• 更新日 : 2025年6月19日

研修期間中でも最低賃金の支払いは必要!計算方法や下回るケースを解説

研修期間中のアルバイトやパート従業員であっても、原則的に最低賃金以上の給与を受け取る権利があります。

しかし、特例許可制度が適用されているなど、例外的に最低賃金を下回るパターンもあり、必ずしも最低賃金以上を受け取れるわけではありません。

本記事では、研修期間中の最低賃金の扱いや最低賃金の計算方法について詳しく紹介します。

事業者は研修期間中でも最低賃金以上の給与を支払う必要がある

冒頭で説明した通り、従業員が研修期間中や試用期間中でも、事業者は最低賃金以上の給与を支払う義務があります。

最低賃金とは、労働者がその働きに対して受け取ることが法律で保障されている最低限の賃金のことです。

たとえ研修期間中であり業務範囲が限定的であっても、労使間で雇用契約が成立しているため、最低賃金法により労働者には最低賃金が適用されます。

そのため、事業者は研修だからといって無給にしたり、最低賃金を下回り極端に賃金を安く設定することはできません。

また、最低賃金のルールは、アルバイト・パート・正社員など雇用形態に関係なく適用されます。

研修期間中の給与が研修期間後以下であることは問題ない

研修期間中の給与は最低賃金以上でなければいけませんが、研修期間後の給与より低く設定されていても、法律上は問題ありません。

ただし、事業者は研修期間を設けることやその期間・給与条件などを、求人票や雇用契約書に明示する必要があります。

たとえば「研修期間は3ヶ月で研修中は時給1,000円、終了後は1,150円」といったように、事業者は雇用前に労働者へ条件を明確に伝えなければなりません。

また、企業によっては研修期間中、研修期間終了後に関わらず同一賃金とするケースもあります。

最低賃金は2種類ある

  • 各都道府県ごとに適用される「地域別最低賃金」
  • 特定の産業に従事する労働者を対象にした「特定最低賃金」

両方が同時に適用される場合は、事業者はより高い方の金額を支払わなければなりません。

関連記事:最低賃金とは?制度の概要や種類をわかりやすく解説

地域別最低賃金

地域別最低賃金は各都道府県ごとに定められている最低賃金です。

職種や雇用形態に関係なくその都道府県の会社やお店で働いていれば、基本的には地域別最低賃金が適用されます。

また、地域別最低賃金には地域ごとの生活費の水準や企業の支払い能力の違いが反映されており、東京と地方では最低賃金に100円以上の差が生まれる場合もあります。

特定最低賃金

特定最低賃金は、ある特定の産業で働く人に適用される最低賃金です。

対象となる産業は、全国を対象としている場合と、都道府県ごとに定められている場合の2種類があります。

▼ 全国を対象とした特定最低賃金(この1件のみ)

  • 非金属鉱業最低賃金

▼ 各都道府県のみが対象の特定最低賃金の例

  • 処理牛乳・乳飲料、乳製品、砂糖・でんぷん糖類製造業 (北海道)
  • 船舶製造・修理業、舶用機関製造業(岡山・広島・香川)
  • 糖類製造業(沖縄)

特定最低賃金を設定するには、都道府県の労働局へ関係労使(使用者と労働者)の申し出が必要です。

その後、最低賃金審議会による調査審議を経て、必要性が認められた場合に限って特定最低賃金が適用されます。

また、特定最低賃金には適用対象外となる労働者もいるため注意しましょう。

18歳未満や65歳以上の労働者、採用から一定期間未満の技能習得中の労働者、その産業特有の軽作業に従事している労働者が当てはまります。

最低賃金を下回る2つのパターン

最低賃金を下回る2つのパターンについて解説します。

1. 特例許可制度が適用されている

通常、研修期間中であっても最低賃金を下回る給与の支払いは認められていません。

ただし、厚生労働省が定める「最低賃金の減額の特例許可制度」が適用されている場合は、例外として最低賃金を下回る場合があります。

特例許可制度は、特定の労働者に最低賃金を適用するとその労働者の雇用機会を奪うおそれがある場合に、最低賃金よりも低い給料を認める仕組みです。

▼ 適用対象となる労働者

  1. 精神または身体の障害により著しく労働能力が低い人
  2. 試用期間中の人
  3. 職業訓練中で基礎的な技能や知識を習得している人
  4. 軽易な業務に従事する人
  5. 断続的労働に従事する人

