- 更新日 : 2025年12月11日
介護タクシーは儲からない?きつい業界の現状や1日の売上を最大化する戦略も解説
「介護タクシーは儲からない」「自営で始めたが、きついばかりで稼げない」といった声を聞き、開業をためらったり、現在の経営に不安を感じたりしていませんか?高齢化社会で移動支援の需要は確実に存在する一方、介護タクシー業界は高い廃業率や厳しい経営の現状も抱えています。
この記事では、まず介護タクシーが儲からないと言われる理由、個人で開業した場合の平均年収の実態、そして開業の流れや利用できる補助金、年収1,000万円も視野に入れるための収益化戦略まで詳しく解説します。
目次
そもそも介護タクシーとは?
介護タクシーとは、要介護者や身体障害者など、一人で公共交通機関を利用することが困難な人を対象とした送迎サービスです。この事業は大きく「介護保険適用」と「介護保険適用外」の2種類に分類されます。
介護保険適用の介護タクシー(訪問介護事業)
訪問介護事業所の指定を受け、ケアプランに基づき「通院等乗降介助」として提供されるサービスです。
- 特徴:介護保険が適用されるため、利用者は1割〜3割の負担で利用できます。
- 利用目的:利用目的が厳格に定められており、原則として「通院」「通所」「選挙」など日常生活上または社会生活上不可欠な外出に限られます。買い物や旅行など私的な目的では利用できません。
- 主なサービス:運転手は乗降介助だけでなく、必要に応じて自宅のベッドから車椅子への移乗、自宅内の介助、病院内の受付や会計の付き添い(院内介助)まで行います。
介護保険適用外の介護タクシー(福祉輸送事業)
運輸局の許可(一般乗用旅客自動車運送事業・福祉輸送事業限定)のみで運行するサービスで、一般的に「自費の介護タクシー」と呼ばれます。
- 特徴:介護保険が適用されないため、料金は全額自己負担となりますが、事業者が介助料を含めて自由に料金を設定できます。
- 利用目的:利用目的に制限がありません。
- 主なサービス:通院はもちろん、買い物、美容院、お墓参り、冠婚葬祭、日帰り旅行、観光など、利用者のあらゆる外出ニーズに対応できます。
介護タクシーが儲からないと言われる理由は?
「介護タクシーが儲からない」「経営がきつい」と言われる背景には、一般的なタクシー事業とは異なる、介護タクシー業界特有の構造的な理由が存在します。
1. 客単価が低い
介護タクシーが儲けにくい最大の理由は、事業の柱が「介護保険適用の通院」になりやすく、客単価が低くなりがちなためです。
介護保険適用の「通院等乗降介助」は介護報酬が定められており、大きな収益にはなりにくい構造です。また、保険適用外の運賃(介助料を除く)についても、国土交通省が定める地域ごとの上限運賃を超える設定はできません。利用も自宅と病院の往復がメインとなるため、一件あたりの単価が低くなりがちです。
2. 営業効率が悪い
介護タクシーは、完全予約制であり、街中で手を挙げたお客様を乗せる「流し営業」が法律で認められていないため、営業効率が上がりにくい側面があります。
福祉輸送事業限定の許可は、対象が限定的(要介護者など)であるため、営業は電話やWeb経由の予約のみに限定されます。予約が入らなければ、どれだけ車を走らせても売上はゼロです。この待ちの営業スタイルが、収益の不安定さに直結します。
3. 稼働率が不安定
介護タクシーの利用は特定の時間帯(病院の診療時間など)に集中しやすく、車両が待機する時間が発生し、1日の実働効率が上がりにくいためです。
主な利用目的が通院であるため、予約は平日の午前9時〜12時、午後の2時〜4時といった特定の時間帯に偏在します。午前中に送迎が集中しても、午後は予約が全く入らない、あるいは帰りの時間が重なってしまい取りこぼすなど、利用者の予定に運行スケジュールが大きく左右されます。
4. 回転率が低い
乗降介助や室内介助など、身体介護が業務に含まれるため、一般的なタクシー輸送に比べて一件あたりの所要時間が長くなり、運行の回転率が下がるためです。
利用者は車椅子やストレッチャー、あるいは歩行介助が必要な方です。ベッドから車椅子への移乗、階段の昇降、車への乗降には細心の注意と時間が必要であり、この介助時間が運行の回転率を下げます。この介助業務こそが介護タクシーの専門性ですが、同時に肉体的な負担も大きく、1日に対応できる件数が限られ、売上が伸び悩むことにつながります。
5. 固定費が高く利益が出にくい
福祉車両の購入・維持費、高額な保険料などの固定費が重くのしかかる一方で、利益を出しにくい構造があります。
リフトやスロープ付きの福祉車両は高額であり、事業用自動車保険も非常に高額です。これらの固定費は売上がゼロでも発生します。また、一件あたりの売上が大きい長距離送迎は魅力的ですが、その間に他の予約(特にリピーターの通院など)を取れなくなり、全体的な効率と売上がかえって下がる可能性があるというジレンマも抱えています。
介護タクシー業界の現状と自営業のリアルな年収は?
