- 作成日 : 2025年5月15日
個人タクシー開業の許認可や資格とは?取得方法や介護・法人との違いも解説
個人タクシーを開業しようとしている方に向けて、必要な許認可や資格、取得方法について解説します。また、個人タクシー開業のための資金の目安や開業後の年収の目安などについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
個人タクシーの開業や営業に関わる法律とは?
まずは、個人タクシーの開業や営業に関わる法律について理解しておきましょう。関連する法律は、次の4つです。
- 道路運送法
- 道路交通法
- 自動車排出ガス規制法
- 交通バリアフリー法
それぞれ詳しく見ていきましょう。
道路運送法
道路運送法とは、道路運送事業を適正に運営したり、公正な競争が行われるようにしたりするために定められた法律です。個人タクシーを開業するためには、道路運送法で定められている「一般乗用旅客自動車運送事業」の許可が必要です。
道路交通法
道路交通法(道交法)とは、道路における危険を防いだり、交通の安全や円滑を図ったりすることで、道路交通による障害を防止するための法律です。
個人タクシーを開業するためには、道路交通法違反による免許取り消し(過去5年間)や、違反による罰金(過去3年間)などの処分を受けていないことが条件とされます。
自動車排出ガス規制法
自動車排出ガス規制法とは、生産される自動車一台ごとの排出ガス量を制限する規制のことです。大気汚染防止法によって排出ガス量の許容限度が自動車1台ごとに決まっています。
大気汚染防止法による許容限度値は、自動車の種類や重量、エンジンの種類、使用燃料などで自動車排出ガスの排出重量または排出濃度として定められています。使用する車両がディーゼル車の場合は対象となるため、注意が必要です。
交通バリアフリー法
交通バリアフリー法とは、高齢者や障害者などが公共交通機関を円滑に利用できるようにすることを目的とした法律です。
2000(平成12)年に制定された交通バリアフリー法ではタクシーは対象ではありませんでしたが、2006(平成18)年に制定したバリアフリー法において福祉タクシー車両が新たに適合義務の対象となっています。また、2011(平成23)年度より「標準仕様ユニバーサルデザインタクシーの認定制度」が導入され、UD(ユニバーサルデザイン)タクシーを表すマークも制定されています。
個人タクシー開業に必要な資格・免許の条件
個人タクシー事業の正式名称は、「1人1車制個人タクシー事業」です。許可を受けた個人が、1台の車両を使用してタクシー事業を行います。1人で事業を行うため、車の運転だけでなく、車両購入やメンテナンスのほか、経理や税務などの事務作業なども対応しなければなりません。
必要な資格・免許
個人タクシー事業の許可および譲渡譲受認可申請は、管轄する地方運輸局ごとに違いがあります。まずは、営業区域の地方運輸局に詳細を確認しましょう。
以下では、関東運輸局を例に紹介します。必要な条件は、次の通りです。
- 年齢:(申請日時点で)65歳未満である
- 免許:第二種運転免許を有している
- 運転経歴:
- 申請する営業区域において申請日以前に自動車の運転を専業とした期間が10年以上ある
- 申請日前の5年間および申請日以降に、運転免許取消や刑法違反等の法令違反等の処分を受けていないことや申請日以前3年間および申請日以降に道路交通法違反がない、運転免許の効力の停止を受けていないこと
- 使用する車は、使用権限を有するものである
などの条件が定められています。このほかにも条件が複数あるため、営業区域の地方運輸局で確認するようにしてください。
個人タクシー営業許可の取得要件
個人タクシーの開業に必要な要件については、項目ごとに決められています。ここでは、各要件について解説します。
運転経歴
開業に必要な要件として、申請者の運転経歴が挙げられます。申請者の年齢によって内容に多少の違いがあるため、注意が必要です。
<年齢が35歳未満の者>
- 申請する営業区域において、申請日以前に10年以上同一のタクシーまたはハイヤー事業者に運転者として継続雇用されている
- 申請日以前(10年間)無事故無違反である
<年齢が35歳以上40歳未満の者>
