- 更新日 : 2025年12月5日
メンター制度はいらない?理由やメリット・デメリットを解説
さまざまな企業が「新人の早期定着」「教育コストの削減」を目的にメンター制度を導入していますが、現場では形だけの制度になっているケースもあります。
メンターによって指導内容がバラつき、メンター側の負担が大きく、成果が見えにくいといった問題から「メンター制度はいらないのでは?」と思うこともあるでしょう。
しかし、制度の運用次第では社員の定着や組織文化の醸成に寄与することも可能です。
本記事では、メンター制度がいらないと言われる主な理由を整理しつつ、メリット・デメリットを紹介します。
目次
メンター制度とは
メンター制度とは、新入社員や若手社員に対して、経験豊富な先輩社員(メンター)が業務面・精神面の両面からサポートする仕組みを指します。
厚生労働省によると、メンター制度は以下のように定義されています。
職場の上司は部下に対して業務上の指示・命令を行うことを通じて、組織目標の達成を目指します。それに対しメンター制度では経験豊かな先輩社員(メンター)が双方向の対話を通じて、後輩社員(メンティ)のキャリア形成上の課題解決や悩みの解消を支援して個人の成長をサポートする役割を果たします。
引用:メンター制度導入・ ロールモデル紹介・ 地域ネットワーク への参加 マニュアル・事例集|P5
直属の上司ではなく、相談しやすい立場の先輩社員が担当する点が特徴で、メンティーは安心して悩みや課題を打ち明けられます。
メンター制度を導入する目的は、主に以下の通りです。
- 早期離職の防止
- 職場定着率の向上
- 人材育成の加速
これらのことから、メンター制度を活用することで特に新卒社員や中途入社者が組織にスムーズに馴染み、自信をもって業務を遂行できるように支援する効果が期待できます。
メンター制度がいらないと言われる理由
メンター制度は一見効果的に見えますが、現場では「うまく機能していない」「形骸化している」といったケースも少なくありません。ここでは、「メンター制度がいらない」と言われる理由を5つに分けて解説します。
メンターによって効果がバラつく
メンター制度の問題点のひとつは、メンター個人の能力や性格によって支援の質が異なる点です。
コミュニケーション能力や育成経験、価値観の違いによって、アドバイスの内容や関わり方が変わります。
厚生労働省では、メンター制度を成功させるために必要な施策に「先輩社員と後輩社員のマッチングの十分な配慮」を挙げています。
メンター制度を成功させるために必要な施策は、図表 13 のようになっています。「直属の上司および周囲の理解」「先輩社員、後輩社員に対する個別のフォローアップ」「先輩社員と後輩社員のマッチングの十分な配慮」「先輩社員、後輩社員に対する事前の説明、研修会の実施」が特に重要です。
引用:メンター制度導入・ ロールモデル紹介・ 地域ネットワーク への参加 マニュアル・事例集P35|厚生労働省
立場や役割を踏まえて、働く人の気持ちに配慮する姿勢が大切であるといえます。
また、企業として明確な教育基準や支援マニュアルを設けていない場合、メンティーごとに指導内容がバラバラになってしまうケースもあるでしょう。
結果、あるメンティーは大きく成長する一方で、別のメンティーはフォロー不足に陥るなど、制度全体の公平性が損なわれやすくなります。
制度を安定的に運用するためには、個人任せにせず、教育方針や支援内容を全社的に統一する仕組みづくりが大切です。
メンター自身の負担が大きい
もう一つの問題は、メンター側の負担が大きくなりがちな点です。
多くの企業ではメンターが通常業務をこなしながらメンティーの相談や教育を担当するため、時間的・精神的な余裕がなくなってしまうケースもあります。
また、メンターの役割を担うことについて明確な評価基準がなければ負担に見合わないと感じてモチベーション低下にもつながるでしょう。
メンターの負担が大きい状態が続くと、制度自体が形だけになり、メンター・メンティー双方にとってメリットが薄れてしまうことになります。
メンターに過度な負担がかからないよう、評価制度や支援体制を整えましょう。
組織としてノウハウが蓄積されない
メンターとメンティーのやり取りが個人間の閉じた関係の中で行われると、得られたノウハウや成功事例が他の社員に共有されないという問題があります。
せっかくの学びや気づきが属人化すると、組織全体の育成資産として蓄積されません。
成功例・失敗例が共有されなければ、改善のサイクルも回らず、問題点が残ったまま毎年同じことを繰り返してしまうことも少なくありません。
結果として、制度がノウハウとして成熟せず、属人的な関係性の範囲にとどまってしまうのが問題です。
情報共有や記録の仕組みを取り入れるようにしましょう。
メンターとメンティーの相性が合わないことがある
メンター制度がうまく機能しない理由のひとつに、人間的な相性の問題があります。