介護タクシー業界は、高齢化による需要増加という追い風がある一方で、競争の激化や低い収益構造から、廃業率も低くないのが現状です。
特に自営(個人事業主)の場合、安定した予約を獲得できないと、高い固定費を賄えずに失敗し、早期撤退に至るケースも少なくありません。開業後、数年で廃業する事業者も多く、甘い見通しでの開業は非常に危険です。
自営の介護タクシー事業者の年収は、その働き方や営業努力によって大きく変動するため一概には言えませんが、安定した収益を上げるのは難しいとされています。保険適用の通院送迎だけでは経費を差し引くと十分な所得が残らず、きついと感じる事業者が多いのが実情です。
介護タクシーの開業に失敗しないための流れは?
介護タクシーの経営で失敗しないためには、開業前の準備がすべてです。
1. 事業計画・資金計画の立案
開業前に、初期費用と最低6ヶ月分の運転資金(経費+生活費)を見積もり、自己資金や公的融資で確実に準備することが最も重要です。売上が安定しない時期の運転資金がなければ、廃業リスクが非常に高まります。
- 初期費用:福祉車両購入費、許認可取得費用、広告宣伝費など
- 運転資金:少なくとも6ヶ月間、売上がなくても事業を継続できる経費(燃料費、保険料、駐車場代など)と、ご自身の生活費
2. 営業エリアの調査
開業予定エリアの高齢者人口、要介護者数、病院・介護施設の分布、そして既に営業している競合他社の数やサービス内容を徹底的に調査することです。需要が小さい地域や、競合が強すぎる地域で開業しても、顧客獲得は困難です。
3. 必要な資格の取得
介護タクシーの開業・運転には、以下の資格が必須または実務上不可欠です。
- 第二種運転免許
お客様から運賃を収受して車を運転するために法律上必須の免許です。 - 介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)以上
介護保険適用の「通院等乗降介助」を行うためには、ドライバー自身がヘルパー資格を保有しているか、同乗させる必要があります。自営の場合は実質必須です。
4. 事業所の確保・整備
営業所、車庫(駐車場)、休憩・睡眠施設を確保します。営業所は自宅でも可能ですが、都市計画法などの法令に抵触しないか確認が必要です。車庫は営業所から原則2km以内に確保する必要があります。
5. 運輸支局への許可申請と法令試験
事業計画、資金計画、施設・車両計画などを記載した申請書類一式を作成し、管轄の運輸支局へ「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)の許可申請」を行います。申請後、申請者(または法人の役員)は法令試験を受験し、合格する必要があります。
参考:一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定) 経営許可申請書作成の手引き|国土交通省
6. 運賃認可の申請
法令試験合格後、運輸支局から事情聴取を受け、問題がなければ許可が下ります。その後、地域ごとに定められた上限運賃の範囲内で自社の運賃・料金を設計し、「運賃認可申請」を行います。
7. 福祉車両の入手と整備
リフト、スロープ、寝台(ストレッチャー)など、申請した事業計画に沿った福祉車両を準備します。新車である必要はなく、中古車でも構いません。車両を確保し、事業用(緑ナンバー)として登録します。
8. 陸運支局へ運輸開始届の提出
車両の登録、必要な保険(対人・対物無制限の事業用自動車保険)への加入、運行管理体制の整備などが完了したら、運輸支局へ「運輸開始届」を提出し、受理されれば、晴れて営業開始となります。
介護タクシーの開業で利用できる補助金・助成金は?
