• 更新日 : 2025年12月5日

心理的柔軟性とは?心理的安全性との違いや企業における重要性を解説

心理的柔軟性は、周囲の影響を受けずに、自身にとって適切な行動を選べる能力のことです。

変化やストレスに適応し、前向きに行動できる心のしなやかさは、業務を円滑に進めるうえでも不可欠であり、現代の職場で注目されています。

本記事では、心理的柔軟性の概要や心理的安全性との違い、企業が重視する理由などをわかりやすく解説します。

また、心理的柔軟性が高い人の特徴や、日常で実践できる具体的な高め方もまとめました。

社員の心理的柔軟性を高める施策を検討している方は、ぜひ、参考にしてください。

心理的柔軟性とは

心理的柔軟性とは、状況に振り回されず自分にとって望ましい行動を選べる力のことです。

心理的柔軟性が高い人は、ストレスや不快な気持ちを無理に排除せず、そのままの状態を受け入れられます。ありのままの現実を受け入れたうえで、自分の価値観に沿って、適切な行動をとることが可能です。

心理的柔軟性は、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の核となる考え方として生まれました。

思考や行動原理に関するものですが、性格とは異なり、後から習得できるスキルとされています。

練習によって鍛えられることから、心の筋肉にたとえられることもあります。

ACTとは?

