- 更新日 : 2025年12月5日
定着率向上の施策5選!離職を防ぐ職場改善の成功事例も紹介
企業における人材定着率の向上は、社員の早期退職を防止し、組織の安定性や生産性を維持するために欠かせません。本記事では離職防止の観点から、給与・評価・職場環境・教育体制など、社員定着に直結する具体的な施策を解説します。
さらに、介護業界や看護師などの業種別事例も交えながら、企業が今すぐ取り組める方法をわかりやすく紹介します。
人材定着率とは
人材定着率は、社員がどの程度長く働き続けているかを示す指標です。ここでは、離職率との違いや定着率の現状を解説します。
人材定着率とは何か|離職率との違い
社員の定着率、すなわち人材定着率とは、社員が入社してから特定の期間において、どのくらいの割合で在籍し続けているかをあらわす指標です。期間は1年、3年、10年など、調査目的に応じて異なります。
一方で離職率は、その特定の期間内に退職した人の割合です。両者の違いは着目点であり、同じ期間で定着率と離職率の割合を合わせると、必ず100%になります。定着率の高さは、社員が働きやすい職場であるかを示す判断基準であり、企業の安定性をはかる重要な指針になります。
厚生労働省のデータにみる定着率
厚生労働省が公表している「令和6年雇用動向調査結果の概要」によると、令和6年度の常用労働者の離職率は14.2%と報告されており、これにより定着率は85.8%になります。
また新卒者の定着状況を見ると、令和3年3月卒業者の3年以内の定着率は、大学卒業就職者が65.1%で、高校卒業就職者が61.6%となっています。双方とも約7割弱にとどまるのが現状です。
この背景として、大学卒業就職者の離職率が34.9%(前年度より2.6%上昇)で、高校卒業就職者の離職率は38.4%(前年度より1.4%上昇)と、ともに上昇傾向である点があげられます。このデータはとくに、若年層定着に対する企業の対策が不可欠であることを示唆しています。
参考:厚生労働省|令和6年雇用動向調査結果の概要
参考:厚生労働省|新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します
なぜ今、定着率の向上が必要なのか
人手不足の中、従業員の定着率向上は、企業にとって避けて通れない課題です。離職が続けば採用・教育コストや企業イメージにも影響します。ここでは定着率向上が求められるおもな理由を解説します。
人手不足で採用が難しい
厚生労働省の「令和7年版労働経済の分析」によると、2020年のコロナ禍で人手不足感が弱まったがその後は再び上昇し、すべての産業で強まっている状況です。
2024年以降の傾向を見ると、大企業では人手不足感が横ばいとなっている反面、中小企業や小規模事業者ではさらに強まっています。
この状況を踏まえると、今後も採用難は続くと思われ、企業の安定経営や採用コストの負担軽減を実現するためには、人材定着率の向上が重要な課題となります。
採用・教育コストが増加する
社員が離職すると、企業はすぐに人員補充が必要となり、採用と教育にかかるコストが増加します。求人情報誌への掲載費用や人材サービス会社への手数料、面接や選考にあてる人件費といった直接的な採用コストなどです。
さらに、採用後の新人社員に対するOJTや研修などの教育コストも無視できません。また、人員補充までの間は既存の社員が業務をカバーすることになり、残業代などの間接的なコストも膨らみます。
離職が頻繁にあると生産性の低下を招き、コスト増により経営を圧迫する可能性もあるため、人材定着への対策が不可欠といえるでしょう。
定着率が企業ブランドを高める
人材定着率の高い企業は、従業員が「ここで働きたい」と思える魅力的な職場環境を整備している企業でもあります。離職の少なさは、安定経営を実現できている証拠でしょう。
SNSやWebメディアの口コミなどで評判が伝わりやすい時代では「働きやすい会社」という職場環境が可視化され、企業ブランドが高まります。結果として人が集まりやすくなり、優秀な人材を獲得できる機会も増え、採用活動が有利になると考えられるでしょう。
人材が定着しないおもな原因
社員が定着しない理由として、給与や福利厚生への不満や職場の人間関係の問題、休暇の取りづらさなどがあります。ここでは、定着率に影響するおもな原因を5つ紹介します。