- 申請する営業区域において、申請日以前、10年以上自動車の運転を専ら職業とした期間がある。この場合、一般旅客自動車運送事業用自動車以外の自動車の運転を職業とした期間は50%に換算する
- 上記の運転経歴のうち、タクシー・ハイヤーの運転が職業である期間が3年以上である
- 申請する営業区域において、申請日以前継続して3年以上タクシー・ハイヤーの運転を職業としていた期間がある
- 申請日以前10年間無事故無違反の場合、40歳以上65歳未満の要件によることができるものとする
<年齢が40歳以上65歳未満の者>
- 申請日以前25年間のうち、自動車の運転を専ら職業とした期間が10年以上である。この場合、一般旅客自動車運送事業用自動車以外の自動車の運転を職業とした期間は50%に換算する
- 申請する営業区域において、タクシー・ハイヤーの運転を申請日以前3年以内に2年以上職業としていた者である
法令順守状況
法令順守状況についても、要件があります。
- 申請日以前5年間および申請日以降に、次の処分を受けていないこと。これらの処分を受けた場合は、申請日の5年前においてその処分期間が終了していること
- 法又は貨物自動車運送事業法の違反による輸送施設の使用停止以上の処分又は使用制限(禁止)の処分
- 道路交通法(昭和35年法律第105号)の違反による運転免許の取消し処分
- タクシー業務適正化特別措置法(昭和35年法律第105号)の違反による運転免許の取消し処分及びこれに伴う登録の禁止処分
- 自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律(平成13年法律第57号)の違反による営業の停止命令又は営業の廃止命令の処分
- 刑法(昭和40年法律第45号)、暴力行為等処罰に関する法律(大正15年法律第60号)、麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)、覚せい剤取締法(昭和26年法律第252号)、売春防止法(昭和31年法律第118号)、銃砲刀剣類所持等取締法(昭和33年法律第6号)、その他これに準ずる法令の違反等による処分
- 自らの行為により、その雇用主が受けた法、貨物自動車運送事業法又はタクシー業務適正化特別措置法に基づく輸送施設の使用停止処分以上の処分
- 申請日以前3年間および申請日以降に、道路交通法違反による処分を受けていないこと。ただし、申請日の1年前以前に反則点1点を付された場合(併せて同法の規定による反則金の納付を命ぜられた場合を含む)または反則金の納付のみを命ぜられた場合のいずれ1回に限っては、処分を受けていないものとみなす
- 1または2の違反により現に公訴を提起されていないこと
資金計画
資金計画における要件は次の通りです。
- 所要資金の見積りが適切であり、かつ、資金計画が合理的かつ確実なものであること。所用資金は以下の1~4の合計額として、費用ごとに以下に示すところにより計算されているものであること
- 設備資金:原則として80万円以上(ただし、80万円未満で所要の設備が調達可能であることが明らかな場合は、当該所要金額とする。)
- 運転資金:原則として80万円以上
- 自動車車庫に要する資金:新築、改築、購入または借入等自動車車庫の確保に有する資金
- 保険料:自動車損害賠償保障法に定める自賠責保険料(保険期間12ヶ月以上)、ならびに旅客自動車運送事業者が事業用自動車の運行により生じた旅客その他の者の生命、身体または財産の損害を賠償するために講じておくべき措置の基準を定める告示(平成17年国土交通省告示503号)で定める基準に適合する任意保険または共済に係る保険料の年額
- 所要資金の100%以上の自己資金(自己名義の預貯金等)が、申請日以降常時確保されていること
営業所
営業所に関する要件は次の通りです。
個人タクシー営業上の管理を行う事務所で、次の各事項に適合する必要があります。
- 申請する営業区域内にあり、原則として住居と営業所が同一であること
- 申請日現在において、申請する営業区域内に居住しているものであること等の実態が認められるものであること
- 使用権限を有するものであること
自動車車庫
自動車車庫についても要件があるため、チェックしておきましょう。
