- 更新日 : 2025年11月19日
有給と残業の相殺は違法?原則と例外、悩んだ場合の対処法をわかりやすく解説
有給休暇を取得した日や週に残業をした従業員がいる場合、正しい残業時間の計算方法を理解していないと余分に残業代を支給することになります。また、残業時間が長いことを理由に相当分の有給休暇を付与し、有給休暇の取得時間を残業時間から差し引いて残業代を減額することはできません。
本記事では、有給休暇を取った日や週に残業をした場合における、正しい残業時間・残業代の計算方法について徹底解説します。本記事を読むことで有給休暇と残業の関係を理解できるため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
有給休暇と残業時間の関係性
有給休暇と残業時間は、労働者の働き方やワークライフバランスに大きな影響を与えます。有給休暇を取得すると労働時間を適切に管理できますが、業務量が変わらなければ、休暇を取ることで他の勤務日に残業が増える可能性もあります。
また、残業時間が多いと、有給休暇の取得も困難です。以下では、関係が深い有給休暇と残業時間について解説します。
有給休暇は給与が発生する休暇のこと
有給休暇とは、労働者が給与を減額されることなく取得できる休暇です。心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を確保する目的で設けられています。
取得できる条件は、採用から6ヶ月継続勤務し、直前6ヶ月(2回目以降は1年間)の出勤率が8割以上であることです。条件を満たすことで、労働基準法に基づき年次有給休暇が付与されます。
原則として1日単位で取得しますが、例外として半日単位や時間単位での取得も可能です。半日単位は労働者が希望し、使用者が同意した場合に取得できます。
時間単位の場合は労使協定で時間単位の取得を定め、労働者が時間単位での取得を請求した場合、年間5日を限度に取得可能です。
有給休暇の取得方法には、労働者が自由に請求する方法、企業が計画的に休暇を割り当てる計画年休、使用者が時季を指定する方法があります。適切に活用すれば、労働者の健康と働きやすい環境が維持されます。
有給休暇の詳しい解説は、下記記事をご覧ください。
残業時間は法定労働時間を超えて働いた時間のこと
残業時間とは、一般的に労働基準法で定められた1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えて働いた時間を指します。ただし、厳密には「法定時間を超える残業」と「法定時間を超えない残業」の2種類です。
法定時間を超える残業は、割増賃金の支払いが義務付けられています。割増率は通常の賃金の0.25倍以上です。
法定時間を超えない残業は、法定労働時間内での労働のため、割増賃金が不要で通常の賃金のみ支払われます。法定時間を超える残業には上限があり、原則として月45時間・年360時間までです。
ただし、特別な事情がある場合でも年720時間以内、複数月平均80時間以内、1ヶ月100時間未満(休日労働を含む)と厳しく制限されています。違反すると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
以前は残業時間の上限がなく行政指導のみでしたが、法改正により法律で上限が定められました。上記により、過度な残業を防ぐ仕組みが強化されています。
残業については下記記事でも解説しているため、あわせてご覧ください。
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有給休暇に残業時間は含まれる?
有給休暇は、労働者が実際に働かなくても賃金が保障される制度ですが、実労働時間には含まれません。そのため、有給休暇を取得した時間は「ゼロ時間」として扱われます。
たとえば、所定労働時間が8時30分〜17時30分(1日8時間)で、13時30分から出勤する半休を取得した場合を考えます。通常どおり8時30分から18時30分まで働けば、1時間の残業です。
しかし、半休を取得した日は、有給休暇中の時間が実労働時間に含まれません。そのため、13時30分から18時30分の勤務でも、法定労働時間を超えていないことになります。
そのため、割増賃金が必要な残業時間として扱われません。実労働時間が法定労働時間を超えた場合のみ、割増賃金が必要な残業時間とされるため注意が必要です。
有給休暇で残業時間を相殺できない
労働基準法第36条第5項では、36協定で定める残業時間の上限を月45時間としています。45時間を超える残業は原則として認められません。
また、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた労働には、割増賃金の支払いが義務付けられています。
有給休暇を付与することで残業時間を帳消しにし、残業代を減額することは法律上認められていません。たとえば、1日有給休暇を取得し、別の日に2時間残業した場合「有給を取得したから残業はなかった」とするのは違法です。
上記のような対応をすると、本来支払うべき残業代が適切に支払われず、従業員とのトラブルにつながる可能性があります。
有給休暇で残業時間を相殺できるケース
原則として、有給休暇を取得することで残業時間を帳消しにすることは認められていません。しかし、特定の条件下では、結果的に残業時間と有給休暇のバランスを取ることが可能な場合もあります。以下では、有給休暇で残業を相殺できるケースについて紹介します。
半日単位の有給休暇を取得した日に残業を行った場合
就業規則で定めれば、有給休暇を半日単位で取得することが可能です。
所定労働時間が8時〜17時の会社で午前中に半日有給休暇を取得し、12時から出社した場合、労働時間は12時〜17時が所定労働時間、17時〜21時が所定労働時間を超える残業となります。
しかし、上記の場合、実労働時間は12時〜21時の8時間(1時間休憩)であり、法定労働時間(8時間)を超えるのは21時以降です。そのため、21時以降の労働のみが割増賃金の対象となります。