1. 給与や待遇に関する不満
給与や待遇への不満は、人材が定着しない大きな要因のひとつです。物価上昇で給与が据え置かれていると、社員は業務量や責任に見合わないと感じ、離職を考えやすくなります。
また、家族手当や住宅手当、社宅制度などの福利厚生の充実度も重要です。これらの待遇が他社と比較して見劣りすると、人材の流出につながりやすく、定着率を下げる原因となります。企業は、公平かつ魅力的な待遇を提供することが求められます。
2. 職場の人間関係によるストレス
職場内の人間関係によるストレスが、離職につながることも少なくありません。上司と部下の関係が悪く、気軽に質問や相談ができない雰囲気だと、業務がスムーズに進まなくなってしまいます。社員に孤立感を与え、心理的安全性を損なうことにもなりかねません。
また同僚とのコミュニケーション不足も、情報共有が遅れたり協力体制が取れなかったりと、結果的に大きなストレスを抱えることになり、離職につながりやすいでしょう。
3. 休暇の取りづらさ
休暇を取りづらい会社は、労働者から敬遠されやすいです。ワークライフバランスが重視される中、有給休暇を気がねなく取得できる環境は、既存社員・求職者の双方にとって魅力的です。
厚生労働省が公表している「就労条件総合調査」によると、労働者1人当たりの年間有給休暇の取得日数は11.0日で、1人当たりの取得率は65.3%という結果でした。昭和59年以降で過去最高となり、社会全体で有給休暇の取得が進んでいる状況です。
休暇を柔軟に取得できる会社ほど従業員満足度が高まり、定着率の向上にもつながります。
参考:厚生労働省|令和6年「就労条件総合調査」の結果を公表します
4. 入社後の教育・フォロー体制が不十分
入社後の教育体制が不十分な職場は、新人社員が早期離職しやすい傾向があります。
「業務の進め方がわからないが、気軽に相談できる先輩がいない」「仕事を覚える前から一人前の業務を任される」など、新人にとっては大きなストレスとなり、離職につながりかねません。
新人が安心して仕事を覚えられる環境を提供することは、人材の定着に直結します。人材育成の教育制度や、フォロー体制を整備することで早期離職を防ぎ、結果として採用コストの削減にもつながります。
5. 評価基準・キャリアパスが不鮮明
評価基準があいまいな職場では、自分の成果が正しく評価されているかわからないため、不満が溜まりやすくなります。とくに新卒社員や若手社員にとっては、自分がどのようなスキルを習得して成長できるか、将来どのようなポジションを目指せるかという見通しが大事です。
厚生労働省の公表している「若年者雇用実態調査」では、転職したいと考えている若年正社員の理由として「賃金の条件が良い会社に変わりたい」が1位となっています。正当な評価や昇進の見通しを強く意識している姿勢が示されています。
評価制度を整備し、キャリアパスを明確に示すことは、社員のモチベーションを維持し、若手社員の早期離職を防ぐのに効果的です。
参考:厚生労働省|令和5年「若年者雇用実態調査」の結果を公表します
定着率向上のための施策・対策と職場づくりのポイント
企業が安定成長するためには、定着率向上の施策を計画的に進めることが不可欠です。ここでは、社員が定着する職場づくりの具体的な方法を解説します。
1. 採用段階でのミスマッチの防止と採用基準の見直し
仕事内容や社風、職場環境などが求職者の想像と違い、入社後にすぐに離職してしまうケースも少なくありません。
このミスマッチを防ぐために、求人情報では自社の情報を誇張せず、正確に伝える姿勢が大切です。社内見学を兼ねた説明会を実施すると、働く姿を具体的にイメージしやすくなり、求職者のギャップを減らせます。
また、面接とあわせて適性検査の導入も有効です。求職者の適性や経験が業務内容と合致するか確認することで、双方にとって納得感の高い採用につながり、結果的に定着率向上も期待できます。
2. オンボーディングの充実による早期離職防止
新卒社員や中途社員が安心して働き始められるオンボーディング施策の整備は、早期離職を防ぐためには欠かせません。
新卒社員の場合は入社直後の不安が大きく、相談相手がいるかどうかが、その後の定着率を左右します。中途社員も「経験があるから問題ないだろう」と放置すると、業務や社風に馴染めずに早期離職につながりやすいです。
