• 更新日 : 2025年6月24日

給与の割増賃金の端数処理は?時間や金額のルールをわかりやすく解説

割増賃金の計算では、時間や金額にわずかな端数が発生することがあります。例えば、1分や数円の違いでも、処理の仕方によっては違法とされる可能性があり、企業にとっては注意が必要です。労働基準法では「賃金全額払いの原則」が定められており、端数処理のルールを誤ると未払い賃金として請求されるおそれがあります。

この記事では、時間外・休日・深夜労働ごとの処理方法から、具体的な計算例、よくある誤解まで、割増賃金の端数処理について実務で押さえておくべきポイントを詳しく解説します。

割増賃金の時間における端数処理のルール

割増賃金を正しく計算するためには、まず労働時間の正確な把握が欠かせません。労働基準法では、労働時間は原則として1分単位で記録し計算することが求められています 。

これは、「賃金全額払いの原則」を徹底するためであり、使用者の都合で労働時間を短く計算することは許されません。

月単位では1時間未満の端数処理が認められている(例外)

ただし、例外的に1ヶ月単位で時間外労働・休日労働・深夜労働のそれぞれの時間数を合計した際、1時間未満の端数がある場合には次のような処理が認められています。

  • 30分未満の端数は切り捨て
  • 30分以上の端数は1時間に切り上げ

このルールは、あくまで1ヶ月間の時間外労働時間の合計に対して適用されるものであり、日単位や週単位で労働時間や時間外労働時間の端数を一律に切り捨てることは労働基準法違反となります 。

【NG例】

残業が毎日2時間20分ある場合に、20分をすべて切り捨てて2時間と記録する

【OK例】

  • 月間の時間外労働合計が10時間20分 → 10時間として処理
  • 月間の時間外労働合計が10時間45分 → 11時間として処理

労働者に有利な端数処理は認められる

一方で、端数を常に労働者にとって有利になるように取り扱うことは認められています 。

例 )

  • 残業が14分だった場合でも15分として計算する
  • 月間合計が10時間20分でも11時間として処理する

企業が労働者に配慮した方法で計算するのは自由ですが、不利益な取り扱いは厳しく制限されています。

割増賃金の金額における端数処理のルール

割増賃金を正しく支払うためには、時間数の把握だけでなく、賃金額の計算にも注意が必要です。実際の計算では、1時間あたりの賃金や割増率の適用によって、端数が生じることがあります。こうした端数にどう対応するかについても、法律上の一定のルールがあります。

1時間当たりの割増賃金に1円未満の端数が出た場合

1時間当たりの割増賃金に1円未満の端数が生じたときには、以下のような処理が一般的に認められています。

  • 50銭未満の端数は切り捨て
  • 50銭以上の端数は1円に切り上げ

これは、四捨五入の要領と同じであり、公平性を確保しつつ、事務処理の簡素化も図れる方法です。

計算例①:1時間当たりの割増賃金額に端数が出た場合

  • 基本給:時給1,234円
  • 割増率:25%(時間外労働)
  • 割増分:1,234円 × 0.25 = 308.5円
  • 合計:1,234円 + 308.5円 = 1,542.5円

この場合、1,542.50円は「50銭以上」のため、1,543円に切り上げて支給します。

一方、割増分が308.49円となり、合計が1,542.49円であった場合は、「50銭未満」となるため、1,542円に切り捨てる処理が妥当です。

月単位の割増賃金総額の端数処理

1ヶ月間に発生した時間外・休日・深夜労働の合計に対して計算した割増賃金の「合計金額」についても、1円未満の端数処理が認められています。

計算例②:月間の割増賃金総額の端数処理

  • 月の割増賃金の合計が 45,678.49円 の場合:
    0.49円は切り捨て、45,678円として支給
  • 合計が 45,678.50円 の場合:
    0.50円は切り上げ、45,679円として支給

このように、支払額の端数が1円未満の場合には、四捨五入の原則で処理することが認められており、違法とはされていません。

手取り額が100円未満の端数を含む場合

月の総支給額から所得税や社会保険料を控除し、最終的な手取り額が100円未満の端数を含む金額になることがあります。例えば、控除後の手取り額が280,905円となった場合、5円という端数が生じます​。

給与を現金で支給していた時代は小銭の準備や精算の手間がかかるため、業務の効率化を図る目的で、一定の端数を処理することが許容されています。

端数処理の方法は、次のいずれかの方法が認められています。この処理は労働者にとって損にならないよう、必ず事前に就業規則に記載し、従業員に周知しておく必要があります。

就業規則によって可能な端数処理方法

  1. 50円未満を切り捨て、50円以上を100円に切り上げる
  2. 1,000円未満の端数を翌月の賃金支給日に繰り越して支払う

計算例③:手取り額の端数処理

  • 賃金支払額が 401,111円 の場合
    → 端数11円は50円未満なので、401,100円に切り捨て
  • 賃金支払額が 401,175円 の場合
    → 端数75円は50円以上なので、401,200円に切り上げ

割増賃金の端数処理を具体例で確認

割増賃金の端数処理は、時間外・休日・深夜労働が複雑に絡む場合ほど注意が必要です。労働時間の集計単位(1分単位・1ヶ月単位)や、30分・1円未満といった切り捨て・切り上げの基準は、種類ごとに異なるルールが適用されます。また、計算結果に生じる1円未満の端数や、支給総額の100円未満の端数についても、法律や就業規則に基づいた処理が求められます。