開業時の初期費用や運営コストの負担を軽減するため、国や自治体が提供する補助金・助成金を活用することは、経営を安定させる上で非常に重要です。申請には多くの書類準備と時間が必要ですが、積極的に活用すべきです。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者が販路開拓や生産性向上のために行う取り組み(Webサイト制作、チラシ作成、広告出稿など)の経費の一部を補助する制度です。開業直後の営業活動にかかる費用を抑えるために非常に有効です。
参考:小規模事業者持続化補助金
地域公共交通確保維持改善事業費補助金
地域公共交通確保維持改善事業費補助金は、地域の移動手段(交通)を確保・維持するための取り組みを支援する国土交通省の補助金です。福祉車両の導入費用などが対象となる場合がありますが、自治体(都道府県や市区町村)を通じて申請するケースが多く、募集要件が年度や地域によって異なるため、開業予定地の自治体や運輸支局に確認が必要です。
このほかにも、自治体独自の起業支援金や、雇用保険に加入していれば利用できる助成金(キャリアアップ助成金など)もあります。徹底したコスト削減意識を持つと同時に、こうした公的支援を情報収集し、活用することが「儲からない」経営からの脱却につながります。
儲からないから脱却!介護タクシーで稼ぐための戦略は?
介護タクシーは「儲からない」のではなく、従来の保険適用の通院送迎のみでは「儲けにくい」のが実情です。収益化を達成し、安定経営を目指すには、低単価な保険サービスへの依存から脱却することが重要です。
1. 介護保険外サービスの充実
収益の柱を、単価の低い介護保険サービスから、自由に料金設定でき、ニーズも多様な「介護保険外(自費)サービス」へシフトさせることが最も重要です。自費サービスは客単価の大幅な向上が見込めます。
- 外出支援(目的自由):買い物、美容院、役所・銀行、お墓参り、冠婚葬祭など
- レジャー・旅行支援:日帰り旅行、温泉、観光地への送迎、食事会への参加
- 院内介助・付き添いサービス:病院内の受付、会計、診察室への付き添い、薬の受け取り代行(※保険適用外)
- 時間貸し切り(チャーター):3時間15,000円のように時間単位で貸し切るサービス
2. 施設や病院との法人契約の獲得
地域の介護施設、病院(特に透析クリニック)、企業などと法人契約を結び、安定した収入源を確保することです。日々のスポット予約に依存する経営は不安定です。特定の施設から決まった曜日・時間の送迎をまとめて受注できれば、売上の基盤が安定します。
3. 徹底した差別化戦略とリピーターの獲得
「あなただからお願いしたい」という指名客(リピーター)を増やすことです。価格競争から脱却し、安定した収益を上げるには、既存顧客の満足度向上が不可欠です。
- 資格・技術による差別化:介護福祉士資格保有、看護師同乗、喀痰吸引研修修了など。
- サービスによる差別化:女性ドライバー指定可能、24時間・365日対応、ストレッチャー対応など。
- 特化による差別化:精神科通院専門、長距離搬送専門など。
4. ITの活用による効率的な運行と業務削減
配車予約システムや顧客管理ソフト(CRM)、会計ソフトを導入し、予約管理のミスを減らし、事務作業を自動化・効率化することです。特に自営(一人社長)は、IT活用で事務作業時間を削減し、本業である運行や営業活動にリソースを集中させることが収益向上につながります。
介護タクシーの売上を最大化するための営業術は?
介護タクシーは、開業して待っているだけで予約が入るわけではありません。収益を安定させるためには、地道な情報発信と営業活動が不可欠です。
1. ケアマネジャー(居宅介護支援事業所)へのアプローチ
介護保険利用の要となるケアマネジャーに対し、定期的に訪問や情報提供を行い、強固な信頼関係を築くことが最も重要です。彼ら・彼女らからの継続的な紹介が、売上の大きな基盤となります。自社の強み(自費サービスや差別化ポイント)を具体的に説明し、「ここなら安心して任せられる」と認識してもらう必要があります。
2. 病院や介護施設への直接営業(地域との連携)
地域の病院(特に地域医療連携室)、介護施設、透析クリニックなどへ直接訪問し、入退院や転院、定期通院のニーズに対応できることをアピールします。これらの施設は、法人契約の相手先となる可能性が高く、比較的単価の高い利用につながる可能性があります。
3. WebサイトやSNSを活用した情報発信
自社の公式WebサイトやGoogleビジネスプロフィールなどを活用し、サービス内容や料金、自社の強みを検索ユーザーに直接発信することです。近年、インターネット検索から直接事業者を探すケースが急速に増加しています。明確な料金体系やサービス内容を掲載し、信頼感を醸成することが重要です。
介護タクシー事業の課題を理解し、戦略的に取り組もう
介護タクシー事業は、単なる運送業ではなく、利用者の生活の質(QOL)を支える重要な社会インフラです。「儲からない」「きつい」といった業界の課題を正しく理解し、保険外サービスの拡充や積極的な営業活動など、戦略的に取り組むことが重要です。これにより、きついだけの自営業から脱却し、地域社会に不可欠な存在として安定した収益を上げることは十分に可能です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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