ACT(Acceptance and Commitment Therapy)は、心の健やかさを取り戻し、維持するために用いられる心理療法のことです。

ACTは、アメリカの心理学者のスティーブン・ヘイズ氏とケリー・ウィルソン氏によって、体系化されました。

マインドフルネスの考え方を基盤とした行動療法であり、心理的柔軟性を高めることで、クライアントが自分の価値に沿った行動を選べるよう支援します。

ACTの有効性が世界的に評価されたことで、企業や組織でも心理的柔軟性の重要性が、広く認識されるようになりました。

心理的安全性と心理的柔軟性の違い

心理的安全性とは、組織やチームの中で自分の意見や感情を出しても、否定や不利益を受けないと感じられる状態を指します。

主に、対人関係の安心感を土台とする点が特徴です。

一方、心理的柔軟性は、自分の価値観を理解し、主体的に行動を選ぶといった内面的なプロセスに関わります。

ただし、価値観が尊重される環境があってこそ育つため、心理的安全性が整った職場では、心理的柔軟性も高まりやすいといえます。

企業で心理的柔軟性が重要視される理由

企業が心理的柔軟性を重視する背景には、変化への適応力や主体的な行動が成果に直結することが挙げられます。

ここでは、企業で心理的柔軟性が求められる理由をわかりやすく解説します。

心の健康を維持できる

多くの企業では、社員のメンタルヘルス維持が大きな経営課題となっています。

心の不調を予防しやすい職場づくりは、事業者の責務とされており、その一環として、心理的柔軟性に関心が集まっています。

心理的柔軟性を高めることで、社員がストレスに対処しやすくなるかもしれません。

結果として、社員の心の健康を保ちやすい環境づくりが可能です。

メンタルヘルスについて理解を深めたい方は、下記の記事もご参照ください。

ストレス耐性やレジリエンス(回復力)が強化される

心理的柔軟性が高い人は、ストレスを感じても無理に否定せずに、「どう対応すれば前に進めるか」と建設的に考えられます。

この姿勢はレジリエンスの向上につながり、プレッシャーの大きい場面でも状況を乗り越える力を発揮しやすくなります。

結果的に、社員のメンタルヘルス改善にも効果が期待できるでしょう。

レジリエンスについて理解を深めたい方は、下記の記事もご覧ください。

生産性が向上する

心理的柔軟性の高い社員は、自分の状態を客観的に把握できます。そのため、業務の優先度を冷静に判断できる点が強みです。

感情に左右されにくいため、落ち着いて意思決定できます。結果として、生産性の向上にもつながるでしょう。

また、ストレスを適切に扱えるようになることで、仕事への満足度が高まり、組織への貢献意欲も向上すると考えられています。

ビジネス上の環境の変化に適応できる

中小企業には、市場の変化や法改正、人材確保などのさまざまな課題があります。ビジネスにおける環境の変化に対応するためには、柔軟な対応力が欠かせません。

心理的柔軟性の高い社員は、環境の変動を受け止めつつ適応する力が強く、新たな状況にも前向きに挑戦できます。

変化に迅速に反応する組織づくりにおいて、重要な存在となります。

社内のチームワークが向上する

中小企業では少人数で業務を進める場面が多く、心理的柔軟性の高い社員が多いほど、協力体制が生まれやすくなります。

しかし、常に不機嫌な上司や同僚がいると、職場全体が緊張した空気になりがちです。

柔軟性をもつ人が多い職場では、こうしたネガティブな感情や空気に振り回されず「今、チームのために何をすべきか」を冷静に判断できます。これにより、社内のチームワークの向上にもつながります。

心理的柔軟性が高い人の特徴

ここでは、心理的柔軟性が高い人に見られる行動や思考の特徴を紹介します。

職場や日常で、どのような良さがあるのかをまとめました。

感情のコントロールができる

心理的柔軟性が高い人は、自分の感情や思考を情報として受け止められます。そのため、情報を行動の判断材料にしつつも、過度に影響されず冷静に対処することが可能です。

怒りや苛立ちなどの負の感情も、自然なものとして受け入れ、無理に抑え込もうとはしません。

このような受容的な姿勢があるため、感情に振り回されることなく、自分にとって最適な行動を選べます。

それぞれの価値観を尊重できる

心理的柔軟性が高い人は、自分の価値観だけでなく、他者の価値観を尊重できる特徴があります。

他者の意見や評価には耳を傾けつつも、過度に左右されず、自分の信念にもとづく一貫した行動をとることも可能です。

多様な価値観を尊重しつつも、同じように自身の価値観も大事にできます。そのため、周囲からの反対意見さえも一つの視点として冷静に受け止め、それを糧にしながら、力強く目標に向かって進むことができます。

環境の変化に柔軟に対応できる

心理的柔軟性が高い人は、自分の価値観や感情を尊重しつつ、それにとらわれすぎず行動できます。

そのため、環境の変化も受け入れる柔軟さがあり、新しい状況にも適応可能です。

ビジネス上でトラブルに直面しても、不安や焦りに振り回されないのが強みです。「今、ここで何ができるか」と現在に意識を集中させることで、冷静かつ的確な判断と対応ができます。

心理的柔軟性を高める方法

ここでは、企業が社員の心理的柔軟性を高めるために実践できる方法や、取り組みをわかりやすく解説します。

今この瞬間に注意を向ける(マインドフルネス)

マインドフルネスは、現在の出来事に意識を向け、心を現在に戻すことで、心理的柔軟性を高める効果があります。

過去のことで悩んだり、未来を不安に思ったりせず、目の前の出来事や行動に集中することが重要です。

起こったことに対して評価や判断をせずに、物事をあるがままに観察することで、心を中立に保てます。

マインドフルネスは、業務の生産性向上を目的に、マネージャー層向けの研修に取り入れるのも有効です。

自分の思考を客観的に見る(脱フュージョン)