例①:時間外+深夜労働の端数処理(1ヶ月単位)

時間外労働と深夜労働が月を通して断続的に発生していた場合、それぞれの合計時間をもとに月単位の端数処理ルールが適用されます。

  • 時間外労働合計:15時間45分 → 30分以上のため16時間に切り上げ
  • 深夜労働合計:4時間20分 → 30分未満のため4時間に切り捨て

例②:休日労働+深夜労働の端数処理(1ヶ月単位)

休日労働と深夜労働の双方が発生している場合、それぞれの合計時間をもとに端数処理を行います。

  • 休日労働:7時間25分 → 30分未満のため7時間に切り捨て
  • 深夜労働:1時間15分 → 30分未満のため1時間に切り捨て

例③:時間外・休日・深夜すべてが発生しているケース

もっとも複雑なパターンです。それぞれの時間数を個別に把握し、端数処理ルールに沿って正しく処理することが求められます。

  • 時間外労働:10時間20分 → 切り捨てて10時間
  • 休日労働:8時間45分 → 切り上げて9時間
  • 深夜労働:6時間10分 → 切り捨てて6時間

例④:1時間当たりの割増賃金に端数が出た場合

時給と割増率を掛け合わせた際に1円未満の端数が出る場合、50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げとなります。

  • 割増賃金:1,799.49円 → 1,799円に切り捨て
  • 割増賃金:1,799.50円 → 1,800円に切り上げ

例⑤:支給総額の端数処理(100円未満)

月間の控除後の支給額に100円未満の端数が出た場合は、就業規則に基づき切り捨てまたは切り上げる対応が可能です。

  • 支給額:401,111円 → 11円切り捨て → 401,100円
  • 支給額:401,175円 → 75円切り上げ → 401,200円

割増賃金の端数処理で間違えやすいポイント

割増賃金の端数処理は、誤った処理を続けると労働基準法違反となるおそれがあり、企業にとって大きなリスクとなります。ここでは、実務上で特に注意すべきポイントについて解説します。

15分単位の処理は違法となる可能性がある

よく見かける運用として「15分未満の残業は切り捨てる」「15分単位でまとめて時間外計算をする」といった方法があります。しかし、これは労働基準法第24条の賃金全額払いの原則に抵触する可能性があります。

例 )

  • 従業員が1日9分間の残業をしたにもかかわらず、それを記録せず切り捨てた場合、その分の賃金が未払いとなります。
  • 「15分未満は計上しない」といったルールを就業規則に明記していたとしても、法的には無効とされる可能性があります。

このような端数処理を継続的に行った結果、過去に企業側が数百万円規模の未払い残業代を支払うことになった裁判例もあります。したがって、原則は1分単位での労働時間の管理であることを徹底する必要があります。

月単位での切り捨てと切り上げはセットで行う

労働時間の端数処理は、月単位であれば以下のルールに従って処理できますが、この2つの処理は必ずセットで運用する必要があります。

  • 30分未満:切り捨て
  • 30分以上:1時間に切り上げ

このルールを「切り捨てだけ行って、切り上げはしない」というような、一方的に企業側に有利な形で運用することは認められていません。労働者にとって不利益となる端数処理は、特に慎重に扱うべきです。

就業規則に定めがなければ金額の端数処理はできない

金額の端数(特に100円未満の端数)の処理については、あらかじめ就業規則に明示されていることが前提です。

例えば、「50円未満を切り捨て、50円以上を100円に切り上げる」といった処理を行っていても、それが就業規則に書かれていなければ、従業員から「正当な支払いではない」として問題視されるリスクがあります。

就業規則に明記する際には、以下の点も押さえておくとよいでしょう。

  • 処理の対象が「控除後の手取り額」であること
  • 端数の扱い(切り捨て・切り上げ・繰り越し)を明確に記載すること
  • 周知方法(配布、イントラ掲載、掲示など)を整備すること

年次有給休暇の付与とは別のルールが適用される

労働時間に関する話題で混同しやすいのが、有給休暇の時間単位付与における端数処理です。時間単位年休については、「1時間未満の端数が出た場合は1時間に切り上げる」とされています。

これは年休付与に関する別のルールであり、割増賃金の計算とは直接の関係がありません。ただし、「切り上げは常にOK」と誤解していると、割増賃金の算定でも安易に切り上げを適用してしまう可能性がありますので、混同しないよう注意しましょう。

割増賃金の端数処理を正しく行いましょう

割増賃金の端数処理は、数円・数分といった一見些細な調整に見えるかもしれませんが、労働基準法の原則にかかわるテーマです。誤った処理が続けば、未払い賃金の請求や是正勧告といった重大なリスクに直結する可能性もあります。

まずは、自社の端数処理ルールを再確認しましょう。特に、日単位での切り捨てが行われていないか、30分未満・以上の処理が正しくセットで運用されているか、割増賃金の金額や手取り額に対して適切な処理がされているかを点検することが大切です。

あわせて、就業規則や賃金規程が法令に準拠しているかを見直し、必要に応じて改訂を行いましょう。そのうえで、従業員に対する説明や周知の方法も整備し、誰にとっても明確で納得できる形で運用していくことが求められます。

給与計算システムの設定ミスや法改正の見落としにも注意が必要です。定期的なチェックや社内教育を通じて、正しい知識を社内に定着させましょう。


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