- 更新日 : 2025年6月19日
勤怠管理をしていない会社は法律違反?していない会社のリスクや対策を解説
「勤怠管理なんてしていないけど問題ない」と考えていませんか?
実は、勤怠管理を怠ることは企業にとって重大なリスクを招く行為です。
未払い残業による訴訟リスクや従業員とのトラブル、さらにはコンプライアンス違反まで、経営に直結するリスクを見逃すわけにはいきません。
本記事では、勤怠管理をしていないことで起こり得る6つの問題点を具体例とともに紹介し、企業が取るべき対策についても解説します。
リスクを回避し、信頼される組織運営の第一歩を踏み出しましょう。
目次
勤怠管理をしていない会社は法律違反
企業は、すべての従業員に対して労働時間を客観的に把握する法的義務があります。
労働基準法および関連ガイドラインに明確に定められており、これらの義務を怠ることは法令違反につながります。
勤怠管理を適切に行っていない企業には労働基準監督署から是正勧告が出るケースもあり、放置すれば企業イメージの悪化や訴訟リスクにもつながりかねません。
昨今は、従業員の働き方や健康への配慮が重要視されており、勤怠管理の不備はコンプライアンス違反と判断されます。
勤怠管理に関わる法律
勤怠管理は、単なる社内ルールではなく、複数の法律によって義務付けられた業務です。
具体的には「労働基準法」と「労働安全衛生法」の2つの法律に規定されています。
以下、それぞれの法律の役割と関係性を解説します。
労働基準法
労働基準法では、企業は労働時間を客観的に把握する責任を負っています。
実際に労働基準法108条では、使用者は、事業場ごとに賃金台帳を作成し、賃金支払いのたびに必要事項を遅滞なく記入する義務があります。
また、労働基準法109条では、賃金台帳や労働者名簿などの労働関係書類は、5年間(当分の間は3年間、以下同じ)保存しなければなりません。
(賃金台帳)
第百八条 使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
(記録の保存)
第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
引用: 労働基準法|e-Gov
つまり、会社は「誰に・いくら払ったか」を記録し、あとから確認できるように5年間は責任をもって保管し続ける義務があるということです。
そして、勤怠管理を怠ることは賃金計算の基礎となる事項が適正でないこととなり、法令違反に該当する可能性があります。
その結果、管理が不十分だと判断されれば訴訟に発展し、企業側が敗訴するケースも珍しくありません。
勤怠の客観的記録は企業防衛にも不可欠です。
労働安全衛生法
労働安全衛生法では、従業員の健康と安全を守るため、企業には適切な管理体制の整備が必要です。
労働安全衛生法の66条8項2号では、月80時間を超える時間外労働がある場合には、医師による面接指導の実施を義務付けることが明記されています。
また、労働安全衛生法の66条8項3号では、事業者は労働時間の状況を正確に把握したうえで、対象者に対する健康配慮措置を講じる必要があるとされています。
(面接指導の義務)
第六十六条の八の二
事業者は、その労働時間が厚生労働省令で定める時間(例:月80時間)を超える労働者に対し、医師による面接指導を行わなければならない。
また、その結果に応じて、必要な措置(作業転換・就業時間の変更等)を講じることが求められる。(労働時間の把握義務)
第六十六条の八の三
事業者は、面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。
つまり、企業は「誰がどれだけ働いているか」を正確に記録し、過重労働者には医師の面談を受けさせる責任があるということです。
そのためにも、勤怠を適切に管理することは、健康リスク・法令違反・労災認定などのリスクを防ぐ第一歩となります。
厚生労働省が発表している勤怠管理ガイドライン
勤怠管理は、企業の自由な運用に任されているわけではありません。
厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を発表しており、企業はガイドラインにもとづいた管理体制を整える必要があります。
このガイドラインでは、以下のようなポイントが示されています。
【勤怠管理における主なルール】
- 毎日の始業・終業時刻を必ず記録すること
- タイムカードやPCログなど、客観的な方法で打刻・管理すること
- 自己申告制を導入する場合は、運用ルールを周知し、記録の正確性を定期的にチェックすること
- 申告内容に上限を設けたり、入力を制限するような運用は禁止されている
- 出退勤の記録は労働基準法に基づき、最低3年間保存すること
- 勤怠管理の責任者は、現場の運用実態を把握し、必要な改善対応を行うこと
- 労使協議の場を活用し、勤怠管理の課題を共有・解決すること
参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
ガイドラインは法的拘束力をもたないものの、労働基準監督署の判断基準として活用されており、違反がある場合には是正指導の対象になります。
勤怠管理をしていない会社の6つの問題・リスク
勤怠管理をしていない会社には、法的リスクや労務トラブルの原因となる問題があります。
ここでは代表的な6つのリスクを紹介します。
1. 従業員が過労状態に陥っていても把握できない
勤怠管理がされていない企業では、従業員の労働時間を正確に把握できません。
長時間労働や過重労働の実態を見逃してしまい、従業員が過労状態に陥っていても、会社側が気づかずに放置してしまうリスクがあります。
過労死ラインとされる月100時間の時間外労働、または2〜6ヶ月の月平均残業時間が80時間を超えるような働き方を放置することは、安全配慮義務違反と判断される可能性が高くなります。
安全配慮義務違反とは、会社(使用者)が従業員の生命や身体、健康を守るために必要な配慮を怠った場合に問われる法的責任のことです。
過労死や労災認定に至るケースでは、勤怠管理の不備が争点となることもあり、企業にとって法的リスクを引き起こしかねません。
従業員の健康状態を守るうえでも、正確な勤怠管理は不可欠な仕組みです。
2. 未払い残業代の発生につながる
勤怠記録が正確に残っていない場合、企業は従業員の労働時間を把握できず、残業代が適切に支払われないリスクが高まります。
サービス残業が常態化している職場では、労働基準法違反として是正勧告や訴訟に発展する恐れも少なくありません。
さらに、従業員が個人でPCログや手帳などに記録を残していた場合、そのデータを証拠として未払い残業代を後から請求される可能性があり、訴訟に発展した際に証拠として認定された例もあります。
勤怠管理の正確性は、従業員との信頼関係を築く基盤であり、コンプライアンスの観点からも軽視できない要素です。
手書きで勤怠管理をしている場合
出退勤を紙で記録しているだけのアナログな勤怠管理は、現代の労務管理において記入内容の改ざんや記入漏れが起こりやすく、正確な労働時間の把握が困難です。
さらに、手書きの記録では「誰がいつ記録したのか」が不明瞭であり、トラブル発生時に証拠能力が低いと見なされる傾向があります。
残業代請求や労働時間トラブルが発生した場合には、紙の記録では企業側が不利になる可能性が高くなります。
また、手書き管理では集計や分析も手間がかかり、リアルタイムの労務把握が難しいという点もデメリットです。
法的にも実務的にも、デジタル化による勤怠管理への移行が強く推奨されます。
3. 企業の社会的評価が低下する可能性がある
勤怠管理がずさんな企業は、内部の問題にとどまらず、社外からの信頼も大きく損なうリスクがあります。
たとえば、取引先や株主、求職者、消費者などは「法令遵守できていない企業」として不信感を抱く可能性があります。
また、SNSや口コミサイトを通じて悪い評判を拡散される場合もあるでしょう。
採用活動では、不十分な勤怠管理が応募の減少や内定辞退の原因となり、人材確保において悪影響を及ぼしかねません。
企業の透明性や健全な労務環境を重視する社会的風潮が強まるなか、勤怠管理の不備は経営全体の信用問題へと発展する可能性があります。
4. 訴訟問題につながるケースがある