- 申請する営業区域内にあり、営業所から直線で2キロメートル以内であること
- 計画する事業用自動車の全体を収容することができるものであること
- 隣接する区域と明確に区分されているものであること
- 土地、建物について、3年以上の使用権原を有するものであること
- 建築基準法(昭和25年法律第201号)、都市計画法(昭和43年法律第100号)、消防法(昭和23年法律第186号)、農地法(昭和27年法律第229号)等の関係法令に抵触しないものであること。計画する事業用自動車の出入りに支障がなく、前面道路が車両制限令(昭和36年政令第265号)に抵触しないものであること。なお、前面道路が私道の場合にあっては、当該私道の通行に係る使用権原を有する者の承認があり、かつ、当該私道に接続する公道が車両制限令に抵触しないものであること
- 確保の見通しが確実であること
個人タクシーの許認可取得の流れと必要書類
個人タクシーを開業するためには、「一般乗用旅客自動車運送事業」の許可を受ける必要があります。許可を受けるためには、地方運輸局が実施する、安全および接遇の試験にて合格することが必要です。3項目(安全、法令、接遇)に分かれており、9割の正解率で合格となります。
許可を取る際に必要な書類は、以下の通りです。
- 運転免許証(二種免許)
- 住民票
- 戸籍謄本
- 営業所および車庫に関する資料(賃貸借契約書など)
- 事業用自動車の資料(契約書やリース契約書)
- 法令試験の合格証書
- 自動車保険契約申込書のコピー
- 健康診断書
- 預貯金通帳のコピー
許可を申請する際には、最寄りの運輸支局に申請します。許認可の審査、法令試験をパスすると、許認可が交付されます。
個人タクシー開業のための資金の目安
個人タクシーを開業するための資金目安について解説します。個人タクシーの開業資金として必要となる費用は、以下通りです。
- 車両購入費 300万~500万円
- 設備資金 80万円
- 運転資金 80万円
- 車庫代 10万円
- 自賠責保険料および任意保険料 20万円
合計すると、個人タクシーの開業には490万~690万円が必要となります。
個人タクシーの資金調達方法
個人タクシーを開業する際の資金調達方法としては、次の3つが挙げられます。
- 日本政策金融公庫の融資:100%政府出資の政策金融機関。創業者向け融資制度「新規開業資金」は、開業まもない個人事業主などを支援している
- 信用保証協会付の融資:信用保証協会に保証人を請け負ってもらうことで、民間の金融機関から融資を受ける制度
- 親族、友人・知人からの借入
個人タクシー事業を開業できるように、自分にあった方法を選びましょう。
個人タクシーは儲かる?開業後の年収の目安
個人タクシーは儲かるのか?という点は開業を目指している方にとって気になるところでしょう。残念ながら、個人タクシードライバーの年収に関する調査や統計などはありません。
ここでは、一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会によるデータをもとに、個人タクシードライバーの年収について解説します。
一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会の発表した「令和5年タクシー運転者の賃金・労働時間の現況」によると、法人タクシードライバーの平均年収は、次のようになっていました。
- 東京都:約570万円
- 大阪府:約450万円
- 神奈川県:約399万円
- 福岡県:約353万円
法人タクシーの場合、歩率が決められており、目安となりますが50〜60%が標準とされます。受け取る歩合が売り上げの60%だと仮定すると、上記の平均年収をもとに換算される個人タクシードライバーの平均年収は、次のようになります。
- 東京都:約950万円
- 大阪府:約750万円
- 神奈川県:約665万円
- 福岡県:約588万円
なお、個人タクシードライバーの場合、前述したように、自分で燃油代や保険料などの費用を支出する必要があることは理解しておきましょう。
参考:一般社団法人 全国ハイヤー・タクシー連合会 令和5年タクシー運転者の賃金・労働時間の現況
個人タクシーの開業に活用できる助成金・補助金
個人タクシーを開業する際に活用できる資金調達手段として、次の3つが挙げられます。