17時〜21時の4時間は、実労働時間が法定労働時間内に収まるため、割増賃金の支払いは不要です。21時に退勤すれば、通常の賃金のみの支払いで問題ありません。
有給休暇を取得した週の所定休日に出勤した場合
有給休暇を取得した週の所定休日に出勤しても、週の労働時間が40時間以内であれば割増賃金は発生しません。たとえば、月曜日から木曜日まで32時間働き、金曜日に有給休暇を取得し、土曜日に8時間働いた場合の合計労働時間は40時間で法定労働時間を超える残業時間は発生しません。
ただし、会社の規定で「所定休日の労働には週の労働時間に関係なく割増賃金を支払う」と定めている場合、週40時間以内でも所定休日の労働に対する割増賃金が必要です。
また、月曜日から金曜日までの労働で40時間に達していた場合、土曜日の労働は時間外労働となり、割増賃金の支払い対象となります。
なお、所定休日ではなく法定休日に出勤した場合はケースが異なり、休日労働として割増賃金が発生するため注意が必要です。
フレックスタイム制の有給休暇と残業時間
フレックスタイム制を導入している場合、清算期間内の法定労働時間を超えて働いた従業員に対して、割増賃金を支払う必要があります。
たとえば、清算期間を1ヶ月とする場合、月の実労働時間が法定労働時間を超えた分は、法定外残業として割増賃金の対象です。
フレックスタイム制の残業時間も「法定内残業」と「法定外残業」に分けられます。法定内残業は、所定労働時間を超え法定労働時間を超えない残業であり、割増賃金は必要ありません。
一方、法定外残業は、法定労働時間を超えた労働であり、超過分には割増賃金が発生します。適切に管理しないと未払い残業代の問題が生じるため、注意が必要です。
残業代と有給休暇の影響
有給休暇を取得した時間は、労働時間にカウントされません。そのため、同じ週や月内の残業時間や割増賃金の計算に影響を与えることがあります。とくに、フレックスタイム制や休日出勤を伴うケースでは、実際に働いた時間と法定労働時間の関係を正しく把握することが重要です。以下では、有給休暇が残業代に与える具体的な影響について解説します。
残業代の計算方法
残業代を計算する際は、実際に働いた時間のみをもとに計算します。有給休暇を取得した日は労働時間に含まれません。
たとえば、所定労働時間が8時間の会社で月曜日から木曜日まで毎日2時間の残業をし、金曜日に有給休暇を取得した場合、実労働時間は以下のとおりです。
上記の場合、所定労働時間「8時間 × 4日 = 32時間」と残業時間「2時間 × 4日 = 8時間」となり、合算すると合計労働時間「32時間 + 8時間 = 40時間」となります。
注意すべき点は、所定労働時間を「8時間 × 5日 = 40時間」とし、残業時間を「2時間 × 4日 = 8時間」と計算するのは誤りです。
上記の計算では、有給休暇を取得した金曜日にも8時間の実労働時間が発生したこととなります。しかし、有給休暇は労働時間に含まれないため、金曜日の8時間は計算に入れるべきではありません。
有給を取得しても固定残業代は発生する
固定残業代制度は、毎月の基本給に加えて、あらかじめ一定の残業時間分の賃金が固定で支払われる制度です。残業時間の有無や実際の労働時間に関係なく支給されます。
そのため、有給休暇を取得した場合でも、固定残業代は減額されず、全額支給されます。有給休暇は労働時間には含まれませんが、固定残業代は「残業の実績」に関係なく支給されるためです。
ただし、実際の残業時間が固定残業代の範囲を超えた場合は、超過分の割増賃金が発生するため注意が必要です。
固定残業代については、下記記事で詳しく解説しているためぜひご覧ください。
残業時間が月60時間を超えた場合の代替休暇について
残業代の代わりに有給休暇を付与することは違法です。労働基準法では、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働いた場合、企業は割増賃金を支払う義務があります。
ただし、労使協定を締結している場合、月60時間を超える残業については、割増賃金の一部を「代替休暇」として付与できます。代替休暇制度は、労働者の健康維持を目的とした制度であり、60時間を超えた残業のすべてを休暇にすることは認められていません。
代替休暇を取得するか、割増賃金を受け取るかは労働者が選択できます。
残業代を相殺できるか悩んだ場合の対処法
残業代と有給休暇の関係は複雑で、適切に処理しないと未払い賃金や労務トラブルにつながる可能性があります。以下では、残業代を相殺できるか、つまり有給休暇を取得した週の労働時間の判断に迷った場合の対応について解説します。
労務基準監督署に相談する
労働基準監督署は、企業が労働関係の法律を守っているか監督する公的機関です。
残業問題をはじめ、賃金や解雇、退職金など労働に関する幅広い相談ができます。専門知識を持つ相談員が、法令や裁判例を踏まえて適切なアドバイスを提供してくれるため、正しい対応方法がわかります。
相談は無料で、経済的負担はありません。電話、メール、直接訪問のいずれでも相談できるため、悩んだときは早めに利用することをおすすめします。
労働問題に特化する弁護士に相談する
弁護士は、国家試験の最高峰である司法試験に合格した法律の専門家です。労働問題に特化した弁護士に相談すれば、違法な相殺によるトラブルを未然に防ぐために法的リスクを確認し、必要に応じて交渉の進め方や必要な対策についてアドバイスを受けられます。
法的な観点から最善の方法を知りたい場合は、弁護士への相談が有効です。
有給休暇と残業について正しく理解しよう
本記事は、有給休暇と残業の関係性、相殺できる・できない場合、割増賃金の計算方法、フレックス制下での運用方法などについて解説しました。本記事を参考にすることにより、企業は正確な知識をもとに労務管理を見直し、従業員の健康と働きやすい環境の構築が目指せます。
有給休暇や残業を従業員に正しく付与する場合は、それぞれの特性や相殺できるかをしっかり理解しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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