- 更新日 : 2024年7月12日
リスクアセスメントとは?手順や手法、効果、成功事例を解説
リスクアセスメントとは、仕事場に潜む有害性や危険性を特定・低減する取り組みです。従業員の危機意識を高めるとともに、労災の減少効果が期待できます。
本記事では、リスクアセスメントの重要性やプロセス、必要な体制などを解説します。
また、成功事例とそこから分かる成功のコツもお伝えします。
目次 [非表示にする]
リスクアセスメントとは
はじめに、リスクアセスメントの定義、目的、必要な体制を解説します。
リスクアセスメントの定義
リスクアセスメントとは、仕事場にある有害性や危険性を特定・低減する一連のプロセスを指します。
リスクアセスメントの目的・重要性
リスクアセスメントは、労働災害を防止し従業員への健康被害を防ぐことを目的に実施されます。
一昔前までは、「原因調査」→「防止策の確立」→「各職場に徹底」という手法によって労働災害の防止が行われていました。しかし、災害が発生したことがない場所にも潜在的な有害性や危険性はあるため、従来の対策では不十分だということが判明しました。
特に昨今は、技術進歩によってさまざまな化学物質や機械設備が活用されるようになったことで、有害性や危険性も多様化しています。
上記の理由から近年では、事前に潜在的な有害性や危険性を洗い出し、対策を講じる「リスクアセスメント」の重要性が高まっています。
リスクアセスメントに必要な体制
リスクアセスメントは、経営陣や工場長といったトップが主導となって実施する必要があります。
その上で、主に以下の体制を構築し、調査などのプロセスを実施します。
- 総括安全衛生管理者などの、事業の実施を統括管理する者が調査等の実施を統括・管理する
- 衛生管理者や安全管理者などに、調査等の実施を管理させる
- 安全衛生委員会の活用により、労働者を参画させる
また、上記の担当者に対して調査の実施に必要な教育を施すことも重要です。
参考サイト:中央労働災害防止協会 技術支援部「事例でわかる 職場のリスクアセスメント」
リスクアセスメントの手順
リスクアセスメントは、以下4つの手順で行われます。
ステップ1:有害性・危険性の特定
はじめに、作業環境や作業者の行動、機械設備などが抱える有害性や危険性を洗い出します。
有害性・危険性とは、労働者に病気やケガをもたらす状況やモノを指します。
ステップ2:リスクの見積もり
次に、洗い出した有害性や危険性のリスクを見積もります。
リスクの見積もりは、「①病気またはケガの重さ」と「②発生可能性」という2つの観点から検討します。具体的な手法としては、下記2つがあります。
手法 | 概要 |
---|---|
数値化による加算法 | ①と②を一定の基準で点数化し、それらの足し算・掛け算によってリスクの大きさを見積もる |
マトリクスの活用 | ①と②をそれぞれ縦軸と横軸で示した表を用いてリスクの大きさを見積もる |
どちらの手法でも、リスクの大きさを「点数」として表すことが重要です。
ステップ3:優先度の設定・施策の検討
リスクを点数化した有害性・危険性について、最も点数が大きい(リスクが大きい)ものを1番として順番に優先度を設定していきます。
優先度を設定したら、リスクを低減するための具体的な施策を検討します。
ステップ4:リスク低減施策の実施
基本的には、以下の順番でリスク低減の施策を検討・実施します。
- 法令で定められた事項(必ず実施する)
- 計画・設計段階における有害性・危険性の除去もしくは低減(高リスク作業の廃止など)
- 工学的対策(インターロックや安全装置の活用など)
- 管理的対策(マニュアル整備や教育訓練など)
- 個人用保護具の活用(保護防止や保護衣などの利用)
なお5については、1〜4までの施策で除去・低減できなかった場合にのみ実施します。
低減施策は、定期的かつ計画的に実施するだけでなく、リスクに変化が生じるたびに実施する必要があります。
また、施策を実施した後には、定期的に結果を記録し、必要に応じて施策の変更や改善を図ることも求められます。
リスクアセスメントで得られる3つの効果
リスクアセスメントの実施により、以下3つの効果が期待されます。
- リスクの明確化と認識の共有
- 優先順位の明確化
- 労災や病気などの減少
以下では、それぞれの効果を具体的に解説します。
効果1:リスクの明確化と認識の共有
仕事場所に潜む有害性や危険性を洗い出し、工場や会社全体でリスクの認識を共有できます。
身近な作業環境に潜むリスクを把握することで、経験や熟練度合いに関係なく、全従業員の安全意識を高める効果が期待できます。
効果2:優先順位の明確化
多様なリスクについて、特に重要なものとそうでないものを明確にできます。
優先度の高いリスクから低減していくことで、少ないコストや労力で最大限の効果を得られます。
効果3:労災や病気などの減少
従業員の安全意識向上や優先度の高い施策の実施により、労働災害や病気などを減らせます。労災や病気などが減少することで、従業員が安心して働けるようになります。
また、対外的にクリーンな印象を与える効果も期待できるでしょう。
リスクアセスメントの成功事例
最後に、中央労働災害防止協会が紹介しているリスクアセスメントの成功事例を取り上げ、概要と事例から分かる成功のコツを紹介します。
事例の概要
今回取り上げるのは、化学工業製品を取り扱う製造業で、従業員数300名の会社です。
同社は事業を急拡大した影響により、安全衛生に関するベテランのノウハウが若手層まで継承されていないことを課題としていました。また、生産量の増大による労働環境の変化も課題の1つでした。
そこで、事前の計画策定や研修を経た上で、各部門でリスクアセスメントを実施しました。その結果、同社には主に以下の効果がもたらされました。
- 各作業プロセスにおける危険性・有害性ポイントが明確となった
- 職場内でリスクの排除に関連する会話が活発化した
- リスク低減に関する効果的な施策を考えるノウハウが蓄積された
同社は、今後もリスク見積もりの質を平準化するために、リスクアセスメントの実施を継続するとしています。
事例からわかる成功のコツ
この事例の資料からは、実際にリスクアセスメントを行なった過程で、以下の問題に直面したことがわかりました。
- 作業方法の改善をめぐって、作業者(特にベテラン)から抵抗を受ける時があった
- コスト面や作業性を総合的に考慮して、どの施策を実施するかを決定するのに苦労した
1つ目の課題に対しては、改善の目的や効果を徹底的に説明し、作業者からの理解を得ることが効果的であったとされています。
2つ目の課題に関する対策は記載されていなかったものの、優先度の設定および施策検討のフェーズにおいて、現場作業員や責任者が多角的な視点から議論を重ねることが重要だと考えられます。
参考サイト:中央労働災害防止協会「リスクアセスメント導入事例」
まとめ
技術進歩などの影響により、潜在的な労災や病気などのリスクが高まっていることから、リスクアセスメントは以前よりも重要となっています。
「事前にリスクを見つけ出し、重要な対策から行なっていく」というリスクアセスメントの考え方は、従業員が安全に働ける環境を作る上で非常に効果的です。
また、安全に働ける会社だというイメージアップにもつながるため、ぜひリスクアセスメントの取り組みに挑戦してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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