- 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
- 国土交通省「タクシー事業者に対する燃料価格激変緩和対策事業」
- 東京都「次世代タクシーの導入促進事業」
日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」は、女性や若者のほか、シニアの方などを対象とした創業・スタートアップを支援する制度です。資金は、開業資金や事業開始後に必要となる設備資金および運転資金に活用できます。
また、国土交通省では原油価格の高騰を受け、LPガスを使用するタクシー事業者に対して、燃料高騰相当分を支援する「タクシー事業者に対する燃料価格激変緩和対策事業」を実施しています。期間が設けられて各期申請受付が必要となるため、国土交通省のホームページを確認するようにしましょう。
東京都では、次世代タクシーの導入促進事業を実施しています。電気自動車等タクシーおよびUDタクシーを導入する一般乗用旅客自動車運送事業者等に対して、経費の一部を助成するものです。
個人タクシーと介護タクシーの許認可や資格の違い
個人タクシーと似たもののひとつが、介護タクシーです。ここでは、それぞれの違いについて解説します。
そもそも介護タクシーは、次の2種類です。
- 介護保険タクシー:介護保険が適用される
- 福祉タクシー:介護保険が適用されない
それぞれ、必要となる資格が異なります。
種類 | 介護に関する資格 |
---|---|
介護保険タクシー | 介護職員初任者研修が必要 |
福祉タクシー | 介護福祉関連の資格は必要ない |
介護タクシーは、介護を必要とする高齢者や障害者のための移動をサポートするものであるため、運転手に介護職員初任者研修が必要とされています。いっぽうで、福祉タクシーの運転手は、介護福祉関連の資格が必須とされていません。
介護タクシーの開業に必要な資格は、主に以下の2つです。
- 普通自動車第二種免許
- 介護職員初任者研修
また、介護保険の適用を受けるためには、所定の居室面積を満たしているか、営業所に隣接する車庫があるかなどの、定められた施設要件を満たす必要もあります。
解説したとおり、個人タクシーと介護タクシーでは利用目的が異なるのが特徴です。そのため、必要となる資格も介護に特化したものが介護タクシーでは求められます。
個人タクシーと法人タクシーの許認可や資格の違い
個人タクシーと法人タクシーの違いについて、正しく理解しておきましょう。
法人タクシーとは、いわゆる雇われドライバーを指します。タクシー会社に入社して、その会社の保有する車両を運転して、乗客を目的地まで送り届けるのが法人タクシードライバーの業務です。会社雇用になるため、あくまでもドライバーとしての仕事に専念します。
個人タクシーでは、運転以外に車両管理やクレーム・トラブル対応、経理・税務なども行う必要がありますが、法人タクシードライバーの場合は会社が行うため、対応する必要がありません。
なお、個人タクシー、法人タクシー共通で第二種運転免許が必要です。また、個人タクシーの開業にはタクシー会社における10年以上の運転経歴などが求められるため、個人タクシー開業の通り道ともいえます。
タクシー開業に役立つひな形・テンプレート
マネーフォワード クラウドでは、タクシーの開業(会社設立)に役立つひな形やテンプレートを提供しています。下記リンクから無料でダウンロードできますので、自社に合わせてカスタマイズしながらご活用ください。
個人タクシーの開業に必要な許認可を把握しておこう
個人タクシーの開業には、必要となる資格や要件がさまざまあります。また、営業予定の地域によって求められる要件が異なるため、あらかじめ管轄する地方運輸局に確認するようにしてください。
個人タクシー開業のために、日本政策金融公庫や銀行などから資金調達を検討する場合もあるでしょう。その場合には、本記事で紹介した事業計画書・創業計画書ひな形・テンプレートを、ぜひご活用ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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