自分の思考に振り回されないためには、客観的に自分の考えを見つめることが重要です。

偏見や思い込みに気づかず、自分の考え方が正しいと思い込んでしまうと、柔軟な判断が難しくなります。

思考と距離を置くことで、不安や迷いといった不必要な思考にとらわれず、時間やエネルギー、集中力を効率的に使えるようになるでしょう。

結果的に、有意義な行動につなげられます。

感情を受容する

不快な感情に気づいたら、それを評価せずに観察し、感じきることで受け入れましょう。

感情を抑えたり否定したりせず、自然に存在させることで心の居場所をつくります。こうすることで、プレッシャーや緊張を和らげ、感情を受容しやすくなります。

結果として、心理的柔軟性の向上にもつながるでしょう。

自分の価値観を明確化する

自分の価値観を明確にすることは、仕事や人生に意義を見出すうえで重要です。

理想の自分像や人生で達成したいこと、行動のあり方を言語化することで、価値観に沿った行動がしやすくなります。

困難な場面や、思い通りにいかない状況に直面しても、自身の価値観を意識することで、モチベーションを維持しやすいです。

自分の価値観が明確になることで、具体的な行動を決める際の判断基準としても役に立ちます。結果として、ストレスとうまく付き合いながら、前向きな行動が可能です。

俯瞰した視点から観察する

心理的柔軟性を高めるには、自分や周囲の状況を俯瞰的に観察することが有効です。

善悪や正誤で判断せず、感じたことをそのまま受け止めることで、物事をありのままに捉えられます。

俯瞰的に自分を見ることで、偏った思考にとらわれずに冷静な対応ができます。

企業が心理的柔軟性を育むためのポイント

ここでは、企業が社員の心理的柔軟性を育てる際に、押さえておきたいポイントや実践方法を解説します。

定期的に1on1ミーティングを実施する

定期的な1on1ミーティングは、社員の心理的柔軟性を高める有効な手段です。

上司や同僚とカジュアルに対話することで、「自分に関心をもってもらえている」や「安心して話せる」と感じやすくなり、心理的安全性が自然に育まれます。

業務の悩みだけでなく、雑談や情報共有などを通じ、社員は自身の感情や価値観に目を向ける機会が増えます。

これにより、自己理解や感情への気づきが深まり、柔軟で主体的な行動に結びつけることが可能です。

1on1ミーティングについて詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。

社員が挑戦しやすい組織文化をつくる

企業が心理的柔軟性を育むには、まず心理的安全性の高い職場環境を整えることが欠かせません。

立場や経験年数に関係なく自由に意見を言え、挑戦できる雰囲気は、新入社員の安心感につながります。

失敗しても挑戦自体が評価される組織文化や、成果に対する感謝や賞賛、適切なインセンティブの付与も大切です。

社員が安心しつつ、主体的に行動できる土台づくりを意識しましょう。

こまめなストレスチェックを実施する

社員の心理的柔軟性を育むには、心理状態や行動の変化を定期的かつ客観的に把握する仕組みが重要です。

具体的には、ストレスチェックやウェルビーイングサーベイを活用するとよいでしょう。これにより、メンタルヘルスや職場環境への満足度、業務意欲などを数値化できます。

ストレスチェックは、心理的柔軟性を直接高める仕組みではありません。ただし、社員の心理状態を把握することが可能なため、個人やチームの状態を早期に把握できるメリットがあります。

社員の心理状態を早めに知ることで、必要な支援につながりやすくなるでしょう。

研修を実施する

社員の心理的柔軟性を高めるには、まずACTやマインドフルネス、自己理解などの理論や、実践方法を理解することが大切です。

企業は、研修を通じて体系的に学ぶ機会を設けます。

座学だけでなく、マインドフルネスタイムやリフレクションタイムなどのワークを取り入れることで、社員が自分の思考や感情、価値観と向き合う時間をもつことが可能です。

継続的な研修により、社員の内省力が深まり、柔軟で主体的な行動の促進につながります。

無意識の思い込みや偏見に気づく

無意識の思い込みや偏見に気づき、改善することは重要です。

こうした偏見は「アンコンシャス・バイアス」と呼ばれ、誰にでも存在します。

上司がバイアスに影響されると、部下にとって最適な判断ができなくなる可能性があります。

また、社員が「なぜ上司に認めてもらえなかったのか」「自分だけ扱いが違うのでは」と感じるかもしれません。不安や不信感を生むことにもつながるため、注意が必要です。


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