• 更新日 : 2025年12月5日

シエスタとは?導入するメリット・デメリットや実際の事例も紹介

シエスタとは、スペインで習慣的に根付いた昼食後の長い休憩時間のことです。日本でも仮眠制度や長めの休憩制度を採り入れる企業が増えています。

実際、シエスタの導入を検討している人の中には「どういうメリット・デメリットがあるのだろう」「事例があれば知りたい」と気になっている人もいるでしょう。

そこで本記事では、シエスタ制度の概要やメリット・デメリットについて解説します。また、シエスタを活用している企業の事例や運用する際のポイントもまとめています。

シエスタとは?

本来のシエスタは、スペインをはじめとする地域に根付いた、昼食後の長い休憩時間を指します。単に「昼寝」だけを意味する言葉でなく、食事や家族との団らんなども含めた文化的な生活習慣そのものです。

スペインでは、14:00〜17:00ごろにレストランや公共施設などが一斉に閉まります。従業員たちは一度帰宅して、食事や昼寝の時間を取ってから夕方に仕事に戻るというライフスタイルが根付いていました。ただ、近年は都市部を中心にこの習慣は薄れつつあります。

日本でもこのスペインの文化に倣って、長めの休憩制度や公認の仮眠制度を導入する企業が増えています。日本のシエスタ制度は、業務の生産性を向上させることを目的とし、現代のビジネス社会に合った形で運用されているのが特徴です。

日本の企業で注目されている理由

日本の企業でシエスタが注目されている理由としては、以下の3つが考えられます。

  • 日本人の睡眠時間が世界的に見ても短い
  • 「健康経営」への関心が高まっている
  • 採用ブランディングの効果が期待されている

日本人の平均睡眠時間は世界的に見ても短く、慢性的な睡眠不足はパフォーマンス低下の原因となり得ます。そこで睡眠不足を解消できる手段として、シエスタに注目が集まっています。

また、「健康経営」に関心が高まっていることも理由の一つでしょう。健康経営とは、社員の健康を資本と捉えて投資することで、企業の業績向上へつなげるという考え方です。経済産業省も「健康経営優良法人認定制度」を創設しており、社員の健康を改善する施策としてシエスタが有効という見方が広がっています。

そして、シエスタ導入の経緯として、採用ブランディングへの効果が見込まれていることも理由だと考えられます。仮眠制度がある企業は、先進的でホワイトな企業としてポジティブな印象を持ってもらいやすいです。優秀な人材を集めるためにシエスタを活用する企業も存在するでしょう。

参考:健康経営とは – ACTION!健康経営|ポータルサイト(健康経営優良法人認定制度)

シエスタ制度を導入する4つのメリット

シエスタ制度を導入するメリットを4つ紹介します。

1. 生産性が向上する

シエスタ制度を導入することで、生産性の向上に期待できます。

昼食後の14時〜15時は、体内リズムの影響で眠気を感じやすい時間帯です。眠気と闘いながら仕事をしても、注意散漫となって作業効率も上がりません。

そこでシエスタ制度を活用し短時間でも睡眠を取れば、昼食後に来る眠気がリセットされます。午後の業務に集中しやすくなるため、仕事の質も向上してヒューマンエラーや単純ミスも減るでしょう。結果的に、残業時間が減って人件費を削減できる可能性もあります。

また、睡眠を取ることで体力の回復にもつながります。午前中の業務によって疲れが溜まると、特にタクシードライバーや建設現場の従業員などは事故を引き起こしかねません。仮眠によって疲労を回復させることは、安全に業務を遂行するうえでも重要です。

2. 従業員のストレス解消につながる

シエスタ制度を活用して休憩時間を長めに取ることができれば、ストレス解消にもつながります。

一般的な1時間の休憩だとお昼を食べるだけで時間がなくなってしまう人も多く、十分にリフレッシュできていない可能性があります。

シエスタによってまとまった時間を確保できれば、睡眠だけでなく運動をしたり散歩をしたりと、個々人に合った方法でリフレッシュやストレス解消が可能です。

また、「休憩があるから午後の業務も頑張れる」「休憩時間になったらジムに行こう」など、シエスタ制度はモチベーション維持の原動力にもなり得ます。そして、休憩後は「十分にリフレッシュできたから残りの業務も集中しよう」と気持ちの切り替えの役割も果たせるでしょう。