上記に当てはまる労働者の中には、一般的な労働者と同じペースでの作業が難しい方もいます。

そのため、「最低賃金を必ず払わなければならない」となると、事業者が雇用を見送る可能性が出てきます。

応募者の不採用を防ぎ、多様な働き手の雇用機会を確保するために設けられている制度が特例許可制度です。

特例許可制度を利用するには、都道府県の労働局長の許可が必要になります。

また、許可期間は最長3年で、更新には満了の15日前までに申請が必要になります。

2. 業務委託契約をしている

業務委託契約をして働いている場合、基本的には労働基準法や最低賃金法の適用外になるため、最低賃金を下回る場合があります。

業務委託の働き方は企業との雇用契約ではなく、請負契約や委任契約といった対等な契約関係にもとづいています。

そのため、時給換算で最低賃金を下回るような報酬であっても、法律上は最低賃金の違反にはあたりません。

ただし、実態として指揮命令のもとで働き労働者と同様に拘束されている場合には「偽装業務委託」と見なされ、最低賃金の適用対象になる場合もあります。

最低賃金の適用対象外になる賃金もある

最低賃金は、給与として支払われるすべての賃金が対象ではありません。

残業代など一部の手当は、最低賃金の適用対象外になります。

▼ 最低賃金の適用対象外になる賃金

(1)臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2)1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3)所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4)所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5)午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6)精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

引用元:対象となる賃金は?│厚生労働省

最低賃金の対象となるのは基本給と一部手当のみになるため、注意しましょう。

最低賃金の確認・計算方法

最低賃金を確認するための計算方法を紹介します。

1. 時給制の場合

アルバイトやパート従業員は、一般的に時給制が適用されています。

▼ 計算式

時給 ≧ 最低賃金額(時間額)

上記の計算式のように、会社から支払われている時給が最低賃金を上回っていれば問題ありません。

2. 日給制の場合

日給で働いている場合、最低賃金が守られているかどうかを判断するためには、日給を時間単価(時給)に換算する必要があります。

日給をその日の所定労働時間で割り、時間単価を求めましょう。

▼ 計算式

日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)

たとえば所定労働時間が1日8時間で日給が8,000円なら、「8,000円÷8時間=1,000円」が時間単価です。

計算した時間単価が最低賃金を上回っていれば問題ありません。

また、最低賃金が日額である特定最低賃金に該当する場合は、時間単価ではなく日給が最低賃金(日額)以上かを確認します。

3. 月給制の場合

月給制で働いている場合も、時給に換算して計算します。

▼ 計算式

月給÷1ヶ月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)

たとえば月給20万円、月の労働時間が160時間であれば「200,000円÷160時間=1,250円」が時給となります。

時給が最低賃金を超えていれば、最低賃金が守られています。

また、月によって所定労働時間にばらつきがある場合は、年間の労働時間を12で割った1ヶ月の平均所定労働時間を使って計算を行いましょう。

4. 出来高払制その他の請負制の場合

出来高払制や請負契約(成果や完成した仕事の量に応じて報酬が決まる働き方)の場合は、一定期間に支払われた賃金の総額をその期間中に実際に働いた総労働時間で割り、時間単価を算出します。