メンターを配置し、気軽に相談できる関係を整えたり、仕事を覚えるまで十分な研修を行うことが必要です。オンボーディングを充実させることで職場へ適応しやすくなり、結果として定着率向上につながります。
3. 給与・福利厚生の見直しでモチベーションアップ
社員の定着率を向上させるためには、給与や福利厚生の見直しが不可欠です。待遇に不満があると離職につながりやすく、とくに報酬に関する不満は離職理由の上位にあがります。
たとえば、業績や成果に応じてインセンティブや報奨金制度を導入することで、社員のモチベーションを高めやすくなります。また、福利厚生を手厚くすることも効果的です。住宅手当や家族手当、社内割引制度に加え、自己啓発を後押しする支援制度を設けることで社員のエンゲージメント向上にもつながります。
4. コミュニケーションの活性化
社員間のコミュニケーションを活性化することも大切です。働きやすい環境が整っていると、業務が円滑化し人材が定着しやすくなります。
同僚同士の関係づくりだけでなく、定期的な1on1ミーティングで上司と部下が話しやすい状況を作ることも有効です。フィードバックや疑問点の解消ができ、職場の風通しが良くなるでしょう。
また、新人社員と上司とのランチミーティングを設定するなど、会社主導でコミュニケーション施策を実施すると、職場の一体感が高まりやすいです。
5. すぐに実行可能な職場改善の取り組み
社員の定着率向上を目指す際に、すぐに取り組めるような職場環境の改善も効果的です。
とくに新人社員の早期離職のリスクを減らすため、オフィスレイアウトの見直しで上司やメンターに相談しやすい配置にしたり、簡単な業務マニュアル作成や業務手順の明確化を行うことが有効です。
さらに、全社員に向けてエアコンの温度調整や喫煙所、休憩室の快適化(ポットや電子レンジの増設など)を行うことで、働きやすい環境を提供できます。
これらの改善策は、業種を問わず人材定着率を高める施策として幅広く活用できます。
業種別|定着率向上の対策事例
業種によって定着率向上に有効な施策は異なります。ここでは、介護・看護師など、現場ニーズが高い業種の具体的な事例を紹介し、自社で応用できる対策ポイントをわかりやすく解説します。
介護業界の定着率向上の取り組み
滋賀県彦根市の訪問介護・居宅介護支援事業所の対策事例です。この事業所では、登録ヘルパーの離職率が高かったため、勤務環境の改善に取り組みました。
具体的には子育て世代が多い介護スタッフに配慮し、短時間勤務制度や時間単位の有休、5連休制度を導入し、仕事と家庭を両立しやすい柔軟な勤務体制を実現しました。また、外部研修の共有や、資格取得を支援することで、スタッフのスキルアップやキャリア形成にも力を入れています。
これらの取り組みにより、離職者は平成19年の33名から平成24年には5名へと大幅に減少しました。こうした制度は、子育て世代が多い介護スタッフの定着率向上に効果的であることを示しています。
看護師の定着率向上の施策
福岡県の医療法人江頭会さくら病院では、看護師をはじめとした医療職員の定着を重要課題として、働きやすい職場づくりに取り組んでいます。
具体的には、臨床心理士を常時配置し、職員のメンタル面の悩みに対し、すぐに相談できる体制を整備しました。心身の負担が大きくストレスが溜まりやすい医療現場では、専門家に相談できる体制があることで安心感が生まれます。
面接時に質問の多い保育環境について重点的に改善し、24時間対応可能な保育施設を院内に設置し、育児と仕事を両立しやすい環境に整備しました。夜勤や早朝勤務がある看護師にとって、安心して子どもを預けられる体制は大きな支援となり、復職や長期的な就労を後押ししています。
これらの取り組みの結果、令和5年度の病院部門における看護職員の定着率は87%を記録しており、働きやすい職場環境の整備が定着率向上に有効に機能した事例といえます。
参考:厚生労働省|人材の確保・定着に成功した企業の取組事例集
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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