3. ワークライフバランスを実現できる

シエスタ制度の運用方法を工夫すれば、ワークライフバランスを実現できる可能性もあります。

たとえば、休憩時間の使い方を個々人の自由にすることで、その間に通院したり子どもの迎えに行ったりなど、ライフスタイルに合わせて柔軟に活用しやすくなります。

もしくは、シエスタ制度の利用自体も従業員の任意とするのも一つの手です。「今日は制度を利用してリフレッシュしよう」「今日は制度を利用せずに早く帰って寝よう」というように、その日の予定や業務内容に応じて自由に決められるようになります。

ただし、シエスタ制度を利用して休憩時間を長く取ると、そのぶん会社の拘束時間が長くなり退社時間も遅くなる点には注意が必要です。拘束時間が伸びることも考慮して、制度の運用方法やルールを決めましょう。

4. 企業のイメージアップを図れる

シエスタ制度を導入すると、仮眠制度という先進的な取り組みをしている会社として採用活動でもアピール可能です。

求人や採用ページに制度の概要を掲載すれば、「社員を大切にするホワイトな会社」「新しい制度にも柔軟に取り組む会社」として求職者にポジティブな印象を与えられます。また、シエスタ制度の実際の利用例もあわせて掲載することで、小さい子どもがいる人や持病を持っている人など多様な働き方を望む求職者も応募しやすくなります。

結果として応募者数が増える可能性があるだけでなく、他社との差別化にもつながるでしょう。

そして、ユニークな働き方改革をしている会社として、Webメディアや新聞などに取り上げられる場合もあります。広告費をかけずに知名度とブランドイメージを向上させることも可能です。

シエスタ制度を導入する3つのデメリット

シエスタ制度を導入するデメリットを3つ紹介します。

1. 顧客対応に支障が出やすい

シエスタ制度を始めることによって、顧客対応に支障が出る可能性があります。

特に、全社が一斉に長い休憩時間を取るような運用方法にすると、その時間帯は完全に業務がストップしてしまいます。顧客からの緊急の電話や問い合わせに対応できず、顧客満足度が低下したりビジネスチャンスを損失したりするリスクもあるでしょう。

また、チーム内で交代で休憩を取る場合でも、「急ぎで確認したいことがあるのに今シエスタ中でいない」というように従業員同士でも支障が発生することが考えられます。

よって、チーム内に1人は必ず残る、確認したいことはチャットツールで記録するなど、細かくルール設計をして対応しましょう。

2. 退社時間が遅くなる

シエスタを利用すると、従業員の退社時間が遅くなる点も考慮しなければなりません。

たとえば、1時間のシエスタを全員取るように強制すると退社時間も全員1時間遅くなるため、子どものお迎えや家族との夕食などのプライベートな時間を阻害してしまいます。

したがって、全員が一斉にシエスタを取るような画一的なルールではなく、個人の裁量に任せるような柔軟なルールにするのが望ましいです。シエスタの利用時間を自由に決められるようにしたり、取得自体も日によって変更できるようにしたりなど、さまざまな方法を検討しましょう。

3. 起床後にパフォーマンスが低下する可能性がある

仮眠は生産性を向上させることに期待できる一方で、逆にパフォーマンスが低下する可能性もあります。

特に30分以上の深い眠りに入ってしまうと、起きた直後に頭がぼーっとしたり強い眠気が残ったりする場合があります。この状態が続くと判断力や作業効率も低下してしまい、眠気をリセットするための仮眠が逆効果です。

そのため、仮眠を取る場合は最長の時間を設定したり、すっきり目覚めるための方法を周知したりなどの対策を取る必要があります。

シエスタ制度を実際に導入している主な企業

シエスタ制度を実際に導入している主な企業と各会社の制度内容について紹介します。

GMOインターネットグループ株式会社

GMOインターネットグループ株式会社は、インターネットに関する多様な事業を展開している総合インターネット会社です。

GMOインターネットグループでは、おひるねスペースとして「GMO Siesta」が設置されています。

元々、2011年8月にマッサージ・おひるねスペースの「GMO BALI Relax」が開設されていたのですが、2012年5月に昼寝専用スペースとして「GMO Siesta」が拡充されました。

この「GMO Siesta」は、12:00~20:00に上限30分で利用可能となっており、完全予約制です。また、足を伸ばせるチェアスペースと横になれるベッドスペースの2種類のスペースが用意されています。

