- 作成日 : 2025年8月5日
契約書以外もリーガルチェックが必要?やり方や費用、無料のAIについても解説
リーガルチェックは、企業活動における法的リスクを未然に防ぐための重要なプロセスです。一般的に契約書の確認がイメージされがちですが、新サービスの立ち上げ、広告表現、ウェブサイトのコンテンツ、社内規程、プライバシーポリシーなど、契約書以外の領域でも適切なリーガルチェックを行うことで、予期せぬトラブルや損害賠償のリスクから守ることができます。
本記事では、契約書以外のリーガルチェックに焦点を当てて、具体的な範囲、重要性、そして効率的な実施方法まで詳しく解説します。
目次
契約書以外もリーガルチェックが必要な理由
契約書以外もリーガルチェックが必要な理由は、現代ビジネスが直面する多様な法的リスクにあります。
例えば、景品表示法、個人情報保護法、労働基準法、著作権法など、企業の活動を規制する法律は数多く存在します。これらの法律に違反した場合、行政指導、罰金、さらには企業の信用失墜といった深刻な事態を招く可能性があります。また、SNSでの不適切な情報発信や、従業員によるハラスメント問題など、企業のコンプライアンス体制が問われるケースも増加しています。
契約書のみに限定したリーガルチェックでは、これらの潜在的なリスクを見落とし、重大な問題へと発展する可能性を否定できません。
契約書以外でリーガルチェックが必要な場面と具体的なやり方
契約書以外でリーガルチェックが必要となる具体的なシーンは多岐にわたります。ここでは、特に重要性の高い項目をいくつか挙げ、それぞれのチェックのやり方について詳しく解説します。
広告・マーケティング活動
広告やマーケティング活動は、企業の顔となる重要な部分ですが、同時に法的リスクも潜んでいます。特に、景品表示法(不当表示の禁止、景品類の規制)、特定商取引法(通信販売における表示義務など)、医薬品医療機器等法(誇大広告の禁止)などの法令に違反しないか、表現が誤解を招かないか、消費者に不利益を与えないかなどを確認する必要があります。
チェックのやり方としては、広告表現が事実に基づいているか、優良誤認や有利誤認に該当しないか、比較広告の場合の根拠は明確か、といった点を詳細に確認します。
ウェブサイト・SNSコンテンツ
企業のウェブサイトやSNSコンテンツは、情報発信の重要なツールですが、ここにも法的リスクは潜んでいます。特に注意すべきは、個人情報保護法(プライバシーポリシーの明示、Cookieの取り扱い)、著作権法(画像や文章の無断使用)、商標法(他社商標の不適切な使用)です。また、誹謗中傷や差別的な表現、誤情報の拡散なども法的問題に発展する可能性があります。
チェック時は (1) 個人情報・Cookie 等の利用について適切に通知/同意取得できているか、(2) 改正個人情報保護法に基づき「個人関連情報」(Cookie 等)を第三者が個人データ化する際の本人同意が確認できているか、(3) 改正電気通信事業法「外部送信規律」に沿って送信項目・送信先・目的を開示しているか(Cookieバナー/CMPで同意管理)、(4) 利用規約・免責、知財侵害、不適切表現を定期チェック——の4点を押さえましょう。
社内規程・就業規則
社内規程や就業規則は、従業員との間のトラブルを防ぎ、円滑な組織運営を行う上で非常に重要です。労働基準法をはじめとする労働関係法令の改正に合わせた見直しが不可欠です。例えば、働き方改革関連法への対応、ハラスメント防止規定、育児介護休業に関する規定、副業に関する規定などが挙げられます。
チェックのやり方としては、最新の労働法規に準拠しているか、従業員にとって分かりやすい内容になっているか、不利益変更の際に適切な手続きが踏まれているかなどを専門家と協力して確認することが求められます。
新規事業・サービス開発時
新規事業やサービスの開発は、新たな収益源を生み出す一方で、予期せぬ法的リスクをはらんでいます。例えば、その事業自体が特定の業法の規制対象となる可能性や、既存の知的財産権を侵害する可能性も考えられます。また、個人情報の取り扱いに関する新たな課題や、競争法上の問題が生じることもあります。
チェックのやり方としては、事業計画の段階から法務部門が関与し、想定される法的規制やリスクを洗い出すこと、必要に応じて許認可の要不要を確認すること、競合他社の特許や商標を調査することなどが挙げられます。
契約書以外のリーガルチェックに資格は必須ではない