メンターとメンティーの性格や価値観、コミュニケーションスタイルが合わないと、信頼関係が築けず、相談が形だけのやり取りになってしまいます。
たとえば、メンターが積極的なタイプであっても、メンティーが内向的だと意見を言い出せないまま時間だけが過ぎてしまうケースもあるでしょう。
逆に、メンターが消極的だと、メンティーの悩みを十分に引き出せません。
メンターとメンティーの相性不一致は、制度全体の効果を左右してしまいます。
ペアリング時に性格や価値観を考慮して、柔軟に組み合わせを見直せる体制を構築しましょう。
メンターの役割が曖昧になっている
メンター制度では、上司でも友人でもない立場という曖昧さが関係構築の難しさにつながってしまいます。
制度設計段階で目的や期待値が十分に共有されていないと、メンターは何を優先すべきか判断できず、メンティーとの関係が形式的になりがちです。
たとえば、「業務支援を中心にするのか」「メンタル面のフォローを重視するのか」といった方向性が曖昧では、結果的にどちらも中途半端になります。
制度を形だけ導入しても、運用ルールや役割の定義が不十分なままでは、メンター制度の本来の効果を引き出すことは難しいでしょう。
メンターの立場と支援範囲を明確に定義し、関係者全員で共通認識をもつようにしてください。
メンター制度で得られるメリット
メンター制度は、単なる教育制度ではなく、社員の成長促進・離職防止・組織文化の醸成を支える仕組みです。
メンター・メンティー・企業それぞれの立場から見ると、得られる効果は多岐にわたります。
メンター側のメリット
メンター制度を実施することでメンターは、後輩を支援する中で自分自身のスキル向上や成長を実感できます。
メンター側の主なメリットは以下の通りです。
- マネジメント力・コミュニケーション力の向上につながる
- 業務内容の整理・再確認ができる
- 新しい考え方や価値観を吸収できる
人に教えることで、自分の理解がより深まり、業務全体の流れを客観的に見直すきっかけにもなります。
また、メンティーとの関わりを通してリーダーシップや信頼関係構築力を磨くことができ、今後のキャリア形成にもプラスに働きます。
教える立場を経験することで、自分の成長を実感できるのがメンターを経験する魅力です。
メンティー側のメリット
メンティーにとって、メンター制度は安心して成長できる環境を整えるサポートシステムです。
メンティー側の主なメリットは以下の通りです。
- 悩みや不安を気軽に相談できる
- 上司に言いづらいことも話せる
- 業務理解が早まり、仕事に自信がつく
- 社内のつながりが広がる
業務面だけでなく、キャリアや人間関係の悩みにも寄り添ってもらえるため、精神的な安定を保ちやすくなります。
また、メンターを通して他部署や異なる職種の社員とも交流できるため、社内での視野が広がります。
メンター制度は、若手社員がひとりで抱え込まない環境を作る仕組みにつながるでしょう。
企業側のメリット
企業にとってメンター制度は、育成・定着・文化浸透の三拍子をそろえた仕組みです。
メンター制度を導入する企業側の主なメリットは以下の通りです。
- 若手社員の離職防止・定着率向上につながる
- 社員間コミュニケーションが活性化する
- 心理的安全性の向上につながる
- 企業文化・価値観の共有を促進できる
新入社員が安心して働けることで、早期離職のリスクが減り、育成コストの削減にもつながります。
さらに、メンター・メンティーの関係を通じて社内の交流が活発化し、風通しのよい職場づくりにもつながるでしょう。
結果として、社員のエンゲージメントが高まり、企業全体の生産性や一体感が増します。
メンター制度のデメリット
メンター制度には多くの利点がある一方で、運用次第では問題も生じます。
「メンター」「メンティー」「企業」の三者それぞれにデメリットがあり、適切に対策を取らなければ制度が形骸化してしまう恐れがあります。
メンター側のデメリット
メンターは本来業務と並行してメンティーの支援を行うため、負担が大きくなりやすい立場です。
メンター側の主なデメリットは以下の通りです。
- 時間的・精神的負担が増える
- 対応に追われ、自分の業績が下がるリスクがある
- 人事評価に反映されず、やりがいを感じにくい
メンティーを支援する一方で、自身のタスクが圧迫されるとストレスやモチベーション低下につながります。
特に、メンター業務が正式な評価項目に含まれない場合、「努力が報われない」と感じるケースもあり、制度を継続的に運用する上での問題となります。
メンティー側のデメリット
メンティーにとっても、メンター制度が必ずしもよい方向に働くとは限りません。
メンティー側の主なデメリットは以下の通りです。
- メンターとの相性が悪いと相談しづらくなる
- メンターに依存しすぎると自立的な判断力が育たない
- メンターの主観的な意見が混乱を招くことがある
人間的な相性が合わないと、気軽に相談できずかえって孤立感が強まるケースもあります。