参考:オフィス環境 | 人的資本経営 | サステナビリティ | GMOインターネットグループ株式会社

三菱地所株式会社

日本最大手の総合不動産会社である三菱地所も、2018年1月から仮眠制度を導入し仮眠室を設置しています。

最初から本格的に導入されたわけではなく、効果検証の実験を4週間にわたって行った結果、正式な運用が決定されました。

仮眠室は最大30分まで利用可能で、利用する場合はオンラインでの予約が必要です。

株式会社Nextbeat

株式会社Nextbeatは、ライフイベント領域・地方創生領域・グローバル領域の3つを主軸に事業を展開するベンチャー企業です。

Nextbeatでは、睡眠コンサルタントのアドバイスをもとに設計された「戦略的仮眠室」が設置されています。

従業員が各自好きなタイミングで最大30分まで利用可能です。仮眠室は男女1室ずつ用意されており、またスマホ・タブレット・PCを持ち込むことは禁止されています。

仮眠室の他に、休息や気分転換のためのゆりかごチェアも導入しています。

参考:戦略的仮眠室 | 株式会社ネクストビート

シエスタ制度を運用するにあたって注意すべきポイント

最後に、シエスタ制度を導入するにあたって注意すべきポイントを3つ紹介します。

最初は試験的に導入してみる

最初から本格的に全社でシエスタを導入するのではなく、まずは試験的な導入から始めましょう。

たとえば、特定の部署や支社などに限定したり、3ヶ月だけ試験期間を設けたりなどの方法が考えられます。仮眠室に関しても、シエスタ専用の部屋を作る前に空いている会議室を代わりに使用するのが良いでしょう。

もし試験を行わず正式にスタートさせてしまうと、以下のような事態に陥る可能性があります。

  • いきなり全社で導入した結果、現場からの反発や混乱を招く
  • 経営陣から本当に効果があるのか疑問視され、十分な効果検証ができないまま廃止を促される
  • 多額の投資をして整えた設備や備品が無駄になる

上記のような事態となるのを防ぐために、まずはトライアル期間を設けて様子を見るのが望ましいです。また、昼寝によって体内時計が狂った結果、夜に眠ることができず睡眠不足になってしまうのは逆効果です。よって、適切な仮眠時間の設定やその検証もしっかりと行う必要があります。

従業員にアンケートを実施し、試験前と後で生産性や体調にどのような変化があったのか測定するとなお良いです。全社で導入するかどうかを決める検討材料にもなるほか、上層部に提案するときの資料としても活用できます。

ルールや環境を整える

検証によって導入することが確定したら、次はシエスタ制度のルールや環境を整えましょう。

ルールに関しては、利用できる時間の上限や利用可能な時間帯、予約の有無などを決めておくことをおすすめします。環境に関しては、照明や騒音に配慮したスペースを確保したりリクライニングチェアやアイマスクといった備品を用意したりすると良いでしょう。

もし中途半端なルールや環境のまま放置すると、以下のような問題が生じる可能性があります。

  • ルールが曖昧なせいで、長電話やオンラインミーティングなど本来の目的とは異なる使い方をされる
  • 一部の人が長時間にわたって独占してしまい、本当に仮眠を取りたい従業員が利用できない
  • 睡眠に適した環境ではないせいで、仮眠室が利用されなくなる

そのため、細かくルールを決めて仮眠に適した環境が整備されてから、全社に導入のお知らせをしましょう。また最初の数ヶ月は、ルールや環境に関してアンケートを定期的に取るのもおすすめです。

制度を社内に浸透させる

ルールや環境もしっかり整備できたら、最後にシエスタ制度を社内に浸透させるための取り組みを行いましょう。

たとえば、トップから正式スタートのメッセージを発信してもらったり、管理職向けに説明会を実施したりなどの方法が考えられます。

シエスタ制度導入の目的やルールなどが広まらなければ、検証や準備に時間を費やしたとしても期待とは異なる結果に終わる可能性があります。

  • 「昼寝=サボり」というネガティブなイメージを払拭できず、利用者が思うように増えない
  • 一部の社員しか制度を利用せず、最終的に形骸化してしまう
  • 管理職の理解度がバラバラで、特定の部署だけ利用を許してくれないといった問題が発生する

制度が形骸化したり不公平さが出たりするのを防ぐため、ある程度のコストや時間をかけてでも浸透させるための活動を行うことが推奨されます。

導入から数ヶ月は、シエスタ制度に関する情報を継続的に発信すると良いでしょう。「集中力が上がった」「疲れが溜まらなくなった」などの成功体験を共有するのも効果的です。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事