勤怠記録が不十分な企業では、残業代未払いや過労死・不当解雇などをめぐって、従業員から訴訟を起こされる可能性も低くありません。
労働時間に関する争いでは、企業側が勤怠記録を提出できない場合、裁判では「使用者が証明責任を負う」という原則により、労働者の主張が通りやすくなる傾向があります。
「記録がないから支払う必要がない」のではなく、記録を残していなかったこと自体が企業の過失と判断される可能性が高まります。
企業には、日々の勤怠を客観的・継続的に記録し保存する法的責任があることを忘れてはいけません。
5. 不正な打刻・虚偽申告・なりすまし出勤のリスクがある
勤怠管理が不十分な企業では、従業員による不正な打刻・虚偽申告・なりすまし出勤といった問題が発生するリスクがあります。
実際には出勤していないのにタイムカードが押されていたり、同僚による代理打刻が行われていたりなどのケースは、紙や単純な打刻システムでは防ぎにくいです。
従業員の不正は、顔認証や位置情報付き打刻などのデジタルツールを導入することで未然に防げます。デジタルツールの導入は、不正による損失だけでなく、誠実に働く従業員のモチベーション低下を防ぐ効果的な手段です。
6. コンプライアンス違反につながる可能性がある
勤怠管理の不備は、労働基準法をはじめとする労働関連法規への違反に直結する恐れがあります。
労働時間の適正な把握は企業の基本的な義務であり、怠ることは法令遵守体制の欠如と見なされ、監督署からの是正勧告や報道リスクも発生するでしょう。
管理体制が社内に定着していない場合には、「ガバナンスが機能していない企業」として外部からの信用を失う原因にもなります。
勤怠管理は単なる事務作業ではなく、企業のコンプライアンスと信用を守る根幹的な要素として捉える必要があります。
勤怠管理をしていない会社の4つの対処法
勤怠管理の不備は、企業にとって大きな法的・労務的リスクを招く要因です。
以下では、今すぐ企業が取り組むべき4つの対処法を紹介します。
1. 従業員に勤怠管理の重要性を伝える
最初に行うべきは、経営層や管理職が勤怠管理の重要性を正しく理解し、従業員に共有することです。
勤怠管理は会社のためだけでなく、「残業代の適正な支払い」「健康リスクの回避」「トラブル時の証拠保全」など、従業員側にも多くのメリットがあります。
勤怠管理が徹底されることで、職場の透明性が高まり、不公平感の解消や離職率の低下にもつながるでしょう。
形式だけでなく、なぜ行うのか、何が守られるのかを対話ベースで丁寧に伝える姿勢が求められます。
2. 長時間労働を見直し働き方を改善する
勤怠管理が不十分な職場では、長時間労働が見過ごされやすく、過労や法令違反につながる恐れがあります。
まずは現状の労働時間を客観的に把握し、月80時間を超えるような過重労働が存在する場合は即時見直しを行う必要があります。
具体的な対策としては、以下の通りです。
- 業務フローの見直し
- 業務の棚卸し
- 人員の再配置
- 不必要な作業の削減など
単に労働時間を削減するだけではなく、仕事の生産性を高めることで効果的な業務改善、労働時間の短縮につながります。
自己申告の場合は実働時間と一致しているか確認する
エクセルや紙を用いた自己申告制の勤怠管理は、一見便利なようで、実際の労働時間と申告内容が乖離するリスクがあります。
申告された時間が実態と異なっていても放置されると、未払い残業・過重労働・虚偽報告などの問題に発展する可能性があります。
リスクを回避するためには、下記の客観的データと照合するのが有効でしょう。
- PCのログイン・ログオフ履歴
- 入退室記録
- 業務提出時間など
管理者が定期的にチェックする仕組みを整え、申告と実態の乖離を可視化・是正することが必要です。
3. 勤怠管理の方法を確認しておく
自社に合った勤怠管理を導入するには、まず主要な管理方法の特徴とメリット・デメリットを把握することが大切です。
代表的な方法として、タイムカード・Excel(エクセル)管理・勤怠管理システムの3種類が挙げられます。
違いは以下の通りです。
方法 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