▼ 計算式

一定期間の賃金総額 ÷ 期間中の総労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

たとえば、1ヶ月間で20万円を支払われた場合、総労働時間が160時間であれば「200,000円÷160時間=1,250円」が時給換算の金額になります。

5. 複数の給与形態の組み合わせの場合

基本給が日給制で、さらに月給制の各種手当がつく場合など、複数の賃金形態の場合は計算が少し複雑になります。

▼ 計算例(基本給が1日8,000円の日給制で、月に2万円の手当がつく場合)

基本給(日給)8,000円×20日(労働日数)=160,000円

手当(月給)20,000円

支給総額=160,000円+20,000円=180,000円

労働時間=20日 × 8時間=160時間

時間単価=180,000円 ÷ 160時間=1,125円

上記の例の場合、1,125円が時給換算の金額になります。

それぞれの計算方法について、より詳しく知りたい方は関連記事を参考にしてください。

関連記事:最低賃金を下回ってない?確認するための計算方法を紹介

研修期間の給与が最低賃金を下回る場合の対策

研修期間中の給与が最低賃金を下回っていた場合の対策を紹介します。

労働基準監督署へ相談する

万が一、研修期間中の時給が最低賃金を下回っている場合は、最寄りの労働基準監督署へ相談してみましょう。

もしも事業者が故意に最低賃金を下回る金額を支払っているならば、最低賃金について直接抗議するとトラブルになりかねません。

証拠になりそうな給与明細や雇用契約書などがあれば持参し、労働基準監督署へ相談するとよいでしょう。

もしも事業者が是正に応じなければ、下記のように罰則が科され可能性があります。

  • 地域別最低賃金に違反した場合:最大50万円以下の罰金(最低賃金法第9条、第40条)
  • 特定最低賃金に違反した場合:最大30万円以下の罰金(労働基準法第120条)

また、労働基準監督署から会社へ行政指導が行われる場合は、職場環境の改善が望めます。

勤務先に賃金の差額を請求する

事業者が最低賃金を支払っていなければ、本来適用される最低賃金と実際に支払われた賃金の差額を事業者へ請求できます。

ただし、差額の請求には、賃金の請求権の消滅時効(労働基準法第115条)が適用されるため注意しましょう。

現在時効は原則5年とされていますが、労働基準法改正による経過措置として当面の間は3年となっています。

そのため、3年を過ぎた未払い賃金は請求できなくなる可能性があります。

もしも研修期間中に最低賃金が支払われていなかった場合は、早めに事業者へ請求しましょう。

研修期間の最低賃金についてのQ&A

最後に、研修期間の最低賃金についてのQ&Aを紹介します。

研修期間の最低賃金は東京都や大阪府など、都道府県で変わる?

研修期間中であっても研修期間後であっても、基本的に最低賃金は都道府県によって異なります。

各都道府県における最新の最低賃金は、毎年厚生労働省が発表しています。

また、最低賃金は毎年10月頃に改定が反映されます。

研修期間中の最低賃金は高校生であっても変わらない?

最低賃金法は年齢や性別、雇用形態に関わらずすべての労働者に適用されます。

そのため、高校生がアルバイトとして働くような場合も、最低賃金の額に変動はありません。

特定最低賃金では18歳未満の労働者は適用の対象外になりますが、特定最低賃金が適用されていなくとも、地域別最低賃金額を下回ると違法になります。

研修期間中でも残業代や深夜手当は発生する?

研修期間中でも、労働者が法定労働時間を超えて働いたり深夜労働(22時~翌5時)をする場合、事業者は割増賃金を支払わなければなりません。

割増賃金とは、特定の労働に対して通常の賃金に上乗せして支払われる賃金のことです。

▼ 割増賃金の種類

  • 時間外手当(残業手当)
  • 休日手当
  • 深夜手当

たとえば通常の勤務時間が9時~18時(休憩1時間含む)の会社で21時まで働いた場合、18時以降の3時間には残業代(通常賃金の25%以上)が発生します。

割増賃金についてのより詳しい解説は、関連記事を参考にしてください。

関連記事:法定外休日・法定外残業とは?割増賃金の計算や具体例を解説!


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