け入れていては、相手がさらに過度な要求をしてくる可能性があります。

対応を個人単位に任せてしまい、従業員に必要以上の我慢を強いれば、精神的に疲弊し「組織が守ってくれない」という不満も募ります。クレームへの対応やサポートの体制を整えて、バーンアウトの可能性を下げていく工夫が必要です。

感情労働によるバーンアウトが企業に与える影響

感情労働によるバーンアウトは、企業にもマイナスな影響を及ぼします。既存社員に負担がかかれば、さらなる離職の増加につながり、士気が下がれば企業の生産性低下にもつながるでしょう。

バーンアウトが企業に与える影響について詳しく解説します。

休職者・離職者の増加

バーンアウトによって精神疾患を患えば、休職者や離職者が増える可能性があります。とくに、ある程度年数を重ねた従業員がバーンアウトに陥ると、単に人材が不足するだけでなく、従業員への育成コストを回収できなくなることも考えられます。

また、休職・離職者が出た場合は、業務が停滞しないよう新たな従業員採用や人員配置の転換などをしなければなりません。結果的に、人件費支出や既存社員の事務負担なども増えてしまいます。

職場環境の悪化

バーンアウトした従業員の存在は、一緒に働く従業員の士気を下げてしまう可能性があります。「従業員がバーンアウトした」という話を耳にすれば「頑張りすぎてあのようになるなら、頑張る理由がない」「病気になる程仕事をする必要はない」と、業務への意欲をなくす従業員が増えることが考えられます。

従業員のモチベーションが下がってしまうと、会社への貢献意識や業績の向上といった、従業員が仕事をする目的が失われるかもしれません。サービスや商品のクオリティが下がり、業績自体が低下する可能性もあるでしょう。

企業の生産性の低下

バーンアウトした従業員を放置していると、顧客への対応に問題が出る可能性があります。苦情が増えれば、ブランドイメージや顧客満足度の低下は避けられません。企業としてのサービスの質が低下する可能性も考えられます。

また、悪質なクレームが増えれば、さらにバーンアウトする職員を増やしてしまうケースもあるでしょう。企業の経営自体が危ぶまれるほど業績が落ちてしまうと手がつけられなくなるため、バーンアウトの従業員には企業側が早期に対応する必要があります。

企業が実施したい感情労働によるバーンアウト対策

企業が実施したいバーンアウト対策としては、相談窓口の設置やカスハラ対策といったもののほか、ストレスチェックやウェルビーイングサーベイ、適性検査などのテストによるチェックが効果的です。それぞれの対策を解説します。

バーンアウト対策についてより詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。

ストレスチェックを実施する

労働安全衛生法に基づき、企業はストレスチェックを実施する義務があります。現在は労働者50名以上の事業所に義務化されていますが、令和7年に改正された労働安全衛生法は3年以内の施行が予定されています。実際に施行されれば、いずれは全事業所でストレスチェックの実施が義務になる見込みです。

ストレスチェックは、従業員にストレス状態を気づかせるきっかけになります。また、企業としてもストレス値が高い部署を特定し、人員の増強やカスハラ対策など必要な対策を打つための根拠を用意できます。感情労働の従業員はストレスを抱えやすいため、早期の対策が求められるでしょう。そのため、定期的にチェックを実施し、従業員のバーンアウトを防ぐことが大切です。

メンタルヘルス相談窓口を設置する

メンタルヘルス相談窓口を設置し、従業員の悩みや苦しみを吐き出せる場所をつくると、従業員が安心して働けるようになります。

窓口の担当者は、メンタルヘルスに詳しい人事労務担当者や保健師、産業医、カウンセラーなどに依頼するとよいでしょう。プライバシーを保護するために、匿名で利用できるようにすると、多くの従業員が利用しやすくなります。

もしバーンアウトの兆候がある従業員がいたら、窓口を紹介して相談してみることを勧めてみましょう。

カスタマーハラスメントへの対応マニュアルを作成する

従業員を組織として守るために、カスタマーハラスメント対策として対応マニュアルを作成するのも効果的です。

マニュアルでは「悪質なクレーム」とはどのようなものなのか定義づけておきます。従業員個人に対応を判断させるのではなく、上司や担当部署へ引き継ぐ体制を整えておくと、クレームにも適切な処理ができるでしょう。

また、対応を拒否する基準も明確にしておけば、必要以上に精神をすり減らすこともなくなります。従業員を守ることを優先し、理不尽なクレームや人格攻撃には毅然と対応できるようにしましょう。

ウェルビーイングサーベイを活用する

ウェルビーイングサーベイを活用して、業務への意欲や達成感が低下していないか確かめるのも有効です。

ウェルビーイングサーベイとは、エンゲージメント(従業員が企業に貢献しようとする意欲)や働きがいを観測するものです。定期的に実施すれば、観測結果に変化のあった従業員へのサポートがすぐにできるため、問題の早期発見につながります。調査結果をもとに適切な支援をして、休職や離職を防ぎましょう。

適性検査で人員配置を再考する

適性検査で感情労働に向いている人材の特性を見極め、人員配置を再考するのもひとつの手です。バーンアウトしやすい特性のある従業員に対して、感情労働をあまり必要としない部署に異動させ、感情労働に適した従業員を配置することで、業務のミスマッチを防ぎます。

部署ごとに適性のある従業員を配置すれば、部署の業務効率が上がり、事業の生産性向上も期待できます。


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