タイムカード | 打刻機を使って出退勤時刻を記録 |
|
|
Excel管理 | Excelで管理 |
|
|
勤怠管理システム | クラウドやアプリで自動打刻・集計 |
|
|
タイムカードは導入が手軽で物理的な証拠も残りますが、不正打刻や記録ミスのリスクがあります。
Excel管理はコストがかからず自由度も高い反面、客観性や改ざん防止の観点で不十分です。
一方、勤怠管理システムは高精度で効率的な管理が可能ですが、導入費用や社内の運用体制構築が必要となります。
それぞれの特性を理解したうえで、自社の規模・リソース・運用目的に最適な方法を選ぶことが重要です。
4. 勤怠管理システムを導入する
また、勤怠管理の対処法として、勤怠管理システムの導入も挙げられます。
勤怠管理システムでは、出退勤の打刻や残業時間の自動集計・勤務データのレポート出力などを一括で効率的に行えます。
システムには、クラウド型(ブラウザで管理)・ICカード型(社員証連動)・顔認証型(不正防止に強い)などがあり、自社のニーズに応じた選択が可能です。
種類 | 特徴 | 向いている企業 |
---|---|---|
クラウド型 | ブラウザ上で勤怠情報を一元管理 | テレワークを導入している企業 複数拠点をもつ企業 |
ICカード型 | 社員証や交通系ICカードをタッチして打刻 | オフィス出社が中心の企業 シンプルな運用を求める企業 |
顔認証型 | 顔をカメラにかざして打刻する方式 | セキュリティ重視の企業 工場・医療・介護現場など |
また、導入コストがネックとなる企業には、IT導入補助金や助成金の活用、無料ツールからの導入も有効です。
勤怠管理システムは、法令対応・生産性向上・従業員の安心感を同時に実現できる、効果的なソリューションです。
勤怠管理をしていない会社によくある疑問
ここでは、勤怠管理を実施していない企業が抱きやすい疑問に対して、法律や実務の観点からわかりやすく解説します。
勤怠管理は義務?
勤怠管理はすべての企業にとって法的義務です。
企業は、正社員・契約社員・パート・アルバイトなど雇用形態を問わず、全従業員の労働時間を「客観的な方法で」把握する必要があります。
厚生労働省が定めたガイドラインにもとづくもので、記録が不十分な場合は、労基署から是正勧告や指導が入る可能性もあります。
タイムカードがないのは違法?
タイムカードそのものは義務ではありません。
しかし、企業は「客観的に労働時間を把握できる方法」を用いることが求められています。
記録が残らない口頭申告による勤怠報告は、原則として認められていません。
ただし、「従業員が出退勤時間を口頭で申告し、管理者がそれを記録に残し、労働者自身が確認・同意している」という運用が行われるケースもあります。
しかしながら、このような管理では「言った・言わない」のトラブルが発生しやすく、客観的な証拠とは言いがたいため、やはり避けるべきです。
そのうえで、法的リスクを回避するには、タイムカードやICカード・勤怠システムなどの導入と、定期的な記録確認・保管体制の整備が必要です。
勤怠入力しない社員はどうなる?
勤怠入力をしない社員がいる場合、企業は労働時間管理の責任を果たすために是正措置を取る必要があります。
自己申告制では、入力漏れが常態化すると企業全体の法令違反につながる恐れもあります。
対応策としては、段階的なルールを明確にし、社員へ周知することがよいでしょう。
流れとしては、以下の通りです。
- 口頭注意
- 書面注意(文書指導)
- 評価への反映
まずは直接注意し、入力の必要性を丁寧に伝えましょう。改善が見られない場合は、注意書を発行して記録してください。継続して改善されない場合、人事評価や賞与査定などに反映する旨をあらかじめ社内ルールで明確にしておくとよいでしょう。
勤怠入力が定着しない社員には、教育と仕組みを整備して対応しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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