- 作成日 : 2025年5月7日
匿名加工情報と仮名加工情報の違いは?具体例をもとにわかりやすく解説
匿名加工情報は個人を特定できない形に完全加工したデータ、仮名加工情報は社内利用を前提に氏名などを符号化して復元可能性を残したデータです。目的・加工方法・第三者提供の要件が異なるため、両者を混同すると法令違反のリスクがあります。
本記事では匿名加工情報と仮名加工情報の違いや具体例、運用上の留意点をわかりやすく解説します。
目次
匿名加工情報とは
匿名加工情報は「とくめいかこうじょほう」と読み、個人を完全に識別できないよう処理したうえで広く外部提供・公開まで想定するデータ形式を指します。
匿名加工情報の定義
個人情報保護法2条6項において、匿名加工情報は「特定の個人を識別することができず、かつ復元することもできないよう個人情報を加工したもの」と定義します。
この定義には、以下の2つの要件が含まれています。
- 特定の個人を識別できないこと
- 復元できないこと(非可逆的な加工)
加工の方法については、氏名・住所・連絡先など、個人を特定できる情報を削除または置き換え、統計的に集計することが一般的です。加工後の情報には、もはや個人情報としての性質はないため、一定の条件のもと、本人の同意を得ずに第三者へ提供することも認められています。
匿名加工情報の具体例
匿名加工情報の具体例としては、以下のような加工が挙げられます。
- 顧客データから氏名・住所・電話番号・メールアドレスなどを完全に削除した上で、年齢層や購買履歴などの情報を統計化したデータ
- 医療機関が保有する患者のカルテ情報から、氏名や患者番号などの識別子を除去し、症状・治療内容・治療成果などを匿名化した上で分析に利用する場合
- スマートフォンの位置情報データを収集する際に、個人と紐づく識別子を完全に除去した形で、移動経路や行動傾向のみを残したデータ
これらの匿名加工情報は、マーケティング、統計分析、公共政策の企画など、個人の特定を必要としない用途に活用されます。
仮名加工情報とは
仮名加工情報(読み方:かめいかこうじょうほう)とは、個人情報の一種で2022年4月の個人情報保護法改正によって新たに導入された概念です。主に企業内部における安全なデータ分析・利活用を目的としています。
仮名加工情報の定義
個人情報保護法第2条第10項では、仮名加工情報を「個人情報を、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように個人情報を加工したもので、復元可能性が残っているものを含む」と定義しています。
この定義のポイントは以下の2点です。
- 他の情報と照合しなければ個人を識別できないこと
- 復元可能性を前提とした加工(可逆的)
仮名加工情報は、企業内部での分析や検証など、一定の目的に限定して利用されることを前提としています。匿名加工情報とは異なり、あくまで個人情報として取り扱われる点に注意が必要です。
仮名加工情報の具体例
仮名加工情報の例としては、次のようなケースが挙げられます。
- 顧客の氏名を乱数化して「顧客001」「顧客002」などの仮名を付与し、個人を特定できない形で商品購買履歴を分析
- 社員番号をランダムなコードに置き換え、社内の人事データを匿名化したうえで離職率や評価傾向を分析
- 患者IDを仮番号に変換し、症状と処方パターンを内部研究に活用
いずれも、元の情報との紐付けが可能であるため、厳格な社内管理や技術的安全措置が求められます。
参考:e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
参考:個人情報保護委員会 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)
匿名加工情報と仮名加工情報の違い
匿名加工情報と仮名加工情報はいずれも個人情報の利活用を図る制度ですが、加工方法・利用範囲・第三者提供のルールなどに明確な違いがあります。
適切な加工方法
匿名加工情報は個人を特定できないようにするだけでなく、元の個人情報に復元できない「非可逆的」な加工を施さなければなりません。氏名や住所といった識別情報の削除に加え、属性情報のぼかしや統計化などを通じて、再識別のリスクを極限まで下げることが義務付けられています。
一方、仮名加工情報は「可逆的」な加工が許容されており、他の情報と照合しなければ個人を識別できない状態にとどまります。したがって仮名加工情報では復元可能性が前提となるため、加工後も個人情報として法的管理が必要です。
このように、加工の強度と可逆性の有無が両者の大きな相違点といえます。
利用目的の制限等
利用目的の制限についても、違いがあります。匿名加工情報は加工によって個人情報ではなくなったとみなされるため、利用目的に関する法的制限が緩和されており、マーケティング、研究、統計処理など幅広い用途での利用が可能です。特に、特定の個人を識別しない範囲であれば、本人の同意なく利活用できる点が特徴です。
一方、仮名加工情報はあくまで個人情報の一種であるため、利用目的は原則として「社内での分析・検証」に限定され、広告・営業など外部向けの用途には用いることができません。両者は同じ加工情報であっても、利用できる場面や事業者の裁量の範囲に大きな差がある点に注意が必要です。
利用する必要がなくなった場合の消去
匿名加工情報は個人情報としての性質を失っているため、利用終了後の消去義務は法的には課されていません。ただし、個人情報保護委員会のガイドラインでは、保有の必要性が失われた情報については適切に管理・削除することが望ましいとされています。
これに対し仮名加工情報は依然として個人情報に該当するため、利用目的が達成された後には個人情報保護法に基づき、速やかに消去することが求められます。特に復元性を伴う仮名加工情報では、長期保存による再識別リスクを防ぐ観点からも計画的な情報管理が欠かせません。
第三者提供時の同意取得
匿名加工情報は一定の条件を満たせば、本人の同意を得ることなく第三者に提供することが可能です。第三者への提供には加工方法および提供先の公表義務を果たすことが前提とされており、これを満たすことによって個人情報保護法上の適法な提供とみなされます。
一方、仮名加工情報については第三者提供に関して本人の同意が必須であり、原則として社外提供は想定されていません。これは、仮名加工情報が復元可能な個人情報であることを踏まえたリスク配慮による制限です。このように、両者は提供範囲および提供方法において、実務上も明確に区別される必要があります。
仮名加工情報・匿名加工情報についてのガイドライン
仮名加工情報および匿名加工情報については、個人情報保護委員会が策定したガイドラインにおいて詳細なルールや取り扱い指針が示されています。
参考:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)
このガイドラインでは、加工方法の技術的要件、社内管理体制の整備、リスク評価の実施、第三者提供におけるルールなどが定められています。特に、仮名加工情報については、内部漏洩や再識別のリスクがあるため、従業員教育やアクセス権限の管理など、多層的な対策が求められます。
企業がこれらの情報を活用する際には、単に法令を守るだけでなく、ガイドラインに則った実務運用が重要です。
データ活用に向けた法的理解が信頼構築の第一歩
仮名加工情報と匿名加工情報は、いずれも個人のプライバシー保護と企業のデータ利活用のバランスを取るために設けられた制度です。両者には加工方法や法的な取り扱いに明確な違いがあるため、誤解なく理解することが重要です。
特に、社内分析など限定的な目的で用いる場合は仮名加工情報を、それ以外で不特定多数に公開する可能性がある場合には匿名加工情報を選ぶといった目的に応じた使い分けが求められます。
適切な取り扱いと法令遵守を徹底することで、社内外の信頼を獲得し、持続可能な情報利活用の基盤を築くことが可能になります。データ活用を進める企業にとって、これらの知識は今や不可欠なものといえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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