社内で自社文書や業務フローを点検する程度であれば、必ずしも弁護士などの国家資格者である必要はありません(インハウス法務が自社案件を扱っても「他人の事件」には当たらないとされています)。一方、報酬を得て第三者の契約内容を判断したり、紛争が生じそうな条件について法律的見解を示したり、交渉助言を行う行為は弁護士法72条が禁じる「非弁行為」に該当するおそれがあります。企業間で有償のレビューを請け負う、副業で他社の契約書を診断する、AIツールを使って対外的にリーガルチェック結果を提供するといったケースは特に注意してください。迷ったら弁護士(または適切な資格者)に相談しましょう。
契約書以外のリーガルチェックを効率化する方法
リーガルチェックは、企業の規模や事業内容によってその量と複雑さが大きく異なります。限られたリソースの中で効率的にリーガルチェックを進めるためには、社内体制の整備と外部リソースの適切な活用が欠かせません。
社内でリーガルチェックの体制を構築する
社内でリーガルチェックの体制を構築するには、まず各部署が法務リスクを意識し、早期に法務部門へ相談する文化を醸成することが大切です。これにより、各部門の担当者が基本的な法的リスクを認識し、問題の早期発見に繋がります。また、法務部門は、各部署からの相談を一元的に受け付け、適切なアドバイスを提供できる体制を整える必要があります。部門間の連携を強化し、情報共有を密にすることで、効率的なリーガルチェックが可能になります。
無料のAIツールやChatGPTを活用する
AIは、気になる条文やキーワードの洗い出し、条項抜けの仮チェック、関連法令のあたり付けなど、初期段階のざっくり整理には便利です。こうして作ったたたき台を法務や弁護士に渡せば、検討を素早く進められます。
ただしリスク管理が欠かせません。入力した文書や個人データが外部サーバーに送られて学習等に使われると、機密情報の漏えいや個人情報保護法違反(海外移転を含む)につながる可能性があります。また、生成AIの回答にはもっともらしく見えて事実と異なる内容が混ざることがあります。社内ルールで入力範囲を定め、機密部分はマスキングする、サービス側の学習利用設定・利用規約を確認するなどの対策を行ってください。さらに、AI結果をそのまま第三者に提供して法的判断とする行為は弁護士法72条上の「非弁行為」リスクが指摘されています。AI出力は参考情報にとどめ、最終判断は必ず弁護士または法務担当者が行いましょう。
弁護士へのリーガルチェック費用を抑える
弁護士にリーガルチェックを依頼する場合、その費用は企業の悩みどころの一つです。費用を抑えるためには、依頼する内容を具体的に絞り込み、事前に必要な情報を整理しておくことが重要です。漠然とした依頼では、弁護士の調査に時間がかかり、結果として費用が高くなる傾向があります。また、顧問契約を結ぶことで、単発での依頼よりも費用を抑えられたり、継続的なサポートを受けられたりする場合があります。複数の弁護士事務所から見積もりを取り、自社のニーズに合ったサービスと費用を比較検討することも有効です。
契約書以外のリーガルチェックを継続的に実施するポイント
リーガルチェックは一度行えば終わりではありません。法改正や社会情勢の変化、企業の事業内容の変更などに伴い、継続的に見直しを行う必要があります。
例えば、デジタル技術の進化に伴い、サイバーセキュリティ関連法規や個人情報保護に関する規制が強化される傾向にあります。また、SDGsへの意識の高まりから、企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みに関する法的な要請も増しています。
これらの変化に適切に対応するためには、定期的な法務情報のアップデートと、それに基づく社内規程や業務フローの見直しが不可欠です。法務部門が中心となり、関連部署と連携しながら、常に最新の情報を取り入れる仕組みを構築することが重要です。
契約書以外のリーガルチェックも忘れずに行いましょう
リーガルチェックは、単に法律を守るという受動的な行為に留まりません。むしろ、企業の信用を高め、競争力を強化し、新たなビジネスチャンスを掴むための攻めの経営戦略の一部と考えるべきです。弁護士やAIツールを賢く活用しつつ、社内全体で法的リスクに対する意識を高めることで、企業は予期せぬトラブルから身を守り、より盤石な経営基盤を築くことができるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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