- 更新日 : 2025年2月5日
監査基準とは?概要と構成要素、最新の動向を解説
監査基準とは、監査人に対して財務諸表監査の際に遵守すべき事項を定めた基準です。企業会計審議会が定めた監査基準に加えて、日本公認会計士協会の「監査実務指針等」などもこれに含まれます。
監査基準は、IPOを目指す経営者からすれば、監査人の考えや視点を知る上で役立つものです。
本記事では、監査基準の概要や沿革、構成要素などを解説します。
目次
監査基準とは
はじめに、監査基準の定義と重要性・役割を解説します。
監査基準の定義
監査基準とは、財務諸表の監査において会計監査人(公認会計士)が遵守することを定めた基準です。日本では、一般に公正・妥当と認められる監査の基準に基づいて、財務諸表監査を行うべきだとされています。
この基準として用いられているのが「監査基準」です。
監査基準の重要性・役割
企業会計審議会「監査基準」の“第一 監査の目的”によると、財務諸表監査の目的は、経営者が作成した財務諸表が、企業会計の基準に準拠して、財政状態や経営成績、キャッシュフローの状況を適正に表示しているかどうかを、監査人が判断・表明することだとされています。
また、監査人の意見は、全体として重要な虚偽表示がない旨について、合理的な保証を得たという監査人の判断を含んでいるとされています。
つまり、監査人による監査によって、企業や団体などの財務諸表の公正さ・妥当さが対外的に証明されるということです。しかし、明確なルールがなければ、監査を行う公認会計士によって、「何を・どのように・どの程度判断するか」は変わってしまい、対外的な証明として信頼できなくなります。
そこで、共通するルールとして監査基準を定めることで、あらゆる場面であらゆる監査人が公正に監査を行えるようにしているのです。
※参考:企業会計審議会「監査基準」
監査基準の沿革
中瀬宏通「わが国監査制度の創設期」によると、日本では1950年8月に初めて監査基準および付属する監査実施基準が公表されました。当時の監査基準では、監査の意義や内容、任務の限界について定められました。
また日本公認会計士協会「日本の会計・監査制度の歴史」によると、1956年に「監査報告準則」の発表を経て、1977年に「中間財務諸表監査基準」が新たに公布、1991年に監査基準の抜本的な改訂が実施されました。本改訂では、相対的に危険性が高い財務諸表項目に関する監査手続きの充実および強化が図られました。
そして、2002年および2005年にも監査基準の大規模な改訂が実施されました。
伊豫田隆俊「近年における監査基準の改訂と展開:監査報告書改革を視野に入れながら」によると、2002年の改訂では、主に「不正発見の姿勢強化」や「リスクアプローチの徹底」といった内容が盛り込まれ、2005年の改訂では「事業上のリスク等を重視するリスクアプローチの導入」や「重要な虚偽表示のリスクに関する評価」などが盛り込まれたとのことです。
その後、2014年や2018年、2020年などにも度重なる改訂が行われ、現在に至ります。
※参考:
中瀬宏通「わが国監査制度の創設期」
日本公認会計士協会「日本の会計・監査制度の歴史」
伊豫田隆俊「近年における監査基準の改訂と展開:監査報告書改革を視野に入れながら」
監査基準の構成要素
監査基準は、本体である「監査基準」、「監査基準の一部内容を詳細化したもの」、「監査基準への対応を具体化したもの」、「その他の関連基準」という4つの要素によって構成されています。
この章では、それぞれの構成要素について解説します。
企業会計審議会が定めた「監査基準」が根幹
監査基準の根幹を成すのは、企業会計審議会が定めた「監査基準」です。監査基準には、監査の業務内容をベースに作られた「規範」であるという特徴があります。
具体的には、以下の項目が定められています。
- 監査の目的:前述
- 一般基準:監査人が遵守すべき事項を定めている
- 実施基準:監査の実施にあたって考慮すべきことや計画策定などについて定めている
- 報告基準:監査報告にあたって考慮すべきことや監査報告書、監査範囲の制約などについて定められている
監査基準の一部内容を詳細化したもの
監査基準の一部内容を詳細化したものとしては、同じく企業会計審議会が定めた以下の2つも挙げられます。
- 監査に関する品質管理基準:監査業務の品質を確保するための基準が定められている
- 監査における不正リスク対応基準:虚偽表示などの不正リスクに対応することが定められている
監査基準への対応を具体化したもの
監査基準への対応を具体化したものとして、日本公認会計士協会が定めた「監査実務指針等」や、監査証明府令があります。特に、実務において重要となるのは公認会計士協会の「監査実務指針等」です。
こちらは、監査に関する詳細かつ実務的な規定がされています。内容については、次章で詳しく解説します。
その他の関連基準
企業会計審議会「審議会・研究会等」のページには、上記以外にも下記の基準が提示されています。
- 中間監査基準:中間財務諸表の監査に関する基準が定められている
- 期中レビュー基準:期中財務諸表の監査に関する基準が定められている
※参考:企業会計審議会「審議会・研究会等」
日本公認会計士協会による監査基準報告書・実務指針・実務ガイダンス
日本公認会計士協会「監査実務指針等」は、監査基準報告書や実務指針、実務ガイダンスなどによって構成されています。
本章では、報告書と実務指針・ガイダンスの主なトピックを紹介します。
報告書の主な内容
報告書の種類として、200「財務諸表監査における総括的な目的」や330「評価したリスクに対応する監査人の手続」などがあります。経営者に大きく関係するものとしては、580「経営者確認書」が挙げられます。
日本公認会計士協会「会計・監査用語かんたん解説集」によると、経営者確認書には「財務諸表の作成責任が経営者にあること」や「内部統制を構築する責任が経営者にあること」などが記載されるとのことです。
経営者確認書には、経営者とのコミュニケーションや経営者への確認事項、確認書の信頼性に疑義がある場合の対応方法などが記載されています。
実務指針・実務ガイダンスの主な内容
実務指針およびガイダンスには、監査実務の具体的なシーンを想定した対処法や監査報告の内容などが規定されています。
経営者に大きく関係するものとしては、「監査品質の枠組みに関する実務ガイダンス」が挙げられます。当ガイダンス《監査人と経営者との間の相互作用》の55には、監査業務において経営者が負う責任が明記されています。
他にも、当ガイダンスでは監査人と経営者の関係性や、経営者からの要求に対する監査人の在り方などについても記載されています。
※参考:
日本公認会計士協会「監査実務指針等」
日本公認会計士協会「会計・監査用語かんたん解説集」
監査基準を踏まえてIPOを目指す経営陣・財務担当が行うべきこと
監査基準は監査人に対する基準や規範を定めたものであるため、IPOを目指す経営者や財務担当にとって直接役に立つ情報はあまりないと考えられています。ただし、「どのような基準で監査が行われるか」や「監査人がどのような考え方で経営者と接しているのか」といった示唆は得られます。
監査や監査人の考え方を理解することで、IPOの準備を円滑に進めやすくなるでしょう。
最新の監査基準の動向
直近は、2020年11月に監査基準の改訂が実施されました。本改訂では、「リスクアプローチの強化」や「監査人の責任に関する変更」などが行われました。
企業会計審議会「監査基準の改訂に関する意見書」では、実務の適用状況を踏まえつつ、国際的な監査基準との整合性確保を図ることで、監査の質向上を図る改訂内容であると指摘されています。
経営者としても、監査で求められる基準が上がっていることを考慮し、真摯な態度でIPOの準備に取り組む必要があるといえるでしょう。
※参考:企業会計審議会「監査基準の改訂に関する意見書」
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