また、メンターの意見を重視しすぎるあまり、自分で考える力が育たないこともあるでしょう。
メンティーが主体的に成長できるよう、あくまで支援は自立を促す関わりに留めることが理想です。
企業側のデメリット
企業としても、制度の設計・運用面での負担やリスクを無視できません。メンター制度を導入する企業側の主なデメリットは以下の通りです。
- 運用・マッチング・評価管理に工数とコストがかかる
- 教育効果が可視化されにくく、成果を判断しづらい
- メンターと上司の指導方針が食い違う場合がある
適切なペアリングや定期フォローの仕組みを整えるには、時間と労力がかかります。
また、上司とメンターの指導方針が異なると、メンティーが混乱し、現場の生産性や信頼関係に悪影響を及ぼすこともあります。
制度を上手に実行するには、運用ルールと役割の明確化を実施しましょう。
メンター制度を成功させるコツ
メンター制度は導入すれば自動的に機能するわけではなく、目的設定や運用体制の整備、人選など複数の要素が噛み合って成果につながります。ここでは、制度を継続的に成功へ導くための4つの重要なポイントを解説します。
メンター制度の目的を明確にする
最初のステップは、メンター制度を導入する目的を明確にすることです。新人の早期定着やキャリア支援、組織風土の醸成など、企業によって期待する効果は異なります。
目的を曖昧にしたまま導入すると、メンターとメンティーの活動内容が統一されず、形だけの取り組みになってしまうことがあります。
そのため、導入前にメンターやメンティー、上司、人事といった関係者全員が共通した目的意識をもつことが大切です。
具体的には以下のような目的がよいでしょう。
- 若手社員のキャリア形成支援
- 職場の心理的安全性の向上
- 組織風土・企業文化の浸透 など
目的を共有できていれば、面談やフィードバックの方向性も定まり、成果の検証もしやすくなります。
メンター制度の導入目的を明確にし、全員が同じ方向を向くことで、成果につなげられるでしょう。
運用ルールと計画を立てる
メンター制度を安定して運用するには、ルールとスケジュールを明確に決めておくことが欠かせません。
運用のバラつきを防ぐためには以下のようなルールを決めることがよいでしょう。
- メンターとメンティーのペアリング方法
- 面談の頻度や期間
- フォローアップの仕方
細かい部分まで具体化しておくと、安定した運用につなげられます。
また、目的達成に向けたスケジュールを立て、定期的に人事部門が進捗を確認する体制を整えると、課題の早期発見にもつながります。
メンター制度の運用ルールを仕組みとして明文化しておくことで、制度が属人的にならず、誰が担当しても一定の品質を保てるようになるでしょう。
人材育成意識の高い人物をメンターにする
メンター選びは制度の成果を大きく左右します。
業務スキルが高いだけでなく、人の成長を支援する姿勢や傾聴力、共感力をもっているかどうかがメンター人材に必要な力です。
厚生労働省では、以下のような選定基準例を挙げています。
- 高い能力と業務実績を有し、経験が豊富であること
- 人材育成の重要性を理解し、育成に熱心であること
- 仕事の優先順位がつけられ、時間管理ができていること
- 人として信頼でき、誠実であること
- 傾聴しながらアドバイスすることが得意なこと
- 社内に人脈があり、必要に応じて紹介できること
- メンターを通じて本人も成長を図ることができること /等
引用:メンター制度導入・ ロールモデル紹介・ 地域ネットワーク への参加 マニュアル・事例集 P21|厚生労働省
相手の話をしっかり聞き、立場に寄り添ってアドバイスできる人材であれば、メンティーの信頼を得やすく、相談も活発になります。
また、メンターを管理職や人事担当に限定せず、現場で信頼を得ている中堅社員などを登用するのも効果的です。
現場に近い目線でアドバイスできるため、よりリアルな支援が可能になります。
教えることが得意な人ではなく、人を伸ばす意欲のある人を選ぶことで、メンター制度全体の質が高まるでしょう。
メンターの教育・サポートを行う
メンター自身への教育・サポートもメンター制度を成功させるために大切な観点です。
メンターも人材育成の専門家ではないため、効果的な指導法や傾聴スキルを学ぶ機会を設けることが必要です。
社内での研修やワークショップを通じて「育成者としての心得」を伝えることで、支援の質を均一化できます。
さらに、人事部門が定期的にメンター同士の情報共有会や振り返り会を行うと、成功事例や課題を共有でき、組織全体のノウハウ蓄積につながります。
メンターを良き先輩から人を育てるプロへと成長させる仕組みとして整えることで、制度を一過性の取り組みでなく、企業文化として